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2014.10.06 (Mon)

たとえ世界の終わりがきても 後編

たとえ世界の終わりがきても 後編

前編のつづきです。


【More・・・】

下町。王都、乾隴。

狼陛下の王宮から逃げるように飛び出してはや三日。
夕鈴は雑念を振り払うかのように主婦業に勤しんでいた。早朝から家仕事に一心不乱に取り組む夕鈴を心配そうに見つめるのは、彼女が溺愛する弟、青慎。


「姉さん…」

「あっ青慎、早起きねー」

もっと早起きの夕鈴が手を止めて振り返った。台所は綺麗に磨かれ、どこもかしこもピッカピカ。さらに磨きをかけようと、夕鈴は雑巾を硬く絞る。

「これ終わったら朝食にしよう」

「う、うん…」

控えめに答える弟の瞳は心配そうに揺れていた。

「姉さん…」

「なーに?」

「あの…王宮のバイトはいいの?」

ぴたり…磨く手が止まる。


「長期休暇なの。言ったでしょ?」

「うん、でも…」

「青慎。何も心配することないわよ」

笑顔を見せる。
その顔はかなり強張った笑顔で、青慎の心を余計に暗くしていく。

夕鈴はため息ひとつ、可愛い弟の頭を撫でた。

「あっち行ってなさい。予習は済んだの?」

青慎は短くこれから…と呟くと自室に引っ込む。その後ろ姿を複雑そうに見つめる夕鈴。

長期休暇なんて嘘、いつまでもつのか…。退職したと言えれば楽だが、何かとお金の入り用な今、心配はかけたくない。将来、官吏になり王宮で勤める立派な姿を見たいのだ。

夕鈴は弟の近い未来を想像し嬉しくなる反面、陛下の顔を思い出し、ムカムカと苛立ちが募って来た。


あー思い出してきた。


夕鈴は雑巾を握り締める手にめいいっぱい力を込め、まるで怒りをぶつけるかのように掃除を再開した。

そうこうしているうちに、昼時になり、食材の買い出しの為に市場に向かった。

下町の市場は、先刻と変わらず活気に溢れ、夕鈴を現実の世界と結びつける。

こうしていると、王宮での花嫁バイトも幻だったのではないか…と思う。あの怖い狼陛下も、優しい子犬陛下も、射抜くような眼差しも、柔らかな笑顔も、私を呼ぶ甘い声音も全部…幻であればどんなに楽か。


「道の真ん中でぼけっと突っ立ってんじゃねぇ」

「!?」

思い出に浸る夕鈴に降り注ぐ怒声。
下町での天敵の登場に、額に青筋が立つ。

「っとに、デリカシーのない男ね!」

夕鈴は下町の金貸し君こと、几顎を睨みつけた。

今一番現れて欲しくない人物だ。

夕鈴は毛並みを逆立て、几顎に鋭利な視線を送る。


「はぁ?何言ってんだ、デリカシーなんて柄かよ」

「うるさい」

「うるさく言われたくなけりゃ、道を空けろ」

「避けて通りなさいよ」

「あぁ?邪魔なんだよ、いつもいつも」

「邪魔なのはあんたよ!」

「てめーらだよ。っと、今日はあの男は一緒じゃねーのか?」

几顎がキョロキョロ辺りを見渡した。


「あっあんたには関係ない」

夕鈴は慌てて言い放つ。

良くない展開だ。


「-----別れたのかよ?」

「………」

ズバリとこんな風に聞いてくるところが本当にデリカシーがないのだ。自覚していないのが余計に腹立たしい。金貸し家系は皆こうに違いない。


「なんだ。良かったじゃねーかよ、火遊びは終わりだ」

「なっ。火遊びって何よ!」

「あー?役人の火遊びだって言ってんだよ、はなから相手にされてねーんだよ」

「ち、ちが…」

火遊びなんかじゃない。
最初から、そんな関係じゃない。


ただの雇用主と雇用者。
明確に線引きされた間柄。


なにも憂いる必要なんてないのに…。相手にされないなんて、分かってる。

夕鈴はぎゅっと拳を握り締めた。


「まっなんにせよ、別れて正解だ、あんな男」

鼻歌交じりに呟く彼を見て、嫌なのに気持ちがぐらついた。


そんな、そんな言葉で片付けないで。

私は。



どうして……涙出そう。




「別れてないよ」

「!?」

「!?」

ふたりの会話に割って入る低い声。

振り返り見つめた途端、一瞬息が止まりそうになった。


「………あ」

「こんにちは、金貸し君」

マントの下から、鋭い視線が覗く。

見慣れたようで、全く慣れない狼の視線。


不敵に、怪しく、ふたりを見つめていた。



「………てめー、今さら何しに現れた?」

「もちろん彼女を迎えに」

陛下はピリピリ睨んでくる几顎など意に介さぬ素振りで、ニコニコと答えた。


「別れたんだったら、未練がましく追うな」

「だから、別れてないって」

夕鈴…と、固まる夕鈴に陛下は手を伸ばす。

「………」

抵抗を忘れた兎は簡単に捕らえられてしまった。


「ちょっと席外してくれるかな?」

陛下は几顎に冷たく視線を向ける。


「こいつを傷付けたらただじゃおかねー」

「傷付けたりしない」

即答する陛下に対し几顎はちっと舌打ちしつつも、素直にその場を後にした。


「さて、夕鈴…」

まだ固まる夕鈴を覗き込む。
目が合った途端、はじかれたかのように夕鈴はジタバタ暴れ出した。


「なっなななな何しに…」

「落ち着いて夕鈴。ここじゃ目立つ」

往来の真ん中でのやり取りに、少なからず視線が集まっていた。彼の身分と人々の視線に気付き、夕鈴は静止した。

「………」

視線を交わすのもいたたまれず、身をぎゅっと縮め、陛下との距離に耐える。

陛下はひょいと買い物カゴを奪うと、夕鈴の手を引いた。

知り過ぎた手の感触に、涙が漏れそうになる。


「とりあえず君の家に…」

「………」

言われるがまま、家に戻って行った。
















マントを脱いで晒された表情は、冷酷さがすっかりと抜けていた。

それでも纏う雰囲気は狼陛下で、夕鈴は自分の家の中で落ち着かない時間を過ごしていた。

青慎は塾に出掛けている。父親は相変わらず不在で、家の中には陛下と夕鈴しか居なかった。

沈黙が流れる中、夕鈴は陛下の動きだけを目で追っていた。


「夕鈴…」

「………」

「夕鈴、そんなにじっと見られると緊張するよ」

「……え」

はっと気付き、陛下と視線を合わす夕鈴。


「あ…ごめんなさい」

夕鈴の謝罪に陛下は少し笑うと、優しく頭を撫でる。


「逢いたかったよ、夕鈴…」

「……やめてください」

なんでそんなこと。
夕鈴が顔をそむけると、陛下のため息が耳に届いた。


「君を迎えに来た」

「帰りませんよ」

「連れて帰る」

「帰りません」

「夕鈴…聞いて」

「何も聞きたくありません!」


あぁ、早くここから逃げ出さないと。

また、与えられる幻想に惑わされ、傷付き涙を流す。そんなこと…私には耐えきれない。


もう…無理なの。


「や、やっと逃れたのに、なぜまた迎えに来るの…」

「逃さないよ」

「ど、どうして…」


放っておいてくれないの。

なぜ、この苦しみから解放してくれないの。



そばになんて居たくない。

勘違いなんてしたくない。

望みのない気持ちなんて思いたくない。



これ以上…。



「あなたを好きにさせないで」



目が霞む。
陛下の姿が濁る。


「夕鈴…」

陛下は、涙でボロボロの顔に唇を寄せて、一粒ずつ丁寧にぬぐった。


「っく…ひっく」

「夕鈴…そんな悲しいこと言うな」

「っく…やめ…」

「夕鈴…」

「やめて……好きなんです」

陛下のこと。
ずっと以前から。好き。

いけないのに、ずっと隠し続けてた。
好きになってはいけない人。

でも…そばに居れば居るほど、惹かれていく自分が止められなかった。


私は…罪深い。


「もう一度…」

陛下は夕鈴の両頬を手の平で包むと、目と目を合わせるようにこちらを向かせた。


「僕のことが…?」

「好き…好き…」

「………」

「お願い。二度と、私の前に現れないで」


心が--------コワレテシマイソウ。



「っつ…やったぁーー」

陛下は急に大声を上げて夕鈴を抱き締めた。
突然のことに、驚き声が出せない。


「………え」

「嬉しい!!夕鈴ーー」

「………は、離して!」

突然のことに固まっていた夕鈴であったが、すぐに声を上げた。

なんで分からないのよ!


も------!!


「陛下のバカ!!!!?」

渾身の力を込めて押し退ける。


こうなったら、何がなんでも逃げてやる。

着物の裾を短めに掴み、出口へまっしぐら。夢中で駆け抜け、扉に手を掛けるが………。



「夕鈴!待って。ドッキリなんだよ!!!」

陛下の叫び声で、ピタッと足が止まる。


「………え」

振り返ると、困ったような陛下の顔。


「夕鈴ごめん!全部、嘘だから」

「………ウソ?」


陛下がゆっくり頷く。

どこから嘘…で、どこまで嘘?


「何が…嘘、なんですか…」

夕鈴の瞳から大粒の涙がこぼれる。
それはとどめきれずに、頬を伝い、手の甲に落ちた。

陛下は扉の前で固まる夕鈴に近づき、頬に唇を寄せる。そのまま涙の雫を拭った。


腰を抱き寄せ、甘い…抱擁。

夕鈴はただひたすらに…陛下の行為を見つめるしかなかった。


「正妃を迎えたのは嘘。君にドッキリを仕掛けたくて…ごめんね」

舌を出して茶目っけたっぷりに謝る陛下。拍子抜けしてしまうほど軽い謝罪に、夕鈴は目をぱちくりさせた。


「………う、嘘よ」

呆然と声を出す。


「嘘じゃないよーー」

「でも彼女は…」

自分から何者かは名乗らなかったが…お付きの人達が正妃だって。

確かに聞いた。

それに陛下も否定しなかったし、第二の妃とか…。


「あ…愛人になれって言ったじゃないですかぁ…」

「愛人!?僕そんなこと言ってない!!」

陛下がぶんぶん頭を振って否定した。


「君にそんなひどいこと……いや、ドッキリの成功のために言ったかも…いやいや」

ぼそぼそ呟く声は夕鈴の耳には入らない。


「………」

大事なことを忘れていたが…これがドッキリだとしたら。


「……嘘です」

「だから、嘘じゃないって」

「ちがっ…」


違う。

私、いま、告白を。

あなたに、好きと伝えた!?


「夕鈴?」

「違います!!!!」

「?」

「違うんです」

「何が?」

「と、とにかく違いますから。忘れてください」

「何を忘れるの?ドッキリ許してくれる?」

「ぜぇっっったい!許しません!!!」

「えーーーごめんよ、夕鈴。許して、ね」

「許しません」

「僕のことが好きなのに?」

「なっ!!!?」

「僕も好き、夕鈴」

「………っ」

パクパクと、声にならない声が漏れる。

ここは空気が恐ろしく薄い。
すでに呼吸困難状態。頭痛までしてきた。


「へ、陛下…さっきのは、間違い……」

「今更ダメ」

「間違い…」

「ダメだよ」

「でもでも」

告白は間違いだ。
ドッキリさえ無ければ…予定していなかった。


「やっぱり違っ…」

「もう黙って……君が好きだよ、夕鈴」

「………」


ゆっくりと顔が近づいてきて…。

止める間もなく、唇同士が触れ合った。

制止しようと振り上げた手も、捕まれて……。


「…んん」

一瞬離れて…またキスを交わす。


「………っ、へい…か」

言葉を漏らす隙間なく、口が塞がれる。


空気が薄い。

頭の芯がくらくらする。

甘い痺れが…全身を包んで、身体がふわふわと…。


「僕の本当の妃になって…夕鈴」

「……っは…」




-----何か聞こえる。

これは。





「……え」

ぱっと目に飛び込んできたのは明るい世界。


琴を奏でる紅珠の姿。

耳に届く綺麗な旋律。

花の香り。


周囲を見渡すと、そこは見慣れた後宮だった。

陛下の姿はなく、実家の壁紙も見えない。


「………」

「お妃さま」

「……紅珠?」

「どうなさったの?ぼうっとして…演奏はいかがでしたか?」

「……演奏」

「はい」

「紅珠…あなたどこへ」

「はい?」

「いえ…」

夕鈴は自らの頬をつねり、はっきりと伝わる痛みに顔をしかめた。

地に足はついているし、意識は鮮明だ。

さっきまでのふわふわした感覚とは全く違う。


頭上を見上げると、真っ青に澄み渡る空。暖かく注ぐ日差しは、ずっと前から自分が受けていたのだろう…衣が暖かい。


ということは…。



「あぁ…」

夢…か。



夕鈴は顔を手で覆う。

夢…夢を見ていたの、ね。

--------恥ずかしさで死んでしまいそう!!!


「お妃さま!?どうなさったの?」

「あ、穴があったら…」

「穴?」

「穴に、早く入りたい…」

頭を抱えて悶絶する夕鈴。

夢は願望の現れというが、あんな大胆な夢が、わ、私の願望だというの。

そんなはずないわ。


「あぁ…なんてこと」

「す、すぐに掘りましょう!」

額に汗を浮かべ焦る紅珠を見ていると少し落ち着いてきた。

どこを掘ろうかと本気で思案している姿に、癒される。


「いいえ、紅珠。間に受けないで」

「お妃さま?」

「大丈夫です」

そう、大丈夫。
あんなすごい夢を見ても…しょせん。

「夢ですから!」

開き直って、夕鈴は笑顔を浮かべた。消し去ってしまいたい夢の記憶を、さっさと頭から追いやる。

紅珠は全く理解不能といった様子であったが、夕鈴の笑顔を見て一緒になって笑う。


「ははは」

「ふふふ」

後宮に可愛い笑い声が響く。


「さぁ、紅珠。琴をもう一度弾いて」

素晴らしい演奏を、どうか心に焼き付けて。さっきまでの夢が、すべて幻だと確実に分かるように。


「はい、お妃さま」

演奏が再開する。


今度は…いいえ、これからは決して眠らないように固く誓い、音色に集中する夕鈴だった。


















「ただいま、夕鈴」

「ぎゃっ!へ、陛下……」

「………」

「あ…すみません」

「顔見て悲鳴上げるなんて、僕ショックだ」

夕鈴の態度に、肩を落とす陛下。


「あっすみません、お気になさらず」

「気になるよ」

陛下は眉根を寄せると、夕鈴の顔をまじまじ見つめた。


「陛下…」

様子を窺われるのは慣れているが…あのような夢を見た後では、視線がいたたまれない。

後ろ暗いことがあるのは良くない…ということか。

あーやっぱり穴掘っておけば良かった。
今すぐ入りたい、とにかく今すぐ!


「夕鈴…僕に隠し事?」

陛下がじりじりと間合いを詰めてくる。その動きに合わすように、夕鈴も一歩ずつ後退する。


「夕鈴、なぜ逃げる?」

「逃げません!私は、逃げてない」

「…じゃあなぜ離れるの?」

陛下は訝しげに夕鈴を見つめる。
今にも逃げ出してしまいそうな雰囲気だ。地に足をつけているのがやっと…か。


「夕鈴…」

「逃げてないですよ!」

「???やっぱり様子が…」

「逃げるわけではないですが、一旦退かせていただきます」

「は?夕鈴?」

陛下が止める間まなく、扉にダッシュ。そのまま後宮の回廊を脱兎のごとく逃げて行った。


「………逃げた」

後に残るのは夕鈴の残像。



「……ぷ」

陛下はたった今出て行った先を見やりながら、笑いを漏らした。


「まぁいいか。よく分からないけど…やっぱり彼女は面白いなぁ」


よく分からないが、結局納得してしまう陛下であった。










二次小説第78弾完了
長いですねー、夢で良かった良かった。
でもかわいそうなんで、途中ドキドキラブを入れました
夕鈴は、明るく振る舞っていても、いつか本物の妃が現れる恐怖と戦っているのではないかと…そんな姿を勝手に妄想し萌えてしまった結果、ひたすら長く、長く。最後まで読んでいただきありがとうございました☆

14:32  |  夕鈴帰省編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

ごぶさたしております。
きゃー!再開されていたのですね!うれしい♪

きっと氾家特製のお香か何か焚いていたのでは・・・。
深見 |  2014.11.02(日) 21:57 | URL | 【編集】

●Re: タイトルなし

深見さま☆
ご無沙汰しております。すっかりご挨拶が遅れすみません><
再開はゆっくりまったり更新する予定です。今後ともどうぞよろしくお願いします。
本当に!紅珠のマジックではないかと疑いたくなるほど、好展開でした(笑)
ミケ |  2014.11.05(水) 16:12 | URL | 【編集】

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