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2010.08.16 (Mon)

可愛い人Ⅱ

Ⅰのつづきです。










「お妃と何かありましたか?」

このセリフ、以前にも聞いた事あるな…。
僕の進路を阻むように立つ李順を見て、僕は溜め息をついた。


「喧嘩した」

僕は心底落ち込んだ様子で、がっくり肩を落とす。喧嘩したことに違いはないが、口にするとダメージが大きい。

そんな僕の様子に、李順は呆れた視線を送る。


「陛下…」

「分かっている」

実際は何も分かっていない。だが、口うるさい側近を今すぐに遠ざけたいから、僕は嘘を吐いた。


「とにかく…早く仲直りしてくださいよ、職務怠慢で減給などなりませんように」

夕鈴の借金返済期限が延びることについては大賛成だが、いつまでもこの状態でいるのは心苦しい。何より、夕鈴と話せないのは本当に辛い。

この日を境に、僕は夕鈴に避けられて避けられて…それで無事バイト終了の日を迎えるなんて事になったら、絶対に嫌だ。もちろん、そんな事はさせないけれど。


「李順、夕鈴には何も言うなよ?」

「この状態がいつまでも続くようでしたら、上司の口から申し上げるほかありません…」

「それには及ばぬ」

僕はきっぱり即答した。

そんなことしたら、仕事のために、借金返済のために心を押し殺して僕と話す夕鈴を見てしまうのではないか。

たとえそれが仕方のないことでも、夕鈴が自身の意志以外の圧力に屈するような姿は見たくない。

夕鈴が、心のままに僕に掛ける素直な言葉や飾り気のない笑顔を知ってしまってから、僕の心は彼女に裏切られることを極端に恐れていたから。


「ならばなおのこと、早く仲直りなさいますように…」

李順は捨てセリフを言い残し、僕に拝礼しつつ後を下がった。


「……」

立ち去る李順の後姿をぼんやり眺める僕の心に、先日の記憶がよみがえる。

蜃気楼が揺れるように、霞がかってぼやける目の前の風景に、じわじわとあの日の官吏の視線が映る。

あの視線は…僕の目には意味を含んでいるように見えた。
思いたくはないが、あの日の官吏の目は夕鈴に恋慕する目だ。


愛らしく初々しい夕鈴の姿。
笑顔はとびきり可愛くて堪らない。

僕と出会う前の彼女は知らないが、きっと恋心を抱く男は居たはず。


だってこの僕をこれほど虜にして、目が離せないほどにしてしまうほど、夕鈴は魅力的なんだから。


臣下が誰を思おうが僕には口出し出来ない。

その思い人がたとえ僕の妃であろうとも、人の心に蓋をすることなんて誰の力を持ってしても出来やしない。
どんな権力者であろうとも、人の心までは操れないから。


そんなことは分かっているし、気にしてもいない。


だって…あの官吏が夕鈴を好きなところで、一体どうなるというんだ?

どうにもならない。だって夕鈴は僕の妃だから。狼陛下唯一の寵妃だから。

国王である僕が心から慈しんで、大事に大切に思っている妃だから。


だが…


急に暗くなった視界に、僕は深く息を吐く。
その息は冷気に変わり、僕の立つ世界を冷たく包む。全身を取り囲むように漂う冷気に、僕は身を震わせた。


夕鈴は本物の妃ではない。縁談よけのために雇われた臨時花嫁だ。

知りたくもない事実が、現実という名の形となって僕を縛るたび、とてつもなく不安が心を蝕む。

彼女がここを去った後、彼女が他の男を好きにならない保証はない。

そもそも僕の本物の妃になる保証もないのだから…


僕は愚かしい自身を嘲笑うかのように、口端に笑みを浮かべた。
自嘲気味に笑う狼陛下の姿など、臣下が見たら飛んで逃げるだろうな。

こんな時でも…いや、こんな時だからこそ、くだらない思想が次々と思い浮かぶのは弱々しい自分を必死で守っているから。


夕鈴…僕を好きになって欲しい。

暗く冷たく、何も感じないあの頃に逆戻りするには…君を知り過ぎた。





突然目を差した明るい日差しに、僕は意識を取り戻した。

気づくと、今までそこにあったはずの暗く冷たい空気はない。僕を纏う冷気は取り払われ、変わりに暖かい光とともに夕鈴の笑い声が聞こえた。


「夕鈴?」

僕は目を凝らして周囲を見渡す。まぶしくて眩みそうな視線の先、愛しい妃が居た。

夕鈴は侍女を従え、両手に花かごを抱えながら中庭を歩いていた。


最近は中庭をよく散歩しているって言ってたっけ…

今は、無償に逢いたかったけど、やっぱりできれば逢いたくなかった。
複雑すぎて、自分でもこの気持ちは把握出来ない。


声を掛けようかためらっていた矢先、僕と同じように夕鈴に視線を送る誰かの存在に気づく。

その人物が誰であるか知ったとき、僕は息を飲んだ。


その人物は、あの若い官吏だった。



気づくと、僕は脇目もふらずに足を踏み出していた。







「夕鈴!」

突然現れた僕に、夕鈴は飛び上がるほど驚き、花かごを落とした。
僕はそれを拾い上げると、夕鈴の手首を掴んだ。夕鈴の白い手には一輪の花が握り締められている。


「陛下…」

気まずそうに見上げる夕鈴。


「このような所で逢えるとはな…花を愛でていたのか?」

僕は息が掛かりそうなほど近くに夕鈴の手首を寄せると、手にした花の香りを嗅いだ。
太陽の恵みを受けて輝く花弁からは、甘い香りが満ちていた。

途端に赤面する彼女の様子に、僕の乾いた心が潤う。

夕鈴は、近くにある僕の顔から目線を反らすことなく耐えている。


「中庭の草花がとても美しいので、王宮の花瓶に活けようかと…」

「あぁ、確かに美しい。だが夕鈴、お前の美しさにかなう花はないようだ」

僕は大げさに周囲をゆっくりと見渡す。時を置いて見つめた夕鈴の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。


う…可愛い…


「そ…そんな、は、恥ずかしいので…やめてください」

夕鈴はかろうじて作った笑顔で答えると、僕の手を解いた。僕に愛でられた一輪の花を花かごに入れると、そっと僕から離れる。


近づいては離れ…押しては引かれる…やっぱり夕鈴は手強い。


普通なら、侍女たちの手前逃げ出すことが出来ない夕鈴を気の毒に思うところだが…今日の僕はそんなことを考える余裕はなかった。

僕は背を向ける夕鈴に手を伸ばすと、力強く抱きしめる。
背後から抱きしめられた夕鈴の手から、また花かごが落ちた。


「!?」

「こうしていると…やはり私にとって一番の花は夕鈴、お前だと思う。その輝きを失わず、いつまでも私のそばにあって欲しい」

僕は夕鈴の耳元で囁いた。

これじゃ告白だ。我ながら恥ずかしいセリフだと思うが、きっとこの様子を見ているだろうあの男には負けられない。


「愛しい妃よ…」

「……ひっ……」

夕鈴は小さく叫び声を上げた。もちろん僕にしか聞こえない声量で。
きっと理解し難い状況に大変混乱しているんだろう…衣越しに感じた夕鈴の心音は破裂寸前だった。


仮にも夫からの愛の囁きに叫び声で答えるとは…やっぱり夕鈴は面白い。

僕は心の中、クスリと笑う。


僕は夕鈴の拘束を解くと、そのまま自らに体を向けさせる。
目をぐるぐると回す夕鈴の頬に触れた。


「夕鈴…」

こっちを見て。


「せっかくだから午後の休憩はお前と取ることにする」

僕は傍らに微動だにせず佇んでいた侍女たちを呼びつけると、お茶の用意を命じた。
命令を受けた侍女たちは、足早に中庭を去って行く。


日差しのたっぷり注ぐ中庭には僕と夕鈴の二人きり。僕はやっと狼の鎧を脱ぎ、彼女の前で本来の僕である子犬の姿に戻った。


「夕鈴?聞いてた?」

「陛下!なっ何なんですか!今の演技は…」

「ちょっと気合入れちゃった」

僕はほがらかに笑って芝生の上に腰掛けた。こうしていると周囲から覗かれることはない。


「なっなんで気合入ってるんですか!?」

「まぁまぁ落ち着いて夕鈴、とりあえず座ってよ」

「落ち着けって……落ち着いてなんて…」

夕鈴は中途半端に言葉を止めると、大きな瞳で僕の顔を見つめた。


「まさか…昨日喧嘩したことを恨んで…」

「はは…そんなんじゃないよ」

「じゃあ一体何なんですか!いくらなんでもやりすぎです。もうセクハラですよ、セクハラ!」

僕を指差す夕鈴。やばい…本気で怒っているようだ。
だったら僕も本気で臨むしかないな。


「また怒るの?夕鈴…」

「誰が怒らせてるんですか」

「僕だね。でも夕鈴、昨日のことは謝らないよ」

僕は立ち上がる。急に目の前に立ちはだかる僕に、夕鈴は負けじと睨みつけていた。
王様を睨むなんて…君にしか出来ないよ。


「間違ったことは言っていない…夫がいながら他の男と話した夕鈴が悪い」

「じゃあ聞きますけど。陛下は私以外の女性とお話なさらないんですか?」

「私?もちろん話などしない、交わす言葉はあってもそれは命令だ」

君以外の女性など正直興味ないしね。


「私だって…挨拶とかするだけですよ」

「挨拶?でもお前はあの官吏のことを良い方だと言った。挨拶だけしてるのに何で良い方だと思ったんだ?」

「そ、それは…」

夕鈴の反論の手が止む。
傍から見たら本当にどうでもよい痴話喧嘩だと思うが、僕にとっては一大事だ。

とにかく…あの官吏に夕鈴を近づけてはならない。


「姉みたいだって…」

「え?」

ぼそり…夕鈴が呟いた言葉に僕の反撃の手も止んだ。


「故郷にいる姉に似てるから嬉しいって言われたんですよ。私、弟がいるので親近感が沸いて…それで良い方だと思ったんです」

「故郷の姉…」

夕鈴に恋してるんじゃないの?
では僕が感じた視線の意味は恋情ではなくて、郷愁の念?夕鈴を故郷の姉と重ねて見てたってこと?


僕はがっくり肩を落とす。

勘違いした…のか?この僕が。信じられない。


「全部陛下の邪推ですよ。狼を出して言う事聞かせようなんて、そんな手には乗りませんからね!」

夕鈴は鼻息も荒く言い放つ。勢いを無くした僕に、まるで勝利したかのように得意気な顔をしている。


「……ぷ…」

やっぱり夕鈴は面白い。
彼女は怒るかもしれないが、今こんな風に笑っていられる状況に心の底から安堵した。


「な…」

何がおかしいんですか!と叫ぶ夕鈴の頬に両手をあてがう。



「愛しい妃よ、私が悪かったよ…」

君に出会ってから、僕の心は乱されっぱなしだ。

君が僕に与える爪や牙、本当に愛らしくて堪らない。くせになりそうだ。



僕は夕鈴に極上の笑顔を向ける。




「仲直りしよう…」








二次小説第13弾

陛下の嫉妬心だけが表に出た13弾でした(笑)

作中の夕鈴は嫁の貰い手がなく、嫁ぎ遅れまっしぐらですが、
陛下の中の夕鈴はモテまくりです。

好きな人は可愛く見えちゃうんでしょうね。

タイトルの可愛い人とはもちろん!陛下の思い人夕鈴です



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