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2014.07.30 (Wed)

君恋し初夏の夕暮れ 前編

君恋し初夏の夕暮れ 前編


夕鈴目線で長文です。
ちょうどこの暑い季節に書きたくなった一作。

ではどうぞ。


【More・・・】

雨の降り続く後宮。
梅雨の終わりに突然降り出した大雨は、初夏の厳しい日差しと相成り、夕鈴の住まう後宮にも湿気をもたらしていた。

目眩がしそうな暑さと激しい雨音の中、夕鈴は目覚めた。


「まだ早朝…?」

薄目を開けて窓から覗く外の景色を確認した。ぶ厚い雲で覆われた太陽は、時折雲の隙間から顔を出す。注意深く目を凝らし眺めると、すでに十分な高さに登っていた。

どうやらいつもの起きる時間のようだ。どんより空模様が、夕鈴に早朝と錯覚させたらしい。

気だるい身体を起こし、いつもならヒヤリと冷たい床に裸の足を付ける。予想していた冷たさはなく、じっとり湿気じみたベタつきが、気分を悪くする。

昨夜は余り眠れなかった。

原因は夏の気温と高い湿度がもたらした熱帯夜だ。何度も寝返りを打ちながら、降り続く雨のザーザーという音が、夕鈴の耳から離れなかった。

ため息と共に寝台から身を起こす。

軽く身支度を整え、居間に現れた夕鈴を、侍女たちが爽やかに出迎える。こんな酷暑でも汗ひとつかいていない涼しげな顔をまじまじ見つめる。すると照れたようにひとりの侍女が顔を背けた。


「まぁ…お妃さま、そのように見つめられては…恥ずかしがっておりますわ」

古参の侍女が横から朗らかに言う。

「あ…」

ごめんなさい、謝りつつも目が離せない。夕鈴の目の前で、静かにかしずく侍女は新顔だったからだ。

疑問を込めて挨拶する夕鈴に、黙っていた彼女は声を上げた。


「今日よりしばらくお世話になります」

「そうなの?よろしくね」

飾らず笑顔を見せると、新入り侍女は頬を染めた。


「彼女、お妃さまのファンなんですよ」

「え、ファン?」

なぜ…驚き見つめると、耐え切れないとばかりに慌てて目を反らす彼女。
また、顔を背けてしまった。


「これ、失礼ですよ」

「大丈夫よ、じっと見つめてばかりでごめんなさいね」

対して気にせず、夕鈴は席に着いた。暖かいお茶が運ばれ、室内に良い香りが充満する。
暑い日に熱いお茶を飲むのが好きな夕鈴であったが、この日は違う。冷めるまでの手持ち無沙汰な間、新入り侍女に話しかけることにした。


「しばらくって、いつまで?」

「梅雨の間だけです、その後は東の国に嫁ぐことになっています」

「そうなの…」

自分とそう年齢の変わらない少女が、生まれ育った故郷を離れる。それだけでなんとなく悲しくなった。

「待ち遠しいです」

夕鈴の悲しい顔に気を止めたのか…彼女は予想に反して明るく答えた。夕鈴は眉根を寄せて、寂しくない…?と浮かんだ疑問を尋ねる。

「寂しいですが、でも…」

さっと頬を染める。
また無意識にじっと見つめていたんじゃないか…と焦るが、原因は夕鈴ではなかった。


「お妃さま、彼女、恋愛結婚らしくて…大好きな方に嫁ぐんですって」

夕鈴を扇で仰いでくれていた傍らの侍女が茶化すように答えた。その言葉に彼女はますます頬を赤くする。

「親戚から強引に勧められたお見合い相手との結婚が決まっていたけど、必死で説得したとか…すごいですわね」

侍女の饒舌は止まらない。
かなりの情報通に、苦笑いを浮かべる夕鈴。
妃付きの侍女を始め、ここの侍女や女官たちは皆、話好き噂好きだ。一言漏らそうものなら、すぐに後宮中に知れ渡ってしまう。彼女の話もきっと夕鈴以外は皆知る事実であろう。


「や、やめてください…」

消え入りそうな声で非難する彼女は、とても可愛い。顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに身を縮めている。

「まぁいいじゃない。誰でも興味ををひく話題だわ。お妃さまも、お聞きになりたいですわね」

「……えぇ」

確かに聞きたい。
この時代に珍しく恋愛結婚。決まりかけた結婚を蹴って本意の相手と結ばれるなんて、まるでおとぎ話だ。恋愛経験の豊富でない夕鈴でも、興味をそそる。

「お妃さまにお聞かせするような話では…」

「いいえ、聞きたいわ」

夕鈴はにっこり微笑む。途端に控えていた彼女は態度を変えた。まだ顔を赤らめていたが、ぽつりと話し出す。

ファンと言っていたのは案外本当かもしれない…夕鈴はくすりと笑い耳を傾けた。


「彼は…東の国の商家の出で、仕事で白陽国に来ていました。我が家にも出入りしていて、よく休憩中に庭や玄関先で話しておりました」

「……うんうん」

出逢い話からね。
楽し気な展開に心が浮き立つ。


「彼は優しくて心が広く、とても家族思いでした。父親の商家を継ぐために寸暇を問わず懸命に働く姿に惹かれ…気付くと好きになっていました」

「へぇ…」

外見ではなく、内面に惹かれたようだ。夕鈴はさっそく羨ましくなってきた。
まだ恋の本質を知らない自分にとって未知の世界。

「好きになったきっかけは自分にも分かりません。ただ、気付くと好きになっていて、抑えきれない気持ちは徐々に膨れ、どうしようもなくなっていました」

彼女は語る。

「………」

彼女の話はとても温かく、とても微笑ましい。でも、それでいてどこかもどかしいような…急かされるような。

夕鈴は湧き上がる焦燥感で胸に手を当てた。


「お妃さま?」

「あ…とても良い話ね。続けて」

胸の違和感を気にせず、夕鈴は話を促す。


「身分違いの恋でした。家族から反対され何度も諦めようと幾夜と涙を流しました。でも、無理でした…」

「逢えば逢うほど好きになる。そばに居る時間が長ければ長いほど、募る気持ちは増していく一方でした…」

切なく語る彼女の横顔から、当時の苦しみを悟る。
その端整な表情が歪む様子を見ていると、ふいに胸に痛みが走った。

先ほど感じた違和感がついに、夕鈴に痛みをもたらす。


「私は…すべてをさらけ出したかったのです…」

「………」

誰であっても走り出した気持ちに蓋はできないはずだ、たとえそれが自分であっても。


抑えきれない気持ち。

どうしようもない思い。



それはまるで…。



「お妃さま…?」

風を送る扇がいつの間にかパタリと止まる。夕鈴は何事かと目を向けるが、驚いた顔を向けられているのは他でもない自分自身であった。

「?」

「酷い汗が…ご気分優れませぬか?」

「え…」

問われて気付く。尋常ではない汗をかいている、どうしたのであろうか。

額の汗を手で拭い、熱い頬に触れた。火傷しそうなほどに熱を発する身体に不安になる。

「今日は暑くて…」

冷めたと思い口に含んだお茶が身体を温めたのかもしれない。
からになった湯のみに目をやりながら、控えめに笑う夕鈴。

「お風邪を召していらっしゃるのでは?」

侍女は失礼します…と夕鈴の額に手を当てる。

「熱は…ないようですね、でも顔が真っ赤ですわ」

「昨日、暑さで寝れなかったの…」

「それはいけません。水浴びをなさいますか?」

「水浴び?」

こんな朝っぱらから…水浴びをする自らの姿を訝しく感じる。そう考え込んでいる間も止めようのない汗が肌を伝う。

気持ち悪い。
水浴びするにせよしないにせよ、とにかく着替えたい。

夕鈴は立ち上がり、寝室に戻った。出された代えの衣装を手に取ると、水浴び用の白い着物だった。


「ご用意、整えております」

準備の早い侍女たちが、さっと拝礼する。

「………」

仕方ない…か。せっかくの好意を無碍にもできず、夕鈴は着物に袖を通した。














水の冷たさが、火照る身体を冷やしてくれる。細い管の先から満面に降る水の流れが、夕鈴の気分を落ち着かせていた。

最初こそ水浴びに抵抗があったが、こうも効果的だと癖になりそうだ。
妃としての贅沢な時間の使い方に申し訳なく感じる一方で、この極楽を全身で楽しんでいた。


ちゃぷちゃぷ。

大きな浴槽に張られた水を手ですくい、顔に浴びせる。気持ち悪さはとれ、汗臭さもすっかり消えていた。

「お妃さま、ヌルくはございませんか?」

「いいえ…冷たいくらい」

答えながら、ベールのすぐ奥側に控える侍女を見ると、新入りの彼女だった。他の侍女たちは昼食の準備があるとかで、皆席を外しているらしい。

「もう昼なのね…」

ここに居ると時間感覚が薄れてしまう。夕鈴はぼうっと、窓から覗く外の晴れた景色と、ぼんやり霞む彼女の姿を交互に眺めていた。

「冷水は…あまり長く浸かるとお身体に障ります」

「そうね…」

分かっているが、なかなかこの居心地の良さから離れ難い。夕鈴は水から半身出たり入ったりしながら、体温調節をしていた。

「王宮は暑くて…水に浸かってないと溶けてしまいそう」

「確かに暑いですね。王宮より東、王都の外れまで行くと涼しいのですが…」

「そうなの?」

「はい。前に彼と行きました。ここより標高が高い場所で、こんな暑くて湿気の多い日でも乾いた風が吹いておりました」

「素敵」

夕鈴は微笑む。
そんな場所なら汗をかかずに済みそうだ。

「もしかして…思い出の場所?」

期待を込めて尋ねる。

「はい、よくデートしました」

ふふふ…彼女は笑う。

「そうだ、さっきの話…続きを聞かせてくれない?」

せっかく彼女が話し出してくれたので尋ねる。
自分のせいで話の腰を折ってしまい、中途半端に終わっていた。続きが気になるところだ。


彼女はさっそく続きを話してくれた。

どうしても結婚したいがために親戚を巻き込んで画策した話や、東の国の知識を蓄えるために内緒で旅に出た話や、彼の商売を手伝おうとして空回りした話など、嬉しそうに語る彼女。

「本当に…努力されたのね、途中で諦めなかったのがすごいわ」

果たして自分にできるだろうか。それほど反対されていて意思を貫ける自信はない。

「二人で過ごす時間が、より結びつきを濃くした結果です」

「そう…」

目の前で、彼女のはにかんだ笑顔が揺れる。

「初恋の相手ですし…より強い気持ちが持てたかもしれませんね」

「初恋…」

また胸が苦しくなる。

先刻感じた違和感が、深く心に陰りを落とす。


ぱしゃり…

水が跳ねる。
螺旋を描き水面が波立つ。

その波形を目で追う先に、陛下の顔が写った。


「………」

あぁ、そうか。

やっと違和感の正体が分かり、夕鈴はため息をついた。

彼女の話と自らの心を重ねていたのね…この実ることを許さない心を。

夕鈴はひとりでに納得すると、意思を振り払うかのように、顔を水につけた。


共に過ごして…
分かりあって…
好きになって…

初恋、自分も同じだ。

だけど蓋をして奥深く封印しようとしている。

だから…表に現れないこの気持ちは、きっと恋じゃない。


気付いてはいけない。

気付かれてはいけない。


だって私は、狼陛下の臨時花嫁だから…。



「私の話など…つまらなくはないですか?」

急に黙り込んでしまったせいで、彼女は気遣わしそうに声を掛けてきた。夕鈴はさっさと燻る思いを追い出し、気持ちを切り替える。

陛下に向かう気持ちは本物。不相応なのは知っているし、最初からこの気持ちを叶えたいなどとも思ってない。
それでも今ここに居るのは彼のそばに居たいからだ。孤独とひとり戦う彼を支えたいからだ。

それを決めたのは私。


だったらなおさら…演技しないと。



「いいえ、楽しいわ。こんな素敵な話なかなか聞けませんもの」

夕鈴は微笑みながらほっと息を吐いた。

「素敵なんて…私の話など、お妃さまには敵いませんわ」

「え?」

「お噂は聞き及んでおります。いつも、読ませていただいていますし…」

にっこり顔の彼女を見て固まる夕鈴。
彼女の言う、読ませていただいているものって、もしかしなくても、”あれ”のことだろう。

「つい先日、新作も出ました」

「………」

案の定、氾紅珠の創作小説のことだった。

狼陛下との馴れ初めを「二人だけの秘密」と言ったことがきっかけで、妄想が止まらなくなりついには筆を取ったという代物。
本人の完全な妄想の産物であるが、貴族たちの間で大流行し、その結果事実として公然と語られている。

謎に満ちた狼陛下唯一の妃を題材にしたもののため、信憑性うんぬんよりも飛びつくように広まるのは仕方ないとして……嘘であっても訂正できないのが辛いところだ。


「私、知りませんでした。お二人に…あんな素敵な出逢いがあったなんて…」

「………」

私だって初耳だ。

紅珠の頭の中で、夕鈴の想像を越えた一大ラブストーリーが展開中。
今や恒例となった話題に、夕鈴は否定も肯定もせず曖昧に笑う。

「本当に心から愛されておいでで、あれほど素晴らしい純愛話はありません。私も結婚したらお妃さまのような夫婦になるのが夢です」

もうやめて欲しい。
これ以上は下げられた体温がぶり返しそうだ。夕鈴はパタパタと手で顔に空気を送る。

「ノドが渇きました。お水をいただけませんか…?」

失礼と思いながらも話を中断させて、水を用意させた。慌てて水場へ向かう彼女を見送りながら、冷え切った体を、ほんの少し差し込む日差しに当てる。


あぁ、もどかしいとはこのこと。

手を伸ばせばすぐ届く距離に居るのに、伸ばすことはままならない。
目を閉じてもそばに吐息を感じるのに、触れることは禁じられている。

陛下との関係は、どこまでいっても平行線だ。

自分の立場も役割も分かり切っている。だから…この関係に不満などない。
でも、自分の知らないところで、陛下との噂が一人歩きする様子に触れるたび、やるせない思いでいっぱいになる。

いっそ断ち切れたら…楽になれるのに。

それを一番望んでいないのは、他でもない私自身だ。



カタン…

思考を止める物音で、夕鈴は顔を上げた。水場から戻って来たのだろうか…と、声を掛けると彼女が返事した。

そろそろ上がろう。

十分冷やされた身体にたっぷり水分を補給しながら、夕鈴は浴室を後にした。





後編へ続く。

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