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2010.08.18 (Wed)

孤高の王

「孤高の王」



少し暗めに仕上げました。
甘さ控えめ微糖です。
陛下目線で短文。


ではどうぞ。










ここは夜も更けた白陽国後宮。

妃の部屋の寝室でふたりの話し声が響く。

ひとりはこの国の王様、珀黎翔。
いつもの定位置である長椅子に腰掛け、肩膝を立てる姿は堂々としていて惚れ惚れするほどだ。薄い夜着を通して、細いながらも引き締まった体つきを窺うことができる。

もうひとりは王様の妃改め狼陛下の臨時花嫁、汀夕鈴。
寝台の端に座り、少し眠い目をこすりつつおしゃべりをしている。ときに、その表情に無垢な笑みを浮かべて。



「そういえば、狼陛下ってなんで狼なんですかね?」

「え?」

僕は、寝台に両膝を抱えて座る夕鈴を見つめた。


「どういう意味?」

突拍子のない質問に、僕はまた面白いことを言い出すんじゃないか…という期待を込めて聞き返す。

いつも規則性のない彼女の言動にはらはらさせられる反面、ちょっとわくわくしているのも事実。



僕と夕鈴の間で通例化している眠る前のおしゃべり。

僕は長椅子、夕鈴は寝台で。
この距離がぐんと近くなるのを毎夜期待して足繁く妃の部屋へ通うが、未だ縮まってはいない。


「恐い王様を揶揄するために狼だなんて…他に何かなかったのかしら?」

頬に手をあてて考え込む夕鈴。


彼女の興味の種は実に幅広い。

ときどき興味津々が加速しすぎて、刺客の刃にさらされることもある。正直抑えて欲しいと思うところだが。


まぁ、その辺りも気に入っているから仕方ない。


「僕が名付けた愛称ではないしね…」

僕はクスッと笑う。


「狼よりも、もっと……ほら、獅子とかの方がかっこいいと思いません?」

「獅子?」

「そう!例えば、白陽国の王様なんで、白獅子とかいかがですか?」


いかがですか…と言われても困る。愛称をつけているのは僕ではなくこの国の民なんだから。

もっとも、名付ける前に本人に一言相談があっても良かったのではないか…とは思うが。


「白獅子なんて、なんだか年寄りみたいだから嫌だ」

「そうですか?かっこいいじゃないですか。百獣の王ですよ。陛下にぴったりだと思いますけど」

夕鈴はナイスアイデアとばかりに手をぽんと打って、にこにこ顔でこちらを見ている。


彼女がときどき見せる子供のような純粋な仕草に、どれほど心癒されることか…


僕は膝を下ろすと、片手を上げて夕鈴を手招きする。


「何ですか?」

「いい案を出してくれたからご褒美。夕鈴の好きな砂糖菓子をあげるよ」

「私は子供ですか!」

口を尖らせて怒りながらも僕に近づく夕鈴に、心の中笑いが止まらない。


本当に素直で愛らしい。


「ありがとうございます」

夕鈴は嬉しそうに受け取ると、何の躊躇もなく僕のとなりに腰掛けた。

子犬の僕には実にあっさりと警戒を解いてしまう。

たとえば李順がそばに居て見ていれば、なんて危険なんだろう…と思うかもしれない。それが張老師であっても同じ事。
夕鈴の雇用形態を知る者すべて、彼女の無防備さを心配するに違いない。

夕鈴以外の人にはきっと、腹をすかせた狼が手招きしている…ように見えただろうから。


でも僕だけに解かれる警戒ならば、君を危険な目に合わせない………ようには努力する。


「さっきの狼の話の続きですけど…。狼って物語ではよく悪役で描かれるじゃないですか。ずる賢くて情がなくて。昔から、狼や蛇は慈悲の心を裏切る獣だって言われてますよね」

「そうだね。狡猾でしたたか、ときには善人さえもたぶらかすなんてよく言われてるね」

僕はたんたんと語る。


「やっぱり陛下は獅子のイメージですよ。故郷でも唐獅子は霊獣として奉られていますし…なにより姿が凛々しくてかっこいいじゃないですか」

夕鈴は嬉々として言う。僕の反応を見ながらも、自論を崩すことなく。

よほど『獅子』というネーミングが気に入ったんだろう。


となりで無邪気に語る柔らかなぬくもりにそっと手を伸ばしたくなるが、ここは我慢。

せっかく解かれた警戒を、あえて押し戻すなんて…無骨な男のすることだ。


僕はひとつ咳払いすると、夕鈴に笑い掛けた。


「でも…僕は気に入ってるんだ、この愛称」

僕の言葉に驚いて見上げる夕鈴。

すぐに思い直したのか、ひとつまばたきすると大きな瞳を伏せた。


「そうなんですか…獅子もお似合いになると思いますけど…」

「うん、夕鈴の言う獅子もいいと思うよ」

さきほどよりも甘い表情で微笑みかける。どうせなら、彼女の極上の笑顔を近くで見ていたい。


「狼って嫌われがちだけど僕は好きなんだ。獅子のような立派なたてがみがあるわけでも、逞しい肉体があるわけでもないけど…小さな知恵を一生懸命に使って獲物を狩る彼らのこと、僕は好きだよ」

「なるほど…確かに賢そうですよね」

夕鈴は僕の言葉に素直に頷いた。その瞳には、さこほどまでなかった好意の情が窺える。


つい今しがたまで目を輝かして獅子を熱く語っていたのに…

人の意見を素直に取り入れる性格も、君らしくて好きだな。


気分の良くなった僕はさらに語る。


「それに、孤高の象徴として神格化している地域もあるんだよ。山の神『大神』は狼から来てるとも言われているしね」

「孤高の象徴ですか…」

答える夕鈴の横顔が、少し寂しげに写るのは僕の気のせいだろうか。


「夕鈴?」

「いえ…」

夕鈴は肩と一緒に顔も落として、長椅子に深く体を預けた。

椅子が軋む音が静かな寝室に響くと、僕は急に大人しくなった夕鈴が心配になった。


「どうかしたの?夕鈴」

僕は夕鈴の瞳を覗き込む。彼女の瞳は月明かりを受けて、暗く光っていた。


「物語の中の狼は嫌われ者だけど、狼陛下は嫌いにならないで欲しいです」

夕鈴は言う。

今まで見たことがないほど透き通った綺麗な瞳で言われたから、僕の胸は熱くなった。


「嫌われ者で構わないよ。他国や臣下からなめられないためにも、王は嫌われるぐらいがちょうどいいから」

王なんて忌み嫌われる存在の方が良いと言う僕と、嫌わないで欲しいと望む君。
同じ世界に生きていながらも、考えの違いを見せつけられるたび、悲しくて切なくなる。


君と出逢ってから僕はいろんな感情を知りすぎて戸惑うことが多くなった。

いつか、君と同じ目線で同じように考え同じように笑い…ふたり、溶け合えていけたら。


それは今の僕の望み。



冷酷非情の狼陛下。

誰にも隙は見せられないし、誰にも見せてはいけない。

神として崇められるほどに遠く、嫌われ者として疎まれるほどに孤独な場所にいなければならない。

幼い頃から自らに課せられた枷は、一生消えることはないから。



「私は…嫌ったりしませんよ」

夕鈴は控えめにそっと呟いた。


「狼陛下、大好きですよ」

花が咲く。月明かりを受けて真っ白に輝く花が。


「……」


いつからだろうか…

彼女の言葉が、言霊となって私を柔らかく縛り、その縛りが心地良くて手放せないと感じ出したのは。

彼女が囁く何気ない言葉が、僕にとって特別になったのは。



「うん。ありがとう、夕鈴」

僕は微笑んだ。心から愛しい彼女へ。


照れたようにさっと視線を避ける夕鈴の髪に触れて目を閉じると、堅く囲われた枷がゆっくりと取り払われる。


夕鈴の前でだけは、王という枷もきっと消えてしまうんだね。







冷酷非情の狼陛下。

誰にも隙は見せられないし、誰にも見せてはいけない。


ただひとり、愛しい妃を除いては。











二次小説第14弾完です

今回は甘さ控えめ。
最初はほのぼのバカップルを目指したのですが…いつの間にか暗めに。

が、陛下の孤独に胸キュンしまくりのミケです

作中の狼の説明文は、中国の教材で用いられる「東郭先生と狼」からいただきました。




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