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2014.07.30 (Wed)

君恋し初夏の夕暮れ 後編

君恋し初夏の夕暮れ 後編


前編の続きです。


【More・・・】

暑い暑い暑い。

うだるような暑さの中、回廊を進む夕鈴の足取りは重い。
北側に設けられた書庫なら涼しいのではないか…と期待を込めて扉を開けるが、室温は回廊と代わり映えしなかった。

せっかく来たのに、無駄足だったか。

ため息ひとつ、後ろ手で扉を閉め夕鈴は書庫を歩く。
独特の紙の香りが漂うこの書庫は、夕鈴のお気に入りの場所のひとつ。期待した涼しさは無いが、この部屋で過ごすのも悪くない。


「それにしても…暑い部屋ね」

隣の政務室の冷気を少しでも感じられたら…無意識に周囲を見渡す夕鈴は、ある場所で目を止める。

書庫の一画に備えられた長椅子から誰かの足が飛び出ていた。


あれって…。

見覚えのある靴。

忍び足で近づくと、長椅子に横たわる陛下がいた。

こんな暑い場所で寝ているなんて大丈夫かと不安になるが、窓に近いこの場所は、なかなか風が通り涼しかった。

「………」

陛下の黒髪が、時折風になびく。その様子から目が離せない夕鈴。

さぁ…っと一層強い風が袂を通り抜けたとき、夕鈴ははっと意識を戻した。

しまった、見惚れてしまっていた。


「お疲れ…ですね」

夕鈴は小さく呟き微笑むと、眠りを妨げないよう回れ右する。そのまま退出しようと足を踏み出した途端、着物の袖を引っ張られた。

「!?」

つんのめりそうになるのを必死で踏ん張る夕鈴。振り返ると陛下と目が合う。


「た、狸寝入りですか?」

非難すると、横たわったままにっと陛下が笑った。

「いつから…」

見惚れていたのを、気付かれていなければ良いが。


「せっかく来たのに、どこへ行くんだ?」

「用事があったわけではないんですよ。涼を求めて来たんです」

「涼?」

「部屋は暑過ぎて…北側のここならちょっとは涼しいかと思ったんですが。あんまり変わらないので…部屋に戻りますね」

「ここは風が来て涼しいが…」

陛下は起き上がると、夕鈴の座るスペースを開ける。

「どうぞ」

しばらく躊躇していた夕鈴であったが、有無を言わさぬ視線に促され腰掛けた。

「涼しいだろう?」

「あ、はい…えーっと、ご休憩の邪魔ではありませんか?」

「君と逢う時間が、私にとっての休憩だ」

陛下は妖艶に微笑むと、夕鈴の肩を自然と引き寄せる。

自分の体温が移り暑くなるんじゃないか…と心配したが、心地よい温度を保っていた。

あ…寝ちゃいそう。

先刻まで仮眠をとっていた陛下の気持ちがよく分かる。ここは不思議と涼しい。

「涼しいですね」

同意を求めるとこくりと頷いてくれる。
政務室にほど近い書庫のため、口調こそ狼陛下のそれであったが、陛下は、本来の姿である柔らかい雰囲気を纏っていた。

最近、こうして自然体で居る時間が増えた。仲良し夫婦演技の向上に努力して久しいせいであろうか…最初ひしひしと感じていた緊張や戸惑いはなく、ただ居心地の良い時間がゆったり流れる。まるで昔から、こうしてきたみたいに。


「夕鈴、今日は素直だな。何か…あるのか?」

「私は、いつも素直ですよ」

何を言い出すのか…とすぐ隣の陛下を見上げる。引き寄せられているせいでとても顔が近い。だが、この距離にも慣れてきたので、前ほど焦らない夕鈴。

胸の鼓動は少し早いけど、平常心を保てているはず。
焦る私を見て陛下が面白がるのが悔しくて特訓した結果だ…心の中でほくそ笑む。


「そうか?前は恥ずかしがって、硬直していたように思うが…」

「前はそうでしたね」

ふふふ…夕鈴は得意気に笑う。途端、陛下はむーっと眉根を寄せて不機嫌な顔になる。

「面白くない…」

両頬を強めに挟まれたかと思ったら、今度はつままれた。されるがままに顔が変形する。

「なっ……やめてくださいよ」

なぜ怒るのか分からない。ぎこちない演技をするよりは自然体の方がいいはずである。

「初々しい君が…堪らなく可愛かったのに」

「な……初々しくない私は、お払い箱でしょうか!?」

陛下の拗ねた顔が妙に腹立ち、声を荒げる夕鈴。
誰のための態度だと思ってるのか、間違いなく陛下のためだ。


「まさか…」

陛下は不敵に笑うと、夕鈴の怒り顔を嬉しそうに眺める。

「我が妃はいつでも可愛い…」

ふいに影が降りてきたかと思うと、まぶたに冷たい唇が押し当てられた。
突然の行為に対処できず固まる夕鈴。


「最愛の妃よ、どんな姿でも変わらず愛しい…」

「っつ……」

夕鈴は真っ赤な顔で、金魚のように口をぱくぱく、声にならない声を出す。
陛下の凶悪行為に、固めた平常心は見る影もなく、音を立てて崩れていった。

動揺する夕鈴など素知らぬふりで、陛下は再度、唇を寄せてきた。

右頬に、額に触れる温度。
ついばむように、口づけが落とされる。

全身の血の逆流を感じる。

触れられたところから…火が付いたかのように熱い。

また…口づけされそうな気配に、夕鈴は慌てて手の平を陛下の口に当てて、待ったをかける。


「も、ももももう…や、やめっ」

「戻って来たな…」

「…………え?」

「初々しくて可愛い、我が妃よ…」

満足そうに笑う陛下の顔は、夕鈴の心に焼き付いて、いつまでも離れなかった。















あぁ、酷い目にあった。

今は夕鈴以外誰も居ない書庫に、大きなため息が漏れる。

骨抜きにされぐったり脱力した夕鈴は、長椅子に深く身を預ける。

今日のセクハラは一段と気合入ってたような…。

しかもあの後、陛下の姿を探して書庫に現れた側近に、イチャイチャするな、とお叱りを受けてしまった。

二重で、酷い目にあった。


先ほどまでのやり取りを思い出し、赤面と共に身震いする夕鈴。

陛下への気持ちを自覚してからというもの、彼と過ごす間は演技と本当の境界線を間違えないように、心を冷静に落ちつかなければならないのに…それを許してはくれない陛下。

本当は…私の気持ちなどとっくに気付いていて、楽しんでいるのではないかと思ってしまう。

どうしてこうも、心かき乱すのか。


「はぁ…」

ため息がまた漏れる。

せっかく汗がひいていたのに、また変な汗かいちゃったじゃない。
熱が引くまで、誰とも逢いたくない。

夕鈴は長椅子に突っ伏した。

ふて寝しようか…などと考えていたら、何かが手に当たった。

「紙…?」

白い紙が長椅子の隙間に挟まっている。手に取り広げると、それは陛下の字が書いてあった。しかも自分宛の手紙のようだ。

いつの間に、こんなものを置いていったのか…夕鈴はゆっくり読み上げる。

「えーっと。僕の部屋に来てくれたら、涼しさを体験できるよ……何これ」

陛下の部屋が涼しいのは知っている。暑い時間帯に、氷で出来た支柱が立てられているから。

すでに体験済だ。

わざわざ紙に書いて教えてもらわなくても知っているのに…手紙に目を戻すと続きがあった。

「なになに。きっと今の時期しか出来ない体験だ。時間ができたら早めにおいで…」

氷柱とはまた別の話みたい。
どうやら時期と関係してるらしい。

「………」

体験が何かまでは書いていないが、なんとも魅力的なお誘いに心が揺らぐ。

今になって思えば…暑さのせいで正常な判断がとっくに出来なくなっていたのかもしれない。

手紙の内容を反芻するこのときの夕鈴は、まだ知る由もなかった。



















好奇心旺盛な性格は、ときに仇になる。
このとき夕鈴ははっきりと悟った。


「騙しましたね…」

「騙す?なんのことだ」

とぼけた陛下に笑い飛ばされ、夕鈴は顔をしかめた。

「とぼけても無駄です!こんな…こんな場所に連れて来て…」

夕鈴は小さく叫んだ。
周囲を取り囲む臣下たちに聞こえないように。


「気に入ったか…?妃よ」

陛下は目を細めた。
夕鈴の手を大げさに取る。

「君が暑い暑いと嘆くから、こんなところまで、来てしまったね」

耳元で囁く陛下。
にやりと笑う横顔が見えて、ため息が漏れる。






今朝も酷暑だった。

うるさいくらい鳴き続ける蝉の声にうんざりしかけたところ、夕鈴はふと陛下からの手紙を思い出していた。

涼しい体験を思い描きながら、浮き足で陛下の部屋を訪ねると、そこには予想外の人物が居た。


「!?」

「お妃さま、待ち兼ねておいでですよ」

やっと来た…とばかりに、慌てて駆け寄ってくる。

「え?なぜあなたが…ここに」

最後まで尋ねる前に手を引っ張られた。そのまま来た道を引きずられるように戻っていく。

「陛下がお待ちにございます!!」

「は??ちょっと…まっ」

意味が分からず、暴れる夕鈴。

「どういうこと!?」

「ですから、陛下がお待ちにございます」








意味も分からず連れて来られた場所には、陛下が居て…

さっきから不毛なやり取りが続いていた。



「いいかげん教えてくださいよー。ここはどこです?それに、なぜ彼女が…」

ふたりの傍らに佇む新入り侍女を見ながら、夕鈴は陛下に詰め寄った。

陛下の部屋を訪ねた折になぜか居たのは彼女だ。しかも待ちわびていたとかなんとか言っていた。まるで示し合わせたかのようで、夕鈴は問い詰めずにはいられない。


「妬いているのか?私の心は君一筋だというのに…」

甘い顔して抱き締められる。

ちがーう!!

赤い顔で抵抗するが、逞しい腕が解けることはなかった。

あさっての勘違いを披露する陛下に尋ねるのは諦め、夕鈴は周囲を見渡す。

「………」

濃い芝生が敷き詰められたこの場所は、小高い丘の上のようだ。遠くに地平線が見える。

冷たく乾いた風が吹き、夕鈴の長い髪がなびく。
その一房を指に絡めて、陛下はやっと口を開いて説明してくれた。


「彼女に教えてもらった。ここは王宮より標高が高く涼しい場所だ」

あぁ…やっぱりそうか。

ここは…。


「思い出の場所?」

にっこり…頷く彼女。彼女が頻繁に来ていたと言うデート場所に来ているようだ。

私たちが、彼女の思い出の場所に来ても良かったの…?

なんとなく申し訳なくて思い切って尋ねると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「むしろ嬉しいです。お妃さまにも来て欲しかったので…」

「そう、素敵な場所ね」

「ありがとうございます」

頭を下げる姿に微笑むと、夕鈴は陛下に向き直った。

「この時期しか体験出来ないって…」

「暑ければ暑いほど、地上との気温差が増すようだ。夏しか体験出来ない」

陛下が言った途端、さーっと冷たい風が吹いた。ふたりの着物の袂を揺らす。

「それに夏の空が綺麗だ。こんなに太陽が近くて、まるで浮いているみたいだと思わないか?」

空は晴れてる。
白い雲の切れ目から差し込む日差しが、キラキラと地上を照らす。
夏草の香りが満ちて、心地よい風が流れる。梅雨明けのジメジメしたざらつきは感じられない。


「気に入ったか?」

また同じ質問。

気に入るに決まってる。


「せ、説明もせずに連れ出さないでくださいよ…」

照れ隠しで怒ってみる。


「すまない、君を喜ばせたかった」

柔らかく緩められる眉根。
嬉しそうに細められる目。

この顔は、私だけにしか見せない特別なもの。

一瞬で、私の心を攫う笑顔。


トクントクン…と胸を刻む心音が、奥深くしまった気持ちを引き出してくる。
気付いてはいけないのに、強く制しなければ、溢れ出てしまいそうだ。


やっぱり…彼はズルい。

夕鈴は赤い顔を隠すように俯いた。


「それに…愛しい妃に、夏風邪をひかすわけにはいかないしな」

「?」

「水浴びも良いが…しすぎは身体に良くない」

「わ、私そんなに水浴びなんて…してません」

「そうか?」

焦る夕鈴。
あの日から、水浴びが癖になりかけているなんて…間違っても言えない。

なにより、陛下に知られてるのが恥ずかしい。

彼女は余計なこと言っていないだろうか…心配になりチラ見すると、微笑ましく眺めていた。

彼女だけでなく、陛下の臣下も女官たちも皆、にこにこと私たちに熱視線を送っている。



恥ずかしくなってきた。

痴話喧嘩を見られた気分。



相変わらず人前で触れ合うことをやめない陛下も…

当たり前のように傍らに立つことを許されている私も…

私を慕ってくれる彼女も…

この素敵な場所も…

すべて。




違和感を感じるのは初めてではない。

だけど不思議と、胸が痛むことはなかった。





「今度は私と入るか?」

水浴び…、陛下が歯を見せて笑う。


その笑顔は夏の太陽よりも眩しく見えて、夕鈴は目を細めた。












二次小説第72弾完了

結局、夕鈴をデートに連れ出したかった陛下の話を書きたかっただけです。新入り侍女を登場させたり背景考えたり、実に回りくどいことしました(笑)
でも楽しかったです!特に書庫のシーンはニヤニヤが止まりませんでしたよ
夕鈴をどこまでも特別扱いしてるのが良いですね。いつか違和感を感じることがなくなる日が来れば…そう望んでやみません。

ありがとうございました



20:06  |  梅雨・初夏編  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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