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2010.07.29 (Thu)

贈り物の奇跡Ⅰ

「贈り物の奇跡」

久々のアップはかなり長いものになってしまいました。
過去最長なので、気合を入れて読み進めてください(笑)
ⅠとⅡに分けています。


ではどうぞ。








「どれもこれも素晴らしい品です。まこと、美しいお妃さまを飾るにふさわしいかと存じます」

「ほ、ほほほ…」

僕は不器用に愛想笑いを浮かべるとなりの夕鈴を見つめた。
一生懸命に妃らしく振舞う姿に内心の笑いをこらえながら、妃を溺愛する国王を演じ続ける。ぎこちなさの残るその横顔を笑顔で眺めながら、ふと長い髪に触れて口元に寄せた。


「妃よ…どれが良い?」

夕鈴は僕の言葉にますます身を堅くして、目の前に広げられた華美なかんざしと僕の顔とを交互に見比べていた。

宝石商の来訪の報告を受けて半時ほど。
夕鈴がこの王宮にやって来るまでは耳にも留めることのなかった商人の出入り報告だったが…
人の性格というものは誰かとの出会いを得て変わるらしい。
誰かとは僕にとってはもちろん夕鈴のこと。

贈り物に喜ぶ彼女の顔を見たいと思い、妃の部屋に商人を呼んで今に至る。




「素晴らしすぎて…選べませんわ」

「どれも君に似合いそうだ、好きなものを選ぶが良い」

「そんな…もったいないお言葉、それだけで十分です…」

夕鈴は僕の表情を探りながらおずおずと答えた。
その心情は完全には図れないが、大方借金追加の恐れを感じているのだろう。上手く断る術を必死に模索している様子が面白くて、また笑いが込み上げた。

バレバレだよ、夕鈴。


僕は夕鈴の手を握り締める。途端に彼女の顔に赤が差した。



「妃よ、お前への気持ち、言葉では言い尽くすことなど出来ぬ。せめてその愛らしい顔に似合うかんざしを贈りたいという私の心を汲んでくれぬか?」

夕鈴の手の甲に口付けを落とすと、彼女の指先が震えた。


そばに控える女官たちが嬉しそうに笑うのが目の端にうかがえる。どうやら、妃付きの女官はこういうシチュエーションが好きらしい。


「……っつ」

夕鈴は火が出そうなほど頬を赤らめ、言葉にならない声を押し出した。

恋愛という意味で免疫の少ない彼女の、その戸惑うような愛らしい仕草が見たくて、しばしば過度な演技になりがちだが…どうやら刺激が強すぎたようだ。

少々やりすぎたことを反省しながら、僕は夕鈴に無垢な笑顔を向けた。

張り付いた笑顔で答える夕鈴。
最初の頃に比べたらお妃演技も板についてきたが、こういうのはなかなか慣れないらしい。



「君が選べないなら、私が選ぼうか。これはどうか?」

僕は、彼女の白い肌に良く栄えそうなかんざしをひとつ手に取る。
それを見て、夕鈴が微妙な笑顔を浮かべた。


あれ?気に入らなかったかな?

食べ物以外の彼女の好みは、正直まだよく分かっていない。



「これも良いな」

僕は夕鈴の態度を注意深く見ながら、別のかんざしを手に取る。少し派手かもしれないが、いつも控えめな彼女にはぴったりだ。

『やめてください…』と今にも聞こえてきそうだ。いや…『そんなかんざし私に似合うとでも?』かな。
はは…夕鈴に限ってそれはありえないか。

困った顔で僕を見上げる彼女に、僕はもっと困った顔で見つめ返した。


これも気に入らないの?

僕はめげずに次を選ぼうと目をやったが、ふと思い返す。


夕鈴の微妙な態度って…まさか。
彼女はまだ諦めていないのかもしれない…贈り物を全力で拒もうとすることを。


僕は心の中で深い深い溜め息をもらした。

『倹約をモットーとしている私にとって、質素でつつましやかな生活を送ることが幸せ…』
いつか彼女が拳を握り締めて語っていた言葉が脳裏に浮かぶ。



「夕鈴…どうやら私にも選べぬようだ」

僕の言葉にほっと息を吐く夕鈴。僕の予想は確信に変わり、途端に切なくなった。


やっぱり君は、どこまでも倹約主義でどんな状況でも変わらないんだね…。君の喜ぶ顔が見たいというささやかな僕の願いさえ退けるほどに。


でも、これは譲れないかな。






「商人よ…すべていただこう」

僕の言葉に、夕鈴が今まで見たことがないほど驚いたのは言うまでもない。

















「夕鈴、まだ怒ってるの?」

僕は子犬の顔で上目遣いに彼女を見上げた。

商人が去った妃の部屋の机には、僕が意地と虚勢ですべて購入した豪華なかんざし達が所狭しと並べられていた。


「今なら間に合います!すべて返却してください!」

夕鈴は目の前で輝きを放つかんざしに向かって、ビシっと指を差した。


「えーーー」

「えーーっじゃありません!すべて買うなんて信じられない」

「だって君が選ばないから」

「こんな高価なかんざし、選ぶなんてとんでもないわ」

「夕鈴…欲しくないの?」

「バイトには必要ありません。かんざしがなくたって妃は演じられます」

バイト…彼女の言葉に胸が痛む。僕はしゅんと肩を落として夕鈴の傍らに立った。
僕の子犬の表情に一瞬たじろいだ彼女だったが、すぐに厳しい目を向け僕を睨みつける。


怒った顔も可愛いな…なんて考えている場合ではない。
彼女の怒りの矛先は、他でもない僕に向けられているんだ。



「どうしても、君にあげたかったんだよ…」

「陛下、倹約は国王の義務です。バイトに変な気をまわさなくて結構」

いつもより強気の発言の夕鈴をじっと見つめると、彼女が思い切り視線を反らした。


まずい…怒られてもいいが嫌われるのは嫌だ。



「そんなこと言わずに、つけてみなよ。きっと似合うよ」

彼女の髪に、手にしたかんざしをひとつ挿した。

夕焼けに染まる妃の部屋。キラキラと輝きを放つ夕鈴の髪に、そのかんざしはとても良く似合っていた。いつも質素で飾り立てることを好まない妃を、雅に彩りたいと思う僕はやっぱりわがままなのかな。


「すごく似合ってるよ、かわいい」

「……」

「ねえ、夕鈴」

「……」

夕鈴は押し黙ったまま。僕の言葉を頑なに無視し続ける。


こんなに怒る彼女は初めて見た。僕がかんざしを返却するまで頑として口を聞かないらしい。


その後も夕鈴の機嫌を直そうといろいろ努力したが、彼女の機嫌は直るどころかますます悪くなるばかり。


結局僕は、怒る妃の部屋からすごすごと退散するしかなかった。

















「聞きましたよ、夕鈴殿。陛下に髪飾りをねだったというのは本当ですか?」

李順の部屋に呼ばれ、開口一番。
じろり…と陰険な視線とともに夕鈴は理不尽な言葉を投げられた。


「は!?ねだった!?私がねだったって?」

上司に対する口の聞き方を忘れ、本能のままに夕鈴は答えた。怒りにまかせた発言にすぐに我に返り、慌てて訂正する。


「いえ…間違っていますよ。私はねだってなどいません」

「……」

普段は、自分に対して大人しい夕鈴の態度に驚き目を見開く李順。
夕鈴の憤慨を察知した李順は、慎重に言葉を選び直し再度質問した。


「あなたがねだるような方ではないと思いますが…」

「当たり前です!バイトという身分はわきまえていますよ」


「ですが…あなたがそばにいながら、なぜあんなにたくさんの髪飾りを購入しようとなさる陛下をお止めしなかったのですか?」

「私は丁重にお断りするつもりだったんですよ。現に途中までは上手くいってたのに。でも陛下が勝手に買われて…しかも返却をお勧めしたのに聞く耳持たないというか…すっごく頑ななんですよ」

早口でまくしたてる夕鈴。身の潔白は自身でよく分かっているが、恐い上司の前だとついつい弁論しがちになり嘘っぽくなってしまう。それもこれも、すべて原因は陛下にあるというのに。


「なるほど」

李順はおきまりの眼鏡を上げる仕草で、必死の形相の夕鈴を見つめた。


「私からも返却をお勧めしますが、夕鈴殿ももう一度陛下に進言してください」

「それは………今ちょっと口を聞けないというか…」

さっき喧嘩したばかりだ。しかも最後は口を聞いていない。
がっくりと肩を落として妃の部屋を退出する陛下の後姿が目に浮かんで、心が痛んだ。

ごにょごにょと口の中で小さく呟く夕鈴に、李順の鋭い視線が注がれる。



「バイトに選ぶ権利はありませんよ。財政難なんです!あなたも早く借金を返したいのでしょう」


借金…働けば働くほどなぜか増えていく借金。夕鈴は遠い目で頷いた。


「でも今回のことは、私のせいではありませんよ。よって私の借金は関係ありません」

「あなたが身につける髪飾りなんですから、当然あなたにも責任はありますよ」

「そんな!私は…」

「とにかく、陛下を説得してください。これは任務だと思うように」

夕鈴の言葉を制して李順が言い放つ。妃といえど、しょせんバイトの身は辛いもの、夕鈴に反論は出来ない。


「……はい」

「よろしい。では退散」

李順は勝手に話を終わらせると、立ちすくむ夕鈴には目もくれず仕事の続きを始めた。

仕方なく、部屋を去ろうとする夕鈴を李順が呼び止める。


「夕鈴殿、ひとつだけ言っておきたいことが…」

上司に呼び止められていい思い出はない。夕鈴は苦い顔をなんとか取り繕って振り返った。
すぐ後ろに立っていた李順が耳打ちする。


「あなたに良いアドバイスです」








Ⅱへつづく

20:23  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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