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2010.08.02 (Mon)

届かぬ思いの果てに

「届かぬ思いの果てに」




陛下目線で、かなり暗い文章です。
(注意)「狼陛下の花嫁」の世界観を崩してしまうかもしれませんので、その点は考慮して読んでください。
長い文章ですが分けていないので、休憩しながら読むことをおススメします。


ではどうぞ。










「ひとつくらい…望んで手に入らないものがあっても良いのでは?」

彼女が囁いたごく普通の言葉は私の心にひどく響いた。


その意味深な笑顔ごと、彼女のすべてを硬く閉ざされた檻に入れて生涯捕らえてしまいたいほどに、深い焦燥感が胸を切り裂くのは、きっとこの哀れな孤独のせい。





若く即位した私に敵は多い。

私が考える以上にとても重く…鋭く…その危うい足元をすくおうと私を取り囲む。

この王宮で私の気の休める場所はない。ない…と思っていた、彼女に会うまでは。


思えば私は孤独だった。

生まれたときから王になるべく帝王学を幼い頭に叩き込まれたからだろうか。
それとも、私を包む環境のせいか。

幼い頃から、敵のいない世界は存在しないこと、本能的に感じ取っていた。


だから彼女に初めて会ったとき、その飾り気のない笑顔も、素直な反応も、決して優美ではないけれど美しく可愛らしい仕草も、すぐに受け入れることは出来なくて…

ただ戸惑うばかりであった。


初めてあいま見えるその人間に、恐怖すら感じていたのかもしれない。


私は…彼女の前で、体を不自然に伝う震えを隠し通すのに必死だった。




「王とは孤独なものなのですね」

そんな当たり前の事、悲しそうに言わないでほしい。

そんな顔を見たくて、政務の合間の貴重な時間を割いているわけではない。

君の花のような可憐な笑顔を見たいと胸を焦がして待っているのは、これでもう何度目か。



「どこの王も孤独なんじゃないかな」

私は努めてなんとも無い風を装い言い放つ。

君に情けない顔を見られたくないから、つまらぬ虚勢を張っただけだ。


「孤独でない王様なんていないのかしら…」

首をかしげて遠くをぼんやりと見ながら考え込むその仕草に笑みがこぼれる。

他人のことをそんなに真剣に思うなんてこと、私には出来ない。なんとも君らしい思考に、私の頭は上がらない。


「いるかもしれないね…」

私は彼女が煎れてくれたお茶をひとくち飲んだ。

私の言葉に心がないこと、彼女は見抜いていたのか、それ以上その話題に触れることはなかった。

横顔に、彼女のまとわりつくような視線を感じたが、私はわざと気づかないふりをした。
その目線を見てしまうと、心が押さえきれないこと、私自身が知っていたから。

いつも答えを求めようとする彼女と、
その答えを彼女が手にしてしまうと、するりと私の腕の中から抜け出してしまいそうな恐怖のせいで、答えを出せない私。

ときどき、すべてさらけ出してしまいたくなる。

すべてをさらけ出した私に、白い救いの手が躊躇なく伸びてくることが容易に想像できる。


だから恐い。
そんな彼女を見てしまえば、この気持ちを止められそうにないから。


私だけしか通えない部屋に閉じ込めて、片時も離さないように私のそばに置き続けるから。


もう歯止めの利かない所に立っているのは、よく分かっているから。



「それより…話をしよう」

何の話をしようというのか、自分でも分からない。

案の定、彼女の不思議そうな瞳がうかがえた。


「何の話?」

「……」

私は、何を焦っているのか。

取り留めのない話をして過ごす彼女との時間に、何を求めているのか。


「いや…そろそろ戻るね」

気持ちとは裏腹に浮かした腰が重かったが、私は暗く言葉を吐いた。彼女は礼を取って頭を下げた。


「午後からも頑張ってください」

ふいに向けられた朗らかな笑顔に心が癒される。

その笑顔に…君が向ける極上の笑顔に…何度救われたことか。


私は返事の変わりに着物の袂からかんざしを出した。


「?」

彼女の丸い目が注がれる前に、その結った長い髪に差す。


「陛下?」

「夕鈴に…」

私はぎこちなく笑った。彼女に贈り物など初めて渡す。有無を言わさず頭に差してしまったことを後悔したが、そんなことは気にも止めない様子の彼女が柔らかく笑った。


「それは…ありがとうございます」

彼女は手のひらをあてがい、頭を振るたび、耳元でしゃんしゃんと鳴るかんざしの音色に聞きしれていた。


「でもなぜ…?」

はっと気付いたように質問を投げる彼女。まさか…彼女の厳しい目線が注がれる前に私は笑い飛ばした。

「無論、レンタルでも借金でもないよ。正真正銘の夕鈴のかんざしだよ」


君という、かけがえのない存在に引き逢わせてくれた神に感謝してもしきれない。君と過ごすこの貴重な毎日がこれからも続くように、かんざしに祈りを込めて…


「高価なものなのでは?」

心配そうにうつむく彼女。喜んだり、心配したり忙しいことだ。
そんな当たり前の感情など、長い間忘れてしまったような気がする。


「僕への貢ぎ物だから気にしなくていいよ」

「ですが…」

「僕が持ってたってしょうがないよ、妃にといただいたんだから…夕鈴が使ってよ」

私は皮肉を並べて、遠い目で彼女を通り越した先を見つめた。

「……」

しばらく思案した彼女は、どうやら素直に受け取る気になったらしい 。
ありがとうございます、と短く呟いた。


「よく似合っている」

「……はい」

彼女は照れくさそうに微笑んだ。贈り物は慣れていないのだろう、初々しい姿にまた心が熱くなる。

さっき静めたところなのに……私は顔を背けた。

清らかな姿をこのガラスの瞳に写しただけで、汚してしまいそうで怖い。


「陛下?」

「戻るね」

「はい」

「…今夜も来るよ」

君に逢いに…

「分かりました、お茶を用意して待っています」

彼女はぺこりと頭を下げた。かんざしが音色を奏でる。その音を聞くと、手を伸ばして触れたくなる。
私の贈り物を身に纏う彼女ごと、欲しくて堪らなくなる。


私の歪んだ独占欲などお構いなしに、隙だらけ油断だらけの彼女…


君はいつまで気付かないのだろう。


気付いてしまったらこの関係は終わってしまうのか。


「……」

私は目を細めた。
これ以上は近付いてはならぬ絶対領域を越えぬように。


「ではまたね」

私はいつもそうするように笑いかけた、その眼差しに愛と慈しみを込めて。


「はい、陛下」

一輪の花が咲く。半年前と変わらず穏やかに、清らかに。

愛しい…と言えたらどんなに幸せだろうか。王という鎧を脱ぎ捨て、ありのままの私の姿で愛を語れたら、どんなに幸せか。

考えると涙が出そうになる。君のことになると、どうして私はこんなに弱いのか。剣を取って戦うのならば、誰にも負けない強さの自信があるというのに。


君の姿を目に焼き付けて、私は退出した。

名残惜しさの痣が体に残る。



君の存在がこれほど私を救うこと、これほど心をかき乱すこと、君は知っているのだろうか。
君は気付いているのだろうか。

目を閉じると、消えない花。


君という存在にどこまでも近付きたいと願ってしまうのは、私のせいか、それとも君のせいか。

君を思えば思うほど叶わない願いを、辿り着けない思いを知りながら、それでも願わずにはいられない。










「ひとつくらい…望んで手に入らないものがあっても良いのでは?」

彼女が囁いたごく普通の言葉は私の心にひどく響いた。

予想は出来ていた、君ならそう答えるんじゃないかと。だから覚悟は出来ていた、君の気持ちを知ってしまうこと。

君にとって、私という存在はその程度なのだと知っていた。だが、言わずにはいれなかったんだ。


「望んで手に入らなかったものなどひとつもない…」

土地も国も王という立場もすべて、望んで手に入れたこと。今私が心の底から望むもの、それは夕鈴、君だけ。


「ひとつもないんだ…」

私は同じ言葉を繰り返した。無駄だと知りながら、止める術が見つからない。

繰り返すことでまた生まれる絶望、これから何度耐えねばならないのか。

彼女の顔は、困ったというよりは呆れていたのかも。読めない表情に苛立ちが募る。


「夕鈴」

彼女の名を呼ぶ。 まるで初めて口にするかのように、ゆっくりと丁寧に彼女の名を呼んだ。


彼女の表情は変わらない。私の呼び掛けごときで彼女の強い意志は崩れなどしない。私を飾る王という守りは、彼女の前では無用なものでしかない。


「夕鈴」

「聞こえています」

彼女は真っ直ぐ私を見つめた。

物怖じしない態度は出会ったあの頃から変わらない。そのすべてが愛おしくて、私は今君と対峙している。

全身で脅えながらも挑むような視線が、私の体を甘いしびれとして伝う。


だが、好感を感じている場合ではないんだ。
改めて自分の薄楽な考えに嫌気が差す。心の中で愚かな自らを嘲笑う。

そうすることで平静を保とうとする弱い私。そんな私を、今まで救ってくれていた目の前の彼女の口は堅く閉じられたまま。


「……」

まるで意志を持たない人形のように、鉛色に光る瞳。
花の笑顔は枯れ、鳥の声音は濁る。


あぁ、とうとう嫌われてしまった。

わがままな王のわがままが過ぎてしまったツケか…
気持ちを伝えてしまったことの大きな代償を知る。だが、何も知らなかったあの頃へは戻れない、戻ることなどできやしない。


何も言わない彼女の態度が、この関係の終焉を語っていた。


私は一体どうしたいのだろう。
彼女に嫌われたくないと望みながら、彼女が欲しいと望む私。この腕の中堅く閉じ込めてしまいたいと望むなんて矛盾している。矛盾に気付きながら言わずにいられないほど、私は追い込まれていた。


何か語って欲しい。その鳥のようにさえずる声音で、私だけに囁いて欲しい。


私は、彼女の頬に触れた。拒絶のない反応に幾分安堵して胸をなで降ろす。

彼女の一挙手一投足が、これほどに私に影響するなんて。


「夕鈴…何か言って」

聞きたい、君の声を。


「……気持ちには答えられませんわ」

「うん」

私は目を伏せた、涙が流れないように。


「陛下には…しかるべき家柄の姫君を正妃にお迎えすべきかと」

君がそれを言うのか。

「私は庶民の出ですし…妃には向きません」

向いているかどうかは私が決める。

「それに、妃のような重責、私には務まりません」

「……」

耳を塞ぎたくなる言葉が胸を刺す。


君ほど、これほど愛しい娘はいないのに?君はそのすべてを拒むのか。


心の震えが指先に伝わる。



「陛下…」

私の名を呼ぶ愛しい声。
真っ直ぐ見上げる瞳。私に向けられた偽りのない言葉。


完敗だ…八方ふさがり。どこまでも君の正直さにはかなわない。


私は深く息を吐いた。
私の吐く息に、彼女の肩が一瞬おびえたように震えた。

王への慇懃無礼な物言い、君らしいけど少しは反省しているのかな。


だが、君を怯えさせては元も子もない。
怯えてほしいのではなく、私を愛してほしいのだ。


完敗はすれど、私の心はまだ枯れてはいない。

君は嘲笑うかもしれないが、諦めの悪さは私の誇り。君の強い意志ごと、私の中に取り込んでしまおう。いつも前向きな姿勢は君から学んだ宝物だから。


私は微笑んだ。甘く、そして優しく。


「……」

突然のことに驚いた様子の彼女が慌てて目を伏せた。

愛らしい仕草に、また笑みがこぼれる。やはり、愛さずにはいられないようだ。


「突然…ごめんね」

「…いいえ」

「でも…やっぱり諦めない」

私の言葉に弾かれたように彼女が顔を上げた。

強い意志を灯した視線に、目頭が燃えるように熱くなる。理不尽な力などに決して屈しない強い瞳。私が愛した瞳だ。

「君の前では、私は王である前にひとりの男だ」

「……」

「だから…無理矢理妃になんてしないよ」

私は彼女を安心させるかのように無邪気に笑う。その笑顔が私の意志のすべてなのだと、君に信じてもらいたいから。


「…でも」

言いかけた言葉が途切れる。君の困惑が鮮やかに伝わる。

「分かってるよ」

君を困らせたいわけじゃない。 君に笑って欲しいんだ。 その花のような笑顔で、私だけに向けられるその笑顔で。

自らを打ちつけて、愚かな独占欲など跡形もなく消し去りたいと願いほどに、君の清らかさがうらやましいから。


だから私は君を求めるんだろうか…



「君を振り向かせるよ」

私が呟いた言葉は、空気に混ざり合いながら存在感を残して消えた。

その痕跡を辿るかのように私は彼女へ手を伸ばす。滑らかな肌に触れると、私の思いは水滴となって心に深く染み込んだ。

彼女は納得していない様子だったが、仕方なしに肩を落とした。緊張が解かれ、一気に体の力が抜けたようだ。


「無理ですよ」

彼女はため息をついた。
諦めの悪い私への説得は効果がないこと、気付きながらも言葉を止めることはない。


「僕、勝算のない勝負はしないんだ」

だから…必ず君を振り向かせる。好きにさせてみせる。

臨時の花嫁ではなく本物の花嫁として。期間限定ではなく永久に私のそばに。
君が向けるその眼差しも、その笑顔も、泣き顔も、怒った顔も……君が向ける表情のすべての先にいるのは私であるように。


今日のこの記憶が、二人寄り添って笑いながら思い出せるように。


そのときはきっと、もう孤独ではない私の傍らに君がいるはずだね。




大好きだよ、夕鈴。













二次小説第8弾完了です

片思いを突っ走っていた陛下が初めて、夕鈴に気持ちを伝える話です。
恋心破れたり…でも負けずに諦めないところが陛下のいいところです。
陛下のイメージが崩れた!という方はごめんなさい(汗)

ちょっと暗くて寂しい文章になってしまいましたので、次回は明るくいきたいと思います




22:44  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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