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2017.05.02 (Tue)

花も実もない

花も実もない


夕鈴、陛下両目線。
とても暗いので、気分が明るい時に読むのをオススメいたします。

ではどうぞ。


【More・・・】



手折られた花を見て、いつもより美しいな…と思うのは、僕だけじゃないのだろう。

猟奇的とでも言うべきであろうか…なにが正しい生き方か誰も教えてくれなかった頃に、ごくごく当たり前だと流していた自分の性格。

優しさにあるのは利害だけで、親切の裏には思惑が隠れている。

地に足をつけていても、同じ目線に立つ人はなく、手を差し伸べてくれるものは幻だろうと消えていった。

信じるとも信じようともせず、孤独と寂寥を身に纏い、薄汚れた一本道を歩く。

振り返ることも立ち止まることもなく…。

ただひたすらに。

骸の上を。

それが、僕だった。



もっと早くに出逢っていれば…と今になって、よく思う。
嬉しそうに柔らかく笑う夕鈴の横顔を見て、僕は細くため息をついた。

二人で居る王庭に、心地よい風が吹いている。

早朝に咲く花が朝露を豊かにたたえている。朝日を受けて輝いている姿は圧巻だ。季節ごとの草花が咲き乱れるこの見事な王宮を、今は二人占めしていた。


「陛下?」

僕の様子に、夕鈴は花から視線を外した。
慌てて表情を緩める。

「ご気分でもすぐれませんか?」

「そんなことないよ」

君を前にして…気がすぐれないなんてことない、そう言うと、夕鈴は困ったように笑った。

「ここはいつも花が満開で、飽きることはありません」

「うん」

僕は君を見ていて…飽きることはない。
そう浮かんだが、口に出せなかった。

ちょうど目線の先で、折れた花が見えたから。茎の途中で傾いて、まるで自力で立つのを諦めたかのように折れた花を。

夕鈴の視界にも入ったようだ。まぁ…と短く呟くと、みるみる顔を強張らせたので。

かわいそうに…夕鈴はそっと花を両手で包む。

その瞬間、胸の奥が奇妙にゆがんだ。
否が応でも眉間にしわが寄る。

そんな僕に、再度夕鈴は声を掛けてきた。

「陛下…戻りましょうか?」

「いや…なぜ?」

何もなかったように答えるが、気分の悪さは治らない。

「顔色が…」

その途端、目の前がふっと白くなった。
傾いた身体を起こせず、片膝を地面に着く。

「陛下!」

夕鈴が駆け寄って、僕の身体を支える。

「大丈夫だ」

何をしているんだ…意思とは裏腹に融通の効かない身体に毒突く。

「陛下、お待ちを。今、人を…」

翻ろうとする夕鈴の腕を掴んで制す。

「大丈夫だから」

今は離れないで欲しい。
見上げた視界の先に、今にも泣きそうな夕鈴の顔。

「……」

僕は、本当に何をやっているんだ。

そんな顔をさせたいわけではないのに。

「部屋に戻ろう」

短く呟くと、立ち上がった。長剣を杖代わりにして、彼女の腕を取る。

身体の調子が悪いわけではない。
病気や怪我などでもない。

ただ心が……静かに悲鳴を上げていた。












「最近の激務に、お疲れだったのでしょう…」

「激務ですか…」

「医師が側に付きますから、夕鈴殿はもうお休みに…」

二人の会話で、僕は目覚めた。

殺風景な天井が目に入り、自室であることを確認する。兄王時代に華美に大袈裟に装飾された王宮が苦手で、常に視界に入れないといけない部屋は質素に作り変えていた。

王の自室もそのひとつだ。

派手な色彩で塗りたくられ、黄金造りの装飾品だらけの元王の部屋。足を踏み入れた時の嫌悪感はいまだ忘れられない。

飾りが派手だとか模様が気にくわないとか…いろいろ理由を述べては直させていたが、何より彼の色が嫌だった。

存在を誇張する色。

だからすべて変えさせた。


後宮もそうだ。

幾人もの妃たちが、尼寺に入るために後宮を後にする姿を見て、心の咎が静かに外れていく心地であった。
中には、まだきちんと召されてもいない、年若い乙女たちも居たが、僕の心を揺り動かすには至らなかった。

兄王時代のすべてを、僕から遠ざけたかったのだ。

半分意地であった…かもしれない。
欲望や嫉妬などすべて薙ぎ払った。いや、最初から、そんなもの存在することなど出来ない処、王として誰も触れられない一番高い処に居たんだ。それが在るべき姿であると、僕なりの結論が導き出したから。

失政続きの治世に、ピリオドを打つために。





夕鈴に出逢って、何もかもが変わった。

頑なな気持ちも固執した考えも、すべて無かったことになった。
正しいこと、誤ったこと、適正な判断を下す人間らしさを、僕に植え付けてくれた。

夕鈴と過ごす日々がひたすらに、僕を浄化していくようだった。

理想の王像は、本当の意味で、理想となった。






「ですが……激務なのはいつものことじゃないですか?」

小さな非難の声で、僕ははっきりと覚醒した。微睡んでいた頭を揺り起こし、声のした方へ顔を向ける。

珍しく側近に反論する夕鈴が見えた。
そんな彼女を冷ややかに見る李順の横顔。

「最近…ご様子がおかしいような」

「……いつも通りですよ」

「…でも、いつもよりぼうっとされていらっしゃいます」

「……ですから、激務のせいです」

「本当に…?」

「はい」

「……」

揺れる天幕の隙間から、苦々しく眉をひそめる夕鈴が見え隠れしている。

対峙する李順は、いつものごとく能面を貼り付け、黙ったままだ。

「……」

やはり…お前からは言わないか。

分かっていたことだ‪。‬

‪常に僕のことを考え、なにが正しいか導いてくれる優秀な側近。‬
‪たとえ嫌われても邪険にされても、それが正しくない道であれば反対することをやめない。‬

悪いわけではない。
むしろ感謝しているんだ。


ただ…もう遅い。

何も知らなかった頃に戻るには、夕鈴の優しさを知りすぎた。

あとは崩壊していくばかり。


真実は僕から告げなければ、後にも先にも進めない。

僕は、ひとつ咳払いをして、取り囲む面々に目覚めたことを告げる。

すぐに口論をやめた二人が、医師たちと一緒に駆け寄って来た。

「陛下、お加減はいかがですか?」

「悪くない」

肩を支え身体を起こしてくれた医師たちは、僕の表情を見て、口を真一文字に引き締めた。

顔色がすこぶる良くないのだろう。

気分の悪さが物語っていた。


「陛下…もう大丈夫なのですか?」

「夕鈴…」

側で僕を見上げる夕鈴。
できればずっと、この顔を見ていたいと思う。

初めて出逢ってからこれまで、
僕の一番好きになった。


「夕鈴…話がある」

おもむろに告げる僕に、側近たちが何事かと息を飲む。夕鈴もまた、静かに動揺を浮かべていた。

ちょうど、西日が窓枠を照らし、室内に温かみをもたらす。

装飾品たちは、その光を反射し明るく浮かばせていたが、夕鈴の白磁の肌までも染めることはなかった。

いつまでも青白く、僕の前に…そこにあった。







雇用期間の終了が近いこと、本当は分かっていた。

だけど改めて告げられて、陛下に告げられて…ここを出て行く実感が恐怖となった。

急速に身体を蝕むそれは、胸の痛みと共に私を襲う。

まだここに居たい思いと、すべての苦しみから解放されたい思いの狭間で、私は今も立ち止まっていた。

視界の先に居るのは、大好きなあなた。

好きで堪らない…後にも先にも、そんな風に思うのはきっとあなただけだ。

だから悲しまないで。
そんな顔しないで。

笑顔でお別れするって決めたの。
あなたに特別な感情を抱いていると気づいた、あの日に、決めたこと。




明るい日差しは、心の中までは照らしてくれない。庭園に咲く花を見て、苦々しく思うのは初めてだ。

無言で先を行くのは長身の背中。

なんとなく二人、顔を合わせず散歩していた。

視線を合わせたら、言葉を交わしたら、積み上げてきた思いが崩れてしまいそうで…。

「……」

ここを出て行く時のこと、考えなかったことはない。考えないようにしていた…そちらが正しい。

いつも頭の片隅に、ふとした瞬間に鮮明に。


怖いのはここを出て行くことじゃない。

あなたに逢えなくなること。


「……」

陛下。何か言って欲しい。
多くは語らないあなたを、分かったつもりでいて、本当は内面の全てを見せて欲しいと、願っていた。

いつも頭の片隅に、ふとした瞬間に鮮明に。

あなたをずっと想っている。


足が弾んだ。
いや、弾むような気持ちじゃない。咄嗟に動いた。

手を伸ばす。刺激が身体を動かす。

掴みたい、あなたの心。



「夕鈴…?」

「……」

私は…陛下を後ろから抱き締めていた。

広い背中に顔を埋めて、彼を包んでいた。

触れた先から、想いが流れたら…そんな浅はかな思いと共に。

彼が語らないのならば、私も決して語ることは無いから。






「…夕鈴。手折られた花を見て、何を思う?」

「……」

「…悲しいと…思います」

「……」

手折られた花は僕だ。
彼女が嘆くその花は、僕の姿だ。

その優しさに甘んじて、ずるずると引き留めていた愚かな僕自身だ。


僕を包む手をそっと解く。

その言葉どおりに、悲し気な顔を浮かべる彼女を見つめる。


夕鈴…君がここを出て行くのは、僕の意思だ。

ただ、君が居ない王宮は…生きた花が咲かない。

折れて倒され萎れて枯れて。

まがいものの美しさ。

花も実も無い…空っぽの容れ物。





「ありがとう。君のおかげだ」

握手を交わす。

「はい」

この先、思い出すのは君だけだ。
君だけ…君だけだ。

「もし…、困ったことがあれば…」

口を閉じる。
未練がましさは、治らないらしい。

「…きっと私は何処に居ても、あなたの味方ですから」

「……」

「だから…お元気で」

「……うん」

「……」




お別れだ。

可愛いくて愛しい君。



お別れです。

優しくて孤独なあなた。











二次小説第92弾完
暗いよ…せつないよ。
雇用期間の終了前頃のお話です。久しぶりに書いたのがこれ?と思われるかも。失礼いたしましたm(_ _)m
陛下の心の闇は深いのですが…夕鈴と出逢ったことで少しでも晴れればいいな。やっぱり二人は離れちゃダメです!と改めて感じました。
狼陛下も長編化してきましたね☆新キャラの登場など楽しみが止まりません(*^_^*)

22:42  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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