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2014.06.29 (Sun)

僕の護りたい人

僕の護りたい人


夫婦生活の一コマを書きました。仕事にイライラした陛下が、癒されるため夕鈴に逢いに行くというよくある設定です☆
また長文ですので休憩しながらどうぞ。

それではどうぞ。


【More・・・】

どんなに口達者芸達者な者でも、この空間に押し込まれたら最後、皆一様に固く口を閉ざし、時間が過ぎるのをただひたすらに待つのみ。








ここは、冷酷非情と名高い狼陛下の王宮。

今日も、聞くものを震え上げさせる怒声が部屋いっぱいに響いていた。

彼の怒りの鉾先は、地方整備の一環として着手したばかりの灌漑工事の報告をする地方役人であった。
以前から一向に進まない状況と、改善されない体制に苛立ち、とうとう責任者自らを呼び出し叱責していた。

報告を聞いてなお増す怒りに、側近でさえ宥めることができず、この状況が半刻ほど過ぎた時のこと。

長いため息と共に左手を上げて、だらだらと終わる兆しの見せない報告は、ついに止められてしまう。


「陛下…」

狼陛下の表情は不機嫌極まりない。

次の言葉を固唾を飲んで待ち構える役人たちを無視し、王座から立ち上がる陛下。手にある書巻を側近に乱暴に押し返した。

「休憩だ」

そう短く答えて開け放たれた扉から出て行く姿を、誰ひとり呼び止めることはできなかった。













かわって、ここは後宮の一画。
狼陛下の花嫁の自室。

突然現れた陛下をもてなすため、水屋でお茶の準備をする夕鈴。

なんだか疲れた表情で帰って来た陛下のために、香りが強いお茶を選んで入れていた。

少しでもリラックスできたらいいが…お盆を持って部屋に戻った夕鈴だったが、そこに座っていたはずの陛下が居ない。

「あれ…?」

キョロキョロと探していると、突然背中が重くなる。乗りかかる重みに、小さく悲鳴を上げた。

「ゆーりん…」

「陛下!?何してっ…」

なぜか後ろから抱きつかれてる状況が読めず焦る夕鈴。
慌ててしまいお茶をこぼしそうになるが、伸びて来た陛下の手がお盆を持ち上げ、近くの卓に置いた。

「すみません…って!離してくださいよ、陛下」

声を上げて身をよじるが、腕は解かれない。それどころか、ますます強く抱き締められた。
耳元で陛下の小さく笑う声が聞こえた。どうやら抵抗を楽しんでいるようだ。

「ちょっと、陛下!何してるんですか」

「えーー。何って…充電?」

「は…?」

「充電だよ」

充電…私は充電器らしい。

「充電…になるんですか?」

「うん!」

嬉しそうに即答する陛下。
夕鈴は、ふぅーとため息をついて、陛下に向き直る。確かめた顔は、少しは充電され、疲れが飛んでいるように見えた。

「それは、良かったですね」

にっこり笑顔を向けて、陛下の背中に腕を回す。

柔らかく抱き締め返した。

「あれ?怒らないの?」

夕鈴の態度に不思議と尋ねた陛下。
まさか、抱き締め返される予想はしていなかったのだろう。驚いた顔をしている。

「陛下がこれで疲れが取れるなら…」

真っ赤な顔で答える。普段、自分からこういう甘い行為は苦手としていた。花嫁バイトを始めて随分と慣れたつもりでいたが、陛下を前にするとドキドキが止まらない。

「……そっか。やっぱり君は優しいね」

夕鈴の行為に感化されたのか、陛下も笑顔を浮かべ甘えてきた。夕鈴の頭の上にあごを乗せて、大型犬がゴロゴロ喉を鳴らす。

「優しくて愛しい…僕の自慢の妃だ」

大きな手が優しく頬に触れる。
心地良い暖かさに目を閉じる。陛下の大きな腕の中は落ち着かないようでどこか安心する。

逃げたいのに近付きたい。
踏み込んではいけないのに、もっと知りたい。

ずっと心の内で、この矛盾に耐える夕鈴であったが、一番確かな気持ちがひとつがあった。


この人のそばに居たい。

ただそれだけ。



「夕鈴…」

「………」

陛下の声音が響く。まるで優しいそよ風のように…。

唇をなぞる感触に、夕鈴はくすぐったくて目を開けた。


「夕鈴…そんな無防備で良いのか?」

………え?

突然現れた狼陛下が不敵に笑いながら、顔を近付けてきた。

「ん?」

嫌な予感。
狼陛下の彼が悪い顔をしている。


「!!今、演技は要りませんよ!」

早めに牽制する。
最近必要以上のスキンシップが夕鈴を困らせていた。

これ以上は危険だ。


「もう充電は終了ですね」

離れようとしたが、頑丈な囲いはなかなか解けない。

「つれないな…」

まだまだ足りない…と陛下は顔を寄せて来た。目にも留まらぬ早さで額に口付けを落とされた。

「なっ!?」

睨み返すと苦笑いで答える陛下。舌をぺろっと出して降参のポーズを取る。

「怒るな夕鈴、君は私の妃であろう?」

「臨時花嫁です!」

「臨時花嫁でも妃であることに変わりはない、もっと私を癒してくれ」

「!?」

これ以上どうしろというのか。このまま腕の中に居たら、パニックを起こしそう…。


「夕鈴…」

私を呼ぶ、どこまでも優しく甘い声。


もう、どうにでもなれ…。




バタン!!!

音を立てて扉が開く。吹きすさぶ風がふたりの着物の袂をはためかせる。


ふたり同時に振り返ると、そこには鬼が居た。














「李順さん…」

はっと気付いた時には、すでにふたりの近くまで来ていた。
この状況に血の気が引く。誰もいない所で披露されるいちゃいちゃ演技を、一番見られたくない相手に見られてしまった。

鬼は阿修羅のごとき形相で、ふたりを交互に見ていた。


「何用だ…?」

陛下の低く冷たい声が響く。

「休憩と聞きましたが…」

「休憩だ、見て分からぬか?」

陛下はため息を吐いて、じろりと睨む。邪魔だと言わんばかりの素っ気ない態度だ。普段政務室で見る彼のピリピリとした雰囲気に近いものがあった。
そんな態度に恐れをなして引くどころか、負けずに苛立ちのオーラを放ち、李順は言い寄る。


「とりあえず、夕鈴殿をお離しください。話ができません」

「……嫌だと言ったら??」

「………」

「………」

ダメ、耐えられない。

先ほどまでの甘過ぎる空気は一転、周囲を包む毒気にあてられ夕鈴は瀕死状態。ふらふらと陛下から離れる。


「休憩だとおっしゃるので、あの件に関しましては一旦保留にしました」

「懸命な判断だな」

「もうお戻りください、次々と話さなければならない案件が立て込んでいます」

「戻れというなら、妃を伴っていくぞ」

突然、話中に加えられ夕鈴の心音が跳ねる。

「それはいけません。そうそう女人が入り込むことのない王宮です」

「私が、連れて行くと言っている」

逆らうのか、と狼の目が李順を捉える。

「今日はおやめください。あのようなことがあった後で妃の同行はあまり…良くないかと…」

お茶を濁したかのような李順の発言を陛下は鼻で笑った。

「今さらであろう…?使えない部下、使えない役人、慕われないリーダー、繕う必要があるのか…」

狼がにやりと口角を上げる。

ヒヤリとした冷気が、夕鈴の足元を流れた気がした。扉を開けただけで一気に室温が下がってしまったのか、それとも…。

「皮肉はおやめください。地方役人の人事は、のちほど考えましょう」

バツの悪い表情を浮かべて、李順は答えた。













先に戻るように…そう李順に告げた陛下は、その後夕鈴の入れたお茶を飲みながら深く嘆息した。

再びふたりきりになった妃の部屋で、沈黙が走る。


「ゆーりん?どうしたの。そんな顔して…」

「いえ、お仕事…大変そうですね」

あの真面目に仕事している彼が、途中で放り出してきたぐらいだ、よほど苛立っていたことだろう。
陛下の心労が心配になる。

「君がそんな顔しないでいいんだよ」

頬に触れる手は暖かい。だけど、瞳の奥はいつも冷たく見えるのはなぜか。

「夕鈴?」

「はい、陛下」

陛下に微笑んで見せる。
笑顔ひとつで彼が癒されるなら、喜んで見せよう。内側の気持ちに蓋をして、夕鈴は妃笑顔を浮かべた。

満足そうに微笑んで、陛下は夕鈴の頭を撫でた。

熱い視線を感じて、なんだか照れくさい。


「夕鈴はかわいいね」

「こっ子供扱いやめてくださいよ」

「子供扱いなんてしてないよ?」

「頭撫でるとか…恥ずかしいですよ」

「ふふ…やっぱりかわいいなぁ」

おそらく真っ赤に膨れた顔を見て愉快そうに笑う陛下。

「そんな顔されたら、仕事に行けないよー」

本性である子犬の姿で甘える陛下に、夕鈴はほっと息をつく。
やっと和んできた雰囲気に、緊張が解けていく。
狼陛下にはまだまだ慣れていない、先ほどのようなやり取りを間近で見るには耐性が養われていないのだ。


「李順さん、待ってますよ?」

仕事に行きたくないと駄々をこねる陛下に対し、夕鈴は控えめに答えた。
夕鈴の指摘に、はぁーと大きなため息を吐いて、陛下は夕鈴の肩を抱く。

「まったく、嫌になるね。無駄な打ち合わせって何故誰も気付かないのかなぁ」

陛下にすれば、こんな議論をするよりも、もっと有意義な時間の使い方があると言いたいところか。
もっともな意見だが、王宮では色々なしがらみが邪魔して思い通りに進まないらしい。

「相変わらず窮屈なところだ…」

そう呟く彼の横顔はさみしそうで、夕鈴は気付くと手を伸ばしていた。

驚く彼の頭を撫で返す。

「………」

陛下が見つめている。


「子供扱いじゃないですよ?」

「うん…」

少しでも彼の心が晴れれば良い。


「ありがとう」

「こんなことしか出来ませんが…」

照れ隠しに視線を外した。
彼の熱い眼差しを直視するには、いろいろはばかれた。

「夕鈴…」

「はい…なんでしょう?」

「僕、しばらくは後宮に来れなくなる」

「え?そうですか…」

残念だ。そういえば案件が山積していると李順が言っていた。
先ほどのふたりの会話を思い出しながら、ひとりでに納得する。

「だから…」

「?」

こそこそこそ…陛下が耳元に口を寄せて囁く。

「え!?」

「約束して、夕鈴」

「……それは、あの。どういったことを?」

「それは君が考えて。僕、楽しみにしてる」

「………」

難しい要求が来た。
突然の申し出に驚くのもつかの間、陛下がさてと…と立ち上がる。

「行ってくるね、夕鈴」

「え?」

なかば言い逃げのような形で強引に会話を終わらせようとする陛下。

「見送っては…くれないの?」

「は、はい!いってらっしゃい、陛下」

待ってます…ふわりと笑顔を浮かべ、妃の勤めを果たす夕鈴。
陛下もそれに応えるように優しい眼差しを見せると、妃の部屋を後にした。

















宣言どおり、陛下が後宮に戻らない日は続いた。

淋しそうに嘆く寵妃を演じる反面、夕鈴はひとり頭を悩ませる日々を送っていた。

原因は陛下が一方的に結んだ約束のせい。

いつ戻られるか分からないから余計に夕鈴の気を焦らせていた。



後宮の立ち入り禁止区域に、長いため息が響く。いつもより身の入らない掃除を終えた夕鈴は、どこからともなく出現した老師と一緒に、短い休憩を取っていた。


「なんじゃ?ため息ひとつつくごとに、幸せが逃げていくんじゃぞ」

「え?そうなんですか。気をつけないと」

答える先からため息が漏れる。悩みはすでに限界に達していた。

「一体なんじゃ。おぬしらしくないのぅ」

「はぁ…」

「なんじゃなんじゃ!気持ち悪いの」

老師が短い手足をバタつかせている。小さな身体がゴロゴロと床を転げ回っていた。
傍らで眺める夕鈴の表情は晴れない。

「老師はいいですね…悩みなさそうで」

呟いた直後、しまった…と後悔する。これでは、私が悩み事を抱えていると白状しているようなもの。この頼りになりそうで頼りにならない老師に悩みを打ち明けて、良い展開が見えたことはない。

案の定、老師の目がキラリと光った。興味津々の瞳が、まっすぐ夕鈴を捉えている。

「お妃よ。人生のスペシャリストであるわしが、お前さんの悩みを聞いてやってもよいぞ?」

自信たっぷり、胸を叩きながら老師が言う。

「遠慮します」

「遠慮せんでもよい」

「たいしたことではありません」

「そんなことなかろう。陛下がらみの悩みであることは明白じゃ」

「………」

勘がよすぎるのは夕鈴にとって不利だ。陛下のことになると殊更勘が働くのは、老師の特技かもしれない。

「恋愛の悩みは、わしに任せろ」

絶対任せてはいけない相手だと思う。夕鈴は深く頷き、掃除を再開する。

「無視するでない、お妃よ」

「大丈夫ですから…」

「大丈夫そうには見えぬ、さっさと吐いて楽になってしまえ」

ケラケラ笑いながら老師は、さあさあ…と詰め寄って来た。絶対楽しんでいるに違いない。

「………」

言わないよりは、言ってスッキリしたいのはやまやま。心の内に抱えてしまうよりは、相談するほうがマシであろうか…。

しばらくの熟考のあと夕鈴は顔を上げた。

ここは狼陛下の後宮…、非日常的な空間では時に判断が鈍ることもある。

「実は…」

夕鈴はポツリ…と話し出した。
















「陛下のお越しにございます」

侍女の言葉で、夕鈴は慌てて立ち上がった。

ついに来た。
数週間ぶりの登場に、夕鈴の心が跳ねる。深くお辞儀して、陛下が壁の向こうから現れるのを待つ。


「妃よ…」

「おかえりなさいませ」

「………」

陛下が息を飲む気配を感じた。
きっと驚いているに違いない、確かな感触を得て、夕鈴はほくそ笑む。

「これは…?」

目をまん丸にして近づいて来る陛下を、笑顔で出迎える。

「お約束ですよ、陛下」

「ふうん、考えたね」

たっぷり甘い笑顔で陛下が手を伸ばして来た。

「僕の好きなものばかりだ」

陛下の手が髪の一筋を掴み、薄い唇に当てられる。

「前に食べたいとおっしゃってましたので…」

「毎日でも食べたいと言ったね」

君の手料理…と、陛下は満足気に頷く。

傍らの食卓には夕鈴が丹精込めて作った料理が並べられていた。王宮食材をふんだんに使用した色とりどりの料理。いずれも自信作だ。


「さっそく食べようか…」

陛下は言葉に反して夕鈴ばかり見つめてくる。優しく大きな手のひらが頬に触れられ、体温が上昇しそうだ。

「美味しそうだ…」

「………」

なぜ私を見て言うのか。捕食前の獲物と同じように、身の危険を感じる。

「冷めちゃいますよ…」

甘い空気にむず痒くなり思わず指摘すると、陛下は不敵に笑う。

「料理は冷めても、君への気持ちは冷めないよ…」

「っ………」

この人は、何言っちゃってるのか…。どうせまた私の反応を見て楽しみたいに違いない。

「まぁ陛下、お戯れを。せっかくお約束のために用意したのですから、召し上がってください」

「約束ね…なるほど」

冷静に対処する夕鈴の態度に、面白くないと言わんばかりに拗ねる陛下。

「素晴らしいよ、夕鈴。君は僕の気持ちをよく分かってるね」

「…は、はい」

「あの時、僕が何て言ったか覚えてる?」

「え?」

あの時、陛下は…。
夕鈴は記憶を辿る。


「……ご褒美、ですよね?」


『君に逢えないのは悲しいけれど、仕事頑張ってくるね。その代わり、ご褒美を用意してて』

たしか陛下はこう言った。

夕鈴の答えに、陛下は微笑む。

「そう、ちゃんと覚えてたね」

「当たり前…」

陛下の言うご褒美に悩み、ずっと頭を抱えていたのだから。不可解な質問に困惑する夕鈴。

「僕のために手料理を用意してくれてありがとう」

「は、はい。あの…ご褒美になりましたか?」

もしかして気に入らなかったの?
途端に不安になる。

陛下にとってのご褒美。考えて考えて、考え抜いた。何をしたら喜んでくれるのか…そう考える日々は悩ましかったけど決して苦痛ではなかった。
彼の喜ぶ姿を、私も心から見たいと望んでいたから。

悩み抜いて行き着いた答えだけど、もしも気に入らないのなら仕方ない。

いつまでも料理に手を付けない陛下に、不安な視線を送る。

「気に入って…いただけたんでしょうか…?」

「もちろん。だから特別に教えてあげる」

「……?」

何を…?疑問を込めて見つめ返すと、陛下が嬉しそうに抱きついて来た。夕鈴は広い胸にすっぽり顔を埋める。

「なっ…」

慌てて離れようと身をよじるが、もちろん解かれるはずもなく、跳ねる鼓動に気づかれないように、懸命に隙間を作ろうとする夕鈴。

「へっ陛下、突然何を?」

胸を押し返すがやはりビクともしない。もはやお決まりの展開だ。
この先を予想して、小さく身を縮める夕鈴。


「僕にとっての一番のご褒美」

耳元で囁かれる声は耳に真っ直ぐ届いて、鼓動をさらに早める。

肌から伝わる体温に、陛下の与える熱に、許される距離に翻弄されてしまう。

「それはね…」

「それは…?」

これほどもったいぶるなんて…ごくりと息を飲む。
夕鈴の知らない陛下を知るチャンスかもしれない…期待を込めて陛下の言葉を待つ。

「……それは…」

「はい!」

ドキドキドキドキ。
胸が高鳴る。一秒間がとても長く感じた。まばたきすることも忘れ、夕鈴は陛下をじっと見つめた。

「………」

「………?」

あれ?何も言わないの?
もしや新手の嫌がらせか。

「陛下?答えは何ですか??」

早く答えて…着物の袂をぎゅっと握り締める夕鈴。逃げられないようにぐっと顔を近付ける。

「……あー、えっと」

なぜか焦る陛下。心なしか顔がほんのり赤い。

「???」

手で顔を隠しながら、急に慌て出した陛下を不思議そうに観察する。

夕鈴の腰に回していた腕を解いて、照れ臭そうに頭をかき出した。


「ごめん、夕鈴…。ちょっといじめ過ぎたかも」

「え?私、いじめられてたんですか?」

いつから…か。過ぎた会話を思い出しながら夕鈴は戸惑う。

「ごめんね。君に無理な要求をさせたこと謝るよ」

「??…別に構いませんけど…」

そんなこと、いじめでもなんでもない。

「本当に嬉しいよ、さっそくいただこうか」

陛下はさっさと椅子に腰掛けた。

「………」

勝手に終わってしまった会話を前に、ひとり取り残された夕鈴。
疑問ばかり浮かぶが、陛下に促されて卓に腰掛ける。

「あの、陛下……」

「夕鈴。お茶入れてくれる?」

「は、はい」

「これ、なんて言う料理?前に作ってもらったものとは違うね」

「あっこれはですね…」

陛下によって強引にそらされてしまい、ふたりの会話は料理の話題に移ってしまった。


陛下にとっての一番のご褒美って、何だったのだろう…結局最後まで、夕鈴が知る術は無かった。














「はぁー!??料理を振舞って終わりじゃと?」

後宮立ち入り禁止区域で、老師が叫ぶ。
どんなに叫んだところで誰にも聞こえることはないが、もう少し遠慮して欲しいところだ。

「わしのアドバイスはどうした!?」

何のアドバイスももらってない。
怒りを込めて老師を睨む。

「なーんにもするなと言ったろう?」

「そういうわけには。だから料理を作りました。大変喜ばれましたよ、何か問題でも?」

「問題だらけじゃ…」

がっくり肩を落とし老師が落ち込む。どうやら思惑叶わなかったようで、悔しそうに涙を滲ませている。

「良い案じゃと思ったのにのぅ…」

「だから何の案もいただいていませんよ!」

「なーんも分かっとらん。そちに授けたのは男女の駆け引きじゃ!まったく…棒に振りおって」

意味分からん。
つくづく、変な人だ。

「それにしてもおかしいのぅ。あの陛下が料理だけで済むとは思わん」

「そういえば…一番のご褒美は別にあるような無いような」

夕鈴はふと考え込む。
何か教えてもらえなかったため、今となっては誰にも分からない。

「そんなこと、誰が聞いても明白じゃ!」

ビシッと夕鈴を指差して、老師が宣言する。

「は?そんなわけないでしょう。陛下の心の内は陛下しか分からないわ…」

夕鈴の発言に大げさにため息を吐く老師。
小さな体で部屋の中をゴロゴロ転げ回る。拗ねたときはいつもこうだ、もうお馴染みの光景である。

プリプリ嘆く老師をよそに、掃除を再開する。

今朝、一緒にお昼を食べようと約束した。
早く終わらせ後宮に戻らないと…陛下に逢えるときを思いながら、夕鈴はひとつ笑顔を浮かべた。












人払いした政務室で、紙を捲る音だけが響く。
長い書簡を追う目が最後の行に達し、僕は手に持った筆を静かに置いた。
ふぅーっとため息をつきながら、窓へ目を向ける。日はすでに高く、もう間も無く午前の刻は終了する。

昼食は夕鈴と一緒に取る約束をしている。

彼女の顔が浮かび、思わず笑みが漏れる。と同時に昨日のやり取りを思い出し、複雑な表情で顔をしかめた。

昨日は、僕の完敗。
彼女はやはり僕の想像を越える。

無邪気なふりして僕の心をかき乱す悪い君。悪気が無いなんて、なおのこと悪い。

僕にばかり思わせておいて…君にはまったくその気はない。分かっていたことだが、時に苛立ち、ああして意地悪したくなる。

だが…。


「昨日は失敗したな…」

焦り戸惑い頬を染める可愛い君を堪能したかったというのに……、先にギブアップしてしまったのは僕だ。

あれほど純粋無垢な彼女を前に、意地悪を続けられるわけがない。


「………」

きっと今だに気づいていないんだろうな、あの時言いたかったこと。

可愛くて面白くて初々しい君。





「僕の一番のご褒美は夕鈴、君自身だよ…」










二次小説第68弾完了☆
夕鈴に翻弄される陛下は書いていて楽しいです。一番のご褒美は夕鈴…だなんて、言ってどうするつもりだったんでしょうか、陛下(きゃーきゃー)。キュンとしちゃいますね
ですが、言えないヘタレな陛下。主導権はやはり夕鈴が持っていそうです(笑)

最後までお付き合いありがとうございました


13:17  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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