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2011.01.17 (Mon)

こんな雪の降る日に

「こんな雪の降る日に」

各地で大雪が降る今日のような日にぴったりかも。
夕鈴目線で短文です。

ではどうぞ。














初めてその光景を見たとき、言葉も出ないほどに驚いた。
全面真っ白の銀世界。太陽は覗いていないのにやたらと眩しくて、直視できずに夕鈴は目を閉じた。


「なんて美しい…」

惚れ惚れと感嘆の声を漏らす夕鈴に、陛下がそっと上衣を肩にかけた。


「よく積もったな」

見上げた陛下の表情もどことなく嬉しそうで、夕鈴はふっと息を吐いた。白く濁る視界の先には見慣れた中庭はなくて、ふわふわの白い雪に覆われて凹凸の無くなった世界が広がっていた。


「雪かきをさせないとね」

「はい。でも、ちょっともったいないですね」

夕鈴は肩を落としてしょんぼり呟く。陛下はそんな夕鈴の肩を抱いて、確かに…と返事した。

「じゃあ遊ぶ?」

「?」

陛下の子どものような顔に、夕鈴の瞳が輝く。


「遊ぶって…」

夕鈴の知る大雪が積もった日の朝の遊びといえばもちろん…夕鈴は不敵に微笑みをたたえる陛下のそばで、うずうずと高鳴る鼓動の音色に耳を傾けていた。



















「夕鈴。ねぇ、ねぇ、これどう?」

「わー陛下!雪だるまですね。すごく上手」

夕鈴は体半分を雪に埋めながら、陛下の力作を見上げた。嬉しそうなその顔は赤く高揚していて、特に鼻先はより赤く染まっていた。
陛下は夢中に遊ぶ夕鈴の腕を支えながら、雪の中から救出する。


「そんなに雪の中に埋まっていたら、風邪ひいちゃうよ」

「大丈夫ですよ!それにこんな日だったら風邪をひいても構いません」

そう言いながら、新雪に足を踏み出している。ぎゅっぎゅっと雪の音が広い中庭に響いた。


「夕鈴、それはダメ。君が風邪ひいちゃったら僕が悲しい」

「陛下が悲しむことないですよ」

笑いながら振り返って、夕鈴ははっとする。
今日は朝から子犬な彼が、一段と肩を落として悲しんでいたからだ。陛下は子犬と子猫と子ぎつねとを足し合わせても足りないほど…この世のすべての小さいものよりも、一層小さく身を縮めて夕鈴のそばに立っていた。
途端に夕鈴は陛下に駆け寄り、彼をなだめる。この顔は夕鈴の最も苦手とする顔だ。


「陛下。そんなに悲しい顔しないでください。大丈夫ですよ。風邪をひくようなバカな真似はしませんから」

「本当に?」

「はい」

「じゃあ雪に埋まるのは禁止。もう少しこちらへおいで」

陛下は夕鈴の手を取り、あまり雪の積もっていない場所へと誘導する。
少し残念そうに表情を曇らす夕鈴に、陛下は笑顔を向けた。


「夕鈴。今度は君が何か作ってよ」

「はい!じゃあ陛下に負けないぐらい大きな雪だるまを…ではなくて」

陛下の表情を確認しながら、夕鈴は熟考する。少ない雪で作れるもの…作れるもの。


「雪うさぎは?」

「あ!いいですね。じゃあさっそく」

夕鈴は腰をかがめて雪を集める。陛下も一緒に雪を集めた。
そうして出来上がった雪うさぎ。陛下は、出来上がった雪うさぎを見て、可愛いね…と呟いた。


「夕鈴とそっくりだ」

「え?そうでしょうか?」

じっくり眺めたが、似ているとは思われない。それでも満足そうに微笑む傍らの陛下を見ていると、夕鈴は温かい気持ちになれた。
外は寒いが心は温かい。陛下のそばに居るだけで、不思議と温かく柔らかな気持ちになれる。なぜなのだろうか…夕鈴がこの理由に気づくのは、まだまだ先。

しばらく黙していた夕鈴の手を、陛下がそっと掴んだ。


「夕鈴、手がとっても冷たい」

「私、もともと冷たいんですよ」

「心が温かい証拠だね」

陛下ははぁっと息を吹きかける。暖かく白い空気が指先から痺れを解き放ってくれた。
目の前が真っ白に染まる。一面の白。まるで色を失ったかのような世界。
手の平が、指先がじわじわと温かみを取り戻す。


「陛下、ありがとうござ…」

白い空気が解けたときに初めて見た陛下の表情は、ぬくもりに満ち溢れていた。吸い込まれそうな柔らかな瞳に、夕鈴は目線を反らせない。あまりにもじっくりと見つめてくる陛下の様子に、夕鈴の顔が熱く火照るのを感じた。


「夕鈴、赤い顔してる。とっても寒いんだね」

「……はい…そうです」

嘘をついた。なぜだかは分からないけど、私の顔が赤い理由を悟られたくなかったからか。


やっと腕を解いた陛下は、それでももう片方の手は離さずに、ふたりが散々遊んだ中庭へと視線を移した。
夕鈴もつられて陛下の視線を追う。


「夕鈴が作った雪うさぎ、やっぱり可愛いね」

「ありがとうございます」

ふふふ…と笑いながら夕鈴が答えた。丸い丸い雪うさぎ。不器用な夕鈴が作ったため、少し離れたところから見ると、大きな団子か何かに見える。


「おいしそうだなぁ…」

ふいに陛下が呟いた言葉に、夕鈴は大きく吹き出す。ちょうど私もそう思っていた。


「丸い団子のように見えませんか?」

「うん、そうだね。やっぱり夕鈴に似てる」

「え?」

私が団子に似てるってこと?
失礼しちゃうわ…反論するために口を尖らせて陛下を見上げると、陛下もこちらを見ていた。口角を上げて細めた目をこちらに向けている。なんとなく嫌な予感。


「私の妃は、おいしそうだからな」

「!?」

急に獣の気配を漂わせた陛下が、愉快気に呟いた。
夕鈴は、ぞくり…と背筋を強張らせつつ後ずさる。

まるで狩られる直前のうさぎのように恐々と見上げる夕鈴に対して、陛下が苦笑を浮かべた。


「なっ何がおかしいんですか!」

「やっぱり夕鈴に似てる。ふわふわで可愛くて、それにおいしそうだもの」

白い雪を溶かすほど赤い顔で、金魚のように口をぱくぱく声にならない声を発している夕鈴の傍らで、お腹を抱えて陛下が笑う。


「夕鈴、面白い…」

「失礼です!私は団子じゃありません」

「ちが…そうじゃなくて……」

陛下の途切れ途切れに発した言葉は、夕鈴の怒鳴り声にかき消されてしまった。


「どーせ私は団子に似てますよ」

「違うよ、夕鈴。僕は君が雪うさぎに似てるって言ったんだ」

「どっちも同じです!」

「団子と雪うさぎ…全然似てないよ」

「おいしそうって言ったでしょう!」

「それは…」

陛下は口ごもる。
なんと表現して良いか分からずに沈黙する陛下の横を、さっと夕鈴が駆けた。


「夕鈴!?どこ行くの」

「陛下なんて知りません!」


雪の音が中庭に鳴り響く。
ぎゅっぎゅっという音に混じって、陛下が妃を呼ぶ声がいつまでも響いていた。












二次小説第40弾完
はぁ…もう40話目ですか。早いものです。
大雪に喜ぶ子どもっぽい可愛らしいふたりを書いてみました
陛下の最後の方の発言は、可愛らしさの欠片もありませんでしたが。おいしそうって…素直すぎです!

今朝ミケの住む町では雪が積もっていました。今年の冬は本当に寒いですね。
雑誌の次号発売を待ち続けて、この寒さをしのいでおります(笑)次号は、雪が溶けるほどに甘い展開を期待します☆


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13:58  |  真冬編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2010.10.15 (Fri)

雪の華

「雪の華」

またまた短編です。
夕鈴目線。寒い夜をさらに寒くしてしまうような…そんな小説です。

ではどうぞ。











「もうおやすみ、夕鈴」

そっと囁かれた声に、夕鈴は耳を傾ける。
見つめた先にあったその表情はとても寂しくて、せつなくて…ずっと見つめていたら涙が出そうなくらい、はかなくて苦しい。

気づいたら、手を伸ばして抱きしめていた。















「今夜は冷えるね、夕鈴」

上掛けを纏いながら陛下が呟く。
頬が少し高揚して見えるのは、室内の温度がとても寒いからであろうか。

白熱の光がほの明るく燃えている妃の部屋の寝室。いつも通りお茶を飲み終わった陛下が、長椅子に片膝をついて、夕鈴を見つめていた。


「そんな薄着で大丈夫ですか?」

夕鈴は、寒い夜にだけ出される鳥の羽衣の上衣を寝台へと運びながら尋ねた。
尋ねられた陛下は、夕鈴の質問で初めて自らの衣服に視線を移した。陛下は、いつもの装いのまま眠りにつこうとしている。


「僕は大丈夫」

「でも…風邪をひかれますよ」

それでなくても長椅子などと狭苦しい所で眠らせているのに、風邪をひかれてしまったら、たとえ夕鈴のせいでなくても李順に何を言われるか。口うるさい側近は、陛下のことになると殊更にうるさい。


「鍛えてるから大丈夫」

にっこりと微笑む陛下の顔を微妙な表情で眺める夕鈴。
確かに、陛下の体が逞しいのも、その腕が力強いのも知っている。何度となく抱きしめられた思い出が、夕鈴の心にふと浮かんだ。

途端に夕鈴の顔が赤く染まる。

一体何を考えてるのかしら…私。


「夕鈴?」

深呼吸する夕鈴を訝し気に見つめる陛下の視線を感じ、慌てて頭を振った。熱くなった頬を片手で仰ぐ。


「いえ!では…寝ましょうか」

夕鈴は動揺する気持ちをなんとか抑え、陛下に笑いかけた。


「うん、暖かくして寝てね」

「はい、おやすみなさい」

ぺこりと頭を下げて、夕鈴は寝台に向かった。

夜灯の火を落として、寝台に沈み込むように横たわる。

ふかふかの羽衣が肌に心地よい。

今夜もいい夢を見ることを願って、夕鈴は眠りについた。














次に目覚めたとき、まだ朝を迎えていなかった。

朝によくさえずる鳥の鳴き声が聞こえず、朝日がもたらす清純な香がしない室内をぐるりと見渡すと、そこにあるはずの気配は無かった。確かに数刻前、そこにあったはずの自分とは違う気配、今はどこにも感じられない。


「陛下?」

薄暗闇に夕鈴の小さな声が響く。その呼び掛けに反応する声はなく、張り詰めた深夜の気配が揺れることはなかった。

冷たい床の上、裸足の足をつけて夕鈴は立ち上がった。

歩くたび、足裏から伝わる冷気が夕鈴の身を凍らせる。
眠る前よりもぐっと低くなった気温に、夕鈴は肩を震わせた。

そのまま、格子窓の近くまで歩くと、夕鈴は外を覗いた。すぐに視界に人影が映った。

夕鈴はほっと安堵の溜め息を漏らす。

思った以上に簡単に見つかった陛下は、前庭が見渡せる妃の部屋脇の回廊に腰掛けていた。





寒空に佇む陛下の姿は白く浮かんでいて、最初見たとき夜空に浮かぶ月のようだと思った。
だって、眺めた空には無数の星が瞬いていたが、月はどこにも見当たらなかったから。

星空の世界から姿を変えて地上に降り立って来たのかもしれない。
それぐらい陛下の姿は白く、ほの淡い光を放っていた。

なんて声を掛けようか迷っている夕鈴の名前を呼ぶ声に、驚いて顔を上げる。

いつの間にか、陛下の顔がこちらを向いていて、その視線は真っ直ぐ夕鈴を捉えていた。


「へ、陛下…」

「どうしたの?夕鈴」

「陛下こそ…」

一体何をしているのか?こんな夜中に、こんな寒空の下。
頭にいろいろと浮かんだ疑問の言葉を飲み込んで、夕鈴は陛下の横に立った。


「寒くないんですか?」

「寒いね」

陛下はにっこりと笑うと、また星空に視線を戻した。


「でも、綺麗だ」

確かに綺麗な夜だ。

建物も草木も花も、欄干も灯篭も、陛下自身も含めてすべて、淡白い光に包まれている。
まるで光の世界に迷い込んだみたいだ。こんな景色を眺めることができるのは、こんな寒い夜だからだろう。

しばらく陛下と同じように光の景色に見入っていた夕鈴に、風が吹きぬける。

静かな夜に風が舞う音が響く。と同時に、氷のような冷気も運んできた。

鳥肌を立てつつ見つめた陛下の横顔は、さっきと変わらず穏やかに笑顔をたたえていた。

長い漆黒の前髪が風になびく。
その軌跡を目で追う夕鈴の脳裏に、ふとある疑問が浮かんだ。

陛下はいつから、ここに居るのだろうか。

夕鈴は陛下の横に屈み、その白い手に触れた。温度のない陶器のような冷たさに、夕鈴の表情が歪む。


「夕鈴?」

「陛下、いつからここに?体が冷え切っています。何か羽織らないと本当に風邪をひきますよ」

心配そうに見つめる夕鈴に、また陛下が笑い掛けた。


「大丈夫だよ。僕鍛えてるし…」

鍛えているからといって、風邪をひかないとは限らない。


「でも…手がこんなに冷たいです」

握った陛下の手のひらは、氷のように冷たかった。触れた先から夕鈴の熱を奪う冷たさに、少し恐ろしくなる。

夜空に浮かぶ月も、こんな風に冷たいのだろうか。

見上げた夜空には、やっぱり月の姿はなかった。


「僕はもともと手が冷たいんだ」

なだめるように、諭すように、陛下が柔らかく笑顔を浮かべる。暗闇に浮かぶ白に、夕鈴はまた恐ろしさを感じた。

陛下は笑っているのに、どうしてこんなに恐ろしいのだろう。

まるでこれ以上近づいてはいけないと、そう言われているような気がして、夕鈴の胸を不安が刺す。

陛下はこうやってずっと一人で居るのだろうか。
誰かのぬくもりさえない冷たい世界に一人、たたずんでいるのだろうか。


それはなんて…

悲しくて、苦しい。


熱を分け与えたくて、夕鈴は握る手に力を入れた。


「でも、やっぱり何か羽織るものを持って来ます」

立ち上がりかけた夕鈴の手首を陛下が掴む。
途端にバランスを崩した夕鈴は、硬い床の上尻餅をつきそうになったが、思わず伸ばされた陛下の腕に支えられて難を逃れた。


「!?」

「ごめんね、夕鈴。羽織はいらないから…」

君は部屋に入っておやすみ…耳元に陛下のかすれた声が届く。

陛下の声は、夕鈴を纏う冷気よりも冷たく聞こえた。

夕鈴は、陛下の腕に支えられて立ち上がる。まるで突き放すかのような陛下の態度に、心の底が締め付けられて痛い。

軽く震える膝に力を入れて、夕鈴は陛下と対峙した。




「もうおやすみ、夕鈴」

見つめた先にあったその表情はとても寂しくて、せつなくて…ずっと見つめていたら涙が出そうなくらい、はかなくて苦しい。

気づいたら、手を伸ばして抱きしめていた。




寒空に漂う冷気が、体ごと凍らせたかのように固まる空気。

力を込めて抱きしめる夕鈴の体とは対照的に、陛下の体が動くことはなかった。声さえも凍らせてしまったのか、夕鈴の行為に、陛下はしばらく言葉を失っていた。


「夕……鈴?」

「……居ないでください」

「え?」

「一人で居ないでください」

「……」

顔を上げた夕鈴の顔は涙で染まっていた。とめどなく溢れる涙のしずくに、陛下の輪郭がぼやける。


「夕鈴」

名前を呼ばれると余計に涙が溢れた。悲しくて、苦しくて、内側から溢れ出る思いを制御できない。

どうしてこんなにも悲しいのか。


「っつ…」

夕鈴は頬を伝う涙をぬぐった。
ぬぐった先から、また新たな痕跡を刻み付けるかのように溢れる涙。

きっと、陛下困ってる。
突然子どものように泣き出した私に、きっと呆れている。

でも止まらない、止められない。

陛下が流す涙は、私が流す涙よりももっと悲しくて、もっと苦しいから。

それを知ってしまったら、もう止めることなんてできやしない。


「泣かないで、夕鈴」

「……」

「君が泣くと、僕はどうしていいのか分からない」

頬に当たる感触に夕鈴は目を開けた。陛下の指先が遠慮がちに触れている。


「僕のために泣いてくれてるんだね」

「陛下が…泣かないから」

だから、私は陛下の変わりに涙を流す。悲しみの涙を。苦しみの涙を。

あなたが流せなかった涙を。


「ありがとう、夕鈴」

「……」

「ありがとう…」

暗闇に溶けるように消えていく言葉。
同じように涙も溶けていく。

陛下の言葉に、堅くなった心がほぐされていく。

開けた視界の先に見つめた陛下の姿は、まだぼんやりと淡白かったけれど、握り締めたままの手のひらはほんのりと暖かかった。




「部屋に入ろう、夕鈴」

夕鈴の肩を抱く陛下は、冷たい世界から、暖かいぬくもりの世界に戻ろうとしていた。

夕鈴ひとりではなく、今度は陛下も一緒に。



去り際に見上げた夜空には、はっきりとそこに…月が瞬いていた。










二次小説第26弾完了です

ミケは色の描写が大好きでよく使います。夕鈴は赤色、陛下は白色だと思っています。
ときどきごっちゃになることもありますが(笑)そこは暖かい目でお願いします。

さて、今回はちょっと暗めで終わってしまいましたが、いかがでしたか?
せつない陛下と夕鈴の話も大好物です。キュンとなる感じがたまりません


02:23  |  真冬編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2010.08.08 (Sun)

雪降る頃に

「雪降る頃に」



記念すべき狼陛下の花嫁10話目です

夕鈴目線。少し長いですがお付き合いください。


ではどうぞ。










「今朝は冷えますね…」

暖炉に火を灯しながら、妃付きの女官が呟いた。

起きたばかりの眠い目をこすりながら窓枠から外を見ると、季節外れの粉雪が舞っていた。
先週からぐっと下がった気温は今日になっても留まることなく、この比較的温暖な白陽国にも雪をもたらしたようだ。


「まぁ…初雪ですわね」

寝台のそばに侍る女官のひとりが嬉しそうに言った。


「初雪…」

「外にお出になりますか?」

「えぇ…」

夜着の上にもう1枚羽織を纏って、夕鈴は外へ出る。
屋外へ身をさらした妃を守るようにして、女官たちが夕鈴の後方に控えていた。


「綺麗…」

「お寒くありせんか?」

大丈夫よ…言いかけた夕鈴を後ろから誰かが抱きしめた。
突然のことに驚きながらも、なんとなく予想は出来て、私は妃の笑顔を崩さずに振り返る。


「おはよう、夕鈴」

やはり、そこには狼陛下がいた。顔いっぱいに妃限定の甘い笑顔を浮かべて。


朝っぱらからこの人の演技は、刺激が強すぎて困ってしまう。


私は平静を保ちつつ挨拶した。激しく波打つ早鐘をなんとか聞かせないように。


私は内心のため息を悟られないように、さりげなく陛下の腕を解いた。
だが、すぐに体と体を合わせる形で腰を引き寄せられる。あまりにも自然な動きすぎて、私には手も足も出ない。当然抗う術もなく、落ち着いた先は狼陛下の逞しい腕の中だった。


う…一斉に注がれる女官たちの視線が気恥ずかしくて、私は陛下の腕の中小さくうつむいた。


「妃よ…顔が赤い。風邪をひいたのではあるまいな?」

陛下は私の頬に触れながら尋ねた。

私の顔が赤い理由など分かっているくせに、こういうところ陛下はズルいと思う。わざと質問しているのだから、本当にたちが悪い。


「大丈夫です、その…少し寒くて」

その腕を解いてくれたら顔の赤みも引きます!と声を大にして叫びたかったが、もちろんそんなことは出来ず、私は微妙な笑顔で受け答えした。


「初雪だからな…」

陛下は目配せして女官を下げると、舞い散る雪を見上げた。その視線を辿るように私も目を向ける。

空から幾度となく降る雪の輝きに目を奪われたようだ。
しばらくふたりは無言のまま、きらきらと輝く景色を眺めていた。


「今朝は随分と早いのですね?」

「昨夜は政務が忙しく君の部屋に来れなかったからね」

にこにこと子犬の表情に戻った陛下が答える。
切り替えの早さに目が回りそうだ。


「早起きしたおかげで、君と一緒に初雪が見れた」

なんでそんなに嬉しそうなんだろう…


一晩妃に会えなくて、それで早朝に雪が降っているにもかかわらず押しかける陛下…
はたから見たら私はとんでもなく愛された妃だ。

もちろん本物の妃であればだが。


狼陛下の唯一の寵妃という肩書きに、私は冷ややかな溜め息を漏らす。


「夕鈴、なんで溜め息なの?」

「いえ、いろいろと見習う点が多いなと」

「………今のは頬を赤らめる場面じゃないかな」

訝しい顔を浮かべた陛下が言い放った。どうやら私の予想外の反応に納得していないようだ。
その表情はなんだか拗ねているように見えて、私はクスリ…と笑う。


「今のは笑うところじゃないよ」

「陛下、冗談はやめてくださいよ」

含み笑いが抑えきれずに、私は声を上げて笑った。


「僕、冗談なんて言ってないよ」

まったく、相変わらずだね…陛下は小声で囁くと私の手を握り締めた。


「な、なんですか?」

体どころか手まで自由の効かなくなった自らに焦りながら、私は上擦った声を出した。


「だって夕鈴、ちっとも分かってないから、僕は愛しい妃に逢いたくて、早起きしたんだよ」

愛しい妃…聞き慣れているようで、正直まだ聞き慣れない…

私は今度こそ陛下の望みどおりに赤面すると、その真っ直ぐな視線から目を反らした。


「え、演技は結構です、そろそろ…お離しください」

私は、まだまだ未熟な自らに反省しつつ、陛下の胸を力強く押し返した。

とにかく…この不利な状況を解くことが先決。狼の腕の中では、自分のペースを作れない。


「夕鈴、寒いんでしょ?」

今は熱すぎて困ってる…なんてとても言えない。


「このまま僕の腕の中にいたほうが温かいよ」

耳元で囁かれて私は鳥肌を立てた。
こんな恋人まがいのセリフ、たとえ演技でも流せない。上手い冗談だと開き直れるほど、私には恋愛経験がない。

私は、全身を覆う鳥肌を抑えることに必死で、反撃の言葉さえ出なかった。


「それに…こうしていると妃演技する必要なく仲良し夫婦を見せつけられるしね」

一石二鳥だね…と子犬陛下がふわりと笑う。


見せ付ける相手がいないのに何が一石二鳥なんだろう、あれこれ御託を並べるのはこの人の得意技だ。


心の中で呟いた数々の悪態の言葉も陛下の笑顔の前では役立たず、無意味に口を閉じたり開けたりする様子に陛下がふきだした。


「夕鈴…面白い」

「な!何が面白いんですか」

陛下の一言にかっと頭に血が登る。


「だって…そんな赤い顔して、目をぐるぐる回して…小動物みたいだ」

私の顔を眺めてまた笑う。

小動物だと?
今度ばかりは怒りが収まらない。


「人の顔見て笑うなんて失礼です!」

私は思いっきり力を込めて陛下を突き飛ばした。ようやく解放された自らの体にほっと息を吐くと、白く空気が濁った。

怒りというのも、ときに便利になる。狼の囲いから逃れる馬鹿力を与えてくれるのだから。


「からかうなんて最低よ」

私はぼうぜんと立つ陛下に向かってビシッと指さした。


決まった…懲りない人には厳しい一言が効果的。私は、今までの経験上心得ていた。

このまま踵を返し、さっさと妃の部屋に戻ろうとしたその時、がっくりと頭を垂れて落ち込む陛下の表情が目に飛び込んだ。

途端に私の足は止まる。


本当に本当に悲しそうで寂しそうな様子の陛下。

あぁ…しまった。この顔を見てしまったら最後、見捨てるなんてこと私には出来ない。
子犬の陛下にとことん弱いのだから。


「僕、夕鈴に嫌われるようなことしたのかな?」

しゅん…本格的に落ち込む陛下。
耳とかしっぽとか見えて来た。幻想が見え出したら末期かもしれない。


「嫌ってるんじゃなくて、怒ってるんですよ」

「ごめん、夕鈴。僕謝るよ。だから…」

そんなうるうるした瞳で見つめないで欲しい。涙は女の武器なんだから乱用禁止よ。


でも、どんなに並べても私には到底言えない。

真っ直ぐでお人よし、情にほだされやすく、面倒見はとても良い、17年間形成してきた性格は今更変わることはないのだから。


「もー……怒ってないですよ」

「ほんと?」

こくりと頷いた私を見て、陛下の顔がぱぁっと輝く。さっきまでの暗く寂しい顔は見る影もなく、しっぽを振って近づいて来る様子に、私は深く深く嘆息した。


結局最後は許してしまう。情けないけど、これが私の性格。性格はなかなか変えられない。


「じゃあ仲直りだね」

腕を伸ばし私を抱きしめる陛下。



この人、全然懲りてないわ。


いつもいつも…この人に囁く言葉に、見せる態度に振り回されるばかり。



「ズルい人…」


夕鈴がそっと呟いた言葉は、粉雪と共に空気に溶けて消えていった。








二次小説第10弾完了

記念すべきアップということで、ラブラブ度をかなり高めにしたかったのですが、
ミケの力不足で中途半端になってしまいました。反省。



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