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2011.10.30 (Sun)

彼方の心をあなたへ(後編)

前編のつづきです。




「ただいまー夕鈴」

遅くに、妃の部屋へとやって来た陛下。拝礼して陛下を出迎える夕鈴はどこかぎこちなかった。夕方のことをいつまでも引きずるわけにはいかないのだが、上手く演技に切り替えられない。

それでも慎重に会話を進めていた夕鈴であったが、鋭い陛下がその微妙な変化を見逃すわけもなく、夕鈴は質問の波にさらわれることになる。


「体調でも悪いの?」

「いいえ。大丈夫ですよ」

努めて冷静に、夕鈴は答えた。その態度が気に入らなかったらしく、子犬陛下に再度尋ねられた。


「元気ないみたい…僕、心配だよ」

「大丈夫です。元気いっぱいです」

微笑みをたたえて答える。お妃演技の続きをしているようで胸が痛んだが、夕鈴にはどうすることも出来なかった。そのまま他愛ない会話を繰り返し、陛下の疲れを労り続ける夕鈴。
お茶を出し、茶菓子を勧め、やっとくつろいだ頃には、夜半をとっくにまわっていた。中点まで登りつめた月の光が、格子窓から一筋射し込んでいた。
穏やかな雰囲気に、夕鈴の心の呪縛もすっかり解けたようだった。


「そういえば…今日占ってもらったんだって?」

突然の再来に、夕鈴の鼓動がドキッと跳ねる。思わず手にしたお茶をひっくり返してしまった。すみません…と慌てて謝り片づける夕鈴。お茶のしずくをふき取っている間、返答をどうしようかとばかり考えていた。


「なんか元気ないのは…占いのせい?」

「いいえ。占いは全く関係ありません」

「ふうん、なんて言われたの?」

「……え?」

ふき取る手を止め、顔を上げる。陛下の視線は、真っ直ぐ自らに向けられていた。まじない師とは異なる優しい視線。だけど一方で、心の隙間の綻びを見つけ出しては入り込み、すべてを凌駕するような視線だ。
身震いを感じて、夕鈴は目を反らした。

怖い。


「占い師になんて言われたの?」

「何も…」

夕鈴は頭を振った。


「良い結果ばかりでした、なんだか得した気分ですよ」

目を伏せながら答える。嘘ばかり…またここでも心を偽るの。
ずっと気持ちが晴れないのはあの人の言葉通りだから…後宮に戻って来てからそのことばかり考えていた。

その後の会話も曖昧な返答ばかり続く。占いに興味の結果にとても興味を持っている陛下だったが、確信に触れることはなかった。
この人はいつもそう、大切な言葉は、一番聞きたいことは私に言わせる。私が言うまで待つ。心に強制をしたことなど一度もない。そんなあなたに甘えている私。

陛下が優しく微笑むたびに、痛む胸。痛みに気付いていてもなお、笑い続けようとする私。


こんなのじゃダメ、私…ちゃんとするって決めたのに。

ちゃんと演じなきゃ、狼陛下の花嫁を。



「陛下!」

夕鈴は顔を上げて、陛下を呼んだ。陛下は夕鈴の目の前に居て、ずっと様子をうかがっていたようだった。目には心配の色を浮かべていて、夕鈴の心が痛む。


「…あの」

「さきほど、帰ると言っていたよ」

「え?」

「まじない師。さっき僕の部屋に挨拶に来てた」

「もう…王宮を立たれたのですか?」

「まだ居るかも」

「……」

なぜ聞いたのか分からない。
どうして、気になるのかも分からない。ただ、諦めで終わってしまった会話に、後悔していた。何も答えることのできなかった自分が、みじめだった。
私の気持ち、私の思い、彼女は知っているのに、この人は知らない。この人は知らないのに…彼女にだけに知られているのなんて、嫌なの。

明らかに様子のおかしい私にも関わらず、陛下がそのことに触れることはない。それが余計に心をざわめかせる。

この人も見抜いている…?違う。この人は心配しているだけだ。優しい優しい子犬陛下。私が、もうひとりのあなたに、偽りのあなたに……恋心を抱いているのなんて知らずに。

夕鈴は心の中で首を振った。


「夕鈴…?」

心配を濃くした声音に、夕鈴の体がびくり…と震えた。


「あ…お茶をお淹れいたしましょうか?」

「……」

陛下は夕鈴の問いかけには答えずに、無言で窓辺に進み出た。淡い月夜のきらめきが陛下の横顔を照らしている。


「変わることを恐れては、前には進まない」

「……え?」

「昼間、まじない師に言われた言葉。彼女の言葉は不思議と心をつく」

「……」

陛下にも同じことを言ったの?夕鈴は驚く。
前に進むことを恐れているのは、私だけではない…の…?


「僕自身も…変わらなければならないのかな」

カワラナケレバ…。


そう、変わらなければ、前に進むことはない。

何も――――始まらないの。



気づくと、駆けだしていた。
自室の扉に体当たりするように外へ飛び出し、回廊を駆ける。背後から陛下が声を掛けていたが、私の耳には痛みしか届かなかった。















行燈の灯りが怪しく揺らめいていた。昼間はろうそくであったが、夜の視野は灯火の光だけが頼りであった。

荷造りをする手がふいに止まったかと思うと、まじない師がこちらを見ていた。まだ太陽が高い頃深く被っていたベールは取り払われ、露わになった顔が夕鈴の方を向いていた。


「お妃さま…?」

肩で息する妃の姿に、興味の視線が注がれる。真夜中の突然の来訪にたいして驚かず、まじない師は快くもてなしてくれた。見事に暗幕に覆われていた小部屋は綺麗に片づけられ、少しだけ残った荷物を箱詰めしている最中であった。


「もう出立しなければならないのですが…。ちょうど良かった、お妃さまに今一度ご挨拶をして、お暇させていただきたいと思っていました」

「まじない師さま」

「はい」

ふたりの目が合う。夕鈴の目には昼間にはなかった、はっきりとした意志の輝きが灯されていた。それを確認したまじない師は、静かに微笑んだ。


「お妃さまに今お逢いでき、昼間の胸の痛みが和らぎました」

「……」

「悟られたのですね?」

すべてを見透かすようなあの強烈な視線はなく、代わりに優しい双眸が、夕鈴を捕えていた。


「悟ったのはずっと以前です、私は隠し続けていた」

震える肩を両手でそっと抱いた。微動に震える双肩は、心の弱さを映し出しているのではない。夕鈴は何度も頷くと、まじない師の目を真正面から見つめた、今度は反らすことなく。

さきほどまで顔を覗かしていた月が、雲に入ると、周囲はより暗くなった。虫の羽音だけがりんりんとなるこの開け放たれた小部屋で、ふたりはずっと見つめ合ったまま。


「好き……です」

「……」

息がつまりそうだった。浅い深呼吸を繰り返し、夕鈴は声を出す。


「陛下が、好き」

たった一言。陛下のことが好き。好きなの。

あなたの声が、あなたの優しさが、あなたの視線が。怖い狼陛下も、優しい子犬陛下も。演技するあなたも。素のままのあなたも。

すべて。

あなたが好き。


「……」

「これが……私の隠し事」

秘め続けなければならない気持ち。蓋をし続けた思い。苦しくて、苦しくて、何度も夢の中で伝えてきた。そのたびに辛くて、気持ちなど錯覚であると言い聞かせていた頃が辛くて、悲しくて。

あなたの姿を目で追いかけている自分が、堪らなく苦しかった。


涙が頬を伝う。



「私は…怖かったのです、あなたが」

「……」

「私の心を見抜くその目が怖かった。すべてを悟るその視線が苦しかった。でも…隠し続けることのほうが怖く苦しいことに気付いた」

あなたのおかげで…夕鈴は右手を差し出した。まじない師は躊躇することなくその手を掴むと、堅く握りしめた。


「変わることを恐れては、前に進めない。あなたはそうおっしゃいました」

「はい」

「陛下にも同じことを言われた。どうして…ですか?」

「あなたにも陛下にも、前に進んで欲しかった、それだけです」

「陛下は…前に進むことを恐れていると?」

それはなぜ?


「それは…」

ふいに言葉を止めると、まじない師はゆっくりと拝礼する。
慌てて振り返ると、そこには陛下が立っていた。


「!?」

陛下は分別つかぬ表情を浮かべて、夕鈴を見ていた。


「陛下!いつからいらして…」

まさか会話を聞かれていたんじゃないか…夕鈴の呼吸は止まりそうだった。
告白を聞かれていたとしたらと考えると、いてもたっても居られない。熱くなる頬を長い袂で隠しながら、後ずさりする。


「夕鈴、待て」

芯のある強い声音に押されて、夕鈴の後退は止まる。否、足がすくんで動けなかっただけだ。
陛下は横目で夕鈴を眺めながら、ゆっくりとまじない師に近づいていった。


「顔を上げよ」

陛下の合図で顔を上げるまじない師。ふたりが見つめ合う様子を、夕鈴は直視できない。


「妃が私との逢瀬中に、慌ててお前の元に駆けていったので、心配になってな」

「あなたでも…誰かを心配されるようになったのですね」

「私を何だと思ってるんだ。血の通った人間だぞ」

「血は血でも、冷酷非情な狼の血では…」

「言うようになったな、よほど命知らずらしい」

「ご冗談を」

ふふふ…口元に手を当ててほがらかに微笑むまじない師。怖いもの知らずの発言を、夕鈴は茫然と聞き入っていた。まだまだ直視できないので、盗み見ながら。


「もう話は済んだであろう。そろそろ返してもらおうか?」

陛下はまだ固まったままの夕鈴を抱き上げる。


「きゃっ」

ふわりと視界が反転して、夕鈴は慌てて陛下の肩を掴んだ。


「え、陛下。ちょっ……」

離して!とは叫べずに、力なく抵抗する手を止めた。
どうせ離れたところで、心が解放されるわけではない。


「お妃さま。きっとお元気で、そしてまた来年お逢いしましょう」

陛下の背中に向かってまじない師が言う。
陛下はふんっと鼻を鳴らす。暗闇の中、足早に立ち去る陛下に抱きかかえられる夕鈴と、揺れるように消えていくまじない師。

再び逢うそのときは、もう占いなど必要ないのだろうか…。

月が揺らめく。
淡い陰影の向こうで、まじない師ひとり残して。














どうしよう…。
もうずっとそればかり呟いてる、もちろん声には出さずに。繰り返し、繰り返し。

陛下の心音が絹衣を通して鮮明に伝わる。いや、これは陛下ではなく私の心音かもしれない。やかましいくらい鳴り響くこの音色を、陛下には聞かせたくない。


「へ、陛下…」

夕鈴は声を絞り出した。陛下が答えることはない。


「陛下……」

ぴたりと進む足が止まった。

呼んだはいいが、なかなか顔が見れなかった。すぐそばにあるのに、目を合わせることはおろか、ずっと肩越しの景色ばかり見ていた。

いろいろ聞きたい。けど。怖くて聞けない。


「なぜ目を反らす?」

誰かに伝えることで解放されるかと思っていたが、余計苦しくなった。意識して口に出してしまうと、もう止められない。隠し続けたい、知られたくないのに…。

逃げられない。
止められない。


「陛下、降ろしてください」

「降ろしたら、君はまた逃げる。私のそばから」

「逃げません」

聞いて欲しいから。あなたに。
ゆっくり視線を合わす。困り切った瞳の彼に向かって呟く。


「もっと困らせちゃうかも…、でも。聞いてくれますか?」

久方ぶりに地に足をつけながら、夕鈴は尋ねた。


「君の言葉を聞かずに、誰の言葉を聞くんだ?」

ますます困り切った表情を浮かべた陛下に、夕鈴は肩をすくめて見せた。


「そんな顔しないでください」

「君こそ、そんな顔をするな。できれば笑顔が見たい」

「……」

偽りの、張り詰めたような笑顔を作ることは出来る。でも、あなたの前では本当の笑顔を見せたい。


「陛下。さっき、私たちの会話聞いてました?」

「聞いていない。聞こえただけだ」

「聞いてるじゃないですか」

夕鈴は、はぁ…とため息を漏らす。


「内容は?」

「内容までは分からない。ただ、君が泣いてたのは見えた」

「……」

一番見られたくないところを見てるし…夕鈴は再度ため息をついた。
でも…告白は聞かれてなかったみたい、良かったといえば良かったんだけど。直接、伝えなきゃダメってことね。

泣き顔をさらして気持ちを伝えるなんて、今さらながら恥ずかしかった。もし本人を目の前にしてたら…と思うと、倒れてしまいそうだ。

でも伝えたい。いいえ、伝えないと、ありのままの気持ちを。

隠し続けることはない、気持ちに蓋をすることはない。
自分の心を偽ることはやめた。


『変わることを恐れては、前には進めない』


まじない師は最後に教えてくれた。私の恋愛運。


『あなたの思い人との運勢は良好。努力は極めて吉となる』

努力すれば…なんとかなるのかな。
占いなんて信じてないけど、信じてみたいと思う。





「―――陛下」

「うん?」

「聞いてくれますか?」


私の気持ち。

つたない言葉でも、ちゃんと言えなくても、たとえ途中でくじけそうになっても。

最後まで伝えるから。





あなたが好き。












二次小説第62弾完了
すみません、お目汚ししました。やたら長く、ラブシーンも少なく、狼陛下ファンにとっては物足りない小説でした。ミケだけが満足しているという現状でございます(汗)ですが、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます
以前、陛下の気持ちを書いたときもやたら長く、暗く、退屈、という三拍子揃ったものになったのですが(“揺れる心と君と僕と”参照)今回もですね。でも、夕鈴が「好き」っていう自分の気持ちを口にするのは初めてです!書いててドキドキしました。最後は告白か…?という際どいシーンで終わってますが、その後は皆様の妄想にお任せします(←放置プレイ)

最近の雑誌を読んでいて、最終的には狼陛下と花嫁がどう結ばれるのか、ばかり考えてしまいます。本命としては、陛下からの告白なんですが、夕鈴から告白もアリだなぁっとひとりニヤニヤしています。いよいよ陛下の地位が盤石なものになり、本物のお妃さまを迎えることになったせっぱつまった段階で、夕鈴から思い切って告白。
「やっと気づいたの。あなたの隣を誰にも渡したくない…」と涙を湛えて告白。それか、「もうこれ以上心を偽って演技したくない…」と陛下の胸に飛び込む夕鈴。
あぁ、ピュア最高です!(笑)


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