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2011.11.10 (Thu)

狼陛下と子犬陛下

狼陛下と子犬陛下

サブタイトルは「あなたはどっちが好き?」です。
夕鈴目線で短文。

ではどうぞ。











「夕鈴って、おまんじゅうに似てるよね?」

ふいに言われた言葉に、夕鈴の顔が固まった。

ある日の昼下がり、後宮の妃の部屋へとやってきた陛下を、お茶とお茶菓子でもてなしていた夕鈴。
今日のお菓子であるおまんじゅうを手に取りながら呟く陛下を、訝し気に見つめ返す。


「今、……おまんじゅうって言いました?」

確認する夕鈴の顔は、かなり怒っていた。まずい雰囲気を察した陛下は慌ててフォローする。


「あっ、食べちゃいたいって意味じゃなくて、丸くて可愛いって意味だよ」

陛下は少し頬を赤らめながら答える。陛下の発言を聞き、夕鈴はますます怒りを込めた視線を向けた。
人間は食べられませんよ…と当たり前のことをさらりと答える夕鈴に、陛下はがっくり肩を落とした。


「そういう意味じゃないんだけどね…」

少し寂しそうに笑う。


「?」

「ねぇ、夕鈴。僕は?」

子犬の顔が突然目の前に現れて、夕鈴の鼓動がドキリと跳ねた。


「な、何がです?」

一歩後ずさりながら、夕鈴は尋ねた。


「僕は何に似てるかなぁ?」

「は?」

陛下はというと少しも動じることなく、夕鈴との間にあいた間合いを遠慮なく詰めた。
またまた至近距離で映る端正な顔に、夕鈴は赤面する。


「ちっ近いです!」

「何に似てるか答えて」

ぐいと腰を引き寄せられ、夕鈴は小さく叫び声を上げた。相変わらずの早技に、目をぐるぐる回しながらも夕鈴は必死に応戦する。


「近いですって。そ、そんなに近いと考えられないじゃないですか!」

夕鈴の抗議に陛下はちぇーっと舌を出して、拘束を半分だけ解いた。
まだ完全に解放されていない体勢のまま、夕鈴は熟考する。

陛下が似てるもの、似てるもの…。

陛下は今か今かと答えを待っている。朱色の瞳が真っ直ぐ注がれていて、落ち着かないとここの上ない。これは早く答えて離してもらわないと。


「えーっと…」

「うん」

「えー…陛下は」

「うんうん」

「……陛下は、ですね」

「うんうんうん」

「……王様っぽい…です」

「……」

すぐに微妙な表情が目に飛び込む。
やっぱり、ダメ…よね。予想通りの態度に、動揺する夕鈴。


「王様っぽいじゃなくて、僕王様だよ?」

「そうですよね」

笑ってごまかしてみたが、陛下は軽くため息をつくばかり。この答えでは納得などしてくれないようだ。


「夕鈴」

「はっはい。えーえーっと、陛下は…」

「うん」

わくわくと綻ぶ笑顔を間近にさらす陛下に、夕鈴の鼓動は激しく乱れた。本人は無意識でやってるんだから、タチが悪い。集中出来ない意識の中、夕鈴はそれでも懸命に陛下の似ているものを考えてみたが、一向に思い浮かばなかった。

そもそも王とは唯一無二の存在。陛下が似ているものなんて無いのではないか…。


「何何?」

そんな思惑とは裏腹に、嬉しそうに尋ねる陛下に、夕鈴は心底焦る。

とにかく!何でもいいから考えるのよ、夕鈴。

なかなか答えを出せない夕鈴の様子に、さっきまでの嬉しそうな陛下の顔が徐々に憂いを帯びる。
ほどなくして、たちまちしゅんと耳をたたむ陛下。夕鈴にとって最も苦手とする弱り切った子犬の出現に、慌てて陛下の手をぎゅっと握り締めた。


「―――へ、陛下はですね…」

「……」

「陛下は…」

「……」

「狼と子犬に…似てます」

何この答え。
一生懸命考えたにもかかわらず、陳腐な回答を披露する自らに落ち込む夕鈴。訂正しようにも何も言葉が出てこない。結局、あぁ…とか、えっと…とか曖昧な単語を呟きながら、陛下の様子を確認すると、陛下は黙したまま何かを考えているようだった。

怒ってる…?それとも落ち込んでる…?

沈黙が肌を指す。

陛下はしばらくどっちつかずの表情を浮かべた後、ゆっくりと夕鈴の頬に手を添えた。


「!?」

「質問を変えよう」

「…え?」

「君は…子犬の僕と狼の私、どちらが好きだ?」

「……は?」

夕鈴の顔を覗き込む目が鋭く光る。迫力オーラと共に現れたのは冷酷非情な狼陛下。すべてを見透かす眼光を前に、夕鈴は一瞬で言葉を失った。


「……あの」

「答えよ、夕鈴。君は子犬と狼、どちらが好みなんだ?」

「こ、ここここ…」

好み…!?
そんな…どっちが好きかなんて考えるだけで…。

卒倒しそう。

陛下は夕鈴との距離を詰める。迫り来る狼陛下に、夕鈴の鼓動がけたたましく鳴り響く。


「…へ、陛下。あの…」

「今日は君の好きな方で過ごそう。選べ」

有無を言わさぬ陛下の提案に、夕鈴は恐ろしさで身をすくめた。

え、選べない…選べないわよ!

子犬のあなたは本性で、狼のあなたは演技。本性を好きと答えるべきだけど、でも…でもでも。


「夕鈴」

低い声音で名前を呼ばれて、びくりと体が跳ねた。


「は、はい!」

「どっちだ…?」

どっち…どっち。私はどっちの陛下が――――。


「どっちも」

「…何?」

虫の鳴くようなか細い声に、陛下は眉をしかめた。見降ろすと、小さな小兎が俯いている。


「どっちも…好き」

ぼそり…と呟いて、夕鈴は顔を上げる。


「私は…どっちも好きです!選ぶなんて…選ぶなんて…」

無理!ビシッと指をさして、夕鈴は答えた。
差された本人は、口を開けてぽかんとしている。


「……」

「……」

やっぱり…ダメ?
でも、選べないもん。


「はははは」

沈黙が流れたあと、突然笑い出す陛下。今度は夕鈴が、唖然と立ち尽くす番だった。


「な、何…です?」

「ふふ。やっぱり、君はいいなぁ」

「?」

まだ困惑顔を浮かべる夕鈴を見て、陛下が手を伸ばす。力の抜けきった夕鈴の体を力強く抱き締めると、耳元で囁いた。


「夕鈴、僕も好き」

「!?」

途端に首筋まで赤く染まる肌を眺めながら、陛下が満足気に笑った。


「てっきり…子犬を選ぶかと思ったが…」

陛下の低い声が耳元に響く。いつもより艶っぽい美声が近過ぎて、腰を抜かす夕鈴。しなだれかかるように落ちていく夕鈴を、陛下は軽々と抱き上げた。


「狼も好きなんだ?」

かぁーっと耳まで真っ赤にする夕鈴に、陛下がまた笑った。声を抑えることなく盛大に。

そんな陛下の様子に憤慨する夕鈴。


「え、えええ選べないだけですよ!だって―――どっちも…」

「どっちも好きだから?」

「…っ…」

これ以上は熱でも出しそうだったので、陛下は質問を止める。
口元に笑みを浮かべながら、羽のように軽い夕鈴を腕の中でぎゅっと抱き締めた。










二次小説第63弾完

今回は短文です。コミック最新巻のおまけのページネタから、“夕鈴はおまんじゅう似てる”発言を使わせていただきました!固まる夕鈴…そして、家出危機再び…。巻末の四コマ面白かったですね☆
ふたりにはいつもラブラブで居て欲しいです。もちろん想いが届いた両想い後も、初々しい新婚カップルのように、見ているとドキドキして心拍数が上がってしまうほどに熱々なふたりで居て欲しい!と切に願っています
ちなみにミケはというと、狼陛下も子犬陛下もどっちも選べません。夕鈴同様に無理!です。(←どうでもいい情報 笑)皆さまはどっち派なんでしょうか?


22:49  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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