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2014.06.15 (Sun)

君がくれた愛しい時間Ⅰ

君がくれた愛しい時間


約2年ぶりの更新小説です!
長文ですので、休憩を挟みつつお読みくださいね。
つたない言葉遣いの駄文ですが、読んでいただけると幸いです。

ではどうぞ。

【More・・・】

「行ってらっしゃいませ」

腰を折って拝礼する夕鈴に僕は笑顔で頷く。
何度となく見慣れた光景だったが、見送ってくれる者が居ることが嬉しくなる。見送りの相手が夕鈴であるから、余計にその気持ちは強い。

「お仕事頑張ってください」

「あぁ・・・」

しばし可憐な笑顔を眺めた後、僕は恒例となりつつある朝の日課を披露する。

「君と逢えない時間は誠寂しい限りだ、出来ることならこのまま連れ去りたいくらいだ。」

甘く囁き、華奢な腰を引き寄せる。と、すぐに真っ赤に染め上がった夕鈴がぎこちない微笑みを作る。お馴染みの展開だ。

「君の花のような笑顔を見つめながら仕事はできないものか」

さらに甘く責める。いたたまれなくなった夕鈴はきっと僕を追い出そうと焦るに違いない。この後の展開を予想してほくそ笑む僕。だが、この日の夕鈴はいつもと違った。

僕を追い返すそぶりなどせず、自ら身を寄せてきた。僕はあり得ない態度に驚く。ぽかんと口を開けて見つめる僕に向かって夕鈴は、私も同じ気持ちです、とはにかんだ。演技自体はぎこちないままであったが、仲良し夫婦として自然な演出。
僕はひとつ咳払いすると心を落ち着かせた。

いつものプロ妃根性かな。

愛らしい兎の密着に嬉しい反面、ちょっと困る。越えそうで、でも越えない距離、このままではずっと守ってきた領域を侵してしまいそうだ。一旦引くべきだと頭の中で警鐘が鳴っている。だが、負けず嫌いな性格は災いした。ここで負けるわけにはいかないのが僕だ。

最近の僕の夫婦演技の主な目的のひとつに、「夕鈴の限界を知ること」があった。朝から頑張る夕鈴の姿は好都合なことこの上ない。ここは引くべきではないな。
僕は夕鈴の態度に騙されないように、慎重に続ける。

「愛らしいな、このまま連れ去りたいものだ」

より密着を深め、夕鈴を抱きしめる。
夕鈴からは洗いたての絹衣の香りがした。色に例えるならば純白。混じり気のないまっさらな白。夕鈴に抱くイメージは出会った頃と変わらない。

「私も、おそばに居たいです」

赤面顔をさらに朱色に染めて夕鈴は答えた。よせばいいのに、僕とゆっくり目線を合わせる。間近で見る夕鈴は捕食前のウサギのようにビクビクと震えて見えた。夕鈴の脈打つ心音が聞こえる。息遣いも鮮明だ。これほど近くに居ながらも縮まない距離は昔と変わらない。だが明らかに昔と違う。
今にも逃げ出したいような少し前の演技中の夕鈴とは明らかに違う。

これは‥縮めようとしているのか、僕との距離を。ただ演技をこなすのではなく、演じようとしているのか、狼陛下の花嫁を。

慣れないながらもたいした進歩に、僕は感嘆した。

「陛下…?」

夕鈴の呼びかけにはっとなる。つい見とれて黙ったままの時間が長かったようだ。不思議な表情を浮かべる夕鈴に軽く微笑みかけ、口を開いた。

「このままでは遅刻してしまうな、また君に逢える刻を待つこととしよう」

僕はゆっくり身体を離す。途端に夕鈴と僕の間に冷たい風が流れたように感じた。こんなときに思うのは夕鈴を手放したくない気持ち。今まで幾度となく望んだ気持ちは一度も口に出したことはない。自分自身にさえも。
真の気持ちは心の奥底にしまい込んでおくものだ、その気持ちが強ければ強いほどより強固に。それは僕に課せられた責務だ。

この関係がいつまでも永らえることを祈り、僕は今日も口を閉ざす。

「行ってくる」

「はい」

妃の顔を作る夕鈴の表情は読み取れない。これほど近くに居るのに読めない君、だがこの距離を決めたのも僕だ。

僕は最後に夕鈴を一瞥し、妃の部屋を後にした。












「しばらく後宮へは行かないよ」

筆を滑らせる小さな音だけが響く書庫。
長々とどこまでも続く書巻の中程まで読み終えた僕は、おもむろに言い放った。
僕の宣言に、側近は予想通りの反応を示した。

僕の側近は冷静かつ慎重。急にどうしたと詰め寄り、夫婦喧嘩の仲裁を買うようなことはしない、どこかの老師みたいに無鉄砲ではないのだ。

「左様ですか。三日後の催しの席ではしっかり演技をしていただきますように」

淡々と答える李順に思わず笑いが漏れる。僕の乾いた笑い声を聞き、李順が顔をしかめる。

「喧嘩ではないようですが、ギクシャクした演技をされるのは偲びないため、それまでには関係改善をお願いしますね」

念押しするところがあざとい。

「悪くないのに改善も何もない。後宮に行かないのは違う原因だ」

「では‥」

開きかけた李順の言葉を遮るように付け足す。

「仕事が忙し過ぎるほどでもない。宰相から追加の案件は渡っていない」

ちらりと書巻の山を見る。すでに8割方終了していた。

言わなくとも分かることだ。僕の仕事量は側近である李順が一番知っている。
李順の眉間のシワが一段と濃く刻まれるのが見える。

「夕鈴殿の役割を忘れてはいらっしゃることはないでしょうが、何か考えがあるならばお聞かせください」

「むろん駆け引きだ」

「は?駆け引き?」

「そう、これは駆け引きだよ。夕鈴と僕の」

浅く息を吐いて、筆を置き書巻の端をくるくると丸める。きっちり留め具で止めて、書巻の山の中に無造作に放り込んだ。

「はぁ、左様ですか。その駆け引きとやらはいつまで続くのでしょう」

「期限を設けないから駆け引きなんだ」

「期限を区切っていただくことで小言を言わずに済みます」

「小言を言うつもりか?」

「当たり前です。夕鈴殿の役割を履き違えないでいただきたい」

「臨時花嫁だろう?知っているよ」

「ならばなおのこと、彼女に仕事をさせてください」

「むろんそのつもりだ」

「?」

「夫婦生活の研鑽は演技の深みに繋がる。これは立派な仕事だ」

「理解しかねますが」

「しなくて良い。これは僕と夕鈴の勝負だから」

不敵に笑う、心底呆れ顔の側近の顔を見やりながら。

「陛下、善良で何も持たない彼女に、これ以上の過度な行為は酷かと」

深く長いため息の後、李順は呟いた。眉間に深く刻まれたしわが、形が残るほど鮮明で、怪訝さを強調している。

「過度な行為?僕が何をしたというのだ」

「どの口が言うんですか。何度でも申しますが、いずれここを去る娘にその入れ込みは尋常ではありません」

くすっ。
お決まりの説教に、僕は笑いを漏らす。

「笑い事では…」

「あぁ、笑い事ではないな。だがこれは、お前に笑っているのだ」

他ならぬお前に。

ヒヤリとした視線を寄越すと李順の顔が少し歪む。

「とんだ思い違いだ、ただ私は、楽しんでいるのだよ、彼女とのやり取りを」

「………」

「私の楽しみを奪う気か。余計な苦言は要らぬ」

冷ややかな言葉と態度を無言で受ける李順。やっと大人しくなった側近の姿に、僕は満足気に立ち上がった。

「本当に余計なこと、ですか?」

去り際に放たれた質問は半信半疑。その声音はまだ疑いの色を濃くしている。

その問いに何の意味があるのか、確かめたところで、気持ちが止まることはない。

李順の言うように僕は善良で何も持たない彼女に入れ込み過ぎている。言葉を返せば、心優しい彼女の気持ちにつけ込んでいる。

つくづく嫌な性格だな。

僕は無言のまま政務室を後にした。










後宮の妃の部屋。

掃除婦バイトもやり切った昼下がり。お菓子にと用意された砂糖菓子を頬張り、夕鈴はため息を漏らした。今日も渡りの無い陛下。仕事が立て込んでいるのか気が向かないだけか、後宮に備えられたただの飾り物である下っ端妃には知る術もない。
最近は何となく政務室通いも足が進まない。何故かと言われるとお茶を濁したかのような答えしか出せない。プロ妃を目指す途上の夕鈴にはあってはならないことだから。

自信が無いのだ、演技をする自信が。糖度を上げる彼の演技に答えたいと、もっともっと近寄ろうと力を入れかけた矢先だ。近くなればなるほど境界線が曖昧になっていく距離に不安を感じるようになった。間違えないように隠していた気持ちが、自分でも気付かぬうちに溢れ出ている。

だから、演技後の罪悪感が止まらない。不安に押し潰されそうになる。それに拍車を掛けるように、陛下が姿を見せなくなった。ますます不安が増す。

ぱくり…甘いお菓子も心を癒すには足りない。
でもせっかく用意されたものなので、夕鈴はせっせと口に運んでいた。

「なーに、辛気臭い顔してんの?」

明るい声に驚くと、隠密が姿を見せていた。この隠密、タイミングを見計らったかのようにいつも現れる。明るい性格に人懐こい笑顔。謎に満ちた隠密という仕事の概念を変えた男。
陛下が気楽に付き合える彼を夕鈴も信頼していた。
見た目に似合わず強く、適度な距離で付かず離れず気配を見せず、危険察知力はずば抜けて高い。危機的状況には必ず姿を見せるたいへん優秀な狼陛下の隠密だ。唯一の欠点は、隠密のくせに正体を見せ過ぎなところか。

何か用か、と言わんばかりに軽く睨むと、舌を出しながら近付いて来た。周囲を引っ掻きまわすことが好きな彼には注意が必要だ。

夕鈴はなんでもないわよ、と答えた。

「最近政務室には行かねーの、プロ妃、頑張るって意気込んでたじゃん?」

核心を突く質問に思わず咽せた。喉に詰まったお菓子を慌ててお茶で流し込む。

「陛下も全然来ないしさー、また喧嘩?」

「喧嘩なんて!」

してないと思う、たぶん…脱力しながら答える。

「じゃあ避けてんじゃね?理由は知らないけどねー」

明るい口調がだんだん腹立たしくなってきた。

避けてないし、避けられてもいない、だって理由が無いもの。私の一方的な気持ちの問題よ。

「ちょうど今から政務室に向かおうと思ってたの!」

夕鈴は勢い良く立ち上がると、食べかけのお菓子を口に放り込む。呆れた顔で隠密が見ていたが気にしない。その勢いのまま、戸口を開け放ち自室から飛び出した。

お仕事お仕事、私は仕事をするためここに居るの。センチメンタルな気持ちなんて要らない。不安を感じている暇ないくらい仕事に打ち込もう。

決意新たに、回廊を進んだ。









「申し訳ありません、陛下は今席を外しております」

政務室に着いた矢先、陛下の不在を知らされた夕鈴はがっくり項垂れた。せっかく固めた決意が宙ぶらりんになり、仕方なく引き返そうかと踵を返したところ、馴染みの官吏と目が合う。

柳方淵。今は逢いたくない人だ。

「こんにちは、柳方淵殿」

とりあえずにこやかに挨拶したが、睨まれてしまった。

「このようなところで道草を食っていて良いのか。よほど暇かと見える」

「まぁ、ご忠告痛み入りますわ」

いつもの嫌味攻撃をさらりと交わす。お馴染みの光景だ。

「陛下は王宮にて軍部との会議だ。顔を出してお邪魔はなされないよう」

釘を刺すことを忘れない、つくづく陰険な男だ。

「後宮に戻るところですわ、ではごきげんよう」

妃笑顔を固めて答えると、不思議そうに見つめ返された。

「?」

「なにやら最近…」

「……??、何か?」

いつもにはない、引き止めようとするかのような呟きに夕鈴も不思議に返す。

「これはお妃さま」

二人に割って入るかのように氾水月が現れた。

優美な仕草は親譲りか、空気のピリピリ感が洗浄されていくようだった。

せっかくいらしたのですからとお茶を薦める水月に、方淵がつっかかる。

「貴様は陛下不在の政務室でお茶会をしようと言うのか」

「ささやかな休憩だ、お茶会ではないよ」

「陛下が働いているときに部下が休憩しようというのか」

「陛下だって不眠不休で働いているわけではないよ、私たち補佐官も同じこと。君、朝から働きっぱなしで大丈夫かい?」

水月は信じられないと、肩を落とした。

「貴様ほど柔ではない。休憩など取らぬとも平気だ。貴様は一度倒れるほど仕事してみろ」

あー始まった、お馴染みの光景だがどこか懐かしい。二人の喧嘩をなんとかしたいと仲裁役を買った当時を思い出す。

くすり、と笑みがこぼれる。良い意味で変わってない二人。

私たちも何ら変わりないはずだ。

「あなたはこんなところで笑っている場合か、さっさと後宮に戻られよ」

怒りが頭に登った方淵が、今度は夕鈴に攻撃してきた。

慌てて緩めた顔を引き締める。

「言われなくても戻ります」

気合入れて来たのに空振りか、残念…。

背中を向けた夕鈴に掛かる意外な言葉。

「この後夕刻には戻られる予定だ、何か用があるのなら、その時間にしろ」

これには水月も驚いたようだ。二人顔を見合わせる。

「何だ?二人して間抜けヅラか」

そう放った方淵が一番、彼らしくない間抜けな顔を見せていた。









方淵のアドバイス?通り、夕刻になり再び政務室に向かおうと用意する夕鈴に、意外な人物から呼び出しがあった。
指定場所に姿を現すと、出迎えた相手は盛大に不景気な顔をしていた。

「お妃さま」

「周宰相、お呼びたてでは…?」

呼び出しておいてなんて顔だ。予想以上に不吉な表情に、来たことを後悔する夕鈴。

「いけませんね、簡単に呼び出しに応じては」

「はい?」

とりあえず席を勧められたので着席する。夕鈴が呼び出しを受けたここは、政務室にほど近い書庫。狼陛下愛用のこの場所に官吏が来ることはめったにない。馴染みの場所故、さして疑いもせず顔を出したのだが、まずかったらしい。軽くお説教されてしまった。

手紙の差出人が偽装であればどうとか、一介の家臣の呼び出しに応じて危害を加えられたらどうとか。

軽いお説教のはずが、不吉発言連発に頭が痛くなってきた。

もー今日は説教ばかりだわ。

「妃らしからぬ言動であったこと、深く反省いたしますわ。で、何のご用でしょうか?」

とにかく不吉な説教を止めたくて、先を促すと、陛下からの伝言を伝えられた。

「明日の夜ですか?」

「はい」

「突然またなぜ?」

「驚いた顔が見たいとかなんとか。陛下の心情は理解しかねますが、あなたに直接伝えないのは楽しみを取っておくからだとのことです」

「楽しみ?何か楽しいことなのでしょうか」

「さぁ、それは私も聞いておりません。直接お尋ねください。あぁ、陛下は今宵は王宮から戻らないそうですので、明日の夜、お迎えに上がりますよ」

用件だけ伝えてさっさと出て行こうとする宰相を呼び止める。

「あの、よく分からないんですが」

今の説明でどう理解しろと言うのか。

「私も同意見です。何故お妃さまへの伝言を私に仰せ仕えたのか。適材適所とは到底言い難く…」

「いや、そこではなく」

「お妃さま、申し訳ありませんが多忙の身ゆえこれ以上の宴会芸を披露できかねます」

「はい?宴会芸!?」

「失礼」

バタン、閉じられた扉を呆然と眺める夕鈴。

あの冷酷非情で人々から恐れられる狼陛下の部下。さっぱり理解できない者達ばかりなのはなぜか。

一番理解できないのは、やっぱり狼陛下だけど。



Ⅱに続きます。

17:40  |  離宮・王宮の外編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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