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2010.08.05 (Thu)

太陽の花

「太陽の花」



陛下目線でそんなに長くありません。
夕鈴の誕生花が知りたいと思う今日この頃…


ではどうぞ。










夕方から降りだした雨は一向に止む気配を見せなかった。

回廊の端から外を見上げると、大粒の雨が辺りの世界を暗く染めていた。

湿った空気を鼻孔から吸い込むと、雨の匂いと共に、睡蓮の花の香りがした。


私は、回廊の上から、目の前に広がる中庭を覗く。

庭師により丹念に手入れされていた王宮の庭には、小さな池があった。
その池には今こそ見頃だといわんばかりに、睡蓮の花がいっぱいに咲き誇っている。

雨粒に濡れて、その身はいっそうに美しく…我こそ一番と猛る姿に笑みがこぼれる。


私は目を閉じて、昔の記憶を辿る。



あの日も雨が降っていた。


そして…やはり睡蓮の花が咲いていた。








辺境へと旅立つ私に、母は悲しげに笑っていた。

「いつか王宮に帰れますよ」

まるでおまじないのように呟いた細い声は、今も私の脳裏に浮かぶ。


命を狙われることの恐怖よりも、父や母と離れることの方が私には恐怖だった。


それでもこの優しい笑顔を最後まで見続けたいという思いが、幼い私の心に強烈に形作られる。
平気だよ…母の白い手を離し、都を出るまで涙は我慢した。


私はいつか王になるのだから…王とは強い者でなければならないから…

愛しい人たちと離れ離れになるのは、もうずっと以前からの定めであるのだから。








「陛下…陛下…」

目の前に伸ばされていた手。折れそうなほど細い手首をふいに掴むと、私は目を開けた。

夢と現実の狭間で揺れ続ける意識のまま、声をする方を見上げると、そこには愛しい人がいた。


「夕…鈴……?」

「陛下、良かったぁ…」

彼女の安堵した表情に、私の記憶ははっきりと戻る。どうやら私は眠っていたようだった。
見慣れた四阿の風景が目に飛び込む。視覚が戻ると今度は聴覚が復活した。外は相変わらず大粒の雨が降り続いていた。

私は夕鈴の顔を見つめながら起き上がる。四阿に設けられた椅子がカタリ…ときしむ音を奏でた。


「眠っちゃった…」

私は彼女に笑うと、掴んでいた白い手首を自らに寄せた。

「起こしに来てくれたの?」

夕鈴の顔がもっと近くで見たくて、私は彼女の腰を引きよせた。途端にバランスを崩した彼女が私の上に倒れこむ形で手をつく。思いがけず腕の中に飛び込んできた夕鈴を抱きしめると、彼女の身が震えた。

「ちょっ…陛下」

夕鈴は赤く染まる顔を悟られぬように隠しながら、そば近くにある私の目を見ないように避ける。
その行為すべてが、私の気持ちを甘く高ぶらせるのは…君だけだ。


「大丈夫、夕鈴?」

私は子犬のふりして夕鈴の身を起こした。

「大丈夫ではありません、陛下が引っ張るから…」

夕鈴は小声でぶつぶつと文句を言いながら、もう一度私の顔を見つめた。大きな瞳に、まだ心配の気配が漂っているのを微妙に察知した私は、にっこり顔で微笑んだ。


「ごめんね、夕鈴」

「いえ…起こしてすみません。こんなところで眠っていらっしゃるから、ちょっと心配になって…」

眠るつもりはなかったんだけどな…私は夕鈴の手首を解きながら、四阿の椅子に座り直した。
記憶が途絶える前よりも激しくなった雨音が耳に響く。

ふと、私は夕鈴の額にかかる濡れた前髪に気づく。そういえば触れたとき、着物が濡れていた。傘もささずに歩いて来たことは明確だった。


「僕が眠っていること、よく気付いたね」

私がいる四阿は王宮にほど近いが、背の高い木々や、季節ごとに見事に咲く草花が邪魔して死角になっていた。椅子に身を伏せていた私の姿など、見えなかっただろうに。


「はい…なんだか呼び声が聞こえたような気がして…」

陛下は眠っていらっしゃるのにね…と夕鈴はクスリと笑った。


私は黙したまま、夕鈴の横顔を見つめた。

夢の中で呼んでいたのかもしれない、愛しい彼女のこと。
あの日と同じように降る雨が私の心の中まで浸食して、知らぬうちに呼んでいたのかもしれない。


かすかだが覚えている。私はきっと、あのとき母に言いたかったのだ。

ひとりにしないで欲しいと。


だから彼女を呼んだのか。

私は、不思議そうに覗きこむ夕鈴をぼんやりと眺めた。彼女の存在が私にとってどれほど大きいか、自分でよく分かっていたつもりだが…昔の記憶の中にまで登場した彼女に笑いが止まらない。


「陛下?」

突然笑い出した私に、夕鈴は驚いて声をかける。

「ごめん、昔を思い出してね」

「昔?」

「辺境へ行く日のこと、今日と同じように雨が降っていた…」

私は中庭を眺めた。小さな池は弧円を描いて波たち、その中央では見事に咲いた睡蓮が横たわる。
芳しい香りを余すことなく吸い込むと、少し気分が和らいだ。


あの日の睡蓮の香りは今でも記憶に残っている。
まるで、旅立つ私を元気づけるかのように、力強く咲き、王宮全体をその香りで満たしてくれていたあの日。

どんな励ましの言葉よりも、どんな慰めの言葉よりも、私の心に真っ直ぐ届いた。


数年後にこの地に舞い戻ったときも変わらずそこにあり、どんな時代を過ごしても季節がくれば必ず見事な花を咲かせる。


私にとって特別な花。



「夕鈴みたいだ…」

「え?」

「夕鈴って睡蓮の花のようだね」

私は大輪の花を見つめる。横顔に彼女の視線を感じ、こそばくて嬉しくなった。彼女の視線は私が思う以上に甘いから。

「睡蓮の花言葉は、清純な心、信仰。エジプトのナイル川のほとりによく咲いていたから、ナイルの花嫁とも言われる」


夕鈴は私の説明を聞きながら、同じように睡蓮の花を眺めた。

色とりどりに咲き誇る姿に、一体君は何を思う?


「君の髪に差したらきっと素敵だよ」

私は夕鈴の長い髪に触れると唇を寄せた。濡れた髪が重厚感を持って私の手にまとわりつく。
私たち以外誰もいない空間にふたり。その空間は、激しく降る雨によって区切られ、まるで別世界として存在している。隣にいるのは愛しい君で、君が見つめるのは私だけ。


軽く気がふれそうだ。


ぎゅっと抱き寄せて口づけしたいけど…まだそのときじゃない。



「そんな…恐縮です。あんな綺麗な花に」

夕鈴は頬を染めて私を見つめた。賛美の言葉は慣れていないのだろう…初々しい姿に胸が熱くなった。

君の前では、どんな美しい花も主役にはなれないね。


「でも…本当に綺麗ですね、大好きです」

そっと呟く彼女。
もちろん花のことが大好きなんだろうけど…そのときの夕鈴があまりに綺麗だったから、私は勘違いしそうになった。

その愛らしい唇で私を好きと言ってくれたら、どんなに幸せだろうか。


睡蓮の花がもたらしてくれた安らぎ、今度は君が与えてほしい。



「僕も…大好き」

夕鈴に向かって言った。本当に大好きな彼女に向かって。



「太陽の花ですね」

「え?」

夕鈴はそっと私に視線を移すと、口元に笑みを浮かべた。

「さっきの睡蓮の花言葉です。エジプトの神は太陽神、信仰の花は睡蓮です、だから…」

「太陽の花」

「はい」

夕鈴は嬉しそうに笑った。太陽のような笑顔で。

驚いた。私の知る睡蓮のイメージは、常に雨の中にあったから。


「太陽の花か…」

夕鈴がそう言うと、本当に太陽のように見えるから不思議だ。

太陽のように大きくて、太陽のように暖かい……やっぱり君に似てるね。




「雨、上がったみたいですね!」

気が付くと、あんなに激しかった雨はいつの間にか止んでいた。視界が開けると、眼前には美しい中庭が広がる。
その景色に、大きく瞳を輝かせる夕鈴の姿が目に飛び込んだ。

きっと駆け出したくて、うずうずしてるに違いない。

そういう君の性格も好きで堪らないよ。



「王宮まで競争しようか」

「はい!」

私の提案にいち早く返事をする夕鈴。
両手を広げ四阿から飛び出した夕鈴の後を追って、私は中庭を駆けた。



雨雲が去った後には太陽が昇る。

ふと目をやると、日差しを受けて睡蓮の花が輝いていた。

私が見たどの花よりも、美しく暖かく…清らかで愛しい。


太陽の花。






太陽の日差しを受けて、君と一緒に笑った。









「狼陛下の花嫁」二次小説第9弾完了です

ミケが今一番行ってみたい国エジプトの国花を出させていただきました。
お気に入りのセリフは「王宮まで競争しようか」です。
子供っぽい陛下も大好きです



09:38  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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