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2014.10.06 (Mon)

たとえ世界の終わりがきても 前編

たとえ世界の終わりがきても 前編

シリアス長~いですので、前編後編に分けています。
休憩しながら読んでみてください。

ではどうぞ。


【More・・・】


暖かい日差し降り注ぐ後宮。

夕鈴はお茶片手に、紅珠が奏でる琴の音に聴きしれていた。

相変わらず優美で澄んだ音色が後宮に響く。
奏でる所作は完璧で、小さい頃から英才教育を受けてきたことを窺い知ることが出来る。

時々、こうして美しい琴の音を聴かせてもらっていた。
王宮で補佐官をしている紅珠の兄の水月も音楽に明るく、その仕草は宮廷人の代表のごとく優美さに長けていた。

兄妹揃って素晴らしいのね…。


「………」


美しい旋律が心地よく耳に流れる。
夕鈴はうっとりと目を閉じた。


あー、私もあれぐらい弾けたら…陛下にお披露目できるのに……ね。


「………」

目を閉じると、意識がふわふわと微睡む。


…綺麗な音色。


「………」

「……ん?」


------。気が付くと音が止んでいた。

慌てて目を開けるが、さっきまで目の前に居たはずの紅珠の姿は無かった。





「紅珠…?」

帰ったのかしら…ふと、天を仰ぐと青い空。

「今日も良い天気ね…」

また目を閉じそうになる。


「あっ…紅珠、紅珠は…っと、どこに行ったのかしら…」

夕鈴は眠さのせいできちんと働かない頭を振り、周囲を見渡した。


そこに。

シャン…。

シャン…。

音がする。


「?」

夕鈴の瞳に、後宮の回廊を歩む集団が映る。

華美に飾り立てられた衣装に身を包み、粛々と歩いている姿に、思わず目を止めた。


「………あれは何?」

祭りか何か、かしら?

宮中の催しは事前に聞かされているはずだが…記憶を辿ってみても思い当たらなかった。

集団は真っ直ぐこちらへ向かって来ているようだ。

近くで眺めても大丈夫だろうか…と疑問を浮かべたとき…。


「お妃さま…」

「!?」

後方から急に声を掛けられ驚き振り返る。妃付きの侍女がふたり、深妙な面持ちでかしずいていた。


「どうかしたの?」

「非常に心苦しいことですが…お部屋に戻りましょう」

「?」

「ここに居ては、見つかってしまいます……」

「え?」

まるで見つかってはいけないかのような口ぶりに、疑問を浮かべる夕鈴。


「どういう……」

「もし…」

「!?」

またもや突然の声に侍女たちと振り返る夕鈴。

見ると、先ほどの集団のひとりが、いつの間にかそばに居て、丁寧な所作で拝礼していた。


「失礼ながら…陛下のお妃さま、夕鈴さまでございますか?」

「はい」

どなた?

近くで見ると金糸が織り込まれた豪華な衣装を纏っている。妃である夕鈴よりも派手だ。


「我が君がご挨拶したいと申しております」

「え?」

後方を覗く。
もっと華美に飾り立てたひとりの女人と目が合う。彼女は音もなく近づくと、軽く夕鈴に会釈する…うっすら口元に笑みを浮かべて。

夕鈴もつられるように会釈した。

頭に飾られた無数のかんざしが、光を浴びて輝く。

それが揺れ動くたび、シャンシャンと音を奏でる。

さっきの音色は彼女だったのか。


夕鈴はあらためて、目の前の女人を眺める。

女人はとても華やかで、まるでそこだけぱっと明るくなったかのようだ。眩しい姿に、目がくらみそうになる。



「本日よりお世話になります。夕鈴さまのお噂はかねがね…ぜひ仲良くいただけると嬉しいです」

「…えっと。はい」

一体何者か…質問を許さぬ雰囲気に夕鈴は仕方なく口を閉じた。

傍らの侍女をちらりと見やるが、いつも以上に深く拝礼したままである。

その表情を確認できなかったが、なんとなくピリピリとした雰囲気なのは気のせいか…。

居心地の悪さに、表情が曇る。

それでも失礼に当たらぬように、口角を上げ微笑を保った。


「それでは…」

「あっ…」

声を漏らしてしまい、夕鈴はしまった…と肩を竦める。


「何か…」

「あっあの…どなたさま…でしょうか 」

「は?」

彼女は驚いたというよりは、呆気にとられたように肩を落とした。

そして、目を細めくすり…と笑った。怪しげな微笑だ。


「………」

「陛下に…お尋ねくださいませ」

「え…陛下?」

「では…」

するり…その人は去って行く。

二度と振り返らず、回廊で待機していた派手な一団の輪に戻って行った。

しばらくすると、また音色を奏で一団が練り歩く。

我が物顔で後宮を進む様子に、背筋が震えた。


「………」

「……お妃さま、戻りましょう」

「誰なの?」

「………」

侍女たちは顔さえ上げず、頑なに閉口している。

「………」

暑くもないのに、嫌な汗が背中を伝う。


まさか。

ずっと恐れていたことが、現実になったのか。


シャン…。

シャン…。


「----------正妃さまの、お成りーーーー」



そのはっきりとした声は、後宮中に響き渡る。



ぐらり…身体が傾く。



「あぁ…」

陛下に、逢わないと…徐々に薄れていく意識を呼びとめ、夕鈴は後宮を駆け出した。














「今はお逢いにならないほうが…」

「ですが…」

今、逢わないといけない気がする。

これが、彼の意思なのかどうか知りたい。

夕鈴は内心の思いはぐっと飲み込み、再度陛下の居場所を聞いた。

尋ねられた官吏はしぶとさに負け、書庫に…と一言漏らす。

夕鈴は矢継ぎ早に感謝を述べた。


「ですが…ご機嫌は大変よろしくありませんよ」

「えぇ…」

私だって同じようなもの。
夕鈴は軽く微笑み返すと、書庫へと続く扉に手を掛けた。

重厚な扉が音を立てて開き、書庫独特の香りが鼻をかすめる。

夕鈴は、失礼します…と声を掛け室内に足を踏み入れた。

薄暗い室内に、一気に気持ちが下がる。まるで私の思いを写したかのよう…夕鈴はため息ひとつ、周囲を見渡した。


「誰だ…?ひとりにせよと…」

「も、申し訳ありません」

「……夕鈴?」

薄暗闇の中、目が合う。

なるほど、不機嫌というのは本当だ。その視線で射殺されてしまうのではと思うほど、鋭さで身が切られそうだった。

陛下は書庫の長椅子に背を預けて休憩を取っていた。
たださぼっていた、というわけではなさそうだ。

しばらく無言で見つめ合っていたが、陛下はゆっくり身を起こし固まる夕鈴に近づいた。


「………」

互いに言葉なく、距離が近づく。
何か発したいのだが、陛下の険しい表情をひたすらに…見つめることしかできなかった。


「さ、先ほど…後宮の回廊で」

「あぁ…」

陛下は態度こそ狼であったが、弱々しい口調で頷いた。

その様子に、ショックを感じる。

やはり、知っていた…の。

淡い期待は打ち砕かれ、ますます苦しくなる。

呼吸が上手くゆかない。


「後宮の…」

「………」


言葉が出ない。
あぁ…泣いてしまいそう。


「すまない」

「あ…謝らな…」

謝らないで。
だって、謝ってもらう理由がないから。

あなたはこの国の王で、私は庶民で臨時花嫁で。


私たちには、何もない。
最初から。



「あ、謝る必要ありません」

「……それでも謝らせて欲しい」

「………」

「……そして、去らないで欲しい」

「え?」

陛下は頬に手を伸ばして、するりと撫でた。肌に残る湿っぽさで、自分が泣いていることにそこで気づいた。


「そばに居て欲しい…んだ」

「でも…本物のお妃さまが…」

夕鈴は頭を振った。
あの人は正妃として迎え入れられた。待ち望んだ狼陛下のお妃さま。臨時花嫁はもういらないはずである。

そう伝えると、陛下はそれは違う…と夕鈴を抱きしめた。


「君がいいんだ、君に…そばに居て欲しい…」


正妃がいるのに?
臨時の私が?

それは、現実的でない。

立場を越えた、身の程知らずの愚かな妃と噂され、あなたの評価を貶めたくはない。

あいにく、わきまえる分は持ち合わせている。


「夕鈴…」

「後宮を去ります。元の居場所に帰ります」

私の居場所はやはりここではなかった。
心がよじれそうだったが、涙を拭い笑顔で答えた。


「嫌だよ夕鈴…」

「陛下…」

宥めるのは得意だけれど…この時ばかりは上手くできなかった。


「去らないで…君が居れるようにするから」

「………」

そんな風にわがままを言うのは…どうしてか。

やっと治世が安定して、お妃さまを迎えることができるというのに…その気持ちは一体何。

勘違いしそうになるから、どうかそんな顔しないで。


「帰りますよ、私は下町の人間です」

「正妃が来ても、君を一番に大事にする」

「………」

「君がいいんだ」

違う。
そうじゃない。

そんなことを望んでいない。

いつも冷静な彼が動揺している。

だったら、私がしっかりしないと。


「陛下…落ち着いて」

「夕鈴…君さえ良ければ、第二の妃として居て欲しい」

「………は?」

何か…今、耳を疑う単語が。


「妃が嫌なら、恋人でも良い…」

「そばに居て欲しいんだ」

「………はぁ??」


ちゃんと奥さんが居るのに、外で恋人を作るなんて…。
それはつまり、愛人になれということ!?


夕鈴は絶句する。

私にも正妃として迎えられた彼女にも失礼すぎる。

なにより、あの聡明な陛下からこんな言葉が飛び出したことに驚愕した。


「冗談…ですよね」

「僕は本気だ!」


本気なら、なお悪いわ…。



「頭…冷やしてください」

「え?」


バチーンーーーーー!!!


右頬に平手打ち。
綺麗に決まって、夕鈴は小さく拳を握り締めた。


「実家に帰ります!さようなら」


呆然とする陛下をひとり残し、夕鈴は勢い良く飛び出した。









後編につづく。

14:20  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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