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2010.08.10 (Tue)

目が覚めたら思い出すようにⅠ

「目が覚めたら思い出すように」

夕鈴目線で、ちょっと面白い展開に仕上げてみました。
好みが分かれるかもです。長いのでⅠとⅡに分けています。


ではどうぞ。









目が覚めた。

朝にしては薄暗い室内の中、夕鈴は目覚めた。

朝の冷気に身を縮め、夜の間に退けていた毛布を手繰り寄せて起き上がると、立ちくらみを起こしたかのように視界が歪む。


「……」

夢の中の続きを見ているようだ。

室内を取り囲む違和感に夕鈴は不安になった。

見渡した部屋は、昨夜と変わらず一定の重厚感を纏い静かに佇んでいる。


一見何も変わらない。

夜半過ぎにいつもと同じように妃の部屋を訪ねた陛下をお茶でもてなし、おやすみを言った昨夜と同じ場所。


だが…

夕鈴は起きたばかりで働かない頭を振りながら、寝台から降り立った。
床の冷たさが、裸足の足に直接伝わり思わず眉根を寄せる。


「陛下…」

すぐそばの長椅子で眠っているだろう陛下の名前を呼ぶが、返答はなかった。


気配のない室内の様子にまた不安になった。


ここは私の部屋なのか。本当に私の部屋なのか。


視界が歪む。


はっきりさせたくて振った頭がズキズキと痛みを伴い夕鈴を襲った。


夕鈴はおぼつかない足取りで窓辺に近付き辺りを窺った。
豪華な欄干に手を触れ、目を凝らして外の様子を見つめたが、誰もいなかった。

ひとっこひとり見当たらない。

夜通し起きているはずの警備兵さえ。


そもそも今は朝なのか夜なのか。

外に出て確かめないと…


夕鈴は扉の方向に振り返った。その途端、また視界が歪んだ。

ぐらぐらと、頭が揺れる。


「陛下…」

夕鈴は呼んだ。
今最もそばにいて欲しい人の名前を。


そこで意識は途切れた。










次に目覚めたとき、夕鈴は明るい日差しの下にいた。

頭上から降り注ぐ暖かみにここは外であることに気づく。

目覚めてすぐ目の前にあった自らの手を見ると、指先にテントウムシが止まっていた。

どうやら生い茂る短い草の上に、うつ伏せで寝転んでいたようだった。

地面に手をつき起き上がると、テントウムシが大空へ飛び立った。

遠くで鳥のさえずりが聞こえる。虫の声も五月蝿いくらいに。
夕鈴を取り囲むように広がるのは美しい庭園。見慣れたそこは、後宮の庭園だった。


「私…」

ここにいる記憶がない。
さぁ…と突如吹き抜けた風を受けて、夕鈴の衣装が舞う。


「!?」

夕鈴は、見知らぬ衣装を纏っている自らに驚く。
妃衣装にしては袂が短い。最初掃除婦の衣装かと思ったがどうやら違うようだ。

髪型にも違和感を感じた。いつも肩にかかっているはずの長い髪はひとつにまとめられ、触れると控えめなかんざしが手に当たった。


まさか…女官の衣装ではないか。

なぜ女官の衣装を着ているの?



「小明!」

後ろから叫ぶような声が聞こえて、夕鈴は慌てて振り返った。

シャオメイ?


「こんな所で何を?もうすぐ王の御座よ」

夕鈴の目の前に女官がひとり、訝し気に立っていた。

見覚えのない顔。少なくとも後宮の女官ではないことは確かだった。

明らかに私に向けられる視線に困惑する。

念のため私以外の誰かを探したが、草生い茂る暖かな庭園には夕鈴しか居なかった。


「小明、聞いてるの?」

「え…あのう…」

どなたのことでしょうか?私は失礼のないように笑顔で尋ねた。

私の笑顔に怒ったような表情を浮かべる彼女。


まずいわ。何か怒ってるみたい…。でも間違えてるのはあなたの方よ。


「何寝ぼけてるのよ、行くわよ!」

手を引っ張られぐらりと体が傾いた。彼女に連れ去られるままに、広い庭園を駆ける。


「王の御座よ」


王…じゃあ陛下に逢えるのね。

状況に理解出来ない夕鈴の頭に、陛下の姿がはっきりと映った。













どうやら私は本当に女官になったみたい。名前は小明で、後宮で働くひとりの女官。

夕鈴は大きく溜め息をついた。


「小明、湯を沸かしてちょうだい」

「あっはい」

椅子から腰を上げ、いそいそと湯を沸かす準備をし始めて、ふと思う。
違う!流されちゃダメだ。私は女官じゃないし小明さんでもない。

夕鈴は女官専用の休憩室にいた。

庭園から無理やり王の部屋へと連れて行かれ、言われるままに寝具に香を焚き染め、華奢な調度品を磨き、ひととおり部屋を綺麗にして今に至る。

命ぜられるままにこなした仕事すべて、女官の仕事だった。

なぜ、後宮女官の仕事を妃である私がしているのだろう。


「どうしたの小明、今日は様子が変よ」

手を止めて考え込む私に声が掛かる。さきほど私を庭園に向かえに来た女官だった。察するに、小明さんの先輩女官というところか…。


「あの…私、小明さんではありません」

「なんの冗談?」

面白くないわよ…先輩はクスクスと笑った。

そのまま私が途中でやめた湯を沸かす準備を始め、手際よく火をおこす。ほんの数分もたたないうちに室内に湯気が立ち上った。

いや、何の冗談でもない。いっそこの状況が冗談であればと思うが、堅く目を閉じても夢から覚めることはなかった。


休憩室の奥では女官たちが楽しそうに談笑する声が響いていた。


「お茶にしましょう」

先輩は私に笑い掛けると奥へと去って行った。仕方なしに後を追って奥へ進むと、笑い声がさらに大きく響いた。
女官の輪に入りお茶を一口すする。とりあえず状況を把握するために気分を落ち着かせないと。


「それで…今度の出征は近いらしいわよ」

「そうなの?陛下も大変ね、この間お妃さまをお迎えしたところなのに…」

陛下という単語が耳に届き、夕鈴は目を見開いた。


「それって狼陛下?」

夕鈴の言葉に、ぽかんと私を見つめる無数の女官の目。


「狼陛下って何?そんなあだ名あったかしら…」

「狼といえば…この間、王家主催の狩りの宴で狼が出たんですって」

「まぁ恐い」

夕鈴が投げた質問など、次々と飛び出る話題によってかき消されてしまった。

どうやらここの女官はかなりのおしゃべり好きみたいだ。こういうところは庶民でも女官でも変わらないわね。


「でもここだけの話…次世の王はどうやら翰(かん)大臣の倅になるんですって」

まるで内緒話でもするみたいに急に声を落とす女官たち。夕鈴は、興味深い話題に耳を立てた。


「あら?珀家の若君ではないの?」

「血族から言えば、珀家の若君が跡継ぎよね」

「でも実権は大臣様の手の中らしいわよ…」

「まぁ恐い」

クスクスクス…女官たちがほがらかに笑う。

いずれも名家出身の娘たちには、次の王など実際誰がなろうが関係ないらしい。
王の代替わりで治世が変わろうが、国の動向が変わろうが、変わらぬ笑顔でお茶を飲んでいることだろう。


そんな無邪気な女官たちの話を聞きながら、夕鈴はふと手を止めた。

さっき…確かに珀家と言った。陛下の苗字と同じだ。


「あの…珀家の若君というのは?」

夕鈴はおずおずと尋ねる。


「あら小明、まだお逢いしたことがないの?ちょうど今王都に滞在中ですのに…」

わたくしはお見かけしたわよ…女官のひとりが自慢気に答えた。


「はい、まだ…なんですけど、今どちらに?」

「後宮へ戻って来ていらっしゃるわ」


後宮…ってここか。

狼陛下が浸透していないあたり、その珀家の若君は陛下ではないような気がするが、今はどんな手がかりでも欲しい。後で逢いに行ってみよう。


「でも、今度は本格的に辺境に行くかもしれないって」

「まぁ、お可哀想に…」

「王が王なら母君も苦労なさるわね」

ちょっと、声が大きいわよ…女官たちがひそひそと囁く声は夕鈴の耳には入らなかった。



珀家の若君。

たとえ陛下でなくても、陛下の血筋の方なら、この私を取り巻く不可解な状況をなんとか打破してくれるかも。

淡い期待を込めて、夕鈴改め小明は女官仕事の続きを始めた。





Ⅱへつづく


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