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2014.06.22 (Sun)

君の還る場所へ

君の還る場所へ


陛下目線と夕鈴目線混雑です。ころころ画面が変わります!夕鈴好き好き陛下の姿を堪能できたら良いです☆

それではどうぞ。

【More・・・】

「お待ちくださいませ、お妃さま」

耳に入る言葉に、僕はピタリと歩みを止めた。
後宮へ向かう回廊を進む途中。今ちょうど僕が逢いに行こうとした目的の人物を呼び止める声に違和感を感じる。この時間は部屋で寛いでいるはずだが…、夕鈴のスケジュールを知る僕は顔をしかめた。

聞き間違いかもしれない、女官たちの声が響く方角に耳を澄ませる。

「お妃さま、わっ、わたくし達が先に参りますー」

間違いなく僕の妃を呼ぶ声だ。女官たちの珍しく大きな声に、何事かと心配になる。
どうやら王宮にほど近い、中庭から聞こえているようだった。
僕は反対方向に向き直ると、騒ぎのする方へ足早に向かった。










「私はこちらです」

「お妃さま。お待ちくださいませ…と」

「すみません」

謝る夕鈴はさも気にした様子もなく、たった今見つけたばかりの木の実を手に、女官たちに広げて見せた。

「ザクロの実が。私、これ大好きなんです」

言い終わらぬうちに口に運ぶ。

「いっいけません」

「ただの木の実ですよー。あなたも食べませんか?」

甘ーい、と嬉しそうに呟きながら、今度は女官たちに勧めた。

「今が旬だからとっても甘いですよ。あっあんなところにもある!」

夕鈴が指さした方を見て女官たちはぎょっとした。熟れて真っ赤に膨らんだザクロは、到底届かない木の上にある。

「わっわたくし達が取ります」

「え?ダメよ、怪我しちゃうわよ」

「お妃さまこそいけません!お怪我なさいます、大切なお妃さまの身に何かあれば…」

「私は大丈夫です」

慣れてるし…という言葉は伏せつつ木の実との間合いを測る。ジャンプしたら取れなくはないが、確実に取る為には木に登る方が得策か。

久しぶりの木登りをイメージして、ワクワクと心が跳ねる矢先、女官にぴしゃりと注意を受ける。

「木登りなんて絶対ダメですよ。後宮のお妃さまは木登りなさいません」

「………」

出た、後宮の妃像。

思考を言い当てられてしまい、夕鈴は残念そうにため息を吐いた。最初こそ、およそ妃にはありえない奇想天外な行動が読めないらしく、夕鈴が動くより前に止められはしなかったが。

女官たちは夕鈴の行動に見慣れてきたようだ。夕鈴が何かする前に必ず注意が入るようになった。

「手を伸ばせば届くかしら?」

「家臣に頼みますので、少々お待ちください」

「そんな、、、」

煩わしい段取りを立てる女官を無視し、思わず手を伸ばす夕鈴。

「おっおやめください、お妃さま」

悲鳴のような叫びが届く。

焦って制する女官たちに阻まれて、これ以上手を伸ばせなかった。

「さぁお妃さま。後で届けさせますので、そろそろお部屋にお戻りください」

心配顔で言われてしまい、夕鈴の遊び心はどんどんしぼんで行く。

「ですが…まだ散歩中ですし」

「そろそろ陛下がお戻りでございます、お部屋でお迎えしなければ」

にっこりと交互に微笑む女官たちを複雑に見つめ返す。
有無を言わさぬ笑顔だ。容姿端麗な貴族の娘達に、全く非のない笑顔で迫られ、従わざるおえない。

「そうですか…」

名残惜し気に一瞥。夕鈴が目を向けたザクロの実はもうそこには無くて…。

あれ?

「今あそこにあった…はず?」

まばたきを繰り返し見つめ直すが、先ほどまでそこに確かに実っていたはずのものが無い。

「ねぇ…あそこに…」

気付くと女官たちが一斉にかしずいていた。


「この実か…?」

「!?」

耳元で囁かれる低い声。

目の前に差し出される実は、先ほど夕鈴が取ろうとしていたもの。

「うまそうだ…」

「陛下…」

ようやく声を出した夕鈴は、真っ赤に熟れて美味しそうな香りを発する果実を受け取った。


















「散歩にしては随分と遠くまで来たな…」

夕鈴の住まう室よりは幾分離れたこの中庭は、あまり人が近寄らない場所として認識されている。後宮の妃が来るには珍しい場所であろう。

「たまには違う場所も良いかと思いまして…」

「良い判断だな、おかげで君に早く逢えた」

たっぷりと甘い顔を浮かべて、夕鈴を抱きしめる。

甘い芳香に気分が良くなる。腕の中の夕鈴は照れた表情で、熱い抱擁に耐えていた。

「やはり君に逢わずには仕事にならないな。午後からは政務室に顔を出して欲しい」

手触りの良い髪を一房手に取り、笑顔を向ける。

「は、はい…」

ぎこちなく微笑む夕鈴。この初々しさを披露してくれるたび、心が癒される。

頬に手を当ててしばらく夕鈴を堪能した後で、手の中の果実が気になって来た。

そういえば自ら取ろうとしていたんだっけ。

「その実は美味しいのか…?」

「はい、とても甘酸っぱいですよ。陛下も召し上がられますか?」

差し出された時の表情を見て、ふいに笑いが漏れた。夕鈴の顔こそ甘酸っぱい。嬉しそうな照れたような…眩しさで溢れている。

なんと愛らしいことか。

思わず抱き寄せて額に口付けを落とすと、手の中の実よりもさらに熟して赤くなった兎が、小さく睨んでいた。














「は?何の話だ」

僕は怪訝な顔で側近がもたらした話題を一蹴した。

「とぼけないでください。女官長から報告は受けております」

僕の態度に負けずに、李順ははっきりと追求する。

「その報告は何から何まで誤りだ。そんな事実はないよ」

頑なに否定するが、この側近はそう簡単に引かない。

「お立場も考えていただかないと。王宮にほど近い場所ですわので、誰かが見ていないとも限りませんし…」

李順が訝しそうに話しているのは昼間の一件だ。
どうやら、妃の手から果物を食べるのを女官長に見られていたらしい。そもそも庭とは遠くで見て楽しむものであり、散策したり、木に成った果実を毒味もせずに食べたりはしないそうだ。

本来ならば正妃でもない者が王と共に食事することも禁じられている、などと時代遅れな悪習を今なお信じているような輩だ。

確かにそれが王宮のルールかもしれないが…。たかが果実ひとつに煩わしい。

「相変わらず、窮屈なところだ」

僕はため息ひとつ、狼の不機嫌オーラ全開で形ばかりの約束をする。

「もうしない。女官長にもそう言っておけ」

「……今回の件、良い機会だと女官長自らお妃さまの教育をなさりたいと申し出がありました」

「それは許さない。彼女を拘束して良いのは私だけだ」

首を振る。
彼女の花の笑顔が失われる事態は避けたい。

「ですが…」

「教育だと?妃像を改めるべきではないか。女官長は古くからの伝統に固執していると見える」

これだから古参の者は融通が効かなくて困る…現在自らを取り巻く環境にも当てはまる案件に、嫌な気分が増す。

「そうも言ってはいられませんよ。女官長の教育はやんわり断るとして、夕鈴殿には、私から言わせていただきますよ」

「?」

「以前より、妃付の女官たちから、夕鈴殿のおてんばすぎる行動に心労が絶えないと聞いております」

李順の発言に吹き出す。

「おてんばすぎる…ね」

実に夕鈴らしい。

「活発で行動派、着飾るよりもせわしなく動き回るのを好む妃だ。およそ例の無い後宮に住まう妃ゆえ、苦労していることだろう…」

「毎日がハラハラどきどき。身の縮む思いが増えた、とか」

「はは、なるほど」

盛大に笑う。笑い事ではないと李順の目が尖っていたが気にせず声を出した。

面白くて予想外。

そんな夕鈴が堪らなく好きだ。

「女官たちの声はもっともかと。楽観視もできません。活発に動き回る結果、よく擦り傷を作っておられるのはご存知でしょうか?」

李順の問いかけに、笑いが止まる。

「擦り傷?」

「主に庭を散策したり、掃除婦バイトを頑張り過ぎて…。料理で火傷した事例もあるそうです」

「なぜ報告しない?」

じろり…と睨む。そんな大事なこと、秘匿していたとは大問題だ。

「私も今日知ったのですよ。あまりにも女官たちが心配するので、いろんな者に聞いて周り、知り得た情報です」

「……」

多少の擦り傷でいちいち心配をする過保護な僕ではないが、知らないところで傷を付けている事実が嫌で、顔をしかめた。

しかも掃除婦バイトだ、僕はまだ認めていない。

「夕鈴殿には、より後宮の妃らしくなっていただくためにも、もう少しおしとやかさを身につける勉強をさせましょう、私から彼女に伝えます」

「いや…」

李順の提案を即座に断る。

「それは私の役目だ」

彼が二の句を告げる前に即答した。




















今朝も自ら身支度を整えた夕鈴は、女官たちに挨拶すると、鏡面の前に腰掛けた。

「今朝の御髪はどんな感じにいたしましょう?」

「いつも通りで良いです」

お決まりの言葉を述べつつ、窓枠から差し込む日差しに目を細めた。

「今日も良い天気。政務室に立ち寄る前に花摘みをしましょうか…」

何気なく同意を求めた夕鈴は、女官の顔を見て驚いた。いつもの笑顔はなく、悲しそうに眉根を寄せている。

芳しくない表情に何事かと視線を送ると、女官たちが目配せして同時に拝礼した。

「…?」

「お妃さま、今日はお願いがあります」

「な、何でしょうか?」

突然改まるふたりに動揺する。

「輿に乗っていただきたいのです」

「こし?」

こしとはあの御輿のことか?移動手段に使う。
尋ね返すと御輿のことで間違いなかった。

女官たちの話によると、自由奔放に動き回る夕鈴が心配でならないので、移動の時だけでも輿に乗って欲しいそうだ。

冗談じゃない。

常日頃思ってきたことだが、ここの女官たちは妃を心配しすぎだ。

「大げさですよ…」

「しかし、心配でなりません。先日も、わたくしたちの管理不行き届きでお妃さまにお怪我を…」

「管理不行き届きなんて」

先日、ちょこっと擦り傷を作っただけで予想を越えた騒ぎになってしまった痛い記憶が蘇る。狼陛下の唯一の妃とは、軽い怪我ひとつ、大事になるらしい。

「わたくしたち、深く反省しております。女官長にも厳しいお達しを受けましたし、もっと気を引き締めてお妃さま付きの女官を勤めなければならない…と、肝に命じました」

「いやいやいや。そんな気を引き締めることではありませんよ」

話がおかしな方になってる。
女官長の話になり、夕鈴は慌てた。

「女官長の言ったことは、あまり分かりませんが…気にしないで欲しいわ。あなたたちはこれまで充分勤めを果たしていますよ、私は感謝してます」

「感謝だなんて…」

涙目になる女官たち。よっぽど女官長にキツく怒られたのではないか、と心配になる。彼女は誰に対しても厳しい。下っ端妃である夕鈴にも容赦無いため、かなり苦手としている。

多分陛下もそうだ…。

陛下が苦手とする王宮の曲者達に雰囲気が似ている。

今までも女官長から横槍が入るのは頻繁で、いつものことかと慣れていたつもりであったが、この要望だけは聞き入れられない。

輿に乗って後宮を移動する自らの姿を想像して、寒気がした。

人間、地に足付けて生きていくべきである。
ひとりでに納得すると女官たちに向き直る。

「と、とにかく輿には乗りません。私は歩くのが好きなんです」

「でも…」

「それにあんな重いもの、担ぐなんて大変」

「まぁお妃さま、そこは心配いりません」

朗らかに笑う女官を見て、しまった…と肩をすくめる。

「そ、それに!輿は安定性が無いと聞いたことがあります。恐ろしくて乗れませんわ」

「まぁ、それはそうですわ…ね」

「そうでしょう」

「確かに危ないかもしれませんね。籠の方が良いかもしれません」

「か、籠は屋外で使用するものです」

「お妃さまがルールを変えてしまわれれば大丈夫ですわ」

「私はその立場にありませんよ」

「……失礼しました」

珍しく失言する女官。
表面上、陛下からの寵愛を一身に受ける唯一のお妃であるため勘違いされがちだが、私に何かを決める権限は無い。
そのことは女官たちも固く理解しているはずだが、日頃の陛下の態度を間近で見ている彼女たちにとっては、勘違いしても仕方がないだろう。

「では、今後はせめておしとやかに、しずしずとお歩きください」

「……善処します」

美しく整った顔が、途端に不安に揺れる。

「わっ分かりましたよ」

慌てて答える。

はぁ…最近、ちょっと羽を伸ばし過ぎたかもしれないし。

政務室通いを始めてから、いろんなことに好奇心が抑えられなくなっている。

李順さんの耳にでも入ったら大変。減給という最悪の事態は避けたい。

妃らしく振る舞うこともバイトの事項だ。

夕鈴は苦笑いを浮かべながら、女官たちに約束した。


















ある日の昼下がり、後宮を歩く夕鈴の足取りは重い。というかおぼつかない。傍からみたら足を怪我しているんじゃないかと思わずにはいられないほど、ぎこちない歩き方だ。

案の定、政務室の入り口で方淵に突っ込まれた。

「なんだそのみっともない歩き方は。出歩くより後宮に戻った方が良かろう」

「………」

苦労を理解してもらおうなんて思ってないが、おしとやかに歩くというのは並大抵ではないことを経験で知った夕鈴は、この言葉にカチンとなる。

「みっともないとは何でしょう?あなたに迷惑を掛けているのかしら?」

火花が散る。
嫌味をさらりと受け流す寛容な心になれたら…夕鈴の永遠の課題だ。

「あれ、お妃さま。もしかして足を怪我なさっているのでは?」

ここで救いの手が入る。
騒ぎを聞きつけた水月が話に加わった。他の顔見知りの官吏も来て一緒になって心配された。

「いえ、これは…」

「あまり無理して通われることないのでは?陛下のご命令に背くのはそら恐ろしいですが…」

端整な顔をしかめると身震いする水月。そんな姿を吐き捨てるように見る方淵。明らかに機嫌を悪くしている。

「己の体調も整えられぬ軟弱者はさっさと後宮へ戻られよ」

ぴしゃりと言い放ち、奥へ姿を消してしまった。
残された水月や他の官吏たちと夕鈴の間に嫌な空気が流れる。

つくづく、空気の読めない男だ。

「方淵殿もああして心配していますし、今日はお戻りください。輿を用意させましょう」

「え!?結構ですわ」

「しかし足を痛めていらっしゃるのでは…?」

「これは歩き方を変えてみただけです」

なぜ?と目が問いかけていたが、夕鈴は軽く無視する。さっさと会釈し回れ右した。

背中に視線を感じたが気にせずもと来た道を戻って行った。


















「はぁ…」

上手くいかない、なんでこんなことに?

夕鈴はため息とともにお茶をすすった。口いっぱい広がる花茶の良い香りも、心を癒すには足りない。

政務室を後にした夕鈴は、部屋に戻る気にもなれず、途中の四阿で休憩を取っていた。

気が紛れるように…と用意されたお茶とお菓子を食べながら、お妃らしさとは何かを思案していた。このバイトを始めてそれなりに経つが、なかなかお妃仕草や優美さが染み付いてこない。
改めてバイトの難しさを感じ、落ち込む夕鈴。

そんな妃の様子に、不安気に声を掛ける女官。

「大丈夫でしょうか?政務室で何か…?」

「いえ!特に何も」

これ以上心配掛けてしまうと心労で倒れてしまうかもしれない。ただでさえ日頃、夕鈴が思う以上に心配させていた事実を知ったばかりだ。

女官たちを安心させるため、努めて明るく答えた。笑顔を見せると安堵の表情を浮かべる女官たち。それを確認して、夕鈴もほっと息を吐いた。

落ち込んでる場合じゃないわ、困難な仕事に立ち向かわないと!それが働くということだわ。

そう、こんなところで油を売っててはいけないわ。

「政務室に戻ります!」

夕鈴は拳を握り締めながら決意した。
気持ち新たに、立ち上がったその時、ふいに寒気がした。
突然周囲を囲う冷気に身震いする。

「…?」

後ずさりする女官たちの顔がみるみる強張るのを見て、まさか…と息を飲む。

振り返ると、そこには怒りを纏った狼陛下が立っていた。















日差しは暖かいはずなのに、冷たく身を包むピリピリとした気配に肩を抱きしめる。
女官たちは下げられて、四阿に取り残された夕鈴は陛下と対峙していた。

「陛下、なぜこちらに?」

「………」

怖い。なんか怒ってない?

二人きりなのにいつまでも狼陛下を演じる様子に、只事ではないことを感じる。

「あの……」

怖くて質問できない。

無言で見つめる陛下。息を飲んで、彼の次の言葉を待った。

「夕鈴…」

怒気を含んだ声音で迫る陛下。思わず恐怖で目を閉じると、ふいに暖かい体温が肌に伝わる。

「………?」

目を開ける。

抱きしめられていた、力いっぱい。

「…あの?」

状況が読めず困惑する。

「怪我をしたのか?」

「はい?」

「足……」

「え!?いえ…」

「本当か?歩き方がぎこちないと」

「本当です、怪我なんてしてません!」

陛下は夕鈴の言葉を聞くや否や、抱き上げて四阿の椅子に横たえた。
一瞬のことに目を回す。

覆いかぶさるように、目の前に端整な陛下の顔が映る。それだけでパニックを起こしてしまいそうだった。

「足を見せよ」

「!?」

突然の申し出に驚く。

「な、なんともありません!」

ただの誤解だと軽く笑い掛けたが全く信用してもらえず、裾を引っぺがされた。

「!?ちょっ」

「捻ったか?赤くはなっていないようだが…」

足をじっくり見られて赤面する。裾を下げようと慌てて伸ばした手を強く掴まれた。

「どこが痛い…?申せ」

「どこも痛くありませんよ。怪我しておりません」

「夕鈴。気遣いは無用だ」

狼の気配をさらに濃くして、陛下が頬に触れてきた。

「陛下!落ち着いてください、これは…誤解なんです」

「私は冷静だ。夕鈴、君には知ってもらわないといけない」

ぐっと顔を寄せられて、悲鳴が漏れそうになる。狼陛下の怒った顔を間近で見るには心の準備がいる。

「へ、陛下…」

気持ち抵抗して、胸を押し返してみたがピクリとも動かない。むしろその行為が彼の怒りに火を付けたみたいで、肩をキツく掴まれた。

「君には、この爪の先から髪の毛一筋に至るまで全て私のものだということを分からせなければならない」

「なっなな、なにを…」

怖いんですけど。
先ほどとは違う狼の気配が夕鈴に迫る。

「君の痛みは私の痛みでもある。…それが私の妃であるということだ」

「………」

「君自身は私自身だ。喜びも痛みもすべて分かち合う」

「君にはこのこと…分かって欲しい」

狼の鋭い視線に見つめられて、息が止まりそうになる。
握り締められた手が熱くて火傷しそうだ。

「夕鈴?」

「…わ、わかりました」

「本当…に?」

まるで機械人形のように、何度も何度も頷く夕鈴。
空気が薄い。
窒息死しそうな近距離に上手く呼吸ができなくなってきた。

「では約束を。怪我をするような無茶はやめてほしい、それを隠すこともやめてほしい」

ため息が漏れる。
これは、はっきりとした説明が必要だ。

「私は怪我などしておりません。陛下の勘違いですよ」

着物の袂をぎゅっと握り、陛下の目を見てはっきりと告げる。

「勘違い?…では、なぜ…?」

また足を観察される。恥ずかしさで全身が熱くなった。

「最初からお話しますからー離してください!」
















「ふうん。輿に…ね」

怪我をしていないことが分かりやっと落ち着いた僕は、夕鈴の説明に安堵しながら頷く。

彼女の前でだけ見せる子犬の姿に戻り、ため息をついた。

「はい…」

夕鈴は情けないような恥ずかしいような、なんともいたたまれない表情で項垂れていた。これほど大きな騒ぎになるとは思わなかったのだろう。混乱と焦りと説明疲れで、疲労の色を濃くしていた。

「大変ご迷惑を…」

「君が怪我してなくて良かったよ」

ほっと息を吐き、夕鈴の手を握り締める。彼女の怪我の噂を聞きつけた時は血の気が引いた。急ぎの案件のみ済まし、取るもの取らずすぐに駆けつけた。

「ごめんなさい、こんなに大事になるとは思わなかったです」

「大事だよ、君は僕唯一の妃だ」

髪を一房指ですくって愛おしさを込めて口付けた。

「この柔肌に…傷ひとつ付けること、許さないよ」

恥ずかしがり屋の彼女に逃げられないように、熱い視線で絡め取る。

「お、お、大げさです。私は臨時花嫁ですから、そんなに心配なさることはありません」

「………」

「怪我をするのは仕方ないとして、周囲の方に心配されるのは良くなかったですよね」

夕鈴は勝手に納得すると、早口でまくし立てる。

「今後は、怪我をしても妃らしく振る舞えるように頑張ります!」

高らかに宣言する夕鈴を見て、積み上げたものが崩れていく音が聞こえた気がした。

一歩進んで五歩後退。


「妃らしく…ね」

そんな言葉が聞きたいわけではない。

「?」

「そうだ…。君は今まで、怪我をしても私に隠していたようだな…」

李順からの報告を確認する。

予想外の問いかけに夕鈴の表情が曇る。
狼陛下の再登場に目が怯えていた。

「なぜか。たいしたことない…と、報告をしなかったのか?」

冷ややかな視線を向ける。

「な、なんのことでしょう?怪我なんて…」

しておりません、と小さく呟く夕鈴の目は、泳いでいる。
怪しいことこの上ない。

「………」

やはり、態度で示さなければならないようだな。

僕はゆっくりとした動作で立ち上がる。

可愛さ余って憎さ百倍か…、今ならこの気持ちも分かる気がするな。

「あいにく私は、もの分かりの良い夫ではない」

「え?」

「輿に乗るのがそれほど嫌ならば仕方ないな……」

「???」

僕の気持ち、どこまで君に伝わるだろうか。

僕は夕鈴の手を引っ張ると目にも留まらぬ早さで抱き上げた。腰を抱えてがっちり拘束する。

「きゃっ、へ、陛下、なにを…」

「輿に乗りたくないのならば、これが最善の策だ」

「はい?なっ…何言って、降ろしてくださいよ!」

「嫌だ」

抱き抱えたまま四阿を出る。日差しの降り注ぐ中庭に降り立ち、ぐんぐん闊歩する。

「陛下!は、恥ずかしいです。降ろしてっ」

「嫌だ」

途中、妃付きの女官たちが待ち構えていたので、わざと近くを通過した。

通り過ぎる時に言い放つ。

「妃が怪我をしている。しばらく移動の際は私が抱えて歩くゆえ、心得よ」

「!?」

腕の中の夕鈴から動揺が伝わる。声にならない叫び声が聞こえてきそうだ。

「今後、妃をひとりで歩かせることはないように。良いな?」

「かしこまりました」

礼をとる女官を横目に、僕は口元に笑みを浮かべる。

「なんでそんな嘘…今後って、どういうこと!?」

コソコソ呟く彼女を無視する。

「陛下!なんで黙って…」

背中をばしばし叩かれる。

可愛らしい抵抗が正直嬉しいが、おくびにも出さずに尋ねる僕。

「夕鈴…、君は狼陛下の花嫁らしく振る舞うんじゃなかったのか?」

「はい?」

「夫の背中を叩くのは、花嫁らしい行動か?」

「だってそれは…」

涙声が響く。

「泣いてもダメだよ。君が反省するまで、この命令は解かない」

僕は盛大に笑う。

後で、きっと火のように怒る夕鈴の膨れた顔を予想して、さらに笑みがこぼれた。







あとがき


結局、命令を解く条件として、

些細な怪我でも必ず報告すること。
危険が潜むような場所にはひとりで行かないこと。
掃除婦バイトより、僕との時間を優先させること。

を夕鈴に約束させることに成功した。

その夜の後宮では、やっと仲違いを解消した国王夫婦の姿があった。


「それにしても残念だ。君を抱き抱えて歩くのが定着してきたところなのに…」

名残惜しそうに話す僕に反比例して、嫌そうな夕鈴の顔。

「冗談はやめてくださいよー。どこの国に、妃を抱き上げて移動する国王が居ますか」

「ここに居ていいじゃない?君を抱き抱えて歩くの、楽しかったなぁ」

「わ、私は!恥ずかしいだけでした」

「うん、真っ赤になって耐える君。愛らしくて可愛かったよ」

「………」

ダメだこれ…と、夕鈴の目が覇気を失っていく。

「と、とにかく。お約束、頂きましたからね!」

「もちろん。君が違えぬ限り、僕も破ることはない、ただし…」

ふわり…羽のように軽い夕鈴を抱き上げる。知り過ぎた心地良い重みに破顔する。

「!!!!」

「夫婦演技の一環としてなら良いよね?」

イタズラっぽく舌を出して、夕鈴に笑いかける。

「いいい今は、誰も見てません!」

「僕だけが見ることができる。至福の時間だ」

すぐさま顔がかっと蒸気する。初々しい態度に笑みがこぼれた。

まったく、君は本当に飽きない。
それどころか、なお愛おしさが増すのは、君が魅せる魔力か。


「はーなーしーてー」

照れ隠しのためか、バタバタ暴れる夕鈴をキツく抱きしめ直す。

「嫌だよ」

腕の中の夕鈴を確認すると、今までで一番可愛い顔で、怒っていた。











二次小説第67弾完了です☆
今回は、妃付きの女官たち、女官長、方淵、水月を駆り出しまして夫婦の甘々生活を書いてみました。
最初はおてんば夕鈴を注意する周囲から女官たちの心配に始まり、結局は小さな傷ひとつ許さない独占欲満載の陛下が如実に表れた作品になってしまいました(笑)
夕鈴大好き陛下ネタ、大好物です~^ ^「君の還る場所」=「僕の腕の中」です。

お気に召された方は拍手いただけますと嬉しいです。






11:28  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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