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2011.09.13 (Tue)

下弦の月

「下弦の月」

夕鈴目線で短文です。
しんみり切ないお話、ぜひ月を見ながら読んでください(←無理か)

ではどうぞ。













月の満ち欠けは不思議だ。

昨日まで見ていた空に浮かぶ白磁の月は日を追うごとに満ち、欠けていく。
その月はどこで見ても、いつ見ても変わらずそこにあり、静かな輝きを内側から放ち、見る者の陰影をぼんやりと浮かび上がらせている。

夕餉を取り微睡んでいた頃、夕鈴は今夜も晴れた夜の空を眺めていた。
妃の前庭に設けられた四阿。妃専用の四阿は、この後宮に来てから夕鈴のお気に入りの場所のひとつになっていた。

後宮の夜は静かだ。
下町に住んでいた頃は、こうして月を眺めていても隣の家の喧噪や道行く人の話し声がしていたが、今は夕鈴の息遣い以外は何も聞こえない。ときどき、かすかに聞こえてくる虫の羽音だけが耳に心地よい。その音色に聞きしれながら、夕鈴は空へ向かってそっと手を伸ばした。

夜空に浮かぶのは丸い月ではない。
まるで片割れを失ったかのように半分だけ浮かぶ月に、ひとさし指で触れると、一瞬だけ歪んだような気がした。寂しげに青白く光る月に導かれ、空虚に揺れる心。夕鈴は空を描いていたばかりの手を降ろして、軽く胸を押さえた。

満月でも三日月でもなく、キレイに半分に割れた月。
そんな月を見ていると、どうしてこれほど心が急かされるのだろうか…。

いつもより早く刻む胸の鼓動と息を合わせ、夕鈴は浅く呼吸を繰り返す。夕鈴が呼吸を繰り返す間も、半月は夜空にくっきりと浮かんでいた。ときどきぼんやりと影を揺らしながら…。


「不思議…」

また手を伸ばす。今にも触れそうなほど近くに感じるのに、決して届かない月。

まるで私の心のように…。

確かにここに、この私の胸の内にはっきりと在るのに、伝えることの出来ない気持ち。消えゆくだけの…寄る辺のない、はかない気持ち。

目頭に温かみを感じたと思うと、月の輪郭がぼやけた。抗うことの出来ない感情の波に呑まれ、今宵も兎は涙を流す。

景色は歪みを見せていたが、夕鈴は振り払うかのように手を伸ばし続けた。このままきっと、届くことを信じて…。

ふいに視界に黒いものが走る。空を掴んでいた手に、暖かい何かが触れた。この感触は覚えがある。慌てて視線を戻すと、夕鈴の手を握りしめて、陛下が立っていた。


「へい…か?」

夢でも見ているのだろうか…。月が魅せる幻影か。月を背に浮かぶ人影を、夕鈴はじっと見つめた。
涙をたたえた瞳がまばたいたとき、目頭に触れるのは陛下の唇だった。

え…。本物?


「陛下!」

夕鈴は目の前で自分に顔を寄せる人影を確認する。長身の背に濃紺の衣装が翻る。月明かりを受けて眩しく光る姿に、一瞬目が眩んだ。

陛下は何か小さく呟くと、夕鈴の頬を両手で包み込む。


「夕鈴…」

か細い音色に体がざわついた。夕鈴の耳に届いたのは、冷酷非情な狼陛下の声でも無邪気な子犬陛下の声でもなく…ただ細く、今にも消え入りそうな声音。

悲しくて切なくて、また涙が出そうで、夕鈴は小刻みに震える胸を押さえた。


「泣くな、夕鈴」

陛下は声を絞り出すと、夕鈴をふわりと抱きしめた。肩越しに見えた月は、変わることなく半分欠けたまま。夕鈴は息を吐くと、陛下の腕の拘束を解いた。


「陛下、なぜこちらに?」

「回廊の端から、君が見えた」

「もっと早く声を掛けてくださいよー。びっくりしちゃった…」

乾いた笑い声を響かせて、夕鈴は瞳を伏せた。すっかり涙が消えたことを確認すると、大きな瞳で陛下を見上げる。見つめた陛下は、切ない表情を浮かべていて、夕鈴の心がちくりと痛んだ。

そんな顔…見たいんじゃないのに。


「お月見してたんですよー今夜は、満月じゃありませんが…でもキレイな夜だったので。陛下もご覧ください」

夕鈴はにっこり微笑むと、陛下の手を引っ張り四阿の椅子へと導く。


「半月なんですけど…キレイでしょう?」

「……」

陛下は黙したまま、夕鈴の手を握りしめた。手から伝わるのは…私を気遣う心。優しい優しい陛下が、私を心配している。


「夕鈴。何を考えていた?」

「……」

何を考えてたか…なんて。
夕鈴は、隣の陛下を見つめる。朱色の瞳が真っ直ぐ向けられていて、心臓が跳ねた。陛下の目は見慣れているようで、直視するにはいろいろ大変だ。この思いのすべてを悟られてしまいそうで…心の片鱗を奪われてしまいそうで…。

胸が熱くなって、夕鈴は視線を反らした。


「何も。ただ…月を眺めていました」

あの、片割れを失って寂しそうな月を。自らの届かぬ思いと重ねて、私は私を慰めていたの。月もひとりぼっち、私も…だから。


「下弦の月…か」

「下弦?」

「月が満ちた後、新月になるまでの間の月のことだ。弓が張った形に似てるから、弓張月とも呼ばれる」

夜空を眺めながら、陛下は呟いた。夕鈴もその目線を追う。
月が満ちた後の月。これから消えゆく運命。ふいに涙が頬を伝わり、夕鈴はふるふると頭を振った。
涙腺がおかしくなっているのかも。気弱になるなんて、私らしくない。

どんなときも…あなたを寂しがらせたりしない妃になるって決めたの。

泣いてる場合じゃないわ。

ぎゅっと目を閉じると、まぶたの裏側にも眩しい輝きを感じた。大きくて眩しくて…たとえ消えゆく定めだとしても、私はこれでいいの。そばにいるだけで…それでいい。


「夕鈴…」

陛下の囁きが響く。
陛下は、夕鈴の肩へ手を伸ばし掴むと、そのまま自らに引き寄せた。陛下の肩へ頭を預ける形で、夕鈴の体が傾く。


「……陛下」

「夕鈴。みなは満月が好きって言うけれど、僕は下弦の月が一番好きなんだ」

「…え?」

「下弦の月は、これから無に返って、しばらくするとまた満ちるだろう?丸い月がすべて姿を見せるための、月が満ちるための力を蓄えているんだ」

「……」

「下弦の月は、月が満ちる前の準備期間なんだよ」

陛下の言葉に夕鈴は驚いた。頭を上げると、陛下の顔を覗き込む。


「だから…僕は一番好き」

「……そう…ですか」

あの欠けた月が、寂しげに漂う半月が、陛下は好きだと言う。
片割れを失って孤独に泣くあの月が。




『下弦の月は、月が満ちる前の準備期間なんだよ』


あなたがそう言うなら…この、満ちることのない気持ちも、結ばない心も。消えゆくだけのはかない思いも、すべて。



「私も…好きです」


夕鈴は夜空を見上げる。




陛下が好きな、あの半月に想いを込めて。











二次小説第60弾完了です
しんみり…です。最近めっきり秋らしくなって来た季節を受けて
夕鈴が陛下への気持ちに芽生え、隠したまま「狼陛下の臨時花嫁」を演じようと心に決めた頃のお話です。恋する少女の切なさを前面的に出してみましたが、いかがでしたか?感想いただけると嬉しいです

いつも、陛下が夕鈴へ一方的に思いを寄せる展開を好んでいますので、我ながら珍しいなぁ…と思いながら書きました。半月とか三日月とか、欠けた月が個人的に好きです。丸い月よりも欠けてるほうがいいなんて、変わってるなぁと思いましたが、きっと好きな読者さまがいるはず!

お付き合いありがとうございました☆



07:06  |  夕鈴片思い編  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●せ、切ない・・・。

想いを込めないで陛下にぶつけちゃえっ!!
と心の中で叫んでしまったのは私だけでしょうか?
いやー・・・切ないです。もー・・・胸が苦しい。
でも切ないの大好きです(笑)ごちそうさまでした!
深見 |  2011.09.15(木) 19:15 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

深見さま
いつもコメ嬉しいです☆
途中で何度も想いをぶつけちゃえ!と暴走しかけましたが…耐えました(笑)やっぱりお互い片思いで苦しむ様子が見たいので(←ドS)。そんな姿に萌えるので(←変態)。
変な返事お許しください!またいつでも感想いただけると嬉しいです~ありがとうございました!
ミケ |  2011.09.16(金) 18:21 | URL | 【編集】

●いえいえ、

いえいえ、変なお返事じゃないです。変だとしたらそれは深見の変コメントに合わせてくださっているからでしょう(笑)
私、たいてい変コメント書いてしまうので・・・そうおっしゃっていただけると気が楽です。すみません、またお邪魔させていただきます。
深見 |  2011.09.21(水) 17:09 | URL | 【編集】

●Re: いえいえ、

深見さま
返信ありがとうございます!なんか変かな…っと思ったんですが、大丈夫みたいですね~深見さまもイケる口みたいで…良かった良かった(笑)また変なコメですね、気にせず出していきます!ありがとうございました☆

ミケ |  2011.09.21(水) 22:06 | URL | 【編集】

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