10月≪ 2017年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.08.12 (Thu)

幸せな時間

「幸せな時間」



夕鈴目線で、短文です。
ほのぼの話です。


ではどうぞ。












ここは白陽国後宮の一角、厨房室。

夕鈴は朝から緊張の面持ちで数々の食材と対面していた。


今夜は恒例になりつつある、夕鈴の手料理をふるまう日だ。

毎回、毎回、陛下の好むメニューの考案や食材の調達に頭を悩ませていた。


もちろん今日の献立についても夕鈴は悩みに悩んでいた。

朝から取り掛かった料理が昼過ぎても一向に出来上がらない。

陛下が後宮に戻って来る時間が迫ってきたので、とりあえず形にした料理を作り上げて今に至る。


「あーやっと出来たわ!」

厨房に妃の歓声が上がった。

夕鈴は疲れた体をほぐしながら、さっき出来あがったばかり料理を自室へと運ぶ。
焦ってひっくり返すことなどないように慎重に。


幼い頃に母を亡くしていたため、夕鈴は汀家の家事全般を担っていた。

料理や洗濯、食材の買い出しなど、特に嫌いというわけではなく、実家にいた頃は楽しんでやっていた。
それなりに美味しいといえる料理を父や弟にふるまっていたと思う。

だが、ふるまう相手が違うとこうも違うのか。

しかも相手は国王陛下だ。
日々山海の珍味を食べつくす陛下に庶民料理をふるまうなんて…今さらながら、凄いことをしているのかも…


夕鈴は机に並べた料理の数々を眺めて、大きくため息をついた。








夕刻になると陛下がやって来た。
その様子がいつもよりうきうきして見えるのは、今日が恒例の手料理デ―だからか。

口端に笑みを浮かべて侍女を下げる陛下の様子に、夕鈴はひとつ苦笑した。

心が顔に表れていますよ、狼陛下。


「わ~おいしそう」

大きな仕草で椅子に腰掛けた陛下は、子犬のように目を輝かせて言った。


「僕、すっごく楽しみにしてたんだ」

「そんな…たいしたものではないですよ」

陛下用のお茶を入れ直しながら夕鈴は答える。

陛下は、夕鈴が作るものは何でも特別…なんて甘いセリフを吐きながら、にこにこ顔で私を見ていた。


「陛下の好みの味付けに仕上げたつもりですが…」

私は力なく答えた。

この時間はいつも緊張する。今だかつてまずいと言われたことはない(陛下ならそんなこと言わないと思う)が、それでも一種の不安が心を支配するのは、彼がこの国の王様だからか。


「おいしいよ!」

夕鈴の手料理を口に入れて、第一声。ぱぁっと輝く表情に夕鈴はほっと息を吐いた。

陛下はそのまま、食べつくすまで手を止めることはなく、あっという間に夕鈴の手料理を完食した。


「ごちそうさま」

満足そうにお腹をさする陛下。


「お粗末さまでした」

夕鈴は食器を片づけながら、今日もひとつ大きな仕事をやり終えた疲労感いっぱいの表情で言った。


「でもこういうのっていいよね!奥さんの手料理、僕毎日でも食べたいなぁ…」

陛下の言葉に夕鈴の動きが止まる。

「ま、毎日は無理ですよ~庶民料理も飽きちゃいますよ」

毎日なんてとんでもない!妃仕事だけで十分だ。それに…そろそろメニューも尽きてきた。

夕鈴のレパートリーは特別多いというわけではない。
手料理デ―のたびに新たな献立に挑戦するのに骨を折っていた。


「僕絶対飽きないよ!夕鈴の手料理、美味しいもの」

陛下はにこにこ笑顔を崩さず答えた。子犬の耳としっぽが見え隠れしている。

私が子犬の彼に弱いこと、とっくにバレているのではないか…
ピンポイントで子犬を出してくる陛下に夕鈴は焦る。

冗談じゃないわ。


「そ、それに毎日料理を作ってたら、掃除婦のバイトがおろそかになります」

「じゃあ掃除婦のバイトやめたら?」

陛下は、素晴らしい提案だと言わんばかりに即答する。夕鈴は本格的に危機を感じた。


「いえ…陛下、それに…それにお妃さまの仕事の方も中途半端になります、厨房に籠りっきりになるので、今までのように政務室へは通えませんよ」

「それは困るよ」

私の言葉に陛下の表情ががらりと変わった。


「君が来ないと僕やる気出ないよ…」

政務室通いも気が重かったが、毎日料理を作るよりはましだ。夕鈴は落ち込む陛下の様子に、ほくそ笑む。良かった…諦めてくれそう。

案の定陛下が折れたので、毎日手料理をふるまう話は白紙に戻った。

それでも、残念だなぁ…なんて名残惜しそうに呟く陛下の横顔を見て、夕鈴はクスリと笑った。


「陛下、お願いがあるんですけど」

「え、何?」

夕鈴からのお願い事なんて珍しい。陛下は椅子から身を乗り出して尋ねた。


「実は、毎回献立を考えるのに苦労していまして…よかったら陛下の好みを一覧にしていただきたのですが」

「僕の好み?夕鈴の作るものなら何でも好きだよ」

「何でも…と言われても困るので、書き出してください」

お願いします…夕鈴は頭を下げた。

私の悩みの種を一緒に解決してほしい。しかも陛下のために悩んでいるんだから、私にはこれぐらい言う権利はあるわね。

黙ったままの陛下の表情をちらっと見る。

なんだか眉間にしわを寄せて深く熟考している。

そんなに考え込むことでもないのにな…内心の思いは口に出すことなく、夕鈴は陛下の様子を注意深く眺めていた。


「分かったよ、夕鈴」

あぁ…分かってくれたわ。ほっと息を吐くと肩の力が抜けた。

これからは陛下の好物リストの中から献立を決めよう。




終始満足気に妃の部屋での時間を過ごした陛下を見送って、夕鈴は床についた。

疲れが全身を巡りすぐに眠りの世界に誘われる。


「お疲れ様…」

自らに慰労の言葉を呟き、後宮生活の一日が終了するのであった。







翌朝目覚めた夕鈴は、寝台の傍らの小机に置かれている書巻に気づく。
見ると、『好物リスト』と題がつけられた書巻は、それなりに厚く丸められ細い紐で閉じられていた。


「……」

昨日の今日でさっそく用意するあたり陛下らしい。

しかも…夜中のうちに書きあげて、早朝に持って来るなんて、本気度の高さに驚かされる。

夕鈴は大げさに書かれた陛下の好物リストを紐解く。


「わ~いっぱい書いてある」

これならしばらくメニューに悩むことはないだろう…などと思っていた夕鈴がふとリストの最後の段に目をやると、
『夕鈴』と達筆な字で書かれていた。


「私!?」

ボケているのか、からかっているのか、やっぱり陛下は掴めない人だ。


後宮の妃の部屋からは、朝から大爆笑する夕鈴の声が響く。


今日も平和な一日が始まろうとしていた。











二次小説第12弾完了です

夕鈴の手料理ネタでした。陛下にとって一番の好物はもちろん夕鈴だろう!
とゆーことでリストに付け加えさせていただきました(笑)

もちろん最後のオチが書きたかったミケです。


14:25  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/19-987f56f9
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。