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2010.08.01 (Sun)

贈り物の奇跡Ⅱ

Ⅰのつづきです。









夜半になっても妃の部屋に現れない陛下に、侍女たちが心配そうに声を掛けて来た。

「お声をかけて参りましょうか?」

「ご政務がお忙しいのでしょう…今日はもう下がって結構ですよ」

「しかし…」

本当に気落ちした様子で声を落とす侍女に、夕鈴は心の中で溜め息をついた。


国王と妃の夫婦仲は良いに越した事はないが…

夕鈴はいつも、毎日のように妃の部屋に入り浸る陛下の姿を微笑ましく眺める様子の侍女たちを、どこか他人事のように見ていた。仮の妃だから実感がないのは仕方のないことだが、ままごとのような妃の生活に少しうんざりしていたのも確か。

嘘をついたり、演技したり…夕鈴にとって最も苦手な行為をするたび、近しい人たちに申し訳なくてとても心苦しい。

人を騙すのも平気でいるのも正直向いてない。



心の溜め息が侍女たちにも聞こえたのだろうか。

夕鈴の夜着の用意をする侍女たちの手が止まる。

「?」

「お妃さま、今宵は陛下のお部屋に参られるのはどうでしょう?」

そんな侍女の言葉に、まるで素晴らしい提案!とばかりに輝く目で夕鈴を見つめる数人の侍女たち。

侍女たちの様子とは反して、突然の提案に堅い表情の夕鈴。


「今夜はもう遅いし…やめましょう」

「大丈夫でございますよ、わたくし、陛下付の侍女に言付けて参ります」

「え!?」

「ではご準備いたしましょう」

「ちょっ」

止める間もなく慌ただしく動き始めた侍女たち。
夕鈴は結局、部屋から飛び出す侍女の後姿を一瞬とらえただけだった。


















「妃よ、来たか」

拝礼して僕の部屋にやって来た夕鈴は、とても疲れた様子だった。

侍女に施されたであろう、妃衣装の夜着を纏った彼女の肩を抱いて、僕は部屋の奥へと誘導する。

侍女たちを下がらせ、とりあえず椅子へと座らせた夕鈴の顔を覗き込むと、昼間喧嘩したときよりも酷い表情で僕をぼんやり眺めていた。


「大丈夫?夕鈴」

「陛下……遅くにすみません」

「ううん、来てくれて嬉しいよ」

「なぜか………いえ」

言いかけた言葉を飲み込む夕鈴。あんなに怒って頑固に口を聞かなかった彼女が、僕の部屋に来ることになった事情はどうであれ、今そばに彼女がいることが嬉しくて、僕は言葉の続きを聞かなかった。


「夕鈴、疲れてるんだね、今日はもう休もうか」

こくりと頷く夕鈴。

僕は夕鈴をそっと抱き上げた。いつもは恥ずかしがって嫌がって抗議する彼女だが、今日は違っていた。大人しく身を任せる彼女を不思議に思い見つめた瞳は、真っ直ぐ僕に向けられていて、どきりとした。


天幕を下ろし、ほのかな闇に包まれた寝台に夕鈴を横たえる。


いつもと違う様子の彼女に僕の鼓動が早くなる。

気だるそうに袂を引き寄せて、寝台に身を沈める彼女がとても艶っぽく見えて、僕はそっと頬に触れた。


「陛下?」

しまった…僕は慌てて手を離す。急いては事をし損じる…彼女の花の笑顔を失わず、気持ちを奪うにはまだ早い。


「おやすみ、夕鈴」

長椅子に向かうため、寝台から離れようとした僕の腕を夕鈴が掴んだ。


「!?」

振り返り見つめた夕鈴の瞳は、闇の中でも綺麗に輝いて見えた。


「どうした?」

二面性を隠していることを忘れ、狼の口調で夕鈴に近づく。夕鈴の身の震えが、僕たちを包む周りの空気を振動となって伝わった。


「座ってください」

寝台の端を指さす夕鈴。僕はその言葉に従い、腰掛けた。


「昼間の…かんざしのことですが…」

両手を膝の上で組んで、夕鈴はとたどたどしく言葉を吐いた。


「かんざし?お前が怒っていらないと言ったあのかんざしか?」

「はい……っとその前に、演技はやめてください!狼陛下」

「僕のはただ…いじけているだけだから、気にしないで」

僕は夕鈴に意地悪っぽく微笑んだ。その微笑みに少し安堵した様子の彼女が、意を決したように堅い視線を投げた。


「陛下、聞いてください」

僕はいつでも君の言葉を聞く。君の欲しいもの全て君に与えたいし、君がむける笑顔すべて、一人占めしたい。


闇夜に夕鈴の白い肌が浮かぶ。かすかに射し込む月明かりを受けて、長いまつげの陰影が映っていた。

寝る前にだけほどかれる夕鈴の長い髪が頬にかかる様子を見て、思わず手を伸ばした。
突然髪に触れられ、驚いたように肩をすぼめる彼女。

さっき無理矢理消した狼の心が炎となって灯る。闇夜が魅せる誘惑が、僕の体の熱を上げる。


さすがの夕鈴もこの展開はまずいと思ったのか、僕と距離を取ろうと身を動かす。

僕は逃げようとする夕鈴の手を引っ張り、そば近くまで寄った。


「何?言って」

暗闇なのではっきりとは見えないが、おそらく赤く染まった顔の夕鈴につぶやく。


「やっぱり、あのかんざしはすべて返却ください。過度な浪費はよくありません」

「君に贈り物をしたいと思っただけだよ」

「前にも言いましたが、私は仮の妃、臨時花嫁です」

だから何?君は確かに臨時花嫁だけど、僕は本気で君が好きなんだ。そんな君に贈り物をしたいという僕の心はきっと間違っていないよ。


「そんなに僕の贈り物は嫌だった?」

「そうじゃなくて……私は陛下のために申し上げています、陛下がお使いなさるお金はすべて、国の民たちが汗水流して働いて納めている税金です。もっと有効なことに、為になることにお使いください」

「歴代の王たちが、寵妃たちに豪華な装飾品を贈って贅沢し放題だったことは知ってる?王とは皆、愛する妃の喜ぶ顔が見たいと競って贈り物するものだよ」

「それは本物のお妃であって、私は…」

「本物じゃない?」

僕は、夕鈴の頬に触れた。

普段の僕なら彼女の言葉に素直に頷き、考えを改めるところだったが…今夜の僕はそうじゃなかった。彼女が頑なに言い続ける本物の妃じゃないという事実に、僕の耳が受け入れることを自然に拒んでいたから。


ならば本物の妃にしてしまおうか。君が本物の妃なら、何も問題ない。


「陛下」

「ただ僕は君の喜ぶ顔が見たかったんだ、僕は君をただの臨時花嫁としてなんて見てないから」

「……」

僕は言葉を失った夕鈴にゆっくり顔を寄せた。
彼女が醸し出す内面の美しさすべて僕の中に取り込んでしまったら、彼女の気持ちも分かるかもしれない。

ゆっくりと目を閉じたそのとき、小さくすするような泣き声が耳に入った。



「陛下は分かっていらっしゃらないわ、私は贈り物が欲しいのではありません」

瞳に涙を溜めて呟く夕鈴に、僕の心は乱れた。贈り物が欲しいのではない…じゃあ君が欲しいのは何だ。


「夕鈴」

「……贈り物が欲しいのではありません、私は…私は…」

僕には聞こえたような気がした。
贈り物が欲しいのではなく、僕の心が欲しいのだと。


「もういい」

涙でしゃくりあげながらも、僕を真っ直ぐ見据えて話す夕鈴に僕の心が先に折れた。僕は夕鈴を抱きしめる。


「君の言うとおりだ。かんざしは返却するよ」

「本当ですか?」

「うん、本当」

「良かったぁ…」

ほっと息を吐く夕鈴。
その態度にちくり…と心の棘がうずいたが、そんなことは気にならないほど僕の機嫌は良かった。

今宵の収穫は大きかった、なんせ君の気持ちも聞けたしね。

僕は腕の中の夕鈴をぎゅっと抱きしめ直した。適度に柔らかい感触が心地よくて手放せない。


「ちょっ…陛下、そろそろお離しください」

「贈り物は出来ないから…僕の気持ちだよ、夕鈴」

「は?何言ってるんですか?」

夕鈴が困ったように答える。


あれ、この返答は何だ?


僕はそろそろと手放した夕鈴の顔を見つめると、疑問だらけの表情で彼女が見返してきた。


「だから…えっと、贈り物が欲しいんじゃないんだよね?君は…贈り物が欲しいんじゃなくて…」


僕の心が欲しいんじゃないの?


「はい、借金を早く完済したいです」

「え?」

何を言っているのか理解できない。夕鈴の話に付いて行けない。


それよりなにより…さっきまでの色っぽい展開はどこいった?


「今回のかんざし、購入されたら私の借金になるって聞いて…」

「……」

「ごめんなさい陛下、少しきつく言い過ぎました。借金もあったけど、やっぱり浪費は良くないから、それも含めて説得したんですよ」


『贈り物が欲しいんじゃなくて…借金を早く完済したいんです』

おかしいと思った。
闇夜に狼を寝台に近づけるリスクを犯してまで、君が必死で止めようとした理由。

本人は無意識かもしれないけれど、女の武器を使うあたり腕を上げたものだ。


君の言いたかった言葉の続き、できれば聞きたくなかったなぁ…なんて、嬉しそうに笑う君には言えない。


「借金のこと、誰に言われたの?」

「李順さんです」

あのメガネ…僕は拳を握り締める。狼陛下なら、ばっさり首をはねてるところか。

普段はとても優秀だが、夕鈴のことになると途端警戒の目を向ける神経質な側近の顔を思い浮かべる。

まさか…


「僕を説得するように言われた?」

「はい」

ごめんなさい…申し訳なく夕鈴が呟く。

なるほどね…じゃあこれも李順の入れ知恵か。どうりでいつもと様子が違うと思った。


僕は深く嘆息した。
心の嘆きまですべて吐き出して楽になりたかったが、彼女の前でそんな情けない姿はさらせない。


「でも、借金は別にして…本当に贈り物なんていらないんです、こうしてお話してるだけで楽しいですから」

ね、陛下…と花のような笑顔で僕に同意を求める彼女。

あーその笑顔、反則だよ夕鈴。僕じゃなきゃ、それこそ押し倒しているところだ。





「それ…僕以外の他の誰にも言わないでね」

夕鈴の可愛らしく笑う表情に、僕は満面の笑顔で答えた。







後日

李順の部屋では、狼陛下の怒声がしばらく響き渡っていた。









二次小説第6弾完了です

結局好きな子に贈り物をしたかった陛下が書きたかっただけです(笑)

「狼陛下の花嫁」もいつの間にか6話目、読み返してみるとつたない文章にへこみますが、暖かい目で見守っていただけると嬉しいです。

励みになりますので、気に入っていただけた作品は拍手お願いします。





23:03  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●くっは~~っ

こんばんは、またお邪魔しました。
いやー・・・・・いいですねえ(うっとり)
切ない陛下がいい!
はしごはずされちゃう陛下がいい!
夕鈴にめろめろでふりまわされまくりの陛下がいい!
しかも夕鈴は無自覚って・・・どんだけ萌えさせてくれるんですかミケさまあなたという人は・・・!
思わず会社帰りの最初の一杯を飲み干したサラリーマンみたいな声出ちゃいましたよ!?
深見 |  2011.08.19(金) 20:31 | URL | 【編集】

●コメントありがとうございます!

こんばんは、深見さま。
続けて遊びに来てくださり嬉しいです!
コメントのタイトルに笑わせていただきました(笑)

これまた、なが~い作品読んでいただきありがとうございました☆
萌えましたか!やはり深見さま!萌えポイントを分かっていらっしゃる。

好きな子へのプレゼントは喜んでもらいたいものですよね~でも夕鈴は普通の女の子と違うので、そう簡単にはいきませんよね。そこがもー激しく萌えます~無自覚夕鈴最強!ふふふ。

書いててニヤニヤが止まらなかった作品のひとつです(←まだ何個かあります 笑)
ミケ |  2011.08.19(金) 23:16 | URL | 【編集】

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