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2014.08.12 (Tue)

恋は甘い蜜の味

恋は甘い蜜の味

夕鈴目線で短文…(とまではいかない中文くらい?)です。
甘~い甘い蜜ぐらい甘く書けたら良かったかもですが…力不足です。

ではどうぞ。


【More・・・】



ここは狼陛下の後宮の自室。

陛下唯一の妃である夕鈴は、半刻ほど前から険しい表情の陛下を遠い位置で眺めていた。

ここ最近特に忙しくなった陛下は、今日も変わらず鬼宰相から仕事を詰め込まれ、高く積み上げられた書類に挟まれ身動きできない状態であった。

そのため、夕鈴がここに居る。

忙しくて夕鈴に逢いにいけないとの理由で、陛下の自室に呼び立てられたのだ。


「次はこちらの案件を…」

書巻を広げる音が静かな部屋に響く。
傍らを囲むのは側近と宰相のみで、他の官吏や役人たちは退けられていた。

無言で受け取り、決裁をし、返して、また新しい書巻を受け取る。

永遠という言葉がぴったり当てはまるようなやり取りが、夕鈴の前で続いている。


「陛下…続いて」

書巻を机に置こうとした矢先、急かすように投げられた言葉にとうとう陛下が口を開いた。

「どこまで続くんだ?これは…」

うんざり顔の陛下がため息をついて、宰相を睨む。

「本日はあの箱の処理をしていただきます」

処理単位が箱であることに驚き、その数え切れない量に二度驚いた。陛下でなくても、うんざりする量である。

「妃と逢う時間ぐらい調整できないのか?」

陛下は奥にひっそり佇む夕鈴に視線を送りながら、不満を述べた。
宰相は、今気づいたかのように陛下の目線を追うと、あぁ…と声を出した。

あぁ…じゃない。
このいたたまれない雰囲気にそろそろ限界を感じていた夕鈴は、助け船とばかりにぱっと立ち上がった。


「お忙しいようですし…私は一旦失礼します」

夕鈴は慌てて声を掛け拝礼するが、陛下は、うんとは言わなかった。訝し気に眉根を寄せ、恐ろしいほど冷酷な表情を浮かべている。
その顔に、ひやりと身の毛がよだつのは、まだまだ夕鈴の修行が足りない証拠だ。


「妃が居なければやる気がおこらぬ。せめて休憩を入れさせろ」

陛下は返答が返らぬ前に、颯爽と立ち上がり固まる夕鈴の近くへ寄った。
動揺顔の夕鈴に柔らかく微笑むと肩を抱く。

後方から側近の盛大なため息が届いたが、陛下は無視を決め込んでいた。
その様子をひやひや見る夕鈴。

致し方ありませんね…と李順が書巻を片付ける音がして、やっとほっと息をついた。


「用があれば呼べ」

陛下は短く呟くと、夕鈴を自室の外へ連れ出して行った。














花が咲き乱れる庭園に、陛下と夕鈴並んで歩く。

冷酷非情な鎧は脱ぎ捨て、優しい子犬の姿に戻った陛下が、にっこり顔して隣を歩いていた。

ホント…別人みたい。
改めて演技の徹底ぶりに夕鈴は感嘆の息を漏らした。
その視線に気付いたのだろうか…子犬陛下が肩を落とす。


「ごめんね、夕鈴。呼びつけておいてなかなか遊べなくて。でも、やっと遊べるね」

「はぁ…私は構いませんが、いいんでしょうか?李順さん、お怒りのようでしたけど」

後でとばっちりを受けるんじゃないかと不安になる。陛下の休憩に付き合いたいけど、鬼上司の怒りを買うのは嫌だ。

なんだか最近、目をつけられている気がするし…。

「君は…僕より李順を気に掛けるの?」

突然、陛下が歩みを止めた。
振り返るとむっと拗ねた表情の陛下が、不満気に腕を組んでいた。

「!?いえ、そういうわけではありません」

機嫌を損ねてしまっただろうか…申し訳なくて急ぎ駆け寄る。

「夕鈴は…僕に逢えなくて、平気だったんだね…」

しゅん…子犬陛下が耳をたたんで夕鈴を見つめる。
しょんぼりとうなだれる、その姿はかなりのショックを受けているように見えて、夕鈴は思わず陛下の着物をぎゅっと掴んだ。

「ち、違いますよ…」

夕鈴の苦手とする表情を浮かべる陛下に、心がぎゅっとなる。

「どう違うの?」

「えっと…」

じっと穴があくほど見つめられて、焦る夕鈴。そんな端正な顔を近くで披露されたら、嫌でも鼓動が跳ねてしまい、上手く言葉にできない。


「僕は平気じゃなかった、君に逢えなくて…君はどうなの?」

「え!?」

「夕鈴?」

「わ、私も、平気じゃ…」

絡め取られるように見つめられ、絞り出すように声を出す。
視線をそらすことも体を離すことも許されない状況では、陛下の誘導に乗らざるおえない。


「逢いたかった?」

「………はい…」

頷くしかなかった。赤面顔で陛下を見つめると、心底嬉しそうに笑っていた。
またしても小悪魔陛下にやられてしまったと悔しさを感じるが、仕方ない。こんな状況でも胸の高鳴りは抑えきれないし、陛下に見つめられるとみるみる顔が熱くなる。

彼の完璧すぎる演技に翻弄されるのは、不可抗力だ。


「僕も!」

そのまま大きな腕で、ぎゅっと抱きしめられた。

結局こうなる。
まぁ…実際逢えなくて遊べないのは寂しかったからいいか、夕鈴はひとりでに納得すると大人しく陛下に身を寄せた。






心地よい風が吹いている。

さえずる鳥の声も、まるで仕事から解放された清々しい陛下の心を表したかのように、澄んでいる。

庭園の軽い散策を終えた二人は、明るい日差しが差し込む四阿で休息を取っていた。

陛下は横になり、頭は夕鈴の膝の上にある。久しぶりの膝枕に少し緊張する夕鈴。


「ごめんね、夕鈴。ちょっと疲れちゃって…」

「寝ていらっしゃらないんでしょう?」

夕鈴は浮かない顔で陛下を覗き込む。
ここ数日、文字通り不眠不休が続いていると聞いている。いつも過労気味に働く陛下が、それ以上に仕事をするのを見るのは正直辛いところであった。激務が、彼の身を削ってはいないかと心配になる。

「うん、内政立て込んでて。ホント嫌になるよ」

陛下はため息交じりに、声を落とす。このまま寝入ってしまいそうな雰囲気だ。
夕鈴はふいに彼の目の前に手をかざし、眩しい光が入らないように遮る。

「夕鈴…」

陛下はその手を掴み、日差しが入り込んでくるにもかかわらず、自らの頬に当てた。

「君の顔を見ていたい」

「……っつ」

なんなの、これ。

陛下はどこか変なスイッチが入ったようで、じっと艶のある目で見つめてくる。

「………」

ドキドキを越えて、呼吸困難になりそうな視線だ。

陛下はいつ見ても綺麗で、その射貫くような視線は心の奥見透かされそうで、とても心臓に悪い。胸の鼓動が高鳴る音が聞こえないだろうか…夕鈴は照れくさくてふっと顔をそむけた。

途端陛下は手を伸ばして、頬に触れてきた。顔を元通り向けさせられ、陛下とまた顔を合わせることになる。


「可愛い顔を見ていたい、と言った」

陛下が、にっと笑う。

「………」

彼の前では、恥ずかしくて顔をそむける…そんな自然な行為も許されないらしい。

「愛らしい君で、私を楽しませてくれ」

さらっとこんな台詞を吐ける彼は、やはり女慣れしているのだろう。なんだか、心の中がもやもやする反面、自分にだけ向けられている特別な視線に嬉しさを感じる。

彼は孤高の王。

本来ならば手の届かない遠い場所に居る人。

でも妃を演じている今は、彼のそばに居られる。


「夕鈴…?」

「え?」

「急に黙り込んでどうした?」

「あ…いえ」

しまった、また見惚れてしまった。
最近、彼を前にしてこんな状態が続いている。気持ちを認識してからというもの、その状態は悪化の一途だ。
夕鈴は軽く咳払いすると、気持ちを正すかのように妃らしい笑顔を浮かべた。

「いつも元気な君が、無口になると心配するよ」

「陛下こそ…青白い顔してますよ、お仕事大変そうで、心配です」

額に手の平を置いてみる。熱はないようだが、過労が陛下の肌の血色を悪くしているようだった。

「うん…」

「老師にお願いして、滋養薬などご用意しましょうか」

「うーん、薬か。僕嫌いなんだよね」

以前も嫌いだとか何とかで、氾家秘伝の滋養薬を飲まなかったっけ…夕鈴の記憶が正しければ、陛下が薬に頼る様を見たことがない。

「少しはお疲れが取れるかもしれませんよ」

「……うん、そうだね」

陛下は全く聞き入れずに、夕鈴の膝の上で寝返りを打った。額に置いていた手はいつの間にか握られている。

「夕鈴の手、冷たいねー気持ちいい」

大型犬がごろごろ喉を鳴らして、甘えてくる。その様子が可愛くて、思わずくしゃりと破顔した。

しばらく夕鈴の手を取って、甲を撫でたり、指を絡めたり…と遊んでいたが、すぐに目を閉じて眠ってしまった。

寝息を立てて眠る様子にほっと安堵する。

起きたらまた、王として重責に耐えながら政務に明け暮れる時間の始まりだ。

だから今だけは、すべて忘れられるように………。



「おやすみなさい、陛下」
















きっと陛下が見たら、驚いて卒倒するかもしれない。

それに…妃である今、こんな姿を李順に見られたら、説教を受けるに違いない。

夕鈴はそんなことを思い浮かべながら、びくびくと網カゴを構えていた。



「そんなに恐れることはありませんよ、こちらの者はそんなに襲ってきません」

「そんなに?ってことは、襲うこともあるんじゃないの??」

「大丈夫ですよ…」

のんびりと答える様子に苛立ちが増す。さきほどから、大丈夫と言うばかりで、襲われた際の具体的な対策は教えられていない。




王宮の庭園の一画。

庭師が丹精込めて作り上げた庭園は、この時期、季節の花が咲き頃であった。満開に乱れる花から花へ、蜜を求めて縦横無尽に飛び回る彼らの育成は、庭師の大事な仕事のひとつであった。

彼らが作る栄養価が高く少量しか採取できない蜂蜜は、ここ王宮でも貴重なもので、万能の薬としても重宝されていた。



「本当に近づいても大丈夫ですか??」

「はいはい」

大丈夫ですよー、と庭師はほがらかに呟くと、両手に保護手袋をはめた。ゆっくり刺激しないように近づき、巣の上蓋を持ち上げる。途端にぶんぶんと羽音が舞う。

「きゃー!?」

飛び退く夕鈴。

「お妃さま。奇声を発せられますと、皆お妃さまの元へ飛んでいきますよ」

その言葉に慌てて口を両手でふさぐ夕鈴。

その間もぶんぶんと羽音が舞っている。大量のミツバチが襲ってきそうで、ぞっと身が震えた。


「ほーら、おいしそうな蜂蜜だ」

庭師は、まるで楽器でも奏でるかのように自然に、巣の中から蜜を切り取り、箱に移していく。見事な技に、ただただ感心せずにはいられない。


「お妃さまもどうぞ」

促されるがなかなか一歩が出ない。足が地面と縫いつけられているかのように、動かなかった。

「蜂蜜、採られるのでしょう?」

そうだ、私は、蜂蜜を採りに来た。ある目的のために。


「お妃さま」

「くっ」

勇気を出して一歩。

「ど、どうすればいいんですか!?」

叫ぶように尋ねる。

「ダメですよ、大声を上げてはビックリするでしょう。こちらの端を持って、せーので引き上げます」

手袋をしていても直接触るのは躊躇したが、そんなこと言ってられない。
夕鈴は意を決して蜂の巣を持ち上げる。持ち上げた端から庭師が短剣で巣の一部を切り取り、手前の箱に移す。たっぷりと糖度の濃い蜂蜜が流れてきて、その飴色の美しさに引き込まれそうになった。

「お妃さま、ぼうっとなさらない」

「は、はい」

夕鈴は慌てて箱を元の位置に戻した。羽音が次第に遠ざかっていく。
夕鈴たち侵入者のせいでミツバチたちは大パニックを起こしていたが、庭師が言うように、最後まで襲われることはなかった。

巣箱からずいぶん離れたところで、やっと保護手袋と帽子と上着を取り、素肌をさらした夕鈴。

空気を思い切り吸い込み、ほっと大きく息をついた。

傍らのガラス瓶には、たった今採れたばかりの蜂蜜がたっぷり。

その様子を見て、湧き上がる笑みが止まらない。


「いかがでしたか?初めての蜂蜜採取は」

「えぇ。楽しかった……かしら」

正直怖かったが、終わった今では目的が達せられた喜びの方が大きい。

「今度は陛下と一緒に採取ください」

庭師は柔らかく微笑むと、深く拝礼した。
すぐ背後に、妃付きの侍女がこちらに向かって歩いて来てくるのを確認し、庭師は去って行った。



「お妃さま…」

心配そうな侍女たちの視線が、心痛い。
今更なんだけど…なかなか彼女たちが理想とする妃像を演じ切れていないのが、申し訳ない。

夕鈴は振り払うかのように、完璧な笑顔を浮かべ、ガラス瓶を掲げて見せた。



「今度は何を…なさいますか?」

さすがによく分かっている。
きっと夕鈴の侍女に付いて久しいせいだろう。

侍女たちの問いかけに、夕鈴は満足気に微笑んだ。















食堂に立ち込める甘い香り。

その香りは食堂内にとどまらず、周囲の室を満たす。
ここ政務室でも例外でなく、ほのかに香る甘い匂いが、陛下にも届いていた。


「ご休憩なさいませ」

側近の声で、陛下は書類から目を上げた。

「このペースですと、明日にはひと段落つきそうですね」

眼鏡の奥の神経質そうな目が緩んでいる様子を見て、陛下は息をついた。

本日の処理分の箱の中身は、大半はけていた。

よくも処理し切れたものだ…と、陛下はポキポキ首を鳴らす。

長時間同じ姿勢でいたせいで、ひどい凝りだ。これはしばらく休息が必要だろう。

侍女たちが飲み物とお菓子を卓に運んできたのを見つつ、立ち上がる。


「菓子は良い。後宮に行く」

夕鈴に逢うこと。

一番手っ取り早い休息だ。


「陛下、小休止にとどめていただくように…この後、将軍が参られます」

「すぐに戻る」

李順に咎められすぐに返答した途端、侍女たちがざわざわと騒ぎ出した。

「?」

突然の不穏な様子に、訝し気に周囲を眺める。

「どうした?」

「お菓子を…」

青白い顔で呟く侍女は、漏らした声にはっと口を押さえた。

「はっきり言え」

「いえ、お妃さまより…必ずお出しするように…と」

「?」

「お妃さまのご苦労を、分かってあげてくださいませ」

「はぁ?」

意味が分からず睨むと、侍女たちは身を竦めた。それでも差し出す手は止めず、菓子を勧めてくる。

「この菓子がどうした?」

そこで初めて、室内に立ち込める甘い香りに気付く。

「どうぞご賞味ください」

「………」

菓子と侍女を見比べても、その心情はよく分からない。だが、気になる単語を吐いていたので、一口頬張る陛下。


「甘いな、蜂蜜…か?」

しっとりとした甘さを放つそれを、急いで咀嚼する。よく分からないがすべて食べ終えたら、妃に逢いに行けそうだ。

「お妃さまの手作りにございます」

「!?」

侍女の言葉でピタリと静止する。

「我が妃が作ったのか」

「はい」

侍女たちは深く拝礼する。
なぜ…なぜもっと早く言わないのか。彼女の手作り菓子なんて、めったに食べられない。

急いで食べてもったいないことしたなぁ…などと菓子を見つめる。
汗を流して懸命に作る姿が安易に想像できて、陛下は心の中、柔らかく微笑んだ。

彼女はいつも一生懸命だ。
誰かのために自らを顧みず動き回る。
最初はただ、損な性格だと、実に報われないものだと、どこか他人事のように見ていたが…。

気付いた頃には、彼女の一挙手一投足に目が離せず、共に過ごす時間が楽しくて…もっと、もっと…と、渇望するようになってしまった。
記憶に残る彼女と過ごした遠い日々さえ、擦り切れるほどに思い出しては、愛おしさが増す。


パクり…とまた一口頬張る。


甘いそれは、まるで夕鈴のようで…。


----やはり逢いに行こう。



「後宮に行く」

残りの菓子をすべて口に投げた。

にこにこと熱視線を送る侍女たちの横をすり抜け、陛下は政務室を後にした。
















「食べたよ!」

帰って来て第一声に驚く夕鈴。
子犬陛下が、目にも留まらぬ早技で抱き締めてきた。

「陛下、く、苦しいですよ」

ぽんぽん…と背中を叩く。

「夕鈴。僕、嬉しい。僕のために作ってくれたんだよね」

「は、はい…?」

突然の問いかけに一瞬何のことか分からなかったが、陛下が纏う甘い香りで、夕鈴は悟る。

途端、かぁーっと身体が熱くなる。
確かに陛下のために作ったけど、面と向かって言われると照れてしまう。

「美味しかった」

「それは…良かったですね」

お褒めに預かり光栄だ。
なんにせよ食べてくれて良かった。

「蜂蜜…入ってたんですよ」

「うん、甘かった。あれは、庭園のもの?」

「は、はい」

庭園と言われドキっとする。およそ妃らしくない姿でキャーキャー言っては、蜂蜜採取を楽しんでいた記憶が蘇る。

別にバレてもいいんだけど…必要以上に心配させるのはどうかと、告げるのははばかれた。

過保護だからな、この人。

夕鈴はくすりと笑う。

陛下は夕鈴以上に機嫌が良いようで、髪を一房掬っては唇に当てるというお決まりの仕草で、妖艶に微笑んでいた。

「最近、陛下お疲れでしたでしょう?滋養薬の代わりですよ」

「そっか、ありがとう」

ゴロゴロ…得意技の子犬陛下で甘えてくる。陛下は、夕鈴の腰にがっちり腕をまわし肩にアゴを置いて身を預けていた。


そこで、ふと疑問に思う。

今はまだ午後の早い刻だ。
仕事を終えるにはいささか早すぎる。


「陛下…ご休憩に戻られたのでは?」

「うん…」

耳元で、陛下の声が響く。

「ちゃんと休憩なさらないとダメですよ…」

「うーん…」

「お茶、お淹れしましょうか?くつろいでくださいませんか」

「うんうん」

「………」

全然動かない。
堅く抱き締めたまま、互いの体温と息遣いだけが伝わる距離。
答えは返って来ず、夕鈴の一方的な投げかけだけが続く。


「陛下?長椅子に移動しませんか」

「うーん…」

彼を支える重みが、心地良い。
許される距離が嬉しくて、クラクラした。

あぁ、また。

勘違いしてしまいそうになる。


このままではいけない。
危険を感じた夕鈴は、陛下を剥がしにかかる。


「陛下、そろそろ離していただかないと…陛下」

まるで岩のように、がんとして動かない様子にため息ばかり漏れる。

「聞いていますか?」

「………うん、聞いてない」

聞いてるじゃないの。

「そうだ!まだお菓子ありますよ。蜂蜜たっぷり栄養たっぷりです」

「……お菓子?」

「はい。これを食べて、力つけてください!」

「後で食べる」

「い、今、食べませんか?」

必死に声を掛ける。
そろそろ…胸の高鳴りが限界を迎えていた。

演技なのに。

こんなにドキドキしてたらダメだ。


「へ、陛下…」

くすり。

小さな笑い声が届いた。

陛下はやっと肩から顔を上げて、間近で夕鈴を見下ろす。

「そんなに照れて…我が妃は初々しいな」

狼の顔が意地悪く微笑んだ。

「今食べても良いのなら、その言葉に従うが…良いのか?」

なぜか仄暗い雰囲気を醸す陛下に、ぞくり…身が震えた。

もちろん陛下は、お菓子を食べても良いのか、と聞いているはず。

でも。

なんとなく、お菓子ではなく自分が捕食されそうだ。

下手を言ってはいけない、と本能的に感じた夕鈴は、何も答えず妃演技中の完璧な笑顔を向けた。

「ほぅ、そうきたか…」

陛下はなぜか嬉しそうに呟く。


「子ウサギの学習か…はたまた罠か…」

ぶつぶつ…と何かを囁きながら、また髪に触れる陛下。


「まことに名残惜しいが…また政務に戻らねばならない」

「…そ、そうですか」

やはり、短い休憩の合間に顔を出してくれたらしい。
はたして休憩になったのか…夕鈴は不安になる。

「君が作る甘い菓子で、随分と疲れは取れたようだ…だが、まだ足りない」

「…まだまだありますよ」

さっきからそう言っているじゃない。

夕鈴の返答になぜかため息ひとつ、陛下は狼のまま顔をぐっと寄せてきた。

当然、心臓が飛び出そうになる。


「足りないのは…菓子ではない」

「……な、何」

「足りないのは君だ、夕鈴。今度は君で、この私を癒してくれ…」

細められる鋭い目に、息が止まりそうになる。陛下は視線はそのままに、夕鈴の首筋を指でゆっくりと撫でた。

「ひゃっ…」

思わず漏れた変な声が恥ずかしくて、慌てて口を塞ぐ。


「蜂蜜よりも…甘そうだ」

がぶり。

「………っ」


最後に不敵な笑みを残し、狼はしたり顔で後宮を後にした。

後に残ったのは、へたり…と床に膝をつき、しなだれる夕鈴。

またも狼の迫力演技に腰砕け。


後宮の妃の部屋には、がっくりと項垂れる狼陛下の花嫁がひとり。



首筋には、くっきりと噛み跡が刻まれていた。









二字小説第73弾完
やっぱり…最後は捕食されちゃいましたね、夕鈴。まぁお馴染みの展開です(笑)
陛下のために健気に動き回る夕鈴は可愛いですね。ホント私が男なら付き合いたい。こんないい子は居ませんし、放っておかれないでしょう。
陛下、さっさと手出しちゃえばいいのに、夕鈴取られちゃうよ!なんて…本気で言っちゃいそうになります。老師の台詞を借りて言えば、「早くラブラブしてこい!」ですね

14:29  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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