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2016.06.24 (Fri)

冷夏

冷夏

今年の夏はできるだけ涼しい方がいいな…と思うこの頃。

陛下目線のしっとり系です。

ではどうぞ。


【More・・・】



夏が涼しいと喜ぶ者は大半で、かつての私もそのひとりであった。

夕暮れにも似た過ごしやすさと、早朝にも似たすがすがしさ、冷夏の日はほっとすると、あの人も漏らしていたように思う。

王宮の庭は常に美しく整えられており、内部の者はもちろん外からの者の目も楽しませる。

彼らが見ているのはほんの一部であり、その広大さを知る者は数少ない。庭師と門番の一部、そしてここを根城に遊び回る妃らが産んだ童たちだけが、その全貌を知っている。

昔、私も無邪気に遊び回る童子のひとりであった。

最初から服は汚れているし、これ以上汚れてもさして気にもならないからと、どろんこになるまで遊んでいたあの頃。
何か面白い遊びを見つけてはひとり興じ、不思議な生き物を捕まえては、病弱なあの人に見せたいと、懸命に庭を駆ける。
人のさげずみや悪口、漏れ聞こえる悪言を封じ込め、同様に己自身も奥深く封じ込めた気の毒なあの人に。

冷夏の日は特に、活動範囲が広がり、幼子の目線で見える新鮮な世界を精一杯、楽しんでいたあの頃。

切なさと、わびしさと、空虚感を、同時に感じた。


夏のあの頃。






















「今朝は特に涼しくって、掃除がはかどりますね」

「……」

「本当に…こんな日が続けばいいのに…」

「……」

侍女たちの会話で、私は目を覚ました。
廊下の端で数人、話しているのだろう。たくさんの声音に代わる代わる響く。部屋の中に居て、外の声が聞こえることはないが、窓辺は別だ。
どうやら書籍片手に、うとうとと、眠りこけてしまったようだ。ぼんやりする瞼の先に、不自然に折れ曲がった書籍が目についた。
あーまた李順に怒られる。
本が傷むから、眠ったまま書籍を読むなと、つい先日怒られたばかりだ。

夏にしては朝から涼しく、暑い夏のつかの間のひととき。

今日は冷夏であった。


私はため息と共に身を起こし、窓辺から廊下を覗いた。

侍女たちは妃付きのようだ。
世間話かと思ったが、違うらしい。話の内容は妃のことばかりなので、どうやら相談事のようだ。

彼女たちは我が妃を憂いては、よく集まって話し合いをしているが、なぜ王の自室前の廊下なのか…と考えていると、居間より物音が響いた。途端に張り詰める空気。
人の気配に敏感である私が、居城に侵入を許すなど、ありえない。だが、冷夏である今日は、隙を与えても仕方がない。実態のないそれは、するりと実に巧妙に、私の懐へともぐりこんでくるから。

私は息を止め気配を殺し、最後に長剣を手にした。


気配の主はすぐに分かった。

彼女の姿を確認して、なぜ侍女たちが王室の廊下に居たのか、その理由もすぐにうかがい知ることができた。

ほっと安堵の息を漏らし、ゆっくりと歩みをすすめる。


「夕鈴…」

何をしているのか、と尋ねることはなく、彼女のそばに寄る。
私を見た彼女は、ぎょっと目を開き分かりやすいほどに驚いた。

「どうかし…」

そこで、私が長剣を手にしていることに気づく。
しまった…と慌てて隠す。とてもまずい顔をしていたのか、彼女は私を見て笑っていた。

「くせ者かと思われました?」

ぺろっと舌を出して、彼女はにこやかに笑う。まるで間違いを歓迎しているかのように。
ほっと気分が和み、やっぱり彼女だなぁ…と深く感嘆する。

「今日の私は、不審な雰囲気を出していましたか?」

冗談まじりに口を開く彼女。こんな風に言ってくれるのは、機嫌が良いから…か。案の定、小さく鼻歌が聞こえてきた。

「そんなことないよ」

普段の私であれば、間違えようのない気配だったが、やはり今日は不調だ。

冷夏の日は、風の心地良さや気持ち安さと同時に、不純と湿り気を含んだささやきと、纏い付く視線から常に逃れようと躍起になった嫌な思い出がよみがえる。

「陛下?」

大きな瞳が私を見上げて、思考を止めた。

「機嫌が良いようだね?」

「そうですね、…陛下は顔色がすぐれませんけど」

「ちょっと、気分がすぐれなくて…」

気分がすぐれないのは事実であったが、言って後悔した。目に見えて彼女が心配したから。

「それで眠ってらしたんですか?」

「いや…そうじゃなくて」

彼女は白い手を私へ伸ばすと、手のひらを額にぴたりと添わした。
冷たい感触に目を細める。気持ちよい…と目を閉じかけた矢先、ずんっと身体が重くなる。

「!?」

彼女だ。彼女が抱きついていた。

「……夕鈴!?」

希有な行為にどきっとする。こんな風にじゃれ合うことも照れては一切しない彼女であるから。

「……やはり、温か過ぎると思います」

「へ?何が?」

今日は涼しいはずだ。

「陛下の身体。温か過ぎます。こんな涼しい日なのに…熱があるんじゃないですか?」

「そんなことないよ」

私の身体が温かいのは、さっきまで眠っていたせいだ。起きかけはいつも、温かさにぼうっとなる。

「熱いです。今日は肌寒いので風邪をひかれたのでは?」

「違うよ、夕鈴」

張り付いて離さない姿がかわいらしくて、顔がほころぶ。まるで小動物のような仕草に、恋しさを感じた。
彼女は下から私の顔をじっと覗く。普段見せない鋭い視線にどきっとなる。

こういう表情は困る。目を離せなくて困ってしまう。
めったに見せない熱く重い視線。私の内側を覗き込む、炎のように照らしてやまない。意思の強い眼。

「やっぱり、そうじゃないですか」

「え?何?」

「そんな熱っぽい視線で、焦点も定まっていないみたいだし。それに!やっぱり熱いです」

「……」

熱っぽい視線を向けていたのは言い訳しない、実際、君に見とれていたし。
熱いのは君がくっついてくるせいだ。彼女の体温が普通の人より高いのを、彼女は知らない。

「君がくっついてるから熱いんだよ」

「どーゆう意味ですか、それ?」

なぜか不審な目を向けてくる彼女を不思議に見返す。

「何を…怒ってるの?」

「子ども体温って言いたいんですか!?」

「なんで、違うよ」

「じゃあ私がくっついてるせいじゃないですよ」

「……」

まぁ、いいかな。彼女の機嫌を損ねたくはない。体温が高いなんて言ったら、拗ねられそうだ。

「僕は大丈夫だよ」

「本当ですか?」

「大丈夫、休息も十分とれたし。君がこんなに心配してくれるおかげで、気分も晴れた」

「……そうですか」

ひとしきり、疑わしさ満載の視線を向けて、彼女はようやく私から離れた。
途端に消えるぬくもりに、私の心は言いようのない苦しさで締め付けられる。

もう随分と昔から、彼女が私に与える熱の、名残惜しさが顕著になっていた。

「やっぱり、熱っぽいみたいだから、今日は休んで君と過ごそうかな?」

これ以上離れていかないように、私は彼女の手首をつかんだ。

「ダメですよ!大人しく寝てないと」

彼女はすかさず私の背中側へまわると、「ほらっ」と大きな声を出して、背中をぐいぐい押した。どうやら寝室に押し戻そうとしているらしい。


「一緒に寝てくれるの?」

慌てて声を上げる。

「まさか!悪化しますよ!」

「悪化なんてしないよ。むしろ君が居てくれたほうが良くなる」

これだけは自信を持って断言できる。

「いーえ、大人しく寝ていないとダメですよ」

かたくなに拒絶して、彼女は一蹴した。裏も表も駆け引きもない、まっすぐな彼女だ。
たいして悪くないくせに、彼女と居たいがためについた嘘が、今になって恥ずかしくなってきた。

さてどうしたものか…何か上手い言い訳はないかと思案していた私の元に、突然李順がやってきた。軍議に遅れるから…と私を引っ張っていった彼のおかげで、あっという間にこの件は解決した。


陛下は熱があるのに…と最後までしぶっていたあの可愛い顔が脳裏から離れない。
彼女が私を気に掛けるたび、心配するたび、いくつも空いた心の穴が縫い合わされる。彼女と出会ってから今日まで、つぎはぎだらけの私自身を、今につなぎ止めてくれている。


こんなことでしか、私自身を確認できない、実態の無い自らに嫌気が刺すのは何度目か。

今はそんな心にそっと蓋をして、官吏たちの読み上げる奏上に耳を傾けた。











午後の日差しは、熱をさらに上げていく。

額にうっすらと汗をかいて、私は手の汗で湿った書類を読み続けた。
最初は気温も空気も涼しかった部屋は、大勢の人が入れ替わり立ち替わり、入退室を繰り返すせいで、すっかりと息苦しい世界に模様替えしてしまった。

「ちょっと待て」

次の奏上を読み上げようとする官吏を手で制し、私は息をついた。

皆一様に汗だくで、平気な顔をしているのは、李順ただひとりであった。

「暑すぎる。休憩にしよう」

「……そうでしょうか?」

涼しい顔の李順が言う。私はひと睨みして、無言で彼らを下げた。

人払いした廊下で涼んでいたら、夕鈴が水盤を手にやってきた。

「陛下」

「夕鈴、どうしたの?」

にっこり笑いかけて、たっぷり水の張った水盤を私に見せてきた。

「……」

「見た目だけでも涼しさを感じていただければ…と思いまして。これより、睡蓮を摘んで参ります」

「そっか」

大きな水盤に睡蓮をひとひら浮かべると、とても涼しやかだ。涼味を求めて、昔からこういう類の花器を見てきた。

「僕も行こうかな」

「ダメですよ!陛下には休息が必要です!」

またぴしゃりと断られてしまった。にべもない姿に、残念と思う気持ちが強いが、これが彼女らしさでもあると、ひとりでに納得した。

「外は暑い。長時間は禁物だよ」

「分かっていますよ。それに今日は冷夏です、それほど苦しさを感じません」

夕鈴は空を仰ぎ、揺れる太陽を薄目で見上げた。

「冷夏は好き?」

「そうですね…過ごしやすくて良いと思います」

「そっか」

「……」

「陛下はお嫌いなんですか?」

「え…なんで?」

「だって、嫌そうに見えたから?かしら」

夕鈴は自らの発言に首をかしげながら、私の表情を覗う。

「ごめんなさい、なんとなくそう感じて、違いましたか?」

「いや、合っているよ」

私はほっと息を吐くと、彼女と同じようにまぶしい景色をのぞいた。普段見ているよりもより新鮮に、色彩豊かに感じる。

「……」

「昔から、あんまいい思い出がなくて」

「……では、これからを、いい思い出にしましょうか」

夕鈴はにっこり笑うと、水盤を政務室に運び入れた。
台にセットし、「よしっ」をかけ声を掛ける。その後ろ姿が楽しげで、見ているこちらの気分も晴れていく。

「池のメダカも浮かべましょうか?」

「君が獲るの?」

「はい!」

拳を握りしめて、自信満々に言い放つ。

「魚獲りは得意ですよ!」

「ふふ、そうかぁ」

「陛下も参られます?」

「いいの!?」

「はい。木陰にいらっしゃるならいいですよ、その代わり…」

「……何?」

「戻ったら、大人しく休息を取ってくださいね」

「うん」

私はふたつ返事を返すと、木漏れ日の中へ身を投じていく彼女を追いかけた。魅力的な後ろ姿に駆け寄らずにはいられない。そのまま抱きしめてさらってしまいたいと思うのは何度目か……。

ふと、彼女の背景に、かつて見た景色が広がる。
いつも悲しげな風貌のあの人が、この場所で、笑っていた。

「へいかー!早く来てくださいー。魚が逃げちゃいますよ」

彼女が笑う。ひだまりのようなとびきりの笑顔で。


「……」


君を知るたび、いつも思う。
その無垢で純真な瞳を向けられるたび、いつも感じる。


君が心から好きだと。




「……夕鈴、また熱が上がったみたいだよ」

「ええ?」

予想通り、心配そうな声を上げて彼女が走ってくる。すかさず抱き留め、柔らかに揺れる髪に、愛しさを込めて口づけた。

「もう一度はかってくれる?熱」

「も、もちろんです!」

彼女は動揺を浮かべつつも、大きなそぶりで即答した。


「……」


こうやって、私を真っ直ぐ見つめる目が好きだ。
戸惑うこと無く、伸ばしてくれる手が好きだ。
いつも私を思って、気に掛けてくれる心が好きだ。


「大好きだよ、夕鈴」

「………!?え、きゅ、急になんですか!?」

「君が居るなら、こんな日も悪くない」

「は?」

夏のくせに、やたらと涼しげで、寂しさをもたらすひとすじの温度。
子ども心に重くのしかかる、寂寥と虚無を受け止められず、逃げ出した冷夏。

あの頃に君が居てくれたら、もっと違う夏を迎えられただろうか…。


「ちょっと、ちょっとへいか…もしかして仮病ですか?離してくださいよ」

怪訝に響く可愛い声。

「やだよ」

離さない。

「やだって……もう、なんなの。熱はどこいったんですか?」

胸の中で、彼女がぐるぐるのどを鳴らす。

「いい思い出に、してくれるんだろう?」


これからを。
君と過ごすこれからの夏を。


「確かに言いましたけど、嘘はいけません」

「嘘じゃないよ、君を思うと熱くなるのは本当」



冷夏を感じないくらいの、熱量を君がもたらしてくれるから。












二次小説第86弾完了です

ご無沙汰をしております、みなさま。
ずっと休んでおりましたので、ラブさが薄い小説になってしまいました。

あの人とは陛下のお母様です。一体誰なんだと混乱された方、すみません。陛下のお母様、舞姫だったんですね、さすが綺麗な方にぴったりだなぁと思いました。しかも当時の陛下が夢中になって国を傾けてしまったなんて、よほどの美人。その息子なんだから美男子設定もうなずけます。陛下のお母様は強烈に愛されても心から幸せにはなれなかったので、夕鈴にはぜひリベンジとして本当に幸せになって欲しいなぁ、と思います。
「冷夏」はミケの好きな言葉です。実際の今年は猛暑らしいので、みなさまお気をつけて

14:24  |  梅雨・初夏編  |  TB(0)  |  CM(1)  |  EDIT  |  Top↑

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