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2014.10.06 (Mon)

たとえ世界の終わりがきても 後編

たとえ世界の終わりがきても 後編

前編のつづきです。

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14:32  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2014.10.06 (Mon)

たとえ世界の終わりがきても 前編

たとえ世界の終わりがきても 前編

シリアス長~いですので、前編後編に分けています。
休憩しながら読んでみてください。

ではどうぞ。

14:20  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2011.02.07 (Mon)

恋心に気づくまでⅡ

Ⅰのつづきです。









居間にはすっかりくつろいでいる子犬陛下の姿があった。


「あっ夕鈴、お帰りー」

などと我が家同然のように答える僕に、夕鈴ががっくりと肩を落とす姿が目に入った。
その反応は予想通りだけど…少しショックを感じながら、僕は夕鈴に笑い掛ける。


「へい…!じゃなくて…李翔さん、一体ここで何してるんですか?」

「たまたま君の家の近くを通りかかったんだよ。久しぶりだから元気かなって」

「おとついの夜、お逢いしたばかりですが…」

「あれ?そうだっけ」

ははは…僕は愉快気に笑う。微笑んだ表情のまま居間の長椅子から立ち上がると、ゆっくりと夕鈴に近づいた。


「ご存じの通り、私、今休暇中ですが」

「うん。そうだね。君の帰りがあまりに遅いから迎えに来たよ」

「は?からかってるんですか!」

赤面顔の夕鈴が尋ねる。僕は夕鈴の頬に手を添えた。


「夕鈴。なぜ手紙をくれない?」

「か…書く約束などしていませんが…」

「前はくれただろう?」

「前は前。今は今です。昨日の今日で何言ってるんですか」

“手紙”という言葉に動揺する夕鈴。分かりやすい彼女の態度に、僕は心の中で笑う。


「君の手紙を待っていたのに…」

「もう二度と書きませんから、ご期待には添えません!」

「なんで…どうして?」

僕は驚いて尋ねる。二度と書きたくないと思ったほど、夕鈴には耐えがたい思い出なのだろうか。
僕は不安になって夕鈴の瞳を覗き込む。


「夕鈴…手紙書くの嫌い?」

「嫌いじゃないけど…あんな恥ずかしい思いはもう二度としたくありません!」

夕鈴はそう叫ぶと、つんと顔を反らした。
僕に手紙を書くのが嫌なんじゃなくて、書くのが恥ずかしのか…僕はひとりでに納得すると、夕鈴の長い髪を一房手に取りそのまま薄い唇に当てた。


「相変わらずつれない妃だ…」

「な!休暇中なのに演技しないでください!」

「……」

これでは、話にならない。
僕は予想以上に怒っているらしい夕鈴の機嫌をなだめるために、素直に謝った。
少しだけ落ち着きを取り戻した夕鈴は、僕の顔を見て浅くため息をついた。


「明日の夜には帰りますので」

「じゃあ僕も一緒にいる」

「たいしたおもてなしも出来ませんので…お帰りください」

「えーー冷たい」

「冷たいって…だいたい勝手に来るへい…っと、李翔さんがいけないんですよ。今日は家族水いらずで過ごそうと思ってるんですから」

「じゃあ僕も一緒でいいじゃない」

僕は夕鈴に腕を回して、その細腰をすばやく捕らえた。すぐに僕の腕の中にすっぽりと納まる夕鈴。僕は口端に笑みを浮かべて愛らしい妃に囁く。


「だって君は可愛い私の妃なんだから…ね?」

「な!?」

夕鈴の鉄拳が飛んでくる前に、背後から何かが割れるような騒々しい音が響いて、僕たちは振り返った。


「せ…青慎…」

夕鈴の表情が固まる。戸口に立つ青慎は、真っ赤な顔で茫然とこちらを見ていた。手には空になったお盆が乗っていて、足元には粉々に砕けた茶器がばらまかれていた。


「ご…ごめんなさい」

夕鈴は瞬時に僕の腕から逃れると、青慎の元へ駆け寄る。


「誤解だからね!」

夕鈴の怒声が室内に鳴り響く。外の道にも聞こえそうなぐらいの大声に、僕は笑いそうになった。


「う…うん」

「怪我はない?」

「うん、大丈夫」

「服が濡れてる。ここはいいから着替えてきて」

「うん…」


壊れた茶器を片づけ始める夕鈴。僕も近づいて彼女を手伝った。


「陛下!いいですよ。そんなこと…あなたにさせるわけには」

こそこそと夕鈴が呟いていたが、僕は気にせず茶器の欠片を拾い集めた。
かちゃかちゃと冷たい陶器の音が耳に響く。夕鈴はなんとか僕の行為を止めようと、必死で手を出していた。


「陛下、やめてください。怪我でもしたらどうするんですか!?」

「君こそどうするの…?」

「え?」

大きな瞳を見開いて僕を見つめる夕鈴を、僕もじっくりと見つめ返す。
途端に彼女が視線を逸らした。きっと恥ずかしさにいたたまれなくなったのだろう。


「僕は君の夫だ。君が怪我するかもしれないのに…黙って見てろって言うの?」

「……」

「夕鈴、下がっていて。僕が片づけるよ」

「………はい」

夕鈴の視線はこそばくて心地よかった。僕は、彼女が見守るそばで黙々と片づける。


『そんなこと…あなたにさせるわけには』

夕鈴の言葉がこれほどショックだなんて…彼女はきっと何気なく呟いただけであろうに。
昔から、特別な存在である僕。小さい頃から、僕を称え、僕を敬い、僕を崇める人間はとかく多かった。そのたびに感じていた心の軋轢。
僕は皆とは違う。皆と同じように笑い、同じように泣き、同じように感じてはいけない。絶対の王という枷は、自然に皆と僕とを線引きしていた。だけど…自分が他とは違うということは、どれほど残酷なのであろうか。

最後の欠片を拾い上げた僕は、まだ陰りのとれない心で夕鈴を見上げた。
夕鈴は、いつもと変わらぬ愛らしい顔で、僕を真っ直ぐ見つめていた。


「夕鈴…」

「陛下、ありがとうございました」

ふわりと笑う夕鈴。僕は思わず手を伸ばして抱きしめたい衝動にかられる。だが必死に抑え、いつもと変わらぬ子犬の笑顔で彼女に答えた。


「お礼といってはなんですが…」

「?」

「今夜は一緒に弟を祝ってください」

「いいの?」

「今日は特別ですよ~」

夕鈴の言葉にすっかり機嫌を直す僕。やっぱり君はどこまでも可愛くて優しい。


「君が妃で良かった……」

居間から立ち去る夕鈴に向かって囁いた言葉は、きっと彼女の耳には届かない。
でも…満足感いっぱいの僕に、これ以上の幸せもわがままも必要ない。

僕は思いっきり笑顔を浮かべると、夕鈴の後を追って居間を退出した。
















迎えた次の朝、夕鈴の実家の客間で一晩を過ごした僕は、誰かの話し声で目が覚めた。
ひっそりとした室内に細かく伝わる声音。まさか…この僕が寝坊?疑問を込めて覗いた格子窓からは、すっかり高くなった太陽が顔を出していた。

今までどこにいたって熟睡を許さない僕が、初めて寝泊りした家で寝坊するなんて…僕は軽く頭を振り、寝台から起き上がる。見渡した客間からは、僕の好きな香りがした。これは夕鈴の香りだ。

この香りに包まれて眠ったから熟睡出来たのかもしれない。やっぱり僕が安心出来る場所は彼女の元でしかないようだ。
夕鈴には少しうっとおしがられたかもしれないが、ここに来て良かった。こうなったら彼女の休暇が終わるまで、彼女のそばに居ようではないか。
僕は堅く決意する。その意志を夕鈴に伝えるのは早い方がいい。僕は上衣を手に取るとふわりと纏う。上衣からも夕鈴の香りが漂って来て、心地よさで顔が緩んだ。
王宮であれば、朝からくしゃりと破顔する王様を不気味に思うかもしれない。僕はふっと湧いた思いにクスリ…と笑いながら、上衣の紐を堅く結んだ。

ふと気づくと、また話し声が耳に届いた。どうやら話し声の主は外の庭にいるようだ。
このか細い声を、この僕が聞き違えるわけがない。目的の人物の場所を知った僕は、足取りも軽やかに客間を後にした。










「青慎…夕べは楽しかった?」

「うん、姉さん。ありがとう。僕、嬉しかったよ」

青慎のあどけない笑顔に、夕鈴の顔がほころぶ。
早朝というには遅く、それでもまだ朝の早い時刻、ふたりは箒片手に庭の落ち葉を掃いているところであった。

ふんふんと鼻歌交じりに掃き掃除を進める夕鈴に、青慎が遠慮がちに声を掛ける。


「あの…ね。姉さん」

「なあに?」

掃除の手を緩めることなく夕鈴は尋ねた。


「李翔さんのことなんだけど…」

「李…翔…?だれ…あっ李翔さんね!」

夕鈴は慌てて答える。偽名をすっかり忘れてしまっていた。
そんな夕鈴の様子に、青慎が口をつぐんだ。突然口を閉じた弟を不審に思い、さらにはバイト先の上司もとい、この国の王様の話題であったため、夕鈴は必要以上に動揺する。


「ど…どうしたの?」

「あの人…本当に姉さんの恋人じゃないの?」

「!?」

夕鈴はほっと胸を撫で下ろす。どうやら正体がバレてはいないようだけど、もっとやっかいな展開に夕鈴はまた動揺した。


「違うわよ。前もそう言ったわよね?あの人はただのバイト先の上司」

「ただのバイト先の上司が後輩の家にまで来るの?しかも仲良さげだったし」


ぎくり…夕鈴は今にも跳ねそうな鼓動を抑え、目の前で鋭く問いただす弟の姿を捉えた。
弟はこういうところには鋭い…夕鈴は墓穴を掘らないように気を付けながら、慎重に返答する。


「さぁ…それは分からないけど。もしかしたら査定とか…?」

「査定されているの?」

「物のたとえよ。たまたま通りかかって泊まる場所が無かったってのもありえるわよ」

「ありえない…」

青慎は夕鈴に聞こえないように小さく呟く。


「何?」

「姉さん、僕いいんだよ…」

「な、何がよ…」

やだ、何か変な展開。


「僕、フリーダムなお兄さんでも構わないよ。時々はっとするぐらい怖い顔してるけど、とってもいい人だし…」

怖い顔してる…バレてるじゃん、狼陛下。夕鈴は苦笑する。いや、そんなことよりも。


「違うって。本当にただのバイトの上司」

「本当?だって姉さんもなんだか楽しそうだし…」

「た…」

楽しそう?私が?
違う…楽しいんじゃない。いっつもあの人には振り回されて、私だけが慌てて動揺して、私だけが勘違いして…私だけが苦しい思いばかり…。

でも。


「……」

「姉さん?」

「確かに…あの方と一緒に居ると楽しい。それは認めるわ、青慎」

「うん。姉さん、あの人と一緒に居ると楽しそう。前よりも笑顔が多くなった気がする」

「笑顔?」

「うん。だから…早く仲を認めなよ」

「だから違うわよ!」

「はは…相変わらず姉さんも強情だね」

「だって…違うもの」

「姉さん?」


夕鈴は視線を落とす。
心に浮かぶのは陛下の姿。


「確かに私は、あの人と一緒にいると楽しいけれど…それ以上に心が苦しい」

「……」

「ときどき…そばに居ると、ぎゅっと胸が締め付けられて苦しくなるの…」

「姉さん。それって…」




「夕鈴……」

がさがさと草木をわける音に続いて、夕鈴の名を呼ぶ声音が響き、はっとして振り返った。


「あっおはようございます」

目覚めた僕に、夕鈴は腰を折って挨拶した。
突然現れた僕の姿に少し驚きながらも、夕鈴は笑顔を浮かべた。いつも後宮で僕を出迎えるときの笑顔さながらに。


「夕鈴。今日は……」

「あっ今日は、私ちょっと用事がありまして…でも、青慎にまた街を案内させますので」

「いや、大丈夫だ」

「?」

「今日はこのまま帰るよ」

「帰る?王宮へですか?」

「うん」

「突然…どうかされました?」

あんなに駄々をこねて一緒に居たいとわがままを言っていた僕だ。君が不思議がるのもおかしくない。


「あの…王宮で何か?」

「ううん」

僕は不安気に揺れる夕鈴の瞳を見つめる。夕鈴の瞳に映し出された僕の姿が晴れ晴れとしていた。


「何にもないよ。ただ君を大人しく待ってようかなぁっと思って」

「そ…そうですか」

「早く帰って来てね」

僕はにっこり笑うと、夕鈴の顔へ自らの顔を近づけた。夕鈴はビクッと肩をすくめると、無意識に体を引いた。
まだまだ初々しい僕の妃。でも先ほどの夕鈴の言葉を思い出す僕の胸には女々しい悲壮感はなく、ただ嬉しさのみが湧き出していた。



『ときどき…そばに居ると、ぎゅっと胸が締め付けられて苦しくなるの…』

夕鈴。それはきっと恋だ。
でも君がその意味に気づくのは、まだまだ先のこと。だけど今は…僕にはこの言葉だけで十分だ。


仕方ない…今はまだ、初々しくて鈍感な君を気長に待つかな。




「君が居ないと悲しくて寂しい…だから早く帰っておいで」

「……」

夕鈴は赤く熟れた顔を袂で隠すと、こくりと頷いた。










二次小説第43弾完です
夕鈴が恋心を自覚(?)するお話。嘘です…。まったく自覚してないです。
陛下といると心が締め付けられて苦しいって、完璧に恋です!恋!!でもまだ気づいていません。書いていて本当にもどかしいかったのですが、ミケはこういう展開が好きなのでどうぞお許しください。
夕鈴の宿下がりに付いて行く陛下(どこかで聞いたような…)と、それを勘ぐる弟。青慎初登場です!初登場記念に模試で一番を取らせてあげました(笑)実際に頭が良いかは分かりませんが、夕鈴の弟ならばお金の計算とか早そうですね~前々から登場させたいと思っていたので、書けて満足です
長文にもかかわらず、最後までお付き合いありがとうございました☆




19:31  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2011.02.07 (Mon)

恋心に気づくまでⅠ

「恋心に気づくまで」

またまた陛下目線の長文です!
続いております、陛下目線。ミケはどうやら“僕”人称が好きみたいです。

ではどうぞ。

















「宿下がり…?」

「はい!」

妃の部屋に彼女の高い声音が響く。夕鈴は、戸惑う僕に元気よく言い放った。
夕鈴の思いがけない発言に耳を疑う僕。出来る事ならば、間違いであって欲しい。僕は、期待を込めて繰り返し質問した。


「今…宿下がりって言った?」

「はい」

夕鈴がコクリと頷いた。その様子を見て、僕は怪訝に顔を曇らす。


「どうして…夕鈴?僕、何かしたのかなぁ…」

しょんぼりと肩を落として夕鈴に詰め寄る。子犬の僕に慌てた夕鈴が、両手を差し出した。すかさずその手を掴んだ僕は、夕鈴をそば近くまで引き寄せた。

赤面兎が視界に入る。


「一体どういうことだ?」

突然現れた狼陛下に夕鈴が息を飲んだ。大きな瞳を見開いて、まばたきもせず僕を見つめている。


「新婚の君が宿下がりとは…いかなる理由か?」

「……あっあの…」

夕鈴は動揺顔で、必死で言葉を選んでいるようだった。僕は夕鈴の手を少しだけ解いて、彼女に言い訳を並べる猶予を与える。


「夕鈴?」

「はい。じ、実は…弟のお祝いをしたくて…」

「弟?」

夕鈴の言葉に、僕は先日逢った彼女の弟の顔を思い出していた。夕鈴に似て、あどけない可愛い性格の弟、夕鈴が溺愛するのが納得できるほど、出逢った彼はかなりの好青年だった。


「お祝い?」

「はい」

夕鈴の話によるとこうだ。
官吏になるため勉強中の弟が通っている塾の模試で成績一番を取ったらしい。こんなにめでたいことはないので、家族で盛大にお祝いするそうだ。その準備のための宿下がりらしい。


「それで宿下がり?」

「はい。しばらく顔を見せていないし、実家に帰って青慎においしいご飯を作ってあげたくて…」

夕鈴はほころぶ笑顔を浮かべて答えた。


「なるほどね…」

僕は納得しながらも、内心面白くなかった。
夕鈴の弟の偉業は素晴らしいし、僕も心から喜んであげるべきなんだけど…夕鈴が僕のそばを離れるなんて、やっぱり面白くない。
王である僕でさえ、彼女の手料理を食べる機会などほとんどないというのに…恵まれた待遇の弟に対して嫉妬心が芽生える。

僕は夕鈴の手を握りしめたまま、浅くため息を吐いた。


「ダメ…ですか?」

「……ううん」

「じゃあ!」

「宿下がりは何日ほど?」

「はい。出来れば三日間ほどお暇をいただければ…」

「三日!?」

僕は思わず小さく叫んだ。三日間も離ればなれなんて…今の僕には酷すぎる。
君の顔を見て一日を締めくくるのが、最近の僕の日課なのだから。


「三日は長すぎるんじゃない?」

「でも…以前、陛下は五日間ご不在でしたし…」

夕鈴は遠い記憶を掘り起こすと、僕に告げた。
そんな昔のことを引き合いに出すなんてズルい…そう思いながらも口にすることは出来なかった。


「それは…そうなんだけどさ。あれは仕事だし…」

僕は以前、国王の仕事として地方への視察へ行くため、王宮を五日間不在にしていた。夕鈴の居ない日常はとても空虚で、あとで一緒に連れて行けば良かったと心の底から思うほど、僕には長い五日間であった。

あんな思いをまたするなんて、冗談じゃない。


「やっぱり長すぎない?」

「五日間よりは短いじゃないですか」

「それとこれとは別だよ」

「たった三日ですよ」

「三日もだよ」

「陛下…」

夕鈴は肩をすくめて困ったように笑うと、わがままを言う幼子をあやすみたいに優しく僕の名前を呼んだ。


「弟を祝ってあげたいんです」

「………うん」

そんな風に言われたら何も反論出来なくなる。案の定、僕の心は傾きかけた。


「おいしいものを食べさせてあげたんです」

「……」

これは…、もしかして“お願い”だろうか?

僕は、柔らかい面差しで僕に語りかける夕鈴を見つめた。

夕鈴の澄んだ瞳に僕の姿が映る。
王である僕の一番近いところに居ながらも、王である僕に何もお願いしない。望めばなんでも手に入る力を持つ僕を知りながら、願い事ひとつ言わないどこまでも無欲な君。
初めて具体的に“お願い”を口にする夕鈴を、僕はまじまじと見つめた。


「それは…お願いなの?」

「……え?」

「それは、夕鈴のお願い?」

「……はい、そうです。お願いします、陛下」

夕鈴が頭を下げる。


「………もう一度言って」

「…………は?」

「もう一度」

「お願い…します」

あぁ…なんて可愛い君。
夕鈴の“お願い”がこれほど心くすぐるものだとは知らなかった。愛らしい妻からの願い事、叶えない男がどこに居るというのだろうか…。

気づくと僕はあっさりOKを出していた。




















独り寝がこれほど寂しいものだとは、昔の僕であれば気づかなかっただろう。
妃の居ない後宮。
右を見ても、左を見ても、夕鈴が居ない。

普段気にならない後宮の静寂さも、夕鈴が居ないというだけで、これほどまざまざと感じられるものなのだろうか。夕鈴が宿下がりして一日目の夜、後宮で過ごす僕の心には寂しさが蔓延していた。

気を紛らわしたくて、側近である李順を飲みに誘ってみたが即答で断られてしまった。


「まだまだ雑用がありますので…」

神経質にめがねのふちに手を添えながら、形式ばった挨拶を交わし部屋を退出する李順。その後ろ姿を見て、いつも感じないショックを感じてしまうのは、やはり夕鈴がそばに居ないからか…。

僕は空になった酒杯を寝台の上で転がした。
それほど好きではないが、今宵は酔いがもたらす睡魔に期待して、すっかりと飲み干してしまった。


やはり三日は長い。一日目でこれでは、先が思いやられる。
夕鈴の宿下がりをすんなりと了承した昨日の愚かな僕を思い出しながら、ごろりと冷たい寝台に横になる。

こんなことなら、何か条件をつければ良かった。


逢いたい…夕鈴。

目を閉じると、脳裏にありありとその清らかな姿を思い出すことが出来る。僕にしてはかなり長く、ひとりの人間と一緒に過ごしたというのに…まだまだ足りないなんて。

やはり、僕にはまだ夕鈴が足りない。

薄闇に呟いた言葉は、月夜の空に消えていく。
まるで夕鈴の居ない後宮を覆う空までも、寂しい…と嘆いているようだった。室内を飾る見慣れた調度品も、僕も纏う衣もすべて、いつもよりも冷たく暗く感じられる。

夕鈴が居ないだけで、途端に色を失った世界。僕は堅く目を閉じて、まぶたの裏側に残る彼女の姿を追い求める。


逢いたい…夕鈴。
君も同じ気持ちでいてくれることを願いながら、僕は眠りの世界へと旅立った。



















「あら…夕鈴ちゃん、久しぶりね」

「おばさん、こんにちは」

明るい陽射しが垂れ込める屋外。夕鈴は、買い物かご片手に機嫌良く挨拶を交わす。


「お仕事はお休みなの?」

「今休暇中です」

ルンルンと自然に弾み出す足。夕鈴は喜びを隠すことなく会話を続ける。


「そういえば…聞いたわよ。青慎くんのこと」

弟の話題になるとすぐに夕鈴は目を輝かせた。
ここは夕鈴の住む庶民街。小売店が立ち並ぶ往来で、夕鈴は声を大にする。実はそうなんです…とか、それほどでも…とか、まぐれです…などなど、実に楽しそうに言葉を呟いていた。


「今日はお祝いかしら?」

近所のおばさんが夕鈴の買い物かごを覗き込みながら尋ねた。


「はい!こんなめでたいことはありません」

嬉々揚揚と答える様子は、目に入れても痛くないほどに弟を溺愛する姉の姿そのものだった。
鼻高々に胸を張る夕鈴の様子におばさんがくすっと笑う。


「素敵ね。良いお姉さんを持って青慎くんも幸せね…」

「……」

おばさんにとっては何気ない言葉であっただろうが、夕鈴の胸にじーんと込み上がるものがあった。母が亡くなってからというもの、身を粉にしてのバイト三昧。弟の快挙は夕鈴にとって誇らしことこの上なかった。

がんばってバイトをしてきて良かった…そう遠くない記憶を思いながら、夕鈴は笑顔を浮かべた。

















帰宅早々、買い物かごを台所に置いた夕鈴は、実家を取り囲むいつもとは違う雰囲気に眉根を寄せる。このピリリとした雰囲気はまるで…背後から気配を感じて振り返ると、困惑顔で出迎える青慎の姿がそこにあった。


「青慎…どうかした?」

青ざめる弟の様子に、夕鈴の心を嫌な予感がよぎる。もしかして…。


「どなたか来ているの?」

夕鈴の問いかけに青慎はこくりと頷いた。


「まさか…」

「夕鈴!」


甲高い声が耳を貫き、夕鈴は驚く。びっくりしすぎて、手にしていた果物を床に落としてしまった。
夕鈴は慌てて拾い上げようと手を伸ばしたが、目の前に転がる果物を拾い上げたのは、夕鈴の旧友であった。


「明玉!」

「夕鈴!久しぶりね」

明玉と呼ばれた年若い娘は、夕鈴の下町での友達だ。話によると、久しぶりに帰省した夕鈴の噂を聞きつけてわざわざ逢いに来てくれたらしい。


「夕鈴。相変わらず変わらないわね~元気そうで良かったわ」

「明玉こそ。今日は小料理屋のバイトは大丈夫なの?」

「今は昼休憩なの。これからまた戻らないといけないんだけど…」

「そう…」

残念…夕鈴は視線を落として呟く。


「もう少し話したかったわ…そうだ!明玉、バイト終わりに家に来ない?」

「う~ん、そうね…でも」

「?」

ちらりと弟と目を合わせて苦笑する明玉の姿に、夕鈴は不思議そうに首をかしげた。


「邪魔しちゃ悪いし…」

「いいのよ。今日は弟のお祝いをするの。良かったら明玉も来て」

「……やっぱりパス。彼氏に悪いしね」

にっこりと満面の笑みを浮かべて明玉が答える。


「は?」

夕鈴の耳が正しければ、今確かに彼氏と言った。


「夕鈴ったら…王宮でのバイトでしっかり出会いをゲットしてるだなんて。うふふ…」

「な…な、何の話?」

「ごまかしても無駄よ。来てるじゃない?」

「誰が……?」

夕鈴の顔が強張る。嫌な予感はもしかして杞憂ではなかったのか。頭の中の危険シグナルがやかましいぐらいに鳴り響いている。

「だーかーらー。彼氏よ、彼氏。夕鈴のバイト先の上司でしょ」





Ⅱにつづく。


19:27  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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