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2015.02.25 (Wed)

甘いささやき

甘いささやき

イベント編。
楽しんでいただけたら嬉しいです☆

ではどうぞ。

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17:00  |  イベント編(王宮)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2014.07.21 (Mon)

空に憧れて

空に憧れて


久しぶりの陛下単独目線。
夕鈴大暴れです(笑)

ではどうぞ。

11:42  |  イベント編(王宮)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2011.07.09 (Sat)

あなたの一番になりたくて

「あなたの一番になりたくて」

長らくお待たせしました。
夕鈴目線です。変わった文章ですが、楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
あとがきも含め長いですが、一気に読んで欲しいです。

ではどうぞ。













「お見事!」

甲高い歓声に導かれて、夕鈴は声のする騒がしい方角へ目を向けた。
次々と飛び交う歓声と拍手が周囲にこだましている。そのこだまに囲まれて、凛と立つ姿がひとつ窺えた。
多数の人々に囲まれるようにして、弓を片手に笑顔を浮かべた青年が立っていた。その表情は得意気で、笑顔の奥に嬉しさが滲み出ている。


「素晴らしい弓手ですな」

青年の凛々しい姿と覇気に見とれていた夕鈴は、後ろから掛けられた声にはっとして振り返った。
そのまま上品な笑顔を浮かべると、こくりと頷く。


「えぇ…大臣さま」

固めたにこにこ顔で答える夕鈴に、大臣は満足そうに頷いた。どこから見ても完璧な妃の笑顔を披露できたことにほっと息を吐く夕鈴。だかその笑顔に向かって、ふいに大臣とは別の視線を感じた。その視線にはどことなく訝しさが含まれていて、夕鈴の鼓動が不自然に跳ねる。


「……」

ぎこちない演技を咎める怖い上司の視線か…、はたまた妃を敵視する若い官吏の視線か…気付かれないように視線の主を探す夕鈴。だがそれは思わぬ人物であったため、夕鈴は我が目を疑った。

夕鈴の横顔に訝し気な視線を送るのは、玉座の隣に鎮座する狼陛下だった。疑問の気持ちを抱えながら、夕鈴は陛下に尋ねる。


「…陛下もご覧になりましたか?」

何か言いたげな視線を気にしながらも、夕鈴は口を開いた。
尋ねられた陛下はというと、先刻と変わらず不機嫌さを露わにしている。

夕鈴とは対照的なその不穏な表情に、夕鈴を始め、陛下を取り囲む面々が息を飲んだ。夕鈴は、ふたりを囲む空気が音を立てて固まっていく様を、どうにも出来ずに見つめるしかない。



王宮の中庭で開かれた恒例の競技。
国一の優れた者を決める競技は、古来からの宮中の催しのひとつである。

初日の今日は、国中から集められた弓手がその腕前を競っていた。王宮の中庭に設けられた的の真ん中に近い所に射た者ほど、より優秀な弓手として認められ、最も近く射た者には褒美が与えられる。

朝から始まった競技は、日が高くなった昼を過ぎても白熱は冷めることなく続いていた。目の前で繰り広げられる華麗な技に、何度となく感嘆のため息を漏らす夕鈴であったが、そのため息は途切れることはなかった。

夕鈴にとって王宮内の競技の観戦は初めてのこと。ついつい興奮して競技に魅入ってしまい、妃としてのしとやかな演技を忘れそうになる。何度となく身を乗り出して拍手したい衝動に駆られていたが、何とか抑え大人しく観戦していた。

声を出して声援を送ることが出来ないなんて…湧き上がってくるわくわくドキドキの気持ちを隠しながらの観戦は夕鈴には酷だった。しかもいちいち感想を求める大臣たちの億劫なことこの上ない。


でも、それより何よりも…。

夕鈴は意を決してちらりと陛下を見上げた。
陛下は足を組み、組んだ足のひざの上に肘をつけて、手のひらは頬に添えて、頬杖をつくポーズで競技台をじっくり眺めていた。

視線には迫力があって、狼の冷たい雰囲気を醸し出している。


…なんだかよく分からないけど、怒っているような気がするのは気のせいか…。

競技が始まって半刻ほど。最初のうちはいたって普通の陛下だったのに、今は夕鈴の前でも珍しいほど非情な狼陛下に変貌していた。時間が経つほどに機嫌を損ねる狼陛下、夕鈴が競技者を褒めれば褒めるほど怒りの度合いは増しているようだった。


「……」

一体どうしたものか…思案しているうちに、新たな競技者が登場し喝采を浴びていた。よく見れば、的のど真ん中に矢を打ち込んでいた。さらにもう一本、腰に掛けた鞘から矢を抜き出し、弓にくぐらせようとしている。

歓声と同時に臣下たちを包む雰囲気も緩んだようだった。夕鈴はほっと息を吐くと、弓手の動向を注意深く窺う。

的の真ん中にはすでに矢が射られているのに、もう一本矢を取り出してどこに射ようというのかしら…などと考えていた矢先、それまで黙していた陛下がおもむろに口を開いた。


「夕鈴…」

「はい!」

肩をびくりと震わせて、隣の陛下に返事をした。そんな夕鈴の様子に苦笑しながら、陛下は細い髪に触れる。さらさらと髪を梳く音が耳元に流れた。


「弓の競技…気に入ったか?」

「はい。皆さま素晴らしい弓手ばかりで…感動のあまり言葉になりません」

緊張しながらも、目を輝かせて答える夕鈴。嘘偽りなく素直に意見を述べる夕鈴に対して、一瞬陛下の顔が緩むが…すぐに元の冷酷な表情へと戻った。

「なるほど」

「?」

眉間にしわを寄せて答える様子はまるで修羅のようで背筋が震えた。怖い怖い狼陛下の光臨に抗う術もなく、ただ見つめるばかりの夕鈴。彼の二面性を知っていたために、周囲の臣下たちよりは恐怖度はましだったが…。


「あの…」

ぼそり…と周りに聞こえない声量で夕鈴は呟く。

「何か…怒ってますか?」

「……」

陛下は目を見開くと、夕鈴から視線を外した。目線は真っ直ぐ弓手に向けられていたため、夕鈴もその先を追う。
先ほど、的のど真ん中に打ち込んだ青年だ。もう一本矢を取り出して、構えている。陛下も臣下たちも、もちろん夕鈴もまばたきもせず青年の姿を見つめる。

ぎりぎり…と競技台から離れているこの玉座にも、弓がしなる音が届いてきそうで夕鈴はドキドキした。ほどなくして、ばんっと弓が弾けたかと思うと、とぐろのような歓声が鳴り響いた。


「すごい!」

妃であることを忘れ、思わず夕鈴は立ち上がった。先ほどの素晴らしい技を、より鮮明に視界に収めようと背伸びするが、裾に足が絡まり前につんのめりそうになった。


「きゃ!?」

倒れそうになる体を支え、またしてもピンチを救ってくれたのは狼陛下だった。夕鈴はこれでもかと顔を赤らめて陛下に頭を下げる。


「す、すみません」

ぼそぼそ謝罪する夕鈴の頭上からは、はっきりと笑い声が響いていた。
う…恥ずかしい。またしても失態を披露する自らに落ち込みつつ、赤い顔を上げて陛下を見つめた。陛下の顔はさきほどよりも不機嫌さは薄れているようで、夕鈴は胸を撫で下ろした。


「君が興奮するのも無理はない…素晴らしい技を見せてもらった」

「はい…」

夕鈴はコクリ…と頷くと、的に視線を向けた。ど真ん中に射られた一本の矢を裂くようにして、射られた矢。超人的なすご技に目を丸くする観衆たちと同じように、夕鈴も目を丸くして何度も確かめた。


「ビックリしました。あのようなことが出来るのですね…」

夕鈴は自らの赤くなった頬を押さえながら尋ねる。なかなか赤面がおさまらないのは観衆たちの興奮が伝染したのもあるが、自らの気持ちがかなり高ぶっているためである。夕鈴はドキドキ刻む胸を悟られないように陛下と距離を取る。だがすぐに腕が伸びて来て、着物の袂を無遠慮に引っ張られた。


「!?」

「どこに行こうというのか…我が妃は」

甘い表情で迫られて、夕鈴の鼓動は激しさを増し爆発寸前。愛想笑いでなんとか誤魔化しながら、夕鈴はさりげなく陛下から視線を外した。


「私よりも…弓手のほうがいいか」

「え?」

耳元でぼそりと呟く陛下を見上げると、先刻よりも酷さを増した冷たい表情で競技台を睨んでいた。


「陛下…?」

陛下は一瞬だけ夕鈴を見据えたかと思うと、すぐに玉座の椅子から立ち上がり左手を上げた。


「弓手を前に」

陛下の声で静まった競技台からは、見事な競技を披露した先ほどの青年がゆっくりと玉座に歩みを進める。青年は前に進み出ると、礼を取って平伏した。


「すばらしい腕前であった」

「は…ありがたき幸せにございます」

「妃がお前をいたく気に入った。今年の弓手の一番はお前に与えることにする」

「はは」

最敬礼で答える青年に、陛下は満足そうに頷く。夕鈴も陛下の隣に立ち、喜ぶ青年と共に喜んだ。


「お妃さま、ありがとうございます」

「とても素晴らしい腕前でした。これからもどうぞ研鑽なさってください」

「はは」


















「私、王宮の競技は初めて観ますけど、とっても楽しいものなのですね」

褒美を受け取り、観衆の賞賛の声に嬉しそうに答える青年を遠目に見ながら夕鈴は言った。


「そうだね。昔からの慣わしなんだけど、王宮の催しの中で一番好きだなぁ…」

こそっと子犬の姿で答える陛下。夕鈴はそんな彼の姿にほっと安堵する。


「どうかした?」

「いえ。さっきまで何か怒ってらっしゃる風でしたので…」

夕鈴は脳裏に鮮やかに残る冷酷非情な狼陛下を思い起こし、鳥肌を立てた。


「あぁ…恐がらせちゃってごめんね。ちょっといろいろ気に入らなかったから…」

「気に入らない?何がですか…?」

「ちょっとね。でももう大丈夫。いい手を思いついたから」

「?」

「明日の競技も楽しみだよね~」

「はぁ…」

急に機嫌が良くなる陛下のペースに着いて行けない夕鈴。
ときどき何考えてるか分かんないのよね…陛下って。にこにこと、鼻歌を歌い出す目の前の陛下を複雑に見つめ返す夕鈴であった。
















迎えた次の日。
今日の競技は剣であった。この競技で優秀な成績を収めたものは、王宮の要所を守る護衛兵や出征の際に同行する王宮兵へと昇進が決まることも多かったので、臣下たちの熱の入りようは武術に明るくない夕鈴であっても見て取れた。
朝から熱気に包まれる王宮で、その熱気にも増してわくわくと心躍らせて準備する夕鈴。

昨日の失態が響いたのかそうでないのか、夕鈴たちが観戦する玉座は昨日よりも一段高いところに設けられていて、より競技台が見やすくなっていた。
これも狼陛下の心遣いか…夕鈴は陛下に感謝する。転びそうになったのは不本意だけど、でも競技がよく見えるようになったのは嬉しい…今日も楽しみだわ…夕鈴は微笑む。


「嬉しそうだね、夕鈴」

どうやら心の声が漏れていたようだ…夕鈴は慌てて口元を押さえる。そんな夕鈴の様子に、陛下は嬉しそうに苦笑すると、いつもどおり長い髪に手を伸ばした。


「今日の一番も君が決めるといい」

陛下は艶っぽく微笑むと、笑みを浮かべた唇に夕鈴の髪を当てた。


「は、はい…」

すでに真っ赤に染め上がった顔を必死で隠しながら夕鈴は頷いた。


「まったく…相変わらず君は初々しくて愛らしいな。どんな素晴らしい武術を披露されても、私の目を楽しませる最上のものは夕鈴、君だけだ」

甘いセリフを連呼し、陛下があっちこっちに触れようと手を伸ばして来たので、夕鈴は慌ててそれを制した。


「あっほら、陛下。もう始まりますよ」

もーこんな大勢の人の前で何をやらかそうというの!心の中で激しく憤慨しながらも、表情だけは上品に、ほほほ…と優美なお妃笑顔を浮かべる夕鈴。そんな様子がツボに入ったのか…肩を小刻みに震わせながら必死で笑いを抑える子犬が一匹。


「……」

なんて悔しいの…思わずその憎らしい顔をぎゅっとつねってやりたい衝動に耐えつつ、夕鈴は張り詰めた笑顔を周囲の臣下たちに振りまいた。



「今日の一番はどなたでしょうか…」

「昨日の青年に勝る腕前を持つ者はそう現れんでしょうな…」

しばらく臣下たちの談笑の声が周囲に流れていたが、競技が始まると皆一斉に口を閉ざしその競技に見入っていた、もちろん夕鈴も例外ではない。








「右の者が一本取るね…」

陛下がそっと呟いて後すぐに、陛下の言ったとおりに向かって右の者が剣を相手の首筋に当てた。まいったとばかりに相手が手を挙げる。


「すごい…どうして分かるんですか??」

「う~ん、どうしてだろうね」

陛下はにっこりと笑うと、おもむろ立ち上がり、玉座を降る階段の淵に足を掛けた。


「どちらへ…」

急に背中を向けて立ち去る陛下に、夕鈴は首をかしげた。


「少し席を外すよ。すぐに戻って来るから、夕鈴は引き続き観戦しててね」

そっと小さな声で呟くと、陛下はすっと踵を返して玉座から立ち去ってしまった。後にぽつんとひとり残された夕鈴は、所在なげに、着物の袂を握りしめる。


陛下のための競技なのに…私だけ観戦してていいのかしら。競技を中断させずに立ち去ったところを見ると、よほどの急用であったのか…夕鈴はぎこちなく後方に控える側近を見やると、何事もなく競技を観戦していた。


「あの…陛下はどちらへ行かれたのでしょう?」

夕鈴は尋ねる。李順は一瞬だけ眉根を釣り上げたかと思うと、あごで前方を指した。大人しく競技を観戦しろ!とばかりの仕草に、夕鈴は肩を落とす。
仕方なく陛下の立ち去った方角に目をやると、古参の大臣と目が合ってドキッとした。へらへらと愛想笑いを浮かべ、夕鈴は元通り競技台へと視線を向ける。


「きょろきょろしない!陛下御不在では、一番にあなたの姿が注目を浴びるのですよ、お忘れなく」

「はい…」

こそっと耳打ちされて、夕鈴は肩をすくめた。
臣下対象の競技といえど観戦者は多岐に渡っていた。玉座を取り囲むのは重役の大臣たちばかり。さらには競技者の中には名家出身の軍官が多く、その親族が一同に会していたため、中庭はやんごとなき身分の人々で溢れていた。大半は純粋に競技を見に来た者であったが、噂に名高い狼陛下と、その寵妃の姿を見ようと押しかけている者も中には居るようだった。

陛下が不在の今、大勢の視線を一身に背負う夕鈴。
大勢の人々に見られるのは多少慣れてはきたが、それでも好奇の目にさらされているのはとてもいたたまれない。

早く…陛下、帰って来て。
夕鈴は心の中で祈りながら、競技台をやんわり眺める。

すると突然、ざわざわと場が騒々しくなった。


「?」

一体何か…大臣たちが身を乗り出す様子に目を見開く夕鈴。競技台には喧噪に囲まれて、全身黒ずくめの男が仁王立ちしていた。眩しい日の下で、黒光りする装束。光と闇のコントラストに、夕鈴の視界が一瞬眩んだ。
男は黒装束に身を包み、顔には唐の仮面をつけている。男が放つ異様な空気に、またざわざわと周囲が騒がしくなった。


「どこの家の者か…」

「唐の仮面とは…なんとも不気味」

大臣の呟きに、夕鈴も無言で頷く。確かに不気味…武人としての立ち居振る舞いは完璧だが、どうしても黒装束と仮面が邪魔して素直に応援できない。
夕鈴は控えめに手を打っていたが、男の武勇ぶりに、大人しく観戦し続けることが難しくなる。


「また勝ちましたぞ!!」

「仮面の男が一本取りました」

ばったばったと相手をなぎ倒す仮面の男。男が剣を振り払うと同時に、黒の着物がはらりと空中に舞った。長身に細身の体格。それでいて剛腕なのはどうしてだろうか…。夕鈴は仮面男を凝視する。

ふいに感じる違和感に、夕鈴は眉根を寄せた。
さぁ…と風が吹く。突然吹き付ける突風に、夕鈴は目を細めた。


「……」

「お妃さま」

「……え?」

しまった、ぼうっとしていた。夕鈴は慌てて振り返る。


「宋大臣…」

夕鈴を呼びかけた相手は、宋大臣であった。宮中に数ある大臣の中でも、夕鈴が最も信頼を置く大臣であった。欲と嫉妬渦巻くこの宮中において、唯一人畜無害な大臣。どこか祖父のような雰囲気を醸す大臣に、夕鈴は飾らない笑顔を見せた。


「仮面の男に見とれていらっしゃいましたか…」

「…え…いいえ…」

「それとも、もうとっくにお気づきか…」

「え?」

何のこと…?夕鈴の質問には答えずに、宋大臣はにっこり笑った。


「最後の相手を負かしたようですな。あの仮面男が優勝です」

大臣の言葉に、夕鈴ははっと競技台を見る。ついさっき、仮面の男が相手から一本取ったところであった。
あっという間に優勝を勝ち取ったのは、唐の仮面をかぶる不気味な男。予想しない展開に、夕鈴はほっと息を吐いた。


「仮面をかぶっていて、よく相手の動きが読めますね」

「それは…あの方が特別だからでしょう」

「特別?それは一体…」

どういう意味……?

ふいに、悲鳴に似た叫び声が響いた。


「!?何?」

中庭の中央が騒然としていた。だがその騒然は一瞬にして収まった。


「……」

競技台を取り囲む観戦者が一斉にかしずく。静寂を切るようにして、黒装束が風に舞った。左手には仮面が握られていた。男は大げさに袂を翻すと、仮面を空に放り投げた。唐の不気味な仮面が空を舞い、地面にぱたりと落ちる。
どこか見覚えのある後ろ姿に、夕鈴の背筋が震えた。口元に冷たい笑みを浮かべて、ゆっくりと男が振り返る。

まさか。
心の中、小さく叫び声を上げる。


「陛下…」

「陛下ですね」

仮面の男が陛下!?
夕鈴は口を開けて、不敵に笑う仮面男、もとい陛下を眺めた。


「陛下……だったの…」

胸を押さえながら、夕鈴は驚きの声を上げる。


「余興にしては少々度が過ぎていますね。お妃さまからご注意ください」

宋大臣はやれやれと困ったように笑うと、一歩下がって頭を下げた。宋大臣につられるようにして、周囲を囲む大臣たちも、陛下が通る道を空けるようにして一斉に平伏した。

夕鈴は立ち上がる。先刻と変わらず驚きを隠すことなく、あんぐり口を開けて陛下を見つめていた。
ふいに姿を消したかと思ったら、全身黒ずくめに身を包み仮面をつけ、なぜか競技者として現れる陛下。夕鈴は茫然と、陛下の冷笑を眺める。


「妃よ…」

「へいか…」

意味分かんない。なぜ陛下が競技台で戦っていたのか…。


「君があまりに褒めるから、私も参加したくなった」

さらりと答える陛下。夕鈴は思わず言葉を失った。
そんな(夕鈴にとってはどうでもいい)理由で臣下を次々と打ち負かし、どこか得意顔で目の前に立つ陛下。夕鈴は唖然とする一方で、小さく込みあがる笑いに必死で耐えていた。



「最も優れた剣手は?」

陛下が問う。

それは、もちろん…。
夕鈴はクスリと笑うと、陛下の前に降り立った。


「褒美をとらす」

夕鈴は笑顔を浮かべると、みんなには聞こえないようにそっと呟いた。


「ありがたき幸せ」

いたずらっぽい笑顔を浮かべて、陛下も笑う。片膝を地面につけると、微笑む夕鈴の手を取って口づけた。


「……なっ、何するんです」

慌てて引っ込めようとする手を固く握り締め、夕鈴の体を引き寄せた。バランスを崩す体を支えながら、陛下が耳元で囁く。



「褒美は君の極上の笑顔で」














後日。

「陛下、どうして黒装束と仮面だったんですか?」

「あぁ…一回ああいう格好してみたかったんだよね。ずっと前から仮面かぶってみたかったんだ」

なぜ…夕鈴は心の中で疑問の声を上げながらも、なるほどと頷く。


「でも、臣下対象なのに陛下が出ちゃダメですよ」

しかも、一番も褒美も陛下が持ってっちゃうし…陛下は知らないが、あの後臣下たちの不満の声を抑えるのに、あの神経質な側近が骨を折ったことは言うまでもない。あの日以来、ぐちぐちと夕鈴に嫌味を言う李順に対し、対抗できずにいた。

「いいじゃない。観衆たちも楽しんでたみたいだし」

「いや、楽しんでたかもしれないですが。そんなことより、陛下が競技に出たのは私がそそのかしたから…とか李順さんに思われてるんですよ。次からは絶対に出ないでくださいね」

夕鈴は一斉に言い放つと、深く息を吐いた。陛下のしでかしたことの後始末が、妃にかかることだけは避けたい。


「実際、君がそそのかしたんだよ」

陛下はすっと立ち上がると、その長身で夕鈴の視界を遮った。突如現れた不穏な空気に、夕鈴は肩をすくめる。

「私…そそのかしてなんて」

「ふうん、君は自分がどれだけ無自覚か、知らないらしい」

「無自覚?何ですか、それ…」

問い詰めようかと思ったが、すぐに口を閉ざした。なんか嫌な予感がする…夕鈴は冷や汗をぬぐった。そんな夕鈴の様子に、陛下はクスリと笑うと、夕鈴の頬に手を添えた。


「君は僕の妃なのに、他の者に見とれるのはダメだよ」

「……」

「夕鈴?」

「……はい」

有無を言わさない態度に、夕鈴は仕方なく頷いた。



結局私のせい…なの?
その後も、ねちねちと言われ続ける側近の嫌味に耐える夕鈴であった。













二次小説54弾完了です
長くお待たせして申し訳ありません。当初の予定よりだいぶ遅れましたことも、お詫びいたします。

今回は、欲と嫉妬渦巻く王宮で、誰よりも嫉妬深い陛下(夕鈴限定)を書いてみました!(笑)陛下のわがままに振り回される夕鈴かわいそうですね~ですが、陛下の嫉妬深さにメロメロです☆独占欲の強い王様大好きです!
原作より随分と大人げなく子どもっぽい陛下でしたが、いかがでしたか??夕鈴から一番と褒美をもらって、さぞ満足でしょう。
最近雑誌がとてもいい感じで、ミケも妄想も高まります。やっとパソコンが修理から戻って来たのでがんばって更新したいと思います♪

最後までお付き合いありがとうございました~



19:28  |  イベント編(王宮)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

2011.03.26 (Sat)

月光Ⅱ

Ⅰのつづきです。




陛下との相談の結果を伝えたときの祭祀の顔はとてもひどかった。
具体的な意見が得られなかったことに、ひどく衝撃を受けていたようで、夕鈴が声を掛けてもしばらく放心状態のままであった。
話しかけても気もそぞろの祭祀を残して、夕鈴は仕方なく次の間で侍女が用意してくれたお茶を淹れ出す。良い香りの醸す茶を運び祭祀の目の前に置いたとき、やっと気づいたかのように祭祀が夕鈴を見て口を開いた。


「残念です…」

祭祀の言葉に苦笑いで答えつつ、夕鈴はお茶を勧める。私が指さした場所に目をやると、祭祀は慌てて力の抜け切っていた体をきちんと起こした。


「これは…お手ずからすみません!」

「いいえ。勝手にお茶を淹れさせていただきましたわ。今回のこと、申し訳なく思っております…」

夕鈴は低姿勢を崩すことなく言う。祭祀の嘆きはもっともだが、それほどまで落ち込むことでもなかろうに…夕鈴は内心の思いは口に出さず熱いお茶を口に運んだ。


「また…振られてしまいましたか」

「え?」

「陛下は…祭りにはあまり関心がないようで。いつも儀式の際にはご意見をお聞き申し上げているのですが、何も答えられることはありません」

「そう…ですか」

昨日の口ぶりでは確かに、祭りに対してそれほど関心はなさそうだった。陛下の関心がないということは、祭祀の彼にとってはとても心痛いことだろう。


『僕ななんでもいいよ。君のしたいようにすればいい』

陛下の声が脳裏に浮かんで夕鈴は眉をしかめた。お前のしたいようにすればいい…きっとこの青年もそう言われ続けていたのだろう。陛下にとっては良かれと思って言った言葉でも、彼にとっては辛い言葉なのだ。


「お妃さまの責任では…」

また物思いに耽ようとし出した祭祀に、夕鈴は慌てて声を掛けた。


「祭祀さま、陛下のご関心が少しでもこの中秋祭に向くように、私も出来うる限りの努力をいたします」

「はい」

祭祀の落ち込みは直りそうになかったが、夕鈴は構わず話を続けた。


「ところで…祭りの最後の観劇のことですけど。下町にとても踊りの上手な劇団があるそうなんですが、その者に頼んでみるのはどうでしょうか?」

「下町?では…庶民に月の観劇を?」

祭祀の目が大きく見開かれる様子に、夕鈴はどきりとする。やっぱりまずかったかしら…。宮中のお祭りに庶民を引き入れるなんて…大貴族の祭祀さまにとっては驚愕のことかもしれない。
動揺する夕鈴の耳に、予想外に届いた祭祀の賛同する声に、夕鈴は驚いて見つめる。


「今何とおっしゃいました?」

「それは面白いと申し上げました。さすがお妃さま、良案を思いつきなさる」

さっきまで沈んでいた祭祀が喜び顔で返答する様子に、夕鈴は目をぱちくりさせた。まさか通るとは思わなかった提案、それでも一応は祭祀に伝えたいと思い言ってはみたが…思いがけず得た喜びの結果に、夕鈴は満足気に微笑む。


「民にも祭りに参加してもらうなど、初めての試みですね。私は賛成ですよ」

「ありがとうございます!」

夕鈴はお妃演技のために過度に喜ぶのを控えつつも、それでも内心から漏れる喜びを制することが出来ずに、花の笑顔で答えた。祭祀は一瞬だけ驚いた表情を見せて、すぐにいつもの澄まし顔を浮かべる。


「花の色は……移ろうごとにその表情を変える」

「え?」

「いえ。陛下にとって一番は…やはりお妃さまかと思いまして」

「……どういう意味ですの?」

一体何?突然。
夕鈴は思わず火照る頬を抑えて、急に語りだした祭祀を注意深く見つめた。じっと見つめていると、祭祀の瞳はどことなく吸い込まれそうで、夕鈴はいたたまれず目線を反らす。


「詮なきことを申しました。お妃さまへのご執心ぶりが、少しでも祭りに向けば…と思っただけです」

「!?そ…それは、そうですわね」

にっこり、背中に冷や汗をかきながら夕鈴は微笑む。内心ではとても焦っていたが、こんなところで偽装夫婦だとバレるわけにはいかず、とにかく必死だった。

あぁ…もういたたまれないったら。
でも、どんなときでも夕鈴には報告という義務が待っている。さっそく陛下に報告しなくちゃ…。

とりあえずこの場をやりきった夕鈴は、最後まで気を抜かずに祭祀の部屋を後にした。


















それからの数日間、何かと忙しく過ごしていた夕鈴。だが陛下は、夕鈴にも勝るほどに忙しく過ごしているようだった。夜に後宮に来られなくなったし、たまに逢う政務室でもなかなか声が掛けづらい。そんな日々を過ごしていたら、祭りの相談をする暇もなく気づけば中秋祭の前日になっていた。


「陛下」

偶然にも回廊を行く陛下の姿を見つけた夕鈴は、慌てて駆け寄った。


「どうした?夕鈴」

「あの…お忙しいところすみません。明日の中秋祭のことで…」

「陛下。将軍がお呼びですが。至急軍部に来ていただきたいと」

「……」

訝し気に共の者に睨みかける陛下の様子に、夕鈴は驚いて口を開いた。


「で、では私は結構です。そんなに急いでおりませんので」

夕鈴はゆっくり会釈すると、その場を立ち去ろうと一歩後ずさる。その腕を陛下が捕らえた。


「すまない夕鈴。今宵は必ず後宮に戻る。ゆっくり話そう」

「はっはい」

狼陛下の甘い表情にぐらりと視界が反転しそうだが、夕鈴は膝に力を入れ直すとしっかりと立った。

そのまま颯爽と立ち去る陛下と別れ、夕鈴は自室へ戻った。
あぶないあぶない。ふいうち狼陛下は心臓に悪い。どきどきと鳴る続ける胸に手を重ねると、夕鈴はほっと息を吐いた。



















「…………お妃さま」

「…ん………」

「お妃さま。お目覚めくださいませ」

「え…?」

夕鈴が目を開けると、妃付きの侍女が覗き込んでいた。
何度かまばたきを繰り返し、ようやく体を起こすと、見慣れた調度品が目に入った。夕鈴は、妃の部屋の寝台に居た。

あれ?もしかして朝?
夕鈴は、妃の目覚めと同時に慌ただしく準備し出す侍女を横目に、昨夜の記憶を振り返る。
もしかして…眠っちゃったかもしれない。


「あの…陛下は?」

「早くにご政務へ向かわれました。祭儀には顔を出すとお妃さまへのご伝言を残されておいでですわ」

「そう…ですか」

やっぱり、睡魔に負けて眠っちゃったらしい。窓から見える回廊の灯りが消えたところまでは、起きていたんだけどな。さっと部屋に視線を寄越すと、陛下が泊まった形跡が確かに残っていた。
陛下、気を遣って起こさなかったのね。


「お早くお召替えなさいませ。今日は年に一度のお祭りでございます。さっそく祭祀さまがお呼びでしたわ」

「すぐに参ります」

夕鈴は素早く身支度を整えると、祭祀の待つ祭儀上へと向かう。胸が変に波打つのは、今日が年に一度のお祭りだからか…それとも昨日の回廊で出逢って以来、陛下の顔を見て話していないからか…。

夕鈴は徐々に色濃くなる不安にさいなまれながらも、足取りはしっかりと歩みを進めた。


















祭りの大太鼓が盛大に鳴り響く。
その祝い太鼓の合図で、さまざまに盛り付けられた料理の数々が卓に並べられた。

祭りに参列する貴族たちは、思い思いの話をしながら、見事な彩りの料理に歓喜の声を上げる。その歓喜の声を傍らで聞きながら、夕鈴はほっと安堵の息を吐いた。
その息が聞こえたのだろうか…そばに立って祭りを先導する祭祀が、夕鈴に微笑みかけた。稀な彼の笑顔に驚く一方で、夕鈴も嬉しくてつい笑顔を向ける。

祭り一色で飾り付けられた宮殿の中央では、美しい舞姫たちが踊る。

今夜の主役である月の神は、すでに姿を現している。
まだ明るい空の中に、白くぼんやり浮かんでいる月は、綺麗な満月だった。
この時期の満月は、1年でもっとも丸くもっとも美しい月と言われていた。
夕鈴は上空に視線を移し、満月をじっと見つめる。吸い込まれそうな丸い月から、なかなか目が離せない。


満を持して、陛下が現れた。祭り用のいつもとは違う衣装に身を包む彼の姿を見て、夕鈴は息を飲む。
最近気づいたことだが…もしかしたら彼はとても美男子かもしれない。後宮の女官たちの黄色い声援をよく聞いたことがあるが、その意味が今はっきりと分かった気がした。
思わず見とれる夕鈴に、陛下は笑顔で近づくとすぐに頬に触れた。その感触で意識がはっきりと戻る。


「妃よ…遅くなったな、すまない」

「いいえ。陛下、祭りの準備はとどこおりなく終了しております」

夕鈴のそばに控えていた祭祀も侍女たちも拝礼し、主君の次の言葉を聞き漏らすまいと固唾を飲んで見守っていた。一緒に準備してきた夕鈴も、ごくりと生唾を飲み込んで、陛下の口元を凝視する。

陛下はゆっくりとした動作でぐるりと周囲を見渡すと、最後に夕鈴の顔を見つめる。


「素晴らしい祭りだ。よく準備してくれたな。祭祀よ…お前もご苦労であった」

「はい…」

祭祀の声が夕鈴の耳に届く。そのくぐもった声音には、はっきりと喜びが感じられた。
夕鈴はほっと胸を撫で下ろすと、陛下に微笑む。


「今宵はぞんぶんに、祭りをお楽しみくださいませ」

「夕鈴。今宵の君は夜空の月よりも眩しい。月よりも…むしろ君を愛でたいものだ」

「……」

薄暗闇に朱い顔が浮かぶ。火照る頬を両手で冷やしながら、夕鈴は陛下を軽く睨んだ。
音もなく立ち去る侍女たちや祭祀の姿を確認して、夕鈴はそっと抗議の声を漏らした。


「やめてくださいよ…」

抗議を受けた陛下は、肩をすくめて笑っていた。
















夜空に輝く月の兎。
遠くで観劇の音色が耳に届いていた。
白熱の灯篭に照らされた夕鈴の横顔。その横顔にかかる長い髪にするりと手を絡めるのは、隣に居る陛下だった。


「なかなかに面白い観劇だ」

極上の笑顔を浮かべて陛下が呟く。


「…ありがとうございます」

ならばもっと観ればいいのに…夕鈴はいつもより執拗にスキンシップしようとする陛下を止める術もなく、ただなすがままに受け入れていた。
拒否することも逃げ出すことも出来ないと分かっていて、やっているんだから…本当に性質が悪いわ。


「最近は…忙しく君の所へ行くことも出来ずに悪かった」

「いいえ。お仕事ですから…」

「演技でも、寂しかったと言って欲しいものだな」

ぼそり…陛下が憂い顔で呟く。小さく頭を振る夕鈴の様子に、まるで不満だとでも言いたげだ。

え、演技なんて、な…何言っちゃってるのよ!?今はそばに誰も居ないからって、心臓に悪いわ。
夕鈴は慌てて周囲を見渡す。だが、誰もかれも観劇に夢中になっていて、夕鈴の心配は杞憂に終わった。


「口うるさい側近も、祭祀も、侍女も…邪魔者は今は誰も居ない。素晴らしい祭りだな」

陛下はにやりと口角を上げて笑うと、夕鈴の手を取る。そのまま自然に唇を寄せると、手の甲に口づけた。
あまりの早技ぶりに、夕鈴は驚いて目をぱちくりさせた。


「な…ななななな何を」

もー怒った!悔し涙を目に溜めて、夕鈴は掴まれた手を引っ込める。


「いい加減に……」

「今宵は一年に一度の月の祭り。今日という良き日を君と迎えられたこと、幸せに思う」

急に真面目な表情を浮かべて言葉を投げる陛下に、夕鈴は口をつぐんだ。本当は声を荒げて陛下を諌めたかったんだけど…どうやら怒っている場合ではない状況のようだ。
国王の仕事として演技を続行する陛下に、夕鈴も答える。妃用の澄ました表情を作ると、私も幸せです…と頭を垂れた。一瞬の沈黙の後、見上げた陛下の顔はなぜか切なく揺れていて、夕鈴の胸がどきりと跳ねた。

なんでそんなに悲しそう…なの?

夕鈴を一心に見つめる瞳には、まるで悲しみや切なさや寂しさが蔓延しているようで…吸い込まれそうな陛下の瞳に、夕鈴は言葉を忘れて息を飲んだ。

仕事モードとも子犬モードとも違う陛下の表情に、夕鈴は戸惑う。


「陛下…?」

一体何?
眉根を深く寄せて、苦しそうな視線を送り続ける陛下。夕鈴の胸に、形容しがたい圧迫感が波のように押し寄せる。何も答えようとしない陛下の様子がさらに、胸の痛みを助長させていた。

苦しい。どうか、そんな風に見ないで。


「願わくは、次の年も、また次の年も…君とこうして祭りを楽しみたい」

「……」

それは…本心からの言葉であろうか。あまりにも率直に意見を述べる陛下に対して、夕鈴は判別しかねていた。
考えても仕方のないことだと良く分かっているが…どうしてもその言葉の意味を考えずにはいられない。


『君とずっと一緒に』

いつかどこかで呟いた陛下の低い声音が浮かぶ。
その言葉の本当の意味には、きっと気づいてはいけない。頑なに目を反らさなければ…必死に心を制さなければ…与えられる幻想に傷つくのは私ひとりなのだから。


でも…。

陛下…聞いてもいいのだろうか。
次の年も、また次の年も…私と一緒に居たいと言ってくれているのだろうか。


「へ…いか…」


ばーーーーん!
と頭上で音が弾けた。その音に促されるように、人々の歓喜の大声が耳に届く。

夕鈴は大声にはっとして、夜空を見上げた。
漆黒の夜空を彩るのは無数の閃光。色とりどりに染められた光が付いては光り、光っては瞬く間に消え去る。


『君とずっと一緒に』

それはまるで、うたかたの恋。


「夕鈴。今、何て言ったの?」

「何も。花火…綺麗ですね」

陛下の顔を見ずに答えた。見ることが出来なかったから。それでも笑顔だけは忘れずに。

うたかたの恋であるならば、最初から気づかなければいい。

消え去った花火は、まるで最初からそこには無かったかのよう。夜空を飾る極彩色の光点も、今は見えなかった。
大きく弾けて一瞬で消え去って行く花火と共に、解けてゆく魔法。


「陛下」

「……」

「陛下」

どうした…?髪にするりと伸ばされた手の感触で、夕鈴はやっと顔を見ることが出来た。

「手をつないでもいいですか?」

「……」

やっぱりダメかな?確認した陛下の表情は、暗闇のせいで良く見えない。


「陛下」

「手だけでいいの?」

「はい…」

それ以外に何をつなぐ…というのか。つなぐのは手だけであって、決して結ばない気持ちではない。

ふいに右手に触れる手。陛下の手は暖かくて優しくて、広くて…なぜか涙が出そうになった。
つながれた右手ごと私の心もさらわれてしまいそうな、無限の優しさ。

でも気づかない。
気づいてはいけない。


「夕鈴」

「陛下」

いつまで…あなたの隣に居ることが許されるのだろうか。
次の年、また次の年に、隣に居るのは私でない誰かかもしれないのに…。

それでもズルいあなたは、残酷な視線を私に浴びせ続けるのね。


「……」

勘違いなどしない、決して。
その甘い切ない視線に、心揺れたりはしない。決して。


だけど。
分かっている。分かっているから。

今は、この一瞬だけは。私を呼ぶ低い声音も。風になびく漆黒の髪も。整った横顔も。私を見つめるその優しい瞳も。つないだ手のぬくもりも。



今は、この一瞬だけは。




私だけのもの。















二次小説第49弾完
最初の予定と違いしんみりとした終わりです。
も~ちょっと!誰か気づかせてあげてよ!夕鈴の恋心!!と必死で叫んでおりましたが…結局こんな展開に。でもミケ好みの切ない終わり方に、自分で自分にグッドサインを出してました(笑)どうぞお許しください。

今回は季節はずれのお話です。3月なのに寒い毎日に嫌気がさして…ついつい手を出してしまいました。中秋祭は今でいう8月15日(十五夜)に執り行われていたそうです。あまり表現出来ませんでしたが、宮中のお祭りはそれはそれは派手で雅だったと言われています。一年に一度の大事なお祭りですので、普通は一介の妃妾が任されるのはありえないんですが、相変わらずの特別扱いです。夕鈴に任せた背景にはもちろん陛下の気持ちが大きく左右していますが、態度に表すばかりではっきりと言葉には出来ずにいます。この辺りの微妙な心の揺れを書きたかったんですが…う~ん、力不足ですね。ミケにしてはがんばりました(笑)
長いお話に最後までお付き合いありがとうございました♪



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2011.03.26 (Sat)

月光Ⅰ

月光

夕鈴目線でかなりの長文です。気合が必要ですよ(笑)
季節はずれの内容ですが、どうぞ楽しんでください。

ではどうぞ。

















「お妃さま、満漢全席はこちらでよろしいでしょうか」

「えぇ、けっこうよ」

「お妃さま。宵宮の飾り付けはいかがいたしましょう」

「蓮の花をもっと。あぁ!…そっちは灯籠に浮かべるのよ」

慌ただしく動く侍女たちの一角に、夕鈴は大きく声を上げた。


「お妃さま。祭祀さまがお呼びですわ」

「今は手が離せないわ。後で行くのでそう伝えて」

「お妃さま」

「お妃さま」

「お妃さま」

あぁ…なんと忙しい。
夕鈴は大きく息を吐くと、広い後宮を見渡した。
普段、少数の妃付侍女しか出入りしない妃の部屋の前庭、今は大勢の侍女たちが慌ただしくあっちへ行ったりこっちへ来たりしている。

侍女たちが皆一様に呼んでいるのは、夕鈴の名前。


今は、中秋節。
白陽国では、中秋の節句にあたるこの時期、宮中では華やかな催しが開かれる。
月を愛で、秋の収穫を祝って地の神様を祀るお祭り。白陽国では代々、妃が主催していた。むろん夕鈴も例外ではなく、古来よりの伝統的祭りの準備に、数日前から忙しい日々を過ごしていた。

1年に1度の華やかな宴への意気込みは大層なもので、夕鈴はその重責に何度も折れそうになったが、これも臨時花嫁の仕事、お給料をいただいている以上は精一杯勤めなければならない。

夕鈴は何層にも重なる書巻を紐解く。
『中秋節の催し手引き』と名付けられたその書巻を、夕鈴は何度も見返していた。

妃になって初めての宮中での祝宴。
陛下の為にも、今後のバイトの為にも、ついでに言うと怖い鬼上司の為にも、ぬかりなく進めなければ。

夕鈴は堅く決意し、さまざまに動く侍女たちへ視線を移した。
今日は、王宮の湖で祭の予行演習が行われる。

中秋祭の当日、名月を愛でながら、湖上の上に浮かべた竜船に乗り遊覧を楽しむ。そのための予行演習だ。

手引きに描かれた挿絵を眺めながら、夕鈴はひとつ苦笑した。
なんと豪華なお祝い事かしら。

実家に居た頃は丸い机を家族で取り囲んで、いつもよりも少し豪華な食事に舌鼓。月を眺めやすいように、庭に面した窓はすべて開け放たれていた。

もうあれから1年経ったのね…昨年の中秋の節句を思い出しながら、夕鈴は思う。


「月日が流れるのは早いわ…」

考えてみると、花嫁バイトを始めてからも相当の時間が経過している。
季節ごとに移りゆくこの前庭の草花、夕鈴が覚えているだけでもたくさんの種類の草花を楽しむことが出来た。

身に降りかかった借金の為、ひたすらに働いて来た。
不本意ながら、なんとか無事に狼陛下の花嫁を演じ続けている。

夕鈴はほっと息を吐いた。


「妃よ、大丈夫か」

突如掛けられた聞き慣れた声に、夕鈴は振り返った。
夕鈴の後方に、全身濃紺の衣装を纏った陛下が腕組みをして立っていた。


「陛下」

おかえりなさい…夕鈴は笑顔を浮かべる。


「お迎えもせず申し訳ありません」

準備に気を取られていたせいで、陛下の来訪に気づかなかった。陛下の姿を確認した侍女たちが慌ててかしずく様子を目端に捉えながら、夕鈴はゆっくりと腰を折る。
多数の女官の目にさらされている今は、妃演技にも熱が入る。


「随分と忙しいようだ。顔色が悪いのではないか?」

そっと夕鈴のあごに指を乗せて、陛下が呟いた。


「だ、大丈夫です」

にっこり、妃の笑顔で答える。


「慣れないことが多く少し戸惑っておりますが…」

夕鈴は手元に広げた書巻に目を移す。達筆にしたためられた文字を目で追っていたために、頭が痛くなって来た。
もしかして顔色が悪いのは、この書巻のせいだろうか。
夕鈴は抱えた書巻の一項目を陛下へ見せた。


「ご質問が。最後に月の物語のお芝居を観劇すると書かれておりますが、どのようなお芝居なのでしょうか?」

「秋の豊作を願って、月の神へ祈りを捧げる芝居と聞いているが…詳しくは私も知らない」

陛下は挿絵をじっくり眺めながら答えた。
宮中のお祭りなのに、主催者自らが知らないこともあるのね。夕鈴はふと疑問に思いながら、そうですか…と短く呟いた。


「後で李順に聞くといい。あれは何でも詳しいから」

「はい」

夕鈴は書巻に目線を移す。紙を綴る音が止まることはなかった。
あぁ…分からないことだらけ。でもお祭までそうそう日はない。


「あの、陛下。もうひとつ質問が」

「夕鈴、座って話をしよう。お茶を淹れて欲しい」

「あっはい。すみません、気付かず…」

夕鈴は慌てて答えた。
妃の部屋に来られた陛下をおもてなしもせずに立ち話など、張老師が見ていたら目をつり上げて怒られるかもしれない。


「私のために、一生懸命になるのは悪くないけれど…」

突然耳元に届いた囁き声に、夕鈴の心臓がどきりと跳ねる。


「もっと私自身にも夢中になって欲しいものだ」

「!?」

またか……過激演技披露中の陛下を見上げると、顔をほころばせて笑っていた。



















午後からはさらに忙しかった。
夕鈴は、中庭の準備を侍女たちに任せ、李順の部屋へ祭の詳細を聞きに行った。必要事項だけ聞いて次の仕事に取りかかるつもりだったが、これが思った以上に時間が掛かってしまった。
結局、祭祀の部屋を訪れたのはもう日も沈もうかという直前、空が朱く染まった夕刻であった。
祭祀から呼ばれていると言われてから随分と時間が経ってしまった。

申し訳ない気持ちいっぱいで扉を開けた夕鈴を出迎えたのは、予想に反して笑顔を浮かべた祭祀であった。


「お妃さま。わざわざのご足労、申し訳もありませぬ」

「こちらこそ、午前の刻に呼ばれておりましたのに…遅くなりすみません」

軽く会釈して、夕鈴は祭祀の部屋へと進み出た。


「祭までそう日もありませんゆえ、お忙しくお過ごしのことでしょう」

「分からないことばかりで戸惑う毎日です」

夕鈴は優雅に笑いながら、導かれた椅子に腰掛けた。


「祭儀のことでお話がありまして…」

「はい、どうぞ…」

ご指南くださいませ…夕鈴は小さく呟く。
目の前に座るのは、祭祀にしては若い青年。彼は、しきたりや伝統をとても大事にしているらしく、そのせいで時々陛下から煙たがられていること、噂には聞いているし夕鈴も実感していた。
良く言えば祭祀の職務をより完璧にこなしているが、悪く言えばいちいちと口やかましい。

夕鈴は最初こそ素直に聞いていたが、最近ではいい加減うんざりしていた。
今度は何のお話かしら。


「宵宮の飾り付けについて、一言お話したいと思いまして。実は………」

長い語りは終わる兆しなく永遠と続く。
夕鈴は次第に眠くなるまぶたを懸命に開けて、祭祀の話に耳を傾けていた。

あぁ…朝からバタバタと駆け回っていたせいで眠い。抑揚のない声ほど、眠り薬に勝るものはない。


「ですから……」

「お妃さま。聞いていらっしゃいますか?」

「!?はい!聞いておりますわ。御指南いただいた通りに直します」

「お妃さま。私に言われた通りに直すのではあまりにも芸がない。中秋節の祭はその年によって、違いがあるのは当たり前です。せっかく今年はお妃さまが初めて主催なさるのですから、お妃さまのこだわりを見せていただいても結構でございます」

「……」

直せと指導したり、こだわりを見せろと指導したり…一体私にどうして欲しいのか。
夕鈴は大きく溜め息を吐いた。
大事な祭であることに違いはないが、あくまでも私は臨時花嫁。通例にのっとって実施すべきであり、オリジナリティは必要ないと思う。そんな風に言ったらまた老師に怒られるかも、「もっと欲を出せお妃…」と。夕鈴は丸顔の老師を思い出し、心の中くすりと笑った。


「お妃さま、いかがなさいましたか?」

「いえ!そうですわね…それでは少し、陛下と相談いたしますわ」

「それは結構にございます」

にこにこ顔で祭祀が答える。この祭祀は、王宮で数少ない狼陛下のファンのひとり。陛下の名前はそれなりの効果があること、夕鈴は心得ていた。


「お妃さまからのご相談、陛下は大層お喜びになられましょう」

喜ぶかどうかは別として、李順から「妃主催といえど、必ず陛下に相談して決めよ」ときついお達しがあったので、相談しないわけにはいかない。
年に一度の大事な宮中の行事である中秋祭を夕鈴に任せる、と陛下が言ったときの、そばに控える側近の渋顔は今でも忘れない。夕鈴は浅く息を吐くと肩を落とした。


「御指南ありがとうございます。では失礼を…」

機嫌の良くなった祭祀が語りを止めて、お茶を飲み出したのをいい機会に、夕鈴は会釈して足早に部屋を退出した。





















「ふうん。祭祀がそんなことをね…」

陛下がぽつりと呟いた言葉は、静かな室内に響いた。飲み干したばかりの湯飲みを机に置き、すっかりとリラックスした様子で、陛下がこちらを見つめている。


「はい。こだわりを見せろと言われました」

夕鈴は苦笑いを浮かべながら、陛下の湯飲みにお茶を注ぎ足す。注がれたお茶の上にそっと花びらを乗せて、夕鈴は満足そうに笑顔を浮かべた。

今夜はいつも出すお茶とは違う。香りの高い茶葉の醸す芳香が、部屋全体を取り囲っていた。


「そうなんだ。それで今夜のお茶はいつもと違うの?」

陛下が頬杖をつきながら笑う。


「特にこだわってはおりませんが…たまには違うお茶も良いかと思いまして」

煮詰まりかけた祭の準備。気分転換のためにも、今日はいつもとは茶葉を変えていた。


「いい香りだね」

確かにいい香り。夕鈴は立ちこめる湯気に鼻を近づける。途端にみずみずしい香りが流れた。まるで摘み立ての花のように。


「それで…陛下にご相談をと思いまして」

「僕はなんでもいいよ。君のしたいようにすればいい」

やっぱりか。予想される答えに夕鈴は眉をしかめる。私の意見がなかなか通らないから、相談をしているというのに…なんでもいいが一番困る。


「出来れば…ご意見いただきたいんです」

祭祀の手前、陛下からの意見は聞かなくてはならない。夕鈴は顔をずいと近づけて、陛下を真正面から見つめた。
何か言うまでは退くまい。夕鈴は間近に見る陛下の顔に必死に動悸を抑えつつ、ひるまず顔を見つめた。
途端に、ぐらり…腕を引っ張られ体が傾く。その体を陛下がすばやく支える様子が目に入る。

わ!……何?


「夕鈴。僕を誘惑してるの?」

「は?……誘惑!?」

聞き慣れない単語にとても驚き、夕鈴は飛び跳ねた。
もしかして…私は陛下を誘惑してるのかって聞いたの?
夕鈴なら大歓迎だ…なんてにこにこ微笑む陛下に対して、口を尖らせて抗議する。


「そんなことしてないですよ!」

「そうなの?でもこれはどう見ても誘惑だなぁ…」

なんてこと。そんなつもりはないが、勘違いさせてしまった。あぁ恥ずかしい。
夕鈴は赤面顔で陛下の腕を押し退けたが、拘束が解かれることはなかった。
また…この展開何度目よ。夕鈴は大きく息を吐いて呼吸を整えると、厳しい視線で陛下を見据える。


「違います!私は…意見を聞いているだけですよ」

「夕鈴。君はやっぱり、もう少し警戒心が必要だ。僕だけに解かれるんならいいんだけどね」

眉根を寄せていかにも訝しそうだが、どこか満足気につぶやく陛下のアンバランスな表情に見とれている場合ではない。

ちょっと人の話聞いているの?それに…そろそろ腕を解いて。
ぶつぶつ嬉しそうに独り言を呟く陛下の顔は、夕鈴の目の前。夕鈴は目の前で揺れる陛下の黒い前髪、ただ1点だけを見つめていた。こんなに近いと目のやり場に困るってもんよ。


「赤い顔して…兎みたいだね」

「私は兎じゃありません!」

あわよくば捕食してしまおうというのか。
この状況では負けてしまうわね。意地悪な狼から逃れる手段はただひとつ。夕鈴はなんとか視線を合わせて、陛下の瞳を見つめた。


「嫌いになりますよ?」

「え?」

「早く腕を解いてください!じゃないと…嫌いになります」

「ゆ~りん…そんな」

突然現れたのは、本来の本性である子犬陛下。しゅんと耳をたたむと、寂しげに表情を曇らせて陛下が肩を落とした。がっちり掴んでいた腕を解き、やっと兎は狼の囲いから解放される。
夕鈴はほっと息を吐くと、そっと子犬から離れた。


「夕鈴。嫌わないで…」

う…なんでそんな可愛いこと言うのかしら。この人って、どこまでが本気でどこまでが演技か分からないわ。
すがるような瞳はまるで捨てられる寸前の子犬そのもの。夕鈴はいたたまれず目を伏せた。
少し…意地悪だったかしら。いつもの仕返しのつもりだったけど、ちょっときつく当たりすぎたのかもしれない。


「嫌ってないですよ」

「本当?」

「はい。ちょっと言い過ぎましたね。ごめんなさい」

「じゃあ仲直りしよう。手首に口づけさせて」

「は?」

この男…全く反省の色なしね。無邪気な笑顔でとんでもないことを強要しようとする陛下を、夕鈴は睨む。


「それだけは聞き入れられません」

「残念…」

手首で我慢したんだけど…ぺろりと舌を出して笑った子犬は、いたずらが見つかった幼い子どもみたいで、夕鈴の堅い顔はすぐに緩む。

やっぱり、この人にはかなわないわね。








Ⅱへつづく。

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