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2014.07.06 (Sun)

狼さんには敵わない!

「狼さんには敵わない!」


タイトル通り、狼に振り回される兎さん物語です。

それではどうぞ。


【More・・・】

甘い芳香が周辺を漂う。
優美な音楽が流れ、舞姫たちが踊る。

ここは冷酷非情と恐れられる狼陛下の王宮。
即位後、早々に内乱制圧、内政粛清を行い、名実共に中央政治の実権を掌握した若き国王の住まい。

傍らに佇むのは、狼陛下唯一のお妃。陛下が常にそばに置いて離さない寵妃である夕鈴は、この日も陛下と一緒に政務の間に鎮座していた。

目の前に居並ぶのは各国から集められた使者たち。入れ替わり立ち代り挨拶をする使者たちを、夕鈴は陛下と共に出迎える。

笑顔ひとつ見せず冷たい表情の陛下に反して、柔らかい雰囲気の夕鈴の方が話しやすいのか、挨拶を交わし貢物が献上されるのは妃にばかりであった。


「お会いできて恐悦至極にございます。本日は麗しいお妃さまへ、我が国で産出された魚の目を献上いたしたく…」

掲げて見せられた真珠の首飾りを見てため息を漏らす。先ほどからあまりの美しさに感嘆するばかりであった。
素直に感動する夕鈴の様子を見て、陛下がまた口を挟む。

「我が妃にぴったりだ。君の輝きにはかなわないが、その白い肌に似合いそうだ…」

妃にしか見せない極甘顔で迫る陛下。夕鈴は鉄壁のお妃スマイルを固めて、静かにお礼を述べた。


「着けられますか?」

気を遣って侍女が声を掛けるが、夕鈴は無言のまま微笑んだ。

妃あての貢物が披露され陛下が過度に褒め、侍女が気を遣い……そんなやり取りがずっと続いている。

最初こそ、陛下の押しに負け試着していたが、そろそろ神経が参ってきた。高級品を身につけるのには気合が必要だ。さっきから気が休まる暇がない。

しかも陛下が大げさに褒めまくるから、いたたまれないことこの上ない。

狼陛下唯一の妃である夕鈴は、陛下がいつでもどこでも褒めるせいで、不本意ながら絶世の美女と噂されている。夕鈴の姿を一目見て、その噂との違いに驚く者が後を絶たず、少なからずショックを受けているというのに…。


「それは良い…」

陛下が嬉しそうに答え、魚の目が夕鈴の首に飾られる。満足気に微笑む彼と、それを見てホッと安堵する使者と、微笑ましく眺める侍女たち。


「………」

いつまで続くのか。

陛下が、すべての貢物は私に似合うと答えるものだから、試着が止まらない。そのため使者の謁見が後に押していた。それが神経質な側近を苛立たせたようで、結果夕鈴が睨まれる始末。

巻き込まれ損とはこのこと。

他の者に気付かれないように、軽く陛下を睨む。そんな夕鈴の行為に対し、なぜか嬉しそうにしている陛下。

まさか楽しんでいるんじゃないか。
陛下の笑顔を複雑に見つめる。


「夕鈴…それほど愛らしい顔で見つめられては、困ってしまう。これ以上私の心をかき乱さないでくれ…」

「………」

何言ってるのか、この人は。場所をわきまえなさい、場所を。
大勢の視線を感じるこの場所で突然告げられた甘いセリフに、かぁーっと赤面する夕鈴。着物の袂で顔を隠して俯く。

「妖艶な姿も良いが、初々しい顔も良いな、夕鈴」

陛下は、首飾りに触れながら耳元で囁いた。薄い唇を少しだけ横に伸ばして、端正な美顔が間近で披露される。夕鈴よりよっぽど妖艶な姿に、呼吸が止まりそうになる。

「……っつ」

私はどこまでこの悩殺行為に耐えられるのか…。赤い顔でひとり焦る私を見て、陛下がくすりと笑う。声を漏らすのを必死で耐えているのが見てとれる。

絶対…楽しんでる!

悔しい表情を滲ませながらも、真面目な夕鈴は妃演技をなんとか続けていた。


「国王陛下に拝謁いたします」

次の使者が挨拶を求め、夕鈴は小さくため息を付いた。どんなに長い謁見でもいつか終わりが来るもの、そう期待を込めて顔を上げたその時、使者と目が合う。

若い。
歳の頃は青慎と同じぐらいか。どことなく雰囲気も似ている。 優しい面差しの使者を、好意を持って見つめる夕鈴。

「国王陛下、お妃さまには大変ご機嫌麗しく、拝顔かない恐悦至極にございます。」

「あぁ…遠いところをご苦労であった」

随分離れた国からの使者として紹介された彼は、夕鈴への貢物を披露する。

見事な反物だ。また素晴らしい贈り物にほぅ…と息が漏れる。

さすがに仕立て前の反物は試着することも難しく、陛下が何かを言うことはない。夕鈴は会話の途切れを心配して、質問を投げてみた。

「たいへん素晴らしい品、心より嬉しく思います。あの…まだお若いようにお見受けしますが…」

「今年13なります」

青慎と近い年齢に、思わず笑みが零れる。

「お若いのに立派ですね」

歳に似合わずしっかりと受け答えする使者に感心する夕鈴。

「ありがとうございます、お褒めに預かり光栄です」

うーん、素晴らしい。
堂々とした態度に、話す以前よりも好感度が抜群に上がっていった。

「長旅ご苦労様でした。どうぞゆっくりなさってください」

「この国をつぶさに観察できれば…と思っております。しばらくの滞在、許可をいただいたこと、ありがたき幸せにございます」

深く拝礼する使者。
しばらく滞在するのね…夕鈴は自然と嬉しくなる。

この穏やかな使者とできれば話してみたいが、それはきっと難しいこと。

夕鈴は心の中呟いて、使者が立ち去るのを見送った。












「あーお疲れ様、夕鈴」

「お疲れ様です、陛下」

やっと謁見から解放されたふたり。人払いした政務の間でしばらく談笑していたところ、突然李順の小言が始まる。

「時間掛け過ぎ、夕鈴殿は試着し過ぎ、まったく進行通りにいきませんでした」

その点は同意見だ。
夕鈴は何度も頷く。

「しょうがないよ。全部が全部、夕鈴に似合ってたんだから…」

ね、夕鈴…と同意を求める陛下を軽くあしらう。その様子に、子犬陛下がしゅんと肩を落とした。

「夕鈴、なにその態度。僕、ショックだよ…」

「え!!陛下、なんでですか?」

慌てて駆け寄る。近づく夕鈴を、すかさず抱き締める陛下。広い胸に顔が埋まる。

ん?
また騙された!?

陛下の胸の中で疑問を浮かべる。

その様子を見て、李順が嘆息した。

「ショックを受けているとは思えませんねぇ…」

李順は深くため息をついて、メガネの汚れを布で拭きだした。遮る物が無くなり露わになった彼の顔には、いつもよりくっきりと眉間にしわが刻まれていた。

「李順。夕鈴とふたりっきりにして欲しいんだけど…」

陛下が訝しそうに睨むが、李順はまったく意に介さない様子で次の仕事をするように促した。

「休憩は?」

「そんな時間はありません」

「えーー」

「えーーではありません。夕鈴殿の着せ替えごっこで休息は取られたでしょう?」

「えーまだ足りないよ、もっと気飾りたい」

「着飾ったところで何も変わりませんよ。猫に小判です」

「………」

酷い言い草だ。
夕鈴はふたりの会話を耳に入れないようにした。

視線を送るのは、先ほど使者が礼をとって佇んでいた場所。

青慎…元気かしら。

ふと下町に居る弟のことが思い出される。


「考え事か…?」

突然、のしかかる重み。お馴染みの展開に声を出すこともせず、夕鈴は渋顔で振り返った。

「ちょっと…実家を思い出していたんです」

夕鈴の発言に、陛下が表情を曇らす。柔らかく包んでいた腕が、一瞬硬直した。

「まさか…また帰るとか言い出さないよね…?」

「え?」

「また僕は君に何かした…か?」

あからさまに動揺を浮かべる陛下を見て、夕鈴は目を丸くする。
すがるような怯えるような視線を送り続ける彼からは、普段の非情さは微塵も感じられない。おそらく臣下が見たら別人だと卒倒するだろう。

ふつふつと笑いが込み上がると同時に、良案が浮かぶ。

夕鈴は表情を崩すことなく、陛下を見据えた。

「陛下…」

「な、なに?」

「実家には帰りませんよ」

「そ、そう…」

ほっと胸を撫で下ろす様子を見て確信に変わる。

この手は、使えるかも。

「ですが、家族を思い出されてなりません。特に青慎に逢えなくて寂しい…」

「夕鈴…僕が居るよ、僕がずっとそばに居るから、そんな顔しないで」

「!?」

そんな、軽々しく言わないでよ。

衝撃の告白にも動じることなく、夕鈴は冷静に続ける。

「でも、陛下は日中は政務に行ってしまいます」

「君のそばに居る、どこにも行かない」

「………」

それはさすがにダメでしょう。
さらっとこんなセリフを吐ける彼は、やはり女慣れしてるんじゃないかと疑いたくなる。

普段なら怒って拗ねる夕鈴であったが、この日は違う。

ここで折れてはいけない。


「それはいけません、そんなこと望んでいませんよ」

「僕はそばに居たいけど…」

夕鈴の気のない返答に、少しのショックを受けながら、陛下は小さく呟く。

「ダメです。仕事しない陛下を見たくなんてありません」

「夕鈴…僕、分からないよ…」

どうすればいい…?
陛下が頬に手を当ててゆっくり目線を合わせて来た。

良い頃合に、夕鈴は意を決して口を開く。


「今日お逢いした使者の方、青慎に似ていました」

「使者?」

陛下はゆっくり空を仰いで、ああ…と頷いた。

「確かに君の弟と雰囲気が似ていたかもね、それが?」

「お話したいです」

「え!!ダメだよ」

「なぜ?」

「…なぜって、それは、僕以外の男なんて…」

ブツブツ…と嫌そうに拒む陛下の言葉を中断する。

「少しは…寂しい気持ちが和らぐかもしれません」

胸に手の平を当てて、ため息を漏らす。
切なく訴える夕鈴の様子に、目に見えて苦悶する陛下であったが、なかなか許可は下りない。

もう一押し…。


「お願いです、陛下…」

「うん、でも夕鈴…ふたりで逢うのは…」

「このままでは、青慎逢いたさに、お暇をお願いするかもしれません」

「………うん、でもね」

「実家に帰らずに済みます」

「………うん……」

実家という言葉が効いたようだ。その後、数回お願いを繰り返したのち、陛下は渋々頷いた。













暖かな日差し降り注ぐ四阿で、今か今かと待ち人の訪問を待つ夕鈴。

妃の前庭に面して建てられた四阿では、簡単なお茶席が設けられていた。
卓に並ぶられたのは青慎の好物である甘いお菓子。きっと彼も好きに違いない…そう思い用意させたものであった。

ちょうど侍女がお茶を淹れ終えた時、待ち人は現れた。

「お妃さま…」

「あっ」

使者の登場に立ち上がる夕鈴。四阿の入口まで出迎えようとしたが、妃であることを思い出し踏み止まった。

「本日は、お招きいただき嬉しい限りでございます。お妃さまにおかれましてはご機嫌麗しく…」

「堅苦しい挨拶は結構ですよ…どうぞ、お掛けください」

四阿の椅子を勧める。遠慮がちに座す使者の前に、夕鈴も腰掛けた。

「急にお呼び立てしてごめんなさい、あなたとお話したくて…。あっお仕事は大丈夫でしたか?」

ここに来て心配になる。呼ぶことに必死で彼の都合を考えていなかった。

「大丈夫です、お妃さま。私もお話したいと思っておりました」

使者の返答に嬉しくなる。優しいところも弟にそっくりだ。



和やかに会話は進む。



使者の名前は、泰明。

はるばる江河を越えて遠い国からやって来た。来国目的は、周辺国一栄える白陽国の視察で、旅好きの彼が抜擢されたとのこと。

「かねてより、異国の文化に触れたいと思っておりました。私の父は地方で官職を賜っておりまして、白陽国へは一度訪れたことがあると申しておりました」

「お父様が?」

「はい。父の話に聞く通り、まこと豊かな国で、見識が広まります」

「それは、良かったですね」

本当に嬉しそうに話すものだから、夕鈴もつられて笑顔が止まらない。



この国にはない文化を語り聞きながら、穏やかに時間は過ぎる。



「白陽国の噂は遠く離れた我が国にも聞こえて参りますが…噂に違わずたいそう仲睦まじいのですね、昨日は驚きました」

「え、えぇ…」

彼なりの緊張が溶けた頃、突然陛下の話になり、夕鈴の鼓動がひとつ跳ねた。

「初対面である使者たちの前でも一切の恥じらいを見せぬ様子、見ているこちらが恥ずかしくなりました」

「………」

やはりどこに居ても誰と話しても避けられない話か…。狼陛下の寵妃を演じている以上は仕方のないことだが、表向きの演技であるため会話が苦しくなってきた。

「お妃さまの前でだけは、冷酷非情な仮面も脱いでしまわれるのですね」

「えぇ…」

泰明の言葉に控え目に答える夕鈴。

だってそれが仕事ですから…と言えたらどれほど心が軽くなるのか。いつもならさして気にも止めず受け流していたが、青慎とよく似た青年の屈託のない笑顔に、心が痛む。

嘘をつくというのは、これほど苦しいことだったかしら…長い月日に感覚が麻痺していたのかもしれない。

夕鈴は気づかれないようにため息をついた。

切り替えないと。

にっこり…妃笑顔を貼り付けて、泰明に向き直る。


「お妃さまは、陛下が恐ろしくはないのでしょうか?」

「私とて恐ろしいです。ですが…陛下は理由も無く誰かを怒ったりはしません」

夕鈴の答えに泰明はなるほど…と頷く。彼なりに陛下を理解しようとしてくれているようだ…稀に見る態度に嬉しくなる。

「一国の主ともなると、恐れられるくらいがちょうど良いかもしれませんね…」

納得したように何度も頷く姿に、思わず笑みが零れた。

「そうですわね」

「それでも…」

「はい?」

「やはり怖いですね。実は昨日も、内心震えておりました…」

「まぁ…とてもそんな風には」

実に明朗闊達な受け答えだったように記憶している。

「練習しましたから…でも、まだまだ修行が足りません」

頭をかきながら照れ笑いを浮かべる泰明。子供らしい素直な仕草に、夕鈴は声を出して笑った。

修行していくら耐性を養ったとしても、狼陛下の攻略にはなかなか難しいだろう。

健気な姿に感心する。


「じゃあ、私も修行しないとね」

狼陛下の迫真の演技に、いつもビクついている。私もまだまだ修行が足りない。

「あぁやはり、そうですよねぇ。一緒に修行を積みましょう」

「ふふ…」

面白い子。やっぱり、話して良かった。

最初に比べ、随分打ち解けてきたようだ。話せば話すほど、好感度が上昇していく。

次の話題を投げ掛けた矢先のこと、泰明の顔がみるみる強張る。

お辞儀する泰明を見て、夕鈴は振り返った。


「妃よ…談笑が私にも聞こえてきた」

「陛下!」

漆黒の衣装が風に翻る。こんな暖かい日差しの下でも、汗ひとつかかず涼しい顔して陛下が現れた。

陛下は夕鈴に近づくと、長い髪を一房手に取り、自らの唇に当てた。

「少し様子を見に来た」

頬に柔らかく手が添えられ、陛下と目線を合わせる。彼の目が、大丈夫?と聞いている。

夕鈴はすかさず笑顔を見せた。その様子にほっと安堵する陛下。


「妃を随分楽しませてくれているようだ…」

ちらり…と泰明に視線を向ける陛下からは、いつもの鋭さ恐ろしさは感じない。

「………」

「どうした、夕鈴?」

陛下の呟きにはっと意識を戻す。しばらく観察してしまった。ぶんぶん頭を振る。


「いえ。少し…見とれてしまいました」

陛下に微笑む。一瞬驚いた表情を見せたが、陛下も微笑み返してくれた。

「そんな顔されては、離れ難くなる…」

「いけません…お仕事、戻られないと」

クスクス笑いながら、じゃれ合うように陛下の腕を押し退ける。

いつもならば、この辺りで陛下が引く。妃にだけ見せる笑顔を残し、また来る…と言いながら去って行く。

夕鈴はこの後の展開を予想して、待ち構えていたが、陛下は一向に去らない。

去るどころか、いっそう腕を絡めてきた。

「………?」

「今日はこのまま後宮に戻ろう」

「……?お仕事は…」

どうするんですか?と尋ねる前に、陛下は左手を上げ、お付きの武官と宦官を下げてしまった。

予想外の展開に驚く。


「使者よ、ご苦労だったな。お前も下がってよいぞ」

「!?」

泰明までも下げようとする陛下に、戸惑いの視線を送るが軽く無視されてしまった。


「はい。お妃さま、本日はお時間いただきありがとうございました。失礼いたします」

泰明は最後に深く拝礼すると、音も無く立ち去ってしまった。

「あ……」

離れていく。泰明がいなくなった途端、まるで陽だまりが消えたように、周囲の温度が下がったように感じた。

泰明の後ろ姿を目で追う夕鈴の両頬に触れる大きな手。両頬をキツく挟まれた夕鈴は、強引に陛下と顔を合わせることになる。

「へ、へぇいか。な、なに…しゅる」

「ふ…」

陛下は満足気に笑うと、今度は頬をツマみ出した。鈍痛が伝い、顔をしかめる。

「い、いひゃい…ですよ」

「………」

陛下は頬を解放すると、次に腰を引き寄せ、ぎゅーっと力を込めて抱き締める。

一体どうしたのか。いつもはない情緒不安定さに心配になる。


「っつ……陛下、ちょっと強いです」

圧迫が苦しさに変わる。陛下は慌てて力を緩めると、柔らかく抱き締め直した。

「……あの、どうしました?」

表情を窺い知ることができない体勢に不安が募る。何かあったのか…寄る辺無い不安ばかりよぎる。

肩越しにため息をつく陛下。仕事の疲れが尾を引いているのかと、心配になった。

「陛下、大丈夫ですか?」

ぽんぽんと背中を優しく撫でる。それを合図に、やっと陛下が顔を上げた。
見つめあったまま、しばらく沈黙が流れる。


「あーダメだね……」

顔を曇らせる陛下。夕鈴にだけ見せる子犬の姿で、ダメだよね…と再度呟いた。

「何が、ダメなんでしょうか?」

「夕鈴、君、楽しそうにしてたね…」

「え?」

それは、泰明と話していた時のことを言っていた。
確かに楽しかったが…肩を落とす様子に、なかなか肯定できない夕鈴。

楽しそうにしていたのがダメだったのかと、一瞬顔をしかめたが、すぐに陛下に否定された。


「違うんだよ、夕鈴。君は楽しそうにしてるのは僕も嬉しい。なのに……」

しゅん…耳を垂れる陛下。久しぶりの可愛らしい子犬の出現に、駆け寄って抱き締めたくなる衝動にかられるが、かろうじて抑え込んだ。

なんだか、ショックを感じているようだ。
夕鈴としてはこのまま観察したかったが、落ち込む陛下を放ってはおくにはいささか良心が痛む。


「どうしました?何か…嫌なことでも?」

そっと手を差し伸べると、すかさず掴まれる。細くて長い指を夕鈴のそれに絡めてきて、顔がみるみる熱くなった。

「嫌なこと…かも、正直に認めるよ。やっぱり我慢ならない」

何が…?疑問を込めて見返すが、陛下は憂い顔で熟考するばかりで、意味が測れない。


「こんな僕を…嫌いになるかな?」

じっと見つめられて、顔ばかりか全身が熱くなってきた。吸い込まれそうな紅い瞳に、夕鈴の顔が写っていた。

「あの、おっしゃっている意味が…」

分からない。まるで謎掛けのような応酬に、夕鈴はお手上げ状態。陛下の意図がまるで読めない。


「夕鈴…」

「はい」

陛下から目がそらせない…。
血が逆流した時のように、ドクドクと脈打つ鼓動が陛下にも聞こえてしまいそうで、恥ずかしくなった。


「僕を、嫌いにならないで…」

「な、ならないですよ…」

「ホント?」

「本当です…」

嫌いになんてならない。なるわけない。

だって、私は…陛下のこと。

「……す…」

「………」

「!?」

はっと気付いて、口を押さえる。

今、私…。

しまったと感じた時には、すでに遅かった。さきほどとは打って変わってしたり顔で破顔する陛下の表情を見て、失敗したことに気付く夕鈴。

「何?夕鈴」

「なんでも…」

手で顔を覆いながら、陛下の視線を避ける。動揺している今、狼陛下の美貌で責められたらひとたまりもない。とても危険だ。

アラートが鳴り響く頭の中は、パニック寸前であった。

あー血迷った、やはり陛下のそばが、一番危険だ。

いち早く離れたかったが、陛下は夕鈴の退路を塞いで、腕の中に取り込んだ。

「今、何か…言ったよね」

「言ってません!」

「そっかぁ…聞き間違いかな」

「………」

陛下の機嫌の良さが伝わってくる。鼻歌でも聞こえてきそうだ。

さっきまで、嫌いになるなとか悲しげに嘆いていたというのに…。

切り替えの速さに驚く反面、悔しさが滲む。

苦虫をかみつぶしたような顔でため息をつく夕鈴を見て、陛下は笑っていた。















政務室から退出し後宮へ戻る道すがら、夕鈴を呼ぶ声に歩みを止めた。

振り返ると、慌てて駆け寄る泰明が見えた。
近くまで寄って来たところで声を掛ける。


「どうしましたか?」

「お逢いできて良かった、お妃さま。実は急きょ国へ帰ることになりました」

「え?」

泰明の話によると、官職についている父親から、白陽国の近くにある国にある商家まで届け物を遣わされたとのこと。

「すぐに発ちます」

「まぁ、本当に急ですね」

「はい。今は、父の補佐としてたくさん仕事をこなし、早く一人前になるのが目標ですから…」

きっと父親も誇りに思っているはず。夕鈴は笑顔でエールを送る。

「陛下にもご挨拶をしたいと思っておりますが…今どちらに?」

「陛下でしたら今、政務室に…」

さきほどまで夕鈴も居た政務室の方面に目を向けると、視界に黒いものが入る。

「あ……」

「呼んだか?」

背後から降る声に、泰明は慌てて振り返る。

回廊の中腹に、陛下が立っていた。

礼を取り挨拶しようと腰を折る泰明に、そのままで良い…と告げると、夕鈴の隣に並ぶ。


「帰国か…?」

「はい、陛下。滞在の際はたいへんお世話になりました。国からの用事で、勝手ながらすぐに発ちます。本当にありがとうございました」

「私も感謝する」

陛下の言葉が意外だったのであろう、泰明は疑問の視線を送る。夕鈴も一緒になって、不思議そうに陛下を見上げた。


「お前のおかげで…妃から、いや…」

陛下は中途半端に止めると、夕鈴を見つめた。

「???」

「妃が…楽しめたようだ。またいつでも来るが良い」

「は、はい」

泰明は丁寧にお辞儀をすると、最後に夕鈴に向き直る。

「お妃さま。楽しい時間をありがとうございました」

「こちらこそ…またお逢いしたいわ」

ふたり握手を交わす。
泰明は一瞬だけ元の子供らしいあどけない笑顔を見せた後、すぐにきりっとした仕事顔に戻り、立ち去って行った。




「行っちゃいましたね…」

夕鈴は名残惜し気に呟くと、陛下が手を繋いできた。

「どうしました?」

陛下も寂しさを感じたのかと思い、ぎゅっと握り返す。

「うん、消毒かな…」

「………は?」

陛下の発言に思考が止まる。

「心憂いる元が、やっと帰った」

「…なっっ……」

夕鈴は顔を向ける。みるみる怒りに染まる表情を見て、陛下は焦り声を上げた。

「あー冗談だよ」

「冗談………ですよね!陛下、彼に感謝してるって言いましたよね!」

確認する。
記憶が正しければ、最初から最後まで好意的だったように思う…。
陛下にしては珍しく、また来いなどと言ってたし。

でも…ここ何日かの陛下の不可解な言動を思い出し、ゆっくり尋ねた。


「まさか…社交辞令ですか?」

「感謝してるのは本当。あの者のおかげで…君の愛の告白が聞けた」

「!!」

「夕鈴…僕も同じ気持ちだよ」

固まる夕鈴などお構いなしに、陛下は腰を引き寄せ、頬や髪に触れてくる。

「我が愛しい妃よ…いつもああして、君から気持ちが聞きたいものだ」

妃に夢中の狼陛下。

糖度たっぷり、破壊的な甘さで攻める陛下を見て、夕鈴は遠い目をした。



やっぱり…陛下には敵わないわ。






二次小説第69弾完
またまた、嫉妬深い陛下とそんな陛下に振り回される夕鈴を書いてしまいました。
原作の冷静沈着な陛下の姿とはかけ離れているな~と思いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです☆
可愛い子犬陛下の懇願は、免疫のない夕鈴には刺激的すぎましたね!
最後までありがとうございました。

次回は早70弾!?そんなにアップしていたなんて…ミケ自身驚きです

13:12  |  オリジナルキャラ編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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