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2016.07.11 (Mon)

うるわしきひと

うるわしきひと

新婚のふたり。
また陛下に振り回されている夕鈴目線です。

ではどうぞ。

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17:51  |  未来(夫婦)編  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

2011.12.20 (Tue)

聖なる日をともに

聖なる日をともに

聖なる日(クリスマス)が近いとゆーことで、クリスマス話をひとつ作ってみました。
未来(夫婦)設定で、陛下目線です。

例によって未来話がお嫌いな方は、トップページへお戻りください。→トップへ戻る。

ではどうぞ。













「陛下、三日後は何の日か知ってます?」

背後から突然降ってきた声に、僕は書簡を見る手を止めた。
振り返ると、手に急須を抱えて近寄る夕鈴の姿。可愛らしい笑顔とともに近付く夕鈴に、僕も笑顔で答えた。


「三日後?」

「はい」

近付いて来た夕鈴は僕の手元に目をやると、あっと気付いたように声を出した。


「ごめんなさい…お仕事中でしたか。私、気付かずに」

しゅんと謝罪する夕鈴に、僕は柔らかく微笑んだ。書簡を軽く纏めてくくると、そばの机に置く。


「今終わったところだよ」

「ごめんなさい」

「別に謝ることはない。夕鈴…おいで」

僕は手を差し出すと、ぽんぽんと自らの膝を叩いて手招きした。少し照れたように俯きながらも、夕鈴は素直に手を伸ばして来た。白い手を取り膝の上に誘導すると、ふわりと横から抱き締める。


「花の香りがする」

夕鈴の肌から漂う良い香り。僕は深呼吸するように吸い込むと、ため息を漏らした。
愛しい人を抱き締めるこの瞬間を与えてくれるのならば、どんな激務も乗り越えられるものだな…体を覆う疲労を追い出して、僕は夕鈴のぬくもりを確かめた。


「侍女が香油を塗ってくれたので…」

「どうりで、まるで花の精だな」

僕は呟きながら、うなじに唇を寄せた。湯上がりの彼女の肌は朱が刺していた。なんとも妖艶な姿に、思わず破顔してしまう。


「陛下…?」

急に黙りこくった僕を呼ぶ夕鈴の声。僕は我に返ると、やっと唇を離した。


「そういえば…何か話してなかった?」

僕の問いかけに、夕鈴はそうだった…と短く囁くと顔を向けた。


「三日後は何の日か知ってますか?」

「…三日後ね、もちろん」

三日後といえばあれしかない。
分かりやすい答に少しの不思議を感じて、僕は答えた。


「聖なる日。つまりはクリスマスだよね?」

「はい!」

目を細めて微笑む夕鈴。心底嬉しそうな姿を僕はじっくり眺めた。
夫婦になって初めて僕と迎えるクリスマスに、こんなにも喜びを表してくれるなんて…僕は嬉しさと気恥ずかしさを感じた。こういうイベント事を、大切な人と迎えるのは初めてだ。今まで興味が無かった分、今年は盛大に祝おう…などと考えていた矢先、腕の中の夕鈴が変な質問をした。


「許可いただけますか?」

大きな瞳が僕を見つめる。懇願するような可愛らしい上目遣いに、僕は思わずドキッとなった。跳ねる鼓動を気取られないように、冷静に尋ねる。


「許可?」

「はい。三日後のことです」

「三日後のことって……何の許可?」

不可解な質問に目を丸くする僕。見つめた夕鈴の顔は、真面目そのものだった。


「ですからお祝いをする許可を…いただきたいと」

「あぁ…」

僕は納得した。二人で祝うことを許可して欲しいのか…。急に畏まる彼女に、僕は心の中で笑う。


「いいよ」

もちろん。そんなこと、いちいち許可を取る必要もないだろうに…相変わらず真面目な彼女に感心する。


「ありがとうございます!」

夕鈴はほっと安堵の息を漏らすと、白く細い手を絡めて来た。可愛い仕草にすっかりやられた僕は、抱き締める腕に力を込める。


「久しぶりに父と弟に逢えます…」

ぴたり。夕鈴の長くて手触りの良い髪へと伸ばしかけた、僕の手が止まる。


「クリスマスを家族で祝えて嬉しい…」

「……」

思考が停止した。
え?聞き間違いか。いや、幻聴か。よほど疲れているらしい。目を閉じて、今の声を頭から追い出そうと頭を振った。

現実とは離れた場所に意識を飛ばし、腕の中のぬくもりだけを感じ続ける僕。

だけど。


「……陛下?」

夕鈴の心配そうな声に引っ張られて、無理やり意識を手繰り寄せた。浅く息を吐くと、夕鈴を真正面から見つめる。


「家族って…僕だよね?」

「え?」

「え?」

僕たちはお互い顔を合わせた。夕鈴の瞳に映る僕の顔はひどく渋かった。こんな顔じゃ嫌われる…なんだか嫌な展開を感じ取っていたが、僕は再度頭を振ると、さきほどまでの満面の笑顔を戻した。


「今、家族と祝える…って言ったけど…」

「はい」

こくりと頷く。


「その家族は、僕だよね?」

恐る恐る確認する。遅い返答に確信めいた勘違いが露呈して、一気に悲しくなったがめげずに夕鈴に問い掛けた。


「君と初めて迎えるクリスマスだ。盛大に祝いたい」

情けないと感じつつも、夕鈴を引き止める言葉が止まらない。そんな僕の内情など一向に気付かない鈍感な彼女は、慌てて頭を下げた。


「あっ…あの。ごめんなさい。実は実家で…過ごせたらって思ってたんです」

「……」

そうだと気付いてた。気づいてながらも再確認したんだ。
嫌な予感が本当になり、僕の気分は落ち込んだ。がっくり肩を落とし、先ほどの夕鈴の言葉を回想する。


「陛下…」

夕鈴は不思議そうに僕を見つめていた。丸くて大きな瞳が揺れている。


「ダメ」

「え」

「クリスマスはダメ」

「!?ですが…」

「ダメったらダメ」

「でも…」

「クリスマスはダメ」

僕と過ごして欲しい…とまでは言えなかった。
有無を言わさぬ大否定に大人げなさを感じたが、自分の意志では止まれない。僕は頑なに許可を与えなかった。


「……」

夕鈴の切ない視線を受けることに耐え切れなくなった僕は、目線を避ける。横目で落ち込む夕鈴の姿を確認し、彼女以上に心が曇っていった。


「別の日はいいけど…」

どうしても耐えきれなくなって、ぼそりと呟く。呟いた矢先大後悔したが、今さら訂正出来なかった。


「では!次の日にお願いします」

夕鈴の顔がみるみる晴れる。
僕としては次の日なんてとんでもなかったが、せっかく咲いた満開の笑顔をまた曇らす不粋な真似は出来ない。内心の思いはどうであれ、僕は懇願を聞き入れるしかなかった。どこまでも…夕鈴には弱いのである。

当初の希望を叶えられなかったとはいえ、許可を得られた夕鈴は満足気にしていた。彼女の喜びが肌を通して伝わり、僕の気持ちは複雑極まりなかった。
本当は…実家などに帰さず、片時も離さずにそばに置いておきたいものを…。


「もう少し後でもいいんじゃない?」

「年末を迎える前じゃないとダメなんですよ」

笑顔で軽くあしらわれ、僕は口をつぐんだ。どうせ夕鈴大好きの弟がらみなんだろうけど…夕鈴の弟へと愛情の深さに面白くないと思うのは常だ。分かっていながらも、僕はあえて質問した。


「弟君に何かあげるの?」

「はい!ケーキを作ってあげます。美味しそうに食べてくれるんですよー。あと、プレゼントも!毎年楽しみにしてます。あと、……陛下?」

「ん?」

「眉間にしわが寄ってますが…」

夕鈴は人差し指で僕の眉間を軽くつついた。


「どうされました?」

「どうもしていない」

「もしかして、重い…ですか?私、のきます」

赤く顔を染めて立ち上がろうとする夕鈴を、慌てて制する。


「違う。大丈夫だ」

「でも…」

悲しげに顔を寄せる夕鈴。そんな顔が見たいんじゃないのに…僕はため息を吐くと、夕鈴の頬に口付けた。


「ごめん」

浅ましい嫉妬心を追い出し、夕鈴に微笑みかける。

「僕にもケーキ作ってくれる?」

「もちろん!プレゼントは何がいいですか?」

「……」

「あ!あの、あまり高価な物はご用意出来ませんが…」

「いらないよ」

僕の一言に、夕鈴の顔が強張る。


「……そう、ですよね。陛下でしたら何でも…」

「……夕鈴?」

「あっ、つい癖で言ってしまって…」

「夕鈴」

「…はい」

潤んだ瞳の彼女。相変わらず先走る性格は治っていないようだ。
今にも泣きそうな頬に手を添えて、僕は柔らかく微笑んだ。


「僕には君が最高のプレゼントだ。他には何もいらないよ」

かぁーっとみるみる朱色に染まる顔。夕鈴は大きな瞳を開け、固まったように僕を見つめていた。
可愛い兎の出現に、嬉しくなって甘く微笑む。


「だから夕鈴、長居は許さない。一日いや、一刻も早く僕の元へ帰っておいで」

願うことなら、実家には帰らないで…これもやっぱり言えなかった。
耳元に唇寄せて囁く僕に、夕鈴は無言で何度も頷いた。
弟にとられるのも、一日が限界かな。僕はまだ赤い頬に口付けながら、腕の中のぬくもりを抱き締めた。















後日。

「どーして陛下がここにいらっしゃるんですか!!!」

玄関先で奇声を上げる夕鈴を、挨拶代わりに抱き締めた。大声ごと彼女を胸の中に収める。


「夕鈴、逢いたかった…」

「……」

「はるばる迎えに来た夫に、愛の言葉はないの?」

「……っ。苦しいです!」

「あぁ…ごめん」

呼吸を整える彼女を抱き上げて、にっこり微笑む。


「い、今迎えにって…」

「夕鈴、なぜ戻らない?」

拗ねたように口を尖らせ問い掛ける。三日経っても一向に里帰りから戻らない妻にしびれを切らして迎えに来た僕を、夕鈴は驚愕の様子で眺めていた。


「な、何迎えに来てるんですか!」

「何って…。何なの、その態度?」

悲しくなって耳をたたんで落ち込む僕。急に現れた子犬の僕に、夕鈴の激しい焦りが伝わった。


「そんなに僕の迎えは…嫌?」

彼女の最も苦手とする表情でで問い掛ける。


「ちがっ…そうじゃなくて」

みるみる焦って戸惑う夕鈴。腕の中で固まる彼女の姿に、僕は面白くて笑った。


「もう!からかわないでくださいよ。急に来たからびっくりしたんです」

「驚かせるつもりで来たんだ」

大成功だ…と微笑む僕に対して、夕鈴は渋顔を作っていた。


「ま、まだ帰りませんから」

「……何?」

「まだしばらくこっちに居ます」

「じゃあ僕はひとりで帰るの?」

「か、勝手に迎えに来たんじゃ…」

「悲しいよ…夕鈴」

僕は目線を落とし、切なさと悲しさと痛み、すべて詰まった表情で細い声で訴えた。


「う…」

「君の居ない毎日が辛くて…僕は心の折れそうな日々を過ごしていたんだよ」

「たった三日じゃないですか…」

「夜、君が横に居ないのは悲し過ぎる」

「ななな何を…」

「君を抱き締めて眠るのが好きなんだ。君が居ないと安眠出来ない」

「……な」

「それに…君の笑顔を見て一日を締めくくるのに、このままじゃいつまで経っても新しい一日が迎えられない」

「……」

「君が居ない後宮は、殊更花を失ったかのようにひっそりとしている。君とともに色までも奪っていった…あれはすでに僕の後宮ではないよ」

「……」

「それに…」

無言で手を前に出し、ストップをかける夕鈴。もう片方の手は、大きく広げ顔を覆い隠している。その手の下はきっと鮮やかな赤に違いない。


「…夕鈴?」

「……分かりました」

「じゃあ!」

「……帰りますよ」

がっくり…完封負けに肩を落とす彼女を、得意顔で抱き寄せる。


「帰ろう」

君の居場所へ。
僕の腕の中へ。

悔しそうに俯く夕鈴の様子に、僕は心から笑った。














二次小説第65弾完
今回はクリスマス話。もう間近ですね。クリスマス休暇を兼ねて実家の里帰りを願う夕鈴と陛下の絡み。そして里帰り中の夕鈴を迎えに行く陛下。ベタですね…でも面白かった~
陛下どんだけ拘束激しいの!と思われた方いらっしゃると思いますが、ミケの中ではこれが普通ですので。夫婦になったからといって、さらに新婚だろうが年季の入ったカップルになろうが、陛下の夕鈴への執着心は容赦ないです(笑)こんな陛下でごめんなさい。原作に近いもっとクールな陛下も、たまには小説に登場させないと…とは思っている今日この頃です。
ここでお詫びを。次回話は重くて暗い長編と予告しておりましたが、あまりに暗くミケの心が折れてしまい…なのでアップはまだ先です。不甲斐ない自分ですみません。

65弾の続きで、ふたりで過ごすクリスマス話が書けたらなぁって思ってます


22:44  |  未来(夫婦)編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

2011.12.14 (Wed)

包み込むように

包み込むように


久しぶりのアップですが、未来話です。
狼陛下の世界観を崩してしまいますので、それでも良い方のみ進んでください。

未来(夫婦)設定が苦手→トップに戻る。

途中、李順目線が入ります。

ではどうぞ。











鳥のさえずりで、夕鈴は目覚めた。
微睡みに垂れる瞳でまばたきを繰り返し、寝台に手をついて起き上がる。軽く伸びをして空気を吸い込むと、朝の香が鼻をかすめた。
朝の清純な香が夢の中にも届いたような気がする。夕鈴はふっと笑顔を浮かべる。


「嬉しそうだね」

「……」

あっと短く声を上げると、夕鈴は姿勢を正す。


「おはようございます、陛下」

「おはよう、妃よ。朝から機嫌が良い理由を教えてくれるか?」

下から覗き込むように見上げると、陛下が手を絡めながら尋ねてきた。


「いえ…良いお天気だな、と思って」

またまた狸寝入りで私の行動を盗み見てたのね…夕鈴は軽く睨みつつも笑顔で答えた。


「朝から君は…愛らしいな」

「もーやめてください」

夕鈴はため息とともに肩を落とすと、意地悪な陛下の頬を軽くつねった。負けじと陛下も夕鈴の顔に手を伸ばすと、つねる代わりに首筋をこそばす。


「きゃっ、ちょっと…やめ…」

くすぐったくて身をよじった隙をつかれて腕をぐいっと引っ張られた。当然のように傾く体を、たくましい腕で抱き締められた。

朝っぱらからセクハラを行使しようとする陛下の胸を押し返すと、しれっとした顔に向かって文句を言う。


「もー!またこんなことしてたら遅刻しちゃいますよ。遅刻して李順さんに怒られるの私なんですから」

妃になった今も、彼の側近との主従関係は変わらないのである。

抵抗が幸をそうしたのか、今朝の拘束は早くに解けた。起きかけに頬と目頭に唇を落とされただけで、多忙な彼は仕事へ行く準備を始める。身支度を手伝いながら、夕鈴は口を開いた。


「今日は政務室通いは出来ません」

ぴた…と陛下の手が止まる。


「なぜ?」

「今日から琴の先生が来てくださるので…」

結婚して忙しいのは夫だけではない…と夕鈴は訴える。


「君が忙しいのは知っているが…」

長い髪を一房指で掬い取ると、陛下は薄い唇に当てた。見慣れたその光景を眺める夕鈴の心情が複雑に交差する。

なんだか、嫌な予感がする。


「何よりも優先すべきは私ではないかな?」

「もっもちろんにございます」

夕鈴は腰に手を当てて胸を張ると、とんと叩いた。


「何よりも陛下を優先しております」

満面の笑みで答える夕鈴に対して、陛下がなびくことはなかった。


「ふうん…」

渋顔を固め、遠慮なく細い腕を引っ張ると軽く抱き寄せる。


「君がそう言うのならばそうなのだろう。だが…」

頬を辿る手で顎をくいっと上げられ、夕鈴は否応なしに陛下と目線を合わせた。


「私は貪欲なのだ」

「…!?」

すっと細められる鋭い目。突然の狼陛下の登場に夕鈴の鼓動が跳ねる。


「君を妃にした今も、君への執着は激しさを増すばかり…」

「な…ななな何を」

ま、まずい展開。
ここはひとつお妃らしく優美なスマイルであしらおう。
余裕と見せかけた作り笑顔を見せる夕鈴であったが、そんな小手先の技が通じる相手ではない。

陛下に鼻で笑われ、ぎこちない笑顔を逆にあしらわれてしまった。


「なっ、何がおかしいんですか!」

「君は可愛くて面白い」

「からかわないでく…」

無理やり顔を背けようとする夕鈴の行動を予想して、陛下が両手で頬を挟む。


「!?」

「君が笑顔を向けるのは私だ。君が語りかけるのは私であり、君の心のすべてを占めるのは私」

「……」

「その白い胸に…私以外の他のことを思うのは許さぬ、良いな?」

有無を言わさぬ目力に押され、夕鈴は脱力のままにこくり…とうなだれた。

結婚してからというもの、狼陛下には全戦全敗、完璧な白星を記録していた。夕鈴が負けじと応戦する前に、理不尽なほど甘いセリフと態度を存分に発揮されて、もはや口答えする気力すらなく、あれやこれやと言いくるめられて終わっていた。

このままではいけないと思いつつも、甘い笑顔を前にして何も言い返せない。

主導権を取り返さなくちゃ!

気持ちが通じ合う前の、今と同じくらい優しい陛下、今と同じくらい暖かい陛下、でも今より全然意地悪じゃない陛下の時は、主導権は夕鈴にあった。
でもそれは一瞬のこと。

夕鈴は堅く拳を握り締めて誓う。

そんな妃の様子を愉快気に眺めたあと、陛下は政務に向かうため後宮を立ち去って行った。

















私は今日何度目かのため息とともに、目の前にちょこんと腰かけたかの人を眺めた。
狼陛下の妃にしては何とも気の抜けた、のんびりお茶を手に取る様子に、再度ため息を漏らす。


「なんでそんなにため息をついてるんですか!」

怒ったように非難するお妃の姿を見て、私は肩を落とす。


「李順さん!」

「叫ばなくても聞こえていますよ」

主君が初めてにして唯一の妃を迎えて早半年。最初はありえない事実に嘆きもしたが、人間とは見慣れるものなのか。
妃らしからぬ無邪気で純粋な仕草を見せる彼女に、不安を感じることも少なくなった。

だが問題は陛下か。

お妃の天然の色香(私には全く魅力が分からないが)に堅物な顔を緩めっぱなしの陛下を見続けるのは、なんとも心苦しい。せっかく必死で作ってきたイメージも、総崩れになりそうな勢いだ。このままでは腑抜けた王の誕生も、近いうちか…。
などと考えていると、お妃にぐいっと腕を引っ張られた。


「聞いていますか!?」

私は頭を振った。


「聞いていますし理解しています。分からないのはひとつ、なぜそれを私に相談するのです?」

「……」

意外な返答にぐっと言葉を飲み込むと、お妃はぽつり…と話し出した。


「だって、老師や浩大に相談しても、いつも的確な答は得られません。むしろ間違った指示を受けて陛下に怒られることも多いので…」

今頃気づいたか。あのふたりに的確な指示を求めること自体、最初から間違っているのだ。後宮に長く勤めてきた人間であれば誰しも分かること、お妃には分からないのは、それだけ大切に守られているから…か。ここへ来る前のありのままの彼女のまま、純粋無垢で無防備…そのままで居るのは、陛下がそれを望んで守ってきたためか。

だが。


「もう少し後宮事情に通じていらっしゃる方が良いですね」

たとえお妃が気に入らなくても、主君が有り余るほどに気に入っている。忠実な臣下を自負する私は、お妃に軽く忠告した。
お妃はしゅんと肩を落とすと、しおらしげにそうですね…と呟いた。こういう姿は妃らしいのに…これに行動が伴えば文句なし…とまではいかないか。


「あと、教養を今より少し高めるように。そそっかしい性格も改め、陛下のお妃らしく優美に過ごしてください」

「え…あの」

「あと、ほいほい後宮を抜け出して臣下に逢いに来るなど言語道断。あなたは陛下唯一のお妃なんですよ。それを下らぬ相談事のために私に逢いに来るなんて…古参の大臣たちが見ていたらどう思うか…」

「下らなくなんて!」

「黙らっしゃい。そもそも我が王に対して主導権を握りたいとは何事ですか。あなたでなければ聞き捨てなりませんね」

「……」

お妃はとても気落ちした様子で、素直に耳を傾けていた。


「そんなに嫌な顔をしないでください、感情がすぐに顔に出るのも改めてください」

「そんな…嫌だなんて」

一瞬見せた動揺を隠し切れずにお妃は否定した。

相変わらず嘘が下手な人だな…などと考えていたら、ふいに背筋に寒気を感じた。
室温が一気に下がり冷気が体を纏う。

身震いする私を不思議そうに眺めるお妃。この、あからさまに冷酷な気配に気づかないとは…どれだけ鈍感なんだ。

私は振り返らずに、陛下の名前を呼び上げた。

お妃は、私の呼びかけに驚いて顔を上げる。


「陛下?」

くくく…と愉快気に笑いながら、御簾を上げて陛下は部屋に入って来た。


「妃をいじめるのはそれぐらいにして欲しい」

私に向けた鋭い瞳を緩めることなく、やんわりと言い放つ。お妃の肩に手を置き、これ以上ないほどの極上の笑顔を浮かべた。


「妃が困っているではないか」

「……」

私は仲睦まじい二人の様子に、肩を落とした。

お妃教育はそれほどに気に入らない…のか。


「恐れながら…」

このようなことで尻尾を巻く私ではない。私は狼陛下を見据えた。


「お妃として、必要なことをお諫めしていただけです」

「お前のおかげで、妃から笑顔が消えるのは我慢ならない」

陛下は、お妃の後方から私の目を捉えている。非情な顔はお妃には見せたくないらしい。


「陛下に相応しいお妃になるため、必要なことです」

「十分に相応しい。いや、それ以上か…」

陛下は目を細めてお妃を見つめた。これ以上ないほど、甘い顔を浮かべている。
ご政務中に限らず、人前では絶対に見れない狼陛下の顔。さすがに溺れすぎだろう…お妃よりもはるかに付き合いの長い側近の前でもその寵愛を披露せずにはいられぬほど、お妃は魅力的らしい。
理解不能だ。
お妃の長い髪に指を絡ませる陛下を見ながら、私は思った。


「より相応しい妃になるため、必要なことです」

私は飽きもせず口を開いた。
まだ言うか…陛下の目がそう訴えていたが、気にしない。


「これほど慈悲深く、美しく賢い妃にこれ以上何が必要と?」

陛下はお妃を抱き寄せた。美しく賢いは余計だ…心の内で大否定しながら、私が見ていることなどお構いなしに甘々っぷりを見せつける陛下を、冷めた目で眺める。


「陛下…」

お妃は、赤い顔で陛下の腕の中から逃れようとしていた。今頃は私に相談しに来たこと、大後悔しているに違いない。


「どうなんだ…李順」

非情な目が注がれる。見慣れているようで慣れないその冷酷な瞳を直視できずに、私は視線を反らした。明らかに楽しんでいるに違いない…口元にうっすら笑みを浮かべる陛下に、心底たちの悪さを感じた。ため息をつこうとした矢先、お妃が思わぬ助け舟を出した。


「陛下、やめてください。違うんです」

「何が違う?」

「李順殿には私の行動を少し注意いただいただけ。望んでこの場にいます」

相変わらず固く閉じられた腕の中で、お妃は必死に言う。なんとか誤解を解くため、ひいては持ちかけた相談事など暴かれないように、知恵を絞り出す様子に苦笑した。


「ふうん?」

これは面白くない…とばかりに、陛下が首を振る。


「望んで?」

陛下は訝し気になぜか私を睨んだ。またとばっちりを受けるのか…なんとなく夫婦喧嘩になりそうな雰囲気を敏感に感じ取った私は、上手く退出する言い訳を考える。


「は、はい…」

怖いオーラに後ずさりするお妃の体をがっちる抱えると、陛下は一言怪しい…と呟いた。


「……怪しい…とは?」

お妃はよせばいいのに質問した。狼の仕掛けた罠に自ら飛び込んでどうする。こういうところもお諫めせねば…お妃のために。

私の固い決心の傍ら、陛下は続けた。


「何かあるのでは?」

「は?」

探るような目つきに、お妃の顔が曇る。目を大きく開き、質問の意図を必死に模索していた。


「君と李順の間…つい疑いたくなる」

「な、何を!?そのようなこと」

お妃は驚いて陛下を見て、私を見た。何やら目配せして訴えているようだ。私にも否定しろと口元が語っている。
否定したらそれこそ思う壺だ。分かっていながらも陛下の面前で無視できない。辛い立場だ。


「陛下が疑うようなことは何ひとつありません」

私は努めて冷静に答えた。見当違いの浅はかな考えをバカにするように、うっすら笑い飛ばし気味に。そんな態度に、陛下の眉根がピクリと上がった。


「そのとおりです!一体何を考えて…李順殿にも失礼ではありませんか」

「……」

これはまずい…と思った。それでは私をかばっているようには聞こえない…か。嫌な予感に陛下を確認すると、案の定恐怖の狼陛下の形相で私と対峙していた。

その鋭い眼光で人々を屈服させる、冷酷非情な狼陛下の降臨だ。


「!?」

予期せぬ展開に動揺したお妃は、息を飲むとすっかり黙ってしまった。


「失礼?一体誰にだ」

怒気を含んだ声音に、背筋が凍りつきそうだった。
お妃には、普段から非情な振る舞いなど見せたくないと言っていたのは、どの口か…。私は、やれやれとため息をつくと、重い腰を上げた。

すっかりと夫婦喧嘩に巻き込まれてしまった。仲裁も側近の仕事か…。


「もちろんお妃にです。お妃を疑われては可愛そうです」

私はごほん…と咳払いする。硬直するお妃をちらりと見やると、口を開いた。


「実を申しますと陛下のことで相談を受けていました。最近のあなたは、新婚の頃に比べると一段と意地悪でわがままなので、どうやったら主導権を握ることが出来るのか…と」

私の告白に、お妃が顔を赤くした。言ってはならない秘密の暴露に、口をぱくぱくさせている。


「主導権?そんなものを…握りたいのか?」

不思議に眺める陛下の顔を、お妃はきっと睨みつける。


「だって!最近度が過ぎて…意地悪になりました。今朝だって、離してって言ってるのになかなか離してくれないし!それに、陛下以外のことを考えるな…なんて、ひどいです!」

声高く訴えるお妃。私にはどこまでも、のろけにしか聞こえなかった。

ひとりヒートアップするお妃を、すっかり狼の仮面を脱ぎ捨てた陛下は微笑ましそうに笑った。


「ふふ…そんなこと相談してたの?」

「そんなことじゃありません!とっても大事なことです」

「可愛いなぁ…夕鈴は」

陛下は甘い笑顔でお妃を抱きしめた。白い手を取ると、その甲に口づける。


「君が可愛すぎるから、独占せずには居られないんだよ」

「な!?」

耳まで真っ赤に染めるお妃。きっと反応を楽しんでいるに違いない…確信じみた思惑を感じながらも、私は路傍の草のごとくふたりの世界には入らないように気配を絶った。
陛下は満足気に再度微笑むと、左手を上げて私に合図を送った。

やっと茶番から解放される…どっと疲れた体を引きずりつつ、私は自らの部屋を退出した。

これ以上の小芝居は痛々しい。しかも、臣下にこれ以上寵愛を見られるお妃も気の毒だ。
去り際に纏わりつくようなお妃の視線を感じたが、御簾を下げることで気づかないふりをした。助けを求めているんだろうけど、自分の蒔いた種ぐらい自分でなんとかするべきだ。

ああなった陛下を止めることは困難を極めるだろう。
陛下の寵愛は深すぎて、量り切れないな。

私は解放された安堵の息とともに部屋を離れた。
















ふたりきりになった臣下の部屋で、夕鈴の非難の声が響いた。


「もー恥ずかしいです!どうしてこんなことするんですか!?」

「李順の前で抱きしめたこと?だって、仲良し夫婦はいつでも見せつけないと」

「もう演技する必要はないのですから、そんな見せつけ結構です」

夕鈴はふんっと顔をそむけると、頬を膨らませた。恥ずかしい思いをした…とぶつくさ文句を言い続ける。


「機嫌直してよ?僕が悪かったからさぁ…」

「い・や・です!しかも…私と側近の仲を疑うなんて、そんなに私は信用ならないんですね!」

怒りの沸点を超えた夕鈴は、いらいらと部屋の中を歩き出した。
ちょっと言い過ぎたかな…少し反省しながら、陛下が慰める。


「ごめんね、夕鈴。君のことは信じてる。だた…君と李順があんまり仲良くて嫉妬しちゃった」

笑い飛ばすその横顔に、じとりと冷たい視線が刺さる。


「やっぱり私を信用されていないのですね」

「違うって…」

う~んと頭を悩ました陛下は、思いたったように部屋を徘徊する夕鈴の手を掴んだ。


「仲直りしよう?」

子犬の姿で懇願する。夕鈴は一瞬だけたじろいだあと、ダメです!と顔をそむけた。なかなか手ごわい妃に、陛下はどうしたものか…と熟考する。


「主導権…と言っていたな?」

ピクリ…と夕鈴の体が静止した。


「交代制にするっていうのはどう?」

「交代制…」

「そう!今日は僕が取ってたみたいだから、明日は夕鈴。これでどう?」

「……」

目の前にぶらさげられた美味しい餌に飛びついてしまうのは、夕鈴らしさである。夕鈴は素直に頷くと、仲直りを承諾した。











迎えた次の朝、陛下よりも早く目覚めた夕鈴。
隣で寝息をたてる陛下を見て、くすり…と笑った。寝台から身を出し、冷たい床に足をつけた。不敵に微笑むと、立ち上がろうと体を起こした矢先。

ふいに腰を引き寄せられた。


「きゃっ…」

ふわりと宙に舞うように、元通り寝台に沈む体。夕鈴は体勢を立て直すと、声を荒げた。


「何するんです!」

「おはよう、夕鈴」

怒られた相手は全く動じることなく、優雅に朝の挨拶を交わしていた。


「ちょっ苦しいです。離してくださいよ」

陛下は少し力を緩める。


「朝から、そんなに楽しそうにして…一体どうしたんだ?」

「!?」

また…狸寝入り&盗み見を働く陛下を完璧に無視すると、夕鈴はお腹の前で組んである腕を解いた。


「おはようございます、陛下」

「うん」

まだ横になった体制のまま、陛下は夕鈴を抱き直した。せっかく解いたのに…また拘束されて身動きが取れなくなる。


「離してください」

「まだ早いよ…もう少し眠ろう」

「違います!」

「何が?」

きょとんと質問する陛下に向かって、夕鈴は嬉しそうに、主導権♪と呟いた。


「今日は私の番ですよね?さっそくですが、その手を解いてくださいませ」

渋々…と腕を解くと、寝台の上を起き上がる。陛下は不敵に笑う妃を、じっと覗き込んだ。


「そういえばそうだった」

「はい」

ふふふ…嬉しさを隠すことなく、夕鈴は笑った。


「それで?」

「は?」

「主導権を握って、君はどうしたいんだ?」

「……」

どうしたいかなんて、考えてなかった。ただ、陛下の意地悪が収まればいいなぁ…なんて安易に考えていた夕鈴は、突然の問いかけに口どもる。
陛下はにやり…と笑うと、夕鈴の体を再度寝台に横たえる。かぶさるように上に乗ると、パニック寸前の妻の顔を間近で眺めた。


「どうして欲しい?夕鈴…」

「!?」

ふいに降りてきた影。
長身の重みを感じながら、夕鈴はまばたきを繰り返した。


「今日は何でも言うことを聞く。まずは…どうしたい?」

「……ななな、何も」

「何も?では君の好きな抱擁と口づけをたっぷりと…」

「○×△□!!!!!」




結局いつもと同じである。

主導権などあってないようなもの…切れ切れになる意識の中、昨日の仲直りを大後悔する夕鈴であった。









二次小説第64弾完
タイトルはまたまた某有名な曲名からいただきました。(誰かタイトル考えてくれないかな 笑)

初めての未来設定です。次回にどっぷりと重い暗い長編を予定しているので箸休めですね☆軽く読んでいただけましたら幸いです。
未来を妄想するのは楽しいです。ミケの中ではお妃夕鈴はもちろん最強なんですが、主導権は陛下が握っている感じです。夕鈴を甘いセリフ漬けにして、翻弄して楽しむ毎日だと思います(希望)でも、意地悪し過ぎて泣いちゃったら素直に謝ります。王様の威厳など全くなしに、もー土下座ばりに平謝りする陛下です(笑)
今回は主導権を題材にして書きました。皆さまは、陛下と夕鈴どっちが主導権を握っているのかと思われますかね?最後までお付き合いありがとうございました


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