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2015.02.25 (Wed)

甘いささやき

甘いささやき

イベント編。
楽しんでいただけたら嬉しいです☆

ではどうぞ。


【More・・・】


むせかえるような香りが鼻腔を覆い、僕は目覚めた。

ほんの短い刻居眠りで気を休めていたところだったが…夢の中でも匂っていただろう香りに、少し眉をしかめながら身を起こした。

長椅子が軋む音で、意識が現実に戻される。

頭を上げたことで、よりその香りが濃くなった。



甘い。

この時期になるといつもだ。

ただ、今日が毎年のそれと違うところは、まだ早い刻にも関わらず後宮全体を漂っていることか。

太陽は中天近くまで登っていた。
冬にしては暖かい日差しと相まって、一層強くなる香り。
ため息ひとつ肩を落とした僕は、休憩場所であった書庫から退出した。


甘い。

外はさらに甘ったるい香りだ。

バターを焦がしたのと、カカオを溶かしたのと、ついでにハチミツを温めたのを足して割ったような香り。

あー甘い。

僕は幾方からも漂ってくる香りに包まれながら、後宮の廊下を歩く。

途中、せわしなく動き回る女官たちの集団や、慌てて走り回る侍女たちを見ながら、彼女たちと同じように右往左往しているであろう、この場に居ない妃を思い浮かべる。

もう昨日の昼から顔を見ていない。

何をしているかは予想はつくが、こうも逢えないとやきもきするものだ。

まるでわざと逢わないように彼女の方で意地悪しているのではないかと、ありえぬ考えに及んでしまう。


でも仕方ないか。

なぜなら、今年もこの時期がやってきたのだから。

今日は、後宮が甘い甘い香りで満たされる日だ。














中宮から王宮へ渡ると、甘い香りは跡形もなく消えていた。さっきまで軽く酔いそうだと嫌気がさしていたくせに、いざ香りが立ち消えると少しの寂しさを感じた。
どこに居ても非現実で、心が弾むように動くことなどなかったというのに…やはり彼女が後宮に居るという事実は大きい。後宮が恋しくなるのだから。
夕鈴の顔を思い出し、思わず笑いが込み上がる。

「…陛下?」

「ん?」

顔を書巻に向けたまま返事するが、何も返って来ない。

「なんだ?」

顔を上げて再度尋ねた。目の前の補佐官に向かって。

「いえ。笑っていらしたので…なにか」

そこまで言って補佐官は口を閉じた。まるで聞いてはならないことを聞いてしまったかのように、ぴたりと不自然に。

「私が笑うわけがなかろう」

「…失礼しました」

普段、気難し気に眉間にしわばかり寄せている補佐官だったが、この時の表情は実に愉快だった。

たまには楽しませてくれる。

今頃は見間違いだったと納得中か…愉快だ。

僕は優秀すぎる補佐官をちらりと見やりながら、今度は心の中で微笑んだ。

見間違いではないよ、とは言ってやらない。

いつもどおり真剣な顔で書面と睨めっこする補佐官。本当に、頭の回転が早く使える奴だ。だが少々面白みに欠ける。
そこが彼、柳方淵の唯一の欠点だ。堅物で真面目な所は誇れる長所であるが、それと同時に型枠から抜け出ず、自らの可能性を潰す短所でもある。
冷静さや判断力は極まっているが、それには限界がある。一定まで登りつめた先に壁がある。その壁を破ってこそ人は成長できるものだが、彼にはまだ程遠い。
優秀な補佐官たちの最近の成長ぶりは肌で感じているが、あと一歩か。ここに彼女が居てくれれば、何か違う雰囲気が作れたかもしれないが…突破口となるような雰囲気が…。

あぁ、また夕鈴だ。
どうしても彼女に頼ってしまう。

違うよ、彼女ではない。彼女に頼ることではないんだ。僕が声を上げて笑っていたら、きっと今流れている空気はまったく違うものになっていただろうに…。それをするには、僕自身が成長しきっていない。僕はまだ発展途上。
何の後ろ盾もないこの地位で、思い切って王宮で笑うことはできない。
即位したばかりの頃と何一つ変わることない、ここは窮屈な場所で周りは敵だらけだから。

現状を思うと救いようのない、どこか荒廃した気持ちになる。それでも前に進まなくては、前に。僕は王で、この国の礎だから。
時折重責に押しつぶされそうになる心を支えてくれるのは、小さな小さな彼女の存在。

夕鈴を思うとつい笑わずにはいられない。自然と顔が緩んでしまう。彼女は常に笑顔の真ん中に居るから。側に居るとこれほど穏やかにさせる、心休まる人。

王宮で笑うなど、昔の僕では考えられなかったな。彼女が現れてから、僕の中で変化が生まれた結果だ。

今は、ただ大切にしたい。














ひとつの案件を片付け終わったところで、入り口付近に人の気配がした。

視線を寄越すと女官の姿。

もう休憩の刻か。さっき後宮で隠れて休んでいたことは置いておいて、僕は身体を大げさに伸ばした。

「奥で休む」

次の案件を奏上しようとしていた李順を制して、女官を呼びつける。盆にお茶と茶菓子が乗っていた。近づいて来るたびに、なにやら懐かしい香りがする。
後宮全体を覆っていた香りだ。

「これは…」

「お妃様より差し入れにございます」

なるほど、実にタイミングの良いことだ。


「妃はどうした?私に顔を見せに来ないのか?」

てっきり彼女が持って来てくれると思っていたので、落胆する。

僕の問いかけに女官の顔があからさまに引きつった。共に付いていた者までもが全員、身を強張らせたことで、何かあったのかと疑問に思う。

「どうした、妃になにか…」

「いえ、何もございません」

「…申してみよ。私の妃に関わることは全て、報告するのがお前たちの務め」

「朝から厨房にてお菓子作りに勤しんでおられます」

それは知っている。

勤しみ過ぎて僕に逢いに来なかったのだから。逢いたくてたまらないというのに。やっと逢えると思ったら、本人ではなく手づくりの菓子が来た。

「顔を出せぬほど忙しい…と」

「いいえ、そうではなく…」

しどろもどろ、いつも受け答えがはっきりしている女官らしくない。やはり彼女に何かあったのか。それとも、あえてか。

「ならば、私から逢いに行こう」

「いいえ、陛下。どうかお待ちを。お妃様はしばらく厨房から出られぬと聞いております」

なぜ…と聞くのも、なにやら野暮な気がする。
厨房に引きこもりお菓子を作っているのは知っている。僕へのサプライズのため大作を作っているのかもしれない、だからこんなに止めるのかもしれない。
今日が年に一度の、大切な日であることは理解している。
でも、たとえそうであっても。手が離せないほどのことなのか。

分からない。やはり彼女は難しい。
僕がおかしいのか、こんなに逢いたいだなんて。


「陛下には、夜にお妃さまをお訪ねくださいませ」

「夜…」

それがたとえ、あらかじめ用意された僕のための展開だとしても、無理だ。

夜…なんて、待ってられない。

我慢の限界。

「もう良い。お前たちでは拉致があかぬ。私が直接行く」

「!?」

お菓子片手に立ち上がる。女官たちが慌てて進路を塞いで来たので、いよいよ何があったのか心配になってきた。

「一体なんだ?妃に何かあるのか?」

首を横に振るばかりで明確な答えは返って来ない。

「厨房には近寄らない。妃の顔を見るだけだ」

「なりません」

「は?なぜだ」

思わず大きな声をあげた。顔を見てもならないのか。

何を隠している。

「まさか…怪我したのではあるまいな」

「いいえ、違います。そうではなくて…」

「………」

そうではなくて…だと?

衣を翻し、僕は目にも止まらぬ速さで女官たちの囲いを通り抜けた。何事かと惚ける宦官たちを無視し、颯爽と駆け廊下に出る。このだだっ広い王宮、どの道が一番の近道か…とめまぐるしく考えていたら、ふいに声を掛けられた。

「陛下、どちらへ?まだ御政務中です」

李順だ。なんと間の悪い男。
苛立ちを含んだ彼の声音に、僕は目に見えて不機嫌になった。

「後宮だ」

さも当然のごとく答えたところで、この側近が引くことはない。

「なりません、案件が溜まっております」

「戻って来たら全て片付ける」

「後宮へ行かれる時間はありませんよ、ご休憩が終わったのならば、次の奏上を申し上げます」

彼のしつこさは僕のお墨付きだ。だけど、僕も引けない。

「李順…少し抜けるだけだ」

「しかし…」

「何も申すな」

僕は知らず知らず狼の態度を取っていたようだ。
李順が喉の奥が引きつったような表情を浮かべていたので、慌てて肩を落とし、息を吐いた。

「…すぐ戻るよ。少し、妃の顔を見るだけだ」

とばっちりを心の中で謝罪しながら、その場を後にした。












厨房の近くまで来たというのに、周囲は静まり返っていた。甘い香りはそこかしらから立ち昇ってはいたが、人の気配があまりに少ない。
入口まで来たらちょうど妃付きの侍女と遭遇したため、夕鈴の居場所を聞いた。

「妃はここに居るのか?」

「へ、陛下!!お、お妃様はこちらにはいらっしゃいません」

「部屋か?」

「は、はい。あぁ!いいえ、お部屋には…」

「どこに居る?」

「いえ、その…今はどこにもいらっしゃらないというか…」

「どこにも?何を…」

まったく的を得ぬ。女官といい侍女といい、なぜに僕から夕鈴を遠ざける。
僕の妃は一体どこへ行ってしまったのだろう。

ここに居ないのならば次は部屋だ。とにかく部屋に向かうか。
侍女を無視し、夕鈴の部屋へと急いだ。







部屋の窓を通り過ぎるとき、中から喧騒が聞こえたので、僕は立ち止まった。

何事。
中から数人の声が響いていた。よく聞けば年長の女官長の声も聞こえる。


『…聞いーーーます』

『…とにかく、お妃様にはーーーていただかないと』

『…仕方ないとはいえーーーおありでしょうか』

『…しかし、ーーーでは』

『…はい』


あぁ、夕鈴の声だ。
良かった、ここに居たか。部屋の扉へ回り侍女たちに来訪を告げる。なぜか慌てて部屋の中へ消えていく侍女たちの背中を追いかけ、僕も奥へと進んだ。

少し進むと、はっきりと響く声が前方から聞こえてきた。


「えぇ!陛下が…??」

「大変だわ、少し待っていただいて…」

「せめてお召し物を変えてから」


「…私がなんだ?」

物騒な会話だったが気にせず姿を見せた。

「………」

固まる侍女たち。
固まる女官長。
そして、その中心には惚け顔の夕鈴が居た。

僕がずっと逢いたかった目的の人物は、目を疑うような格好で突っ立っていた。


「!?」

「陛下…」

「夕鈴?」

いつもとかけ離れた姿に、目を疑う僕。

女官長が青ざめた顔で僕に礼をとった。

「大変申し訳ありません、陛下」

「……妃よ、怪我をしているのか?」

僕は彼女に近づくと、不自然なほど黒い服に手を伸ばす。これは…埃か。いや、ススか。はたくと辺りに飛び散った。
衣服同様、顔も汚れている。色白の肌がススだらけだ。

「いいえ、無傷です。お召し物が汚れているだけで」

女官長が間に割って入る。

「夕鈴?なぜ何も言わない?」

髪に触れようと手を伸ばすと、彼女は飛び退くように一歩後退した。不自然な態度が引っかかったが、そんなことより、指先に少し触れた髪の感触がいつもと違っていて、僕は顔をしかめた。

「夕鈴…髪の毛が、後ろの方」

え、まさか。今の感触。

「焦げて…る?」

僕の呟きに、彼女の顔がみるみる赤く染まる。

「こ、ここれは、その…」

「夕鈴、何があった?」

妃の美しい長髪が焦げている。これは一大事だ。

「夕鈴?」

尋ねても彼女は答えない。俯いたまま頑なに口を閉ざす様子に、僕は矛先を変えた。

「女官長」

「は、はい。厨房でお菓子作りをなさっていたところ、ふくらし粉の分量を間違えてしまい、そのまま気付かず火にかけ…その」

「………」

その続きは容易に予想できた。

僕ははぁーっと深くため息をついた。

「怪我は?」

再度確認のため尋ねる。女官長は大げさに大きく首を振り、かたや夕鈴はふるふと小さく首を振り縮こまる。

「も、申し訳ありません。このような姿…」

掠れ声が痛々しい。

「いや、君に怪我がなくて良かった」

髪や服は焦げたようだが、夕鈴自身は無事だったみたいだ。彼女の柔肌に傷ひとつ付かなくて良かった。ほっと安堵すると、真っ黒で泣きじゃくる夕鈴をそっと抱きしめた。

「あまり心配をかけさせるな、君がいっこうに姿を見せないので随分と案じた」

優しく背中を撫でる。今にも崩れそうな彼女の顔が柔らかく緩むのを確認して、やっと一安心できた。

「はい…」

震える声で答える様子に、これ以上の追求はできないと僕は心の中深く息を吐いた。









その後、髪切り師を招き夕鈴の焦げた髪を綺麗に整えてもらった。身体中のススも洗い流して、すっかり元通り可愛くなった妃が、目の前で謝罪している。

「すみません、本当に私、妃らしくなくて」

人払いした部屋に彼女の声が響く。

「君は妃らしくないところがいいんだよ。ちょっと髪切って可愛くなったね、その方が似合うよ」

「あ、ありがとうございます」

照れたように微笑む彼女。髪と一緒に機嫌まで治ったようで、笑顔で僕に菓子を差し出す。

「爆発したのに、たいしたことなくて良かったね」

「ば…そんな大げさなことでは。爆発ではなく、破裂というか…」

破裂も同じような意味合いだと思う。およそ起こるはずのない現象を厨房で披露した彼女。
愉快だ。

また、知らず笑みを浮かべていたようで、疑問顔の夕鈴に見つめられる。

「いかがなさいましたか?」

「いやぁ、君は本当に面白いな、と思って」

「笑い事では。心臓が飛び出るくらい驚きました」

「僕も。悲惨な君の姿を見て、身が縮こまったよ」

堅苦しい後宮で、自由気ままに過ごすことを望んだ僕だけど、お転婆も過ぎると考えものだなぁ。
これぞ可愛さ余ってなんとやら…か。

油断している彼女に手を伸ばし、目にも留まらぬ早さで抱き寄せる。綺麗になった長髪に触れて、優しく禿く。

最初こそ身の置き場が定まらず、いたたまれない様子で見つめていた彼女であったが、気持ちよくなったのか目を閉じて身を任せてきた。

可愛さ余って、一周して、さらに可愛くなった。
こんな風に考える僕はどうかしてるなぁ。

頭が沸いてると思われても不思議じゃない、君に関しては僕にも予想できない。

無防備な姿にイタズラ心が掻き立てられるが、せっかく泣き止んだ後なので我慢した。

僕は深呼吸して話題を変える。

「そうだ夕鈴、差し入れのお菓子美味しかったよ」

「ふふ、あれは破裂する前に完成したものですから」

夕鈴の笑い声が振動となって胸に伝わる。

爆発、もとい破裂事件を笑い種にしている。ホントかなわない。

「かなわないなぁ…」

「?」

「また作ってくれる?」

「はい、もちろん!」

胸から顔を離して、心底嬉しそうに笑う彼女を見て、僕も笑う。

「あ…陛下、遅くなりましたが…」

「ん?」

「菓吉日、おめでとうございます。甘いものを食べて、陛下の心が休まりますように…」

「うん、ありがとう」

甘いものより、君の愛らしい笑顔に心休まる。
ついでに言うと面白い言動に癒される。

「君がそばに居てくれるのが、一番甘いよ」

「私…?そんなに甘い香りがしていますか?」

夕鈴は何を勘違いしたか、くんくん自らを嗅ぎ始めた。その行為に思わず、噴き出してしまう。

「?」

「ち、違う…いや、もういいや」

にっこり微笑んで、夕鈴の額に軽くキスした。

やはり彼女にはいつまでも彼女らしく、そのままの君で居て欲しい…。あらためてそう感じる僕だった。









二次小説第81弾完了です
「菓吉日(かきつび)」編。仮想のイベントですが、今でいうとバレンタインのようなものです。感謝を込めて異性に甘いものを贈る日。後宮では張り切って朝から大量のお菓子作りをします。書けませんでしたが、王宮で働く人全員に贈るのが習わしです。きっとものすごい数。
もっと甘く仕上げたかったのですが中途半端に💦たとえちょっとでも夕鈴の髪を焦がしたのはまずかったかしら…。
最後までお付き合い、ありがとうございました(*^^*)


17:00  |  イベント編(王宮)  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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