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2015.04.21 (Tue)

私は蝶になりたい

私は蝶になりたい


狼陛下の花嫁12巻を読んで、書いてみました。
夕鈴目線でちょっと長め…甘さはないので御了承のうえ、続きからどうぞ。

ではどうぞ。


【More・・・】


詩人の唄にある。

病床に伏せる乙女、蝶になって大好きな人の元へ飛んでいきたいと願う。
その心は神に届き、眩しい空の下、大きく羽ばたいて行く。












「お妃様、今朝も精が出ますね」

「おはようございます。元お妃ですよ、荷長官様」

夕鈴はにっこり笑顔を向けると、元お妃らしく丁寧にお辞儀した。

「夕鈴様、あぁそのような…」

夕鈴の格好を見て、荷長官こと荷文応が顔をしかめた。
童のように丈も裾も短い着物に、手には水桶だ。これでは召使いと間違われてもおかしくない。

「そのようなこと、下働きにやらせましょう」

「慣れておりますのでお構いなく」

夕鈴は淡々と答えると、桶の中の雑巾を手に取った。ひやりと冷たい水に顔をしかめながらも力強く絞り、棚の上を拭く。昨日から気になっていた頑固な汚れ、今日こそは落としてやるんだと決めていた。邪魔はされたくない。

「周宰相よりお預かりしている身としては、少々胸が痛みますよ」

そんな夕鈴の様子に、荷長官は肩を落とす。

「気になさることではありません」

ここに不吉預言者は居ない。怖いもの知らずの発言も大っぴらにできる。

夕鈴は、焦って近付いてくる荷長官を手の平を向けて制すると、いつもより強気に答えた。

「ここに居る以上何かをしないと気が済みませんので」

「ですが…」

「これは私の使命ですから」

気合たっぷりの夕鈴の返答に、荷長官はそれ以上なにも言わず、柔らかく微笑みを浮かべたまま去って行った。

去り際に、予言通り気苦労が絶えませんね…と嬉しそうに笑って。







ここは、任州。
王都より遥か離れた遠方の地。
ここへ来るまでに馬車で3日も掛かった。

王宮の勢力争いとやらにより、お妃探しの網から逃れるべく王都を離れなくてはならなかった。
弟をひとり残してきたのは気がかりだったが、几愕に念押ししてきたので大丈夫だろう。憎き金貸し業を営んではいたが、近所の者にとっては面倒見の良いお兄ちゃんである。

突然の申し出にもかかわらず、暖かく迎えてくれたのはこの地を統べる荷長官。
故郷をひとり離れた心細さか、長官の柔らかな笑顔を見たせいか、到着してすぐ涙が出た。子供のように泣きじゃくる夕鈴の頭を優しく撫でてくれるこの方のおかげで、不安で押しつぶされそうな時間からやっと解放された日々を過ごせていた。

荷長官には以前、陛下のお忍び視察に付き合った際に逢っている。
第一印象は穏やかで優しく、陛下からの信用も厚い立派な方。再会した今もその印象は褪せることなく、むしろそれ以上に好印象を保っていた。

お妃職を解かれたたかが一般庶民の小娘夕鈴であったが、荷長官の扱いはお妃様のそれと変わらず、尊重と慈愛に満ちていた。己の保身のみ徹し、損得で動く欲深き後宮内では考えられぬ御仁である。

だから。だからこそだ。
迷惑は掛けられない。
お世話になっている以上は出来るだけ負担を強いたくはない。自分で出来ることはやろう、と決めたのはそういう理由からでもある。本当を言うと、お妃然と大人しく構えていられない自らの性格のせいでもあったのだけれど。

だけどそれ以上に。
やはり一番の理由は、陛下だ。


ここには居ない人。


ふと、空いた時間に思い出してしまう。

夜、眠りにつく前のほんのわずかな時間にも。

彼の顔を、言葉を、仕草を。

最後に逢って話したあの場面を何度も何度も鮮明に。擦り切れるほど思い出しては、また涙する。
苦しさに痛くなる。もう、思い出したくないとする反面、確かに一緒に過ごした時間が消えないように回顧する。相反した思いにまた苦しむ、それの繰り返し。

だから思い出す暇もないほど何かをしていないとダメなのだ。

ため息を漏らす間に、頑固な汚れはキレイに落ちていた。悩んでても落ち込んでても、何かに取り組む姿勢は変わらない…改めて自らの強い精神に感心しながら、夕鈴は掃除を終えた。



夕鈴に充てがわれた屋敷は、こじんまりとしていたがひとりで住むには広すぎた。廊下は長いし、部屋の数も多い。屋敷には立派な庭園があり、池には鯉が泳いでいた。本当に素晴らしいお屋敷なのだけれど、随分荒れて汚れていた。きっとしばらく使われていなかったのだろう。

幸か不幸か王都へ戻れる兆しは無いため、ゆっくり掃除に力を入れることができる。明日はどこを掃除しようか…そんな風に考えながら部屋へとぼとぼ戻る夕鈴。

ちょうど庭園の側を通り過ぎようとしたとき、ふよふよと何かが目の前を横切った。
鮮やかな色が日の光に透けて際立っていたから、思わず目を奪われた。

「……」

蝶だ。
なんて大きな蝶。

見惚れてしまう。

両翼を広げ悠然と舞う姿。なぜか、その姿から目を離せない。

前にも同じようなことがあったような…夕鈴はぼんやりと、蝶が舞う空の向こうに広がる景色に目を細める。


なんて綺麗な西日…え?

…後宮。

…え?きっと気のせいなんだけど……。


「……」

目の錯覚かと頭を振る夕鈴。

向こうの建物は、後宮で私のお気に入りの四阿に見える…けど。

そんなわけはない。

ここは後宮より何千里離れた場所だ。
ありえない。

疲れているのかしら…提げていた桶を一旦置いて、目をこする。

ごしごしごし。
目を閉じると一層、頭の中が霞みかかったかのようにぼんやりする。

ふわふわと、まるで風に舞う蝶のように…。


「……」

「…りん」

「……」

「…夕鈴?」

「…え…」

誰かの呼びかけにはっと目を開ける。
視線を向けると、目の前には見慣れた輪郭、聞き慣れた声のトーン。

「…えっ!?」

うそ!?

まばたきする。

愉快気に笑う陛下の顔……に見える。どこからどう見ても。
声も彼のそれに聞こえた。

慌てて周囲を見渡す。

きょろきょろと不安に揺れる心で確かめる夕鈴。


いつの間にか四阿の中に居る。


「っな、こ……ここは!?」

「四阿だね。君、眠っちゃったみたいだよ」

「……陛下?」

訳も分からず見つめ返すと、陛下がふっと噴き出した。
あぁ、その笑い方、間違いなく陛下だ。

逢いたくて、でも逢いたくなくて…たまらなかった人。
何度も何度も、身をかく焦燥に襲われていたのに。
顔を見るとほっと安堵してしまう。


「寝ぼけてる?夕鈴、可愛い」

「っつ!?」

慌てて顔の緩みを解いて、口元を引き締めた。

「なぜ陛下が。わ、私は後宮を去って、お屋敷に居たのに…」

なんで目の前にあなたが居るの??

夕鈴は困惑した。
さっきまでお屋敷に居て、向こうの空に蝶が飛んでいて、西日がまぶしくて…そうだ、後宮の景色と似てるって思ってから…。

「なんで私、後宮に居るの…」

独り言のように呟く。

「ゆ、夕鈴。君、まさか後宮を去りたいの!?」

陛下の大きな声が四阿に響き渡る。
動揺した彼は、子犬の姿を披露している。

たくさんの人目につくこの場所で珍しい。
普段なら考えられない姿だ。


「はぁ?な、なな何を、あなたがそうさせたんでしょ!」

「僕が!?そんな」

陛下は青ざめた表情で手を伸ばして来た。広い腕で肩を抱き寄せ、夕鈴をすっぽり取り込む。

「夕鈴。なぜ僕が君を追い出すの!」

「し、知りませんよ!」

私が聞きたいわ!

混乱で頭の中が真っ白になる。

陛下の発言に対処できずに、不可解なこの状況をただ流されるまま受け入れるしかなかった。







「つまり、こうだね。君は僕の命令で後宮を離れ、さらには妃を探そうとする族から逃げるために王都を離れた」

「そう…聞いています」

「……」

「ありえそうな話にぞっとするよ」

陛下は身震いと共により強く夕鈴を抱き寄せた。

目覚めてからすぐ、この体制のまま話が進んでいる。陛下の体温を間近に感じながら、夕鈴はゆっくり思考を巡らせた。

一通り状況を説明し終わったというのに、この違和感はなんだろう…。
夢ならば早く覚めて欲しいと思う反面、今見ている景色が本物なのかと疑う自分が居る。

夢だとしたらあまりにも残酷な夢だ。
嘘でも真でも、早く覚めて欲しい。誰かこの状況に決着をつけて欲しい。


「夕鈴…君が離れるなんて考えられない。僕のそばに居てくれなくちゃ」

「……」

甘くて優しい子犬陛下だ。

久方ぶりに見た気がする。
心の奥がじーんとなった。私が見せる幻想だというのに、こんなにもはっきりしている。


「陛下…」

「ん?」

手を伸ばせば、この方はきっと受け入れてくれる。私をさらってくれる。

この甘さと優しさは陛下そのものだ。
私の記憶にある陛下は、いつも優しくて、甘くて、そして残酷。


ぼやけた。

さっきまで鮮明に映し出されていた景色が、立ち消えていく。

もう終わりが近い証拠だ。

夕鈴は意を決して陛下を見上げた。


「…もう大丈夫です。あなたに逢いたくて…私はまたあなたを呼んでしまった」

「……」

「陛下…あなたは、弱い私の心が見せた幻。どうか許してください」

「……幻?」

そこで陛下の顔が初めて歪む。
口元の笑みが薄れ、纏う気配が氷のように冷えていく。瞳が鉛色に淀み、何も写してはくれない。

「……っ」

心が危険信号を発していた。

甘くてかわいい子犬陛下、私の大好きな姿。
ぬるま湯のように、真綿で包まれたように、大事に大事にされていた。決して傷つけず、怯えさせず、いつも暖かい、そんな彼の片側しか見てこなかった。

だが。

今見ているこの姿も本来の彼だ。私はいつも知らされていなかっただけ。

他を圧倒する恐怖で支配する冷酷非情な狼陛下。公然と語られている陛下像は、目を瞑って見てこなかったもうひとつの彼の姿。

深呼吸を繰り返した後、目の前の陛下を見上げる。


心の信号は無理やり止めた。
呼吸も整えた。
頭の中の霞もすっかり晴れている。

これは…今まで知ろうとしなかった、気付こうとしなかったツケだ。

彼は陛下なんだ。間違いなく。



「ありがとうございます」


ふっと、周囲が一瞬真っ暗になり、次に目に入ったのは、大きな羽を広げた蝶の姿だった。









さらさらさら…。
庭園の草木が風を受けて音を奏でる。

元通り、お屋敷の中でひとりぼっちの夕鈴が居た。

あぁ。思い出した。
あれはいつかの後宮。
陛下と庭園を散歩中に、今と同じように立派な蝶が目の前を飛んでいた。
私は目を輝かせ、陛下は柔らかく微笑んでいた。

「……」

夕鈴の頬を涙が伝う。

逢いたい。
逢いたい。

やっぱりあなたに逢いたい。

『離れていてもあなたの力になりたい』
『離れていてもあなたの支えになりたい』

確かな気持ちはここにある。


だけど、本当は、

あなたの側に居たい。
あなたの声が聞きたい。
あなたの漆黒の瞳に、私の姿を映したい。
あなたの心を、私だけで占めたい。

私の本音。欲。離れて初めて知る真の心。

自分がこれほど我儘だと気づかなかった。

彼の片面しか目を向けず、優しさでコーティングした虚像に、この気持ちを募らせていた。ままごとのように生活し、素直に感じることを否定し続けていた。

やっと気付いた。

この気持ちも。
強欲も。

今やっと、あなたのすべてが好きだと気付いた。

こんなにもあなたを恋い焦がれて、あなたが愛おしくて…。


あぁ…。


「大好き」


呟いた声は、小さく響いて空気に混じる。
声に導かれるように、蝶が夕鈴に近付いてきた。


ひらひらひら。


鮮やかな色彩。優美な肢体。自由な心。

その大きな羽を羽ばたかせ、今すぐあなたの元へ飛んで行けたら…。

この情熱のまま、あなたのそばへ。








私は蝶になりたい。












二次小説第82弾完了✨
暗い暗い…暗くてごめんなさい>_<
コミック12巻より、王都をひとり離れる夕鈴の心情がテーマ。陛下への気持ちを改めて深く感じてくれればいいなぁっと。自分で自覚している以上に強烈に陛下を好きなんだと、愛しているんだと、泣き叫ぶ夕鈴が見たい!と思いながら書きました(笑)もー早くくっついてくれないと、ミケが泣き叫びそう…。
気に入っていただけると嬉しいです。
最後までお付き合いありがとうございました(*^^*)


23:30  |  離宮・王宮の外編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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