09月≪ 2017年10月 ≫11月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.08.24 (Tue)

偽りの恋人Ⅰ

「偽りの恋人」

陛下と夕鈴、どっちも目線です。
ほぼ陛下で長文です。
張老師初登場☆


ではどうぞ。










ここは白陽国王宮、政務室。

緊迫した雰囲気の中、今日も狼陛下の怒声が響く。




「はっきり申せ。お前は結局何が言いたいのだ?」

「は!申し上げます。私は…我が揚家の息女を陛下の正妃に迎えていただきたく進言しております」

狼陛下に対峙するのは、まだ若い役人ひとり。

朝のひんやりとした冷気がまだ温まらず、室内を取り囲っていた早朝のこと。


「我が妃はすでにいる」

「存じております。ですが…、正妃の座はいまだ空席になっておりますが」

言われなくても分かっている。

実にまわりくどく意見を述べる地方役人に、僕は侮蔑の目を向けた。


珍しく進言を求める地方役人に、昨今の地方の情勢が聞けるかと期待したが…時間の無駄だったようだ。

奏上したき議がある…とわざわざ僕に時間を取らせ、下らぬ雑言を吐こうとは…。


僕はわざとらしく溜め息をついた。


「では聞くが、お前は私の妃に何か不満があると申すのか?」

「いえ、不満などと…とんでもない」

役人は頭を垂れて平伏している。

おおかた、家長から奏上するよう命を受けたのだろう。国王の伴侶を決めるような重要な案件など本来家長が奏上するものだが、僕の態度が頑なだから手を変えて来たというところか。

残念ながら…たとえ年若い者であっても役人であることに変わりはない。

それに、この僕がいちいち対応を変えるわけがない。


「では…私の妃は今の私にふさわしくないとでも?」

「めっそうもありません」

役人はとんでもないとばかりに首をおおげさに振ると、これ以上狼陛下の火の粉を浴びぬように小さく身を縮めた。


「では何だ?はっきり申せ」

僕は口端に冷笑を浮かべた。


「恐れながら…お妃はひとりよりもふたり、ふたりよりも三人いた方が陛下の御為に非常に心強いかと思います」

「……」

「各地で起こっていた反乱を鎮圧し、内部粛正により地勢を安定させたとはいえ、陛下は即位したばかり…まだくすぶっている反乱因子は数定かではなく不安定な情勢にあります」

「それで?」

「ですから、お妃をたくさん持たれて後ろ盾を得ては…と。我が家の息女を妃にしていただけたなら、我が揚家、微力ながらも陛下の御為ご助力いたします」

後ろ盾を得たいのはお前の家の方だろう。

娘を嫁がせて、あわよくば裏から国王を操ろうという浅はかな考えが手に取るように見える。

目の前の役人の背後で見え隠れしている欲の面をかぶった魑魅魍魎の数々、出来ることならば僕の代で一掃したいものだが…


「お前の家の助けがなければ身を守れぬほど、私は軟弱ではない」

「も、もっともでございます。私はそのようなことを申し上げたいのではなく…」


あぁ…なんとくどいこと。


僕は役人から視線を反らし、天を仰いだ。
これ以上の進言…反吐が出る。


こうしている間も、僕の休憩時間は刻一刻と減っているのだ。


「陛下、我が家の息女は近隣でも指折りの才長けた美姫にございます」

楊家の娘が、眉目秀麗だろうがまったく興味はない。

僕が興味を感じているのは、ただひとり、夕鈴なのだから。


しつこい役人の語りは終わる兆しもなく、永遠と続く言葉に僕はうんざりと肩を落とす。

もう良いだろう。

これ以上の耳汚しは…許さない。













時をさかのぼって、ここは後宮の立ち入り禁止区域の一角。

夕鈴は掃除婦の衣装を身に纏い、朝から清掃活動に精魂を燃やしていた。

白陽国後宮は王とその妃が住まう居住区。
その面積はただっ広く、室は数え切れないほどにのぼる。

先代王の時世には、きらびやかな多くの妃たちが王の室を取り囲むようにして住んでいた。

時代が時代なら、その広い後宮の足の踏み場もないほど、王族を世話する侍女や女官が多数存在していた…と聞く。

いずれも昔の話だ。


現王には妃は夕鈴ひとりしか居ないため、広い後宮も使い切れず手持ち無沙汰になっていた。

もちろん使用人も少なく、その少ない人数で管理するには手が足りない状態が続き、使用していない大部分を立ち入り禁止区域として閉鎖しているのが現状だ。


夕鈴は水桶片手に広い回廊を歩く。

午前から始めた掃除も随分ときりがついて来た。

あとは最後の仕上げ、床を軽く拭き今日のバイトを終えよう…と考えながら扉を開けた途端、夕鈴の顔色が変わる。


扉を開けた先、目の前には張老師がいた。


「老師…」

「ここにおったのか、お妃よ」

出た、後宮管理人。
つくづく、神出鬼没なので困る。

老師はおきまりになりつつある、片手に饅頭スタイルで夕鈴の掃除し終わった部屋の真ん中で仁王立ちしていた。

見れば、拭いた机の上にはさっきまでなかったはずのお菓子の食べかすが落ちていた。

お~綺麗になったのう…なんて能天気に呟くその横顔、ぞうきんで拭いてやりたい。


「老師!お菓子の食べかすをこぼさないでください」

「なんじゃなんじゃ。逢ってそうそう目くじらを立ておって…恐いのう」

「……」

夕鈴は心の中、大きく溜め息を吐いた。

老体の小さな体で部屋の中をちょこまかと動きまわる老師の動きに、怒る気がそがれ、夕鈴は諦めたように水桶を置く。


「何か御用ですか?掃除はもう…終わりましたけど」

「なんじゃ。今日は早いのう」

「早朝から掃除しておりましたので…」

「どうりで、陛下の午前の政務には顔を出さんかったわけじゃの」

老師はひとりで納得すると、ご自慢の長い髭を撫でながら、ゆっくりとした動きで椅子に腰掛けた。


「今日は掃除婦のバイトに専念したかったので、あの…それが何か?」

夕鈴は思案顔の老師を覗き込む。

そんなに神妙な表情をされたら、午前の政務で何かあったのかと思ってしまう。今日の午前中だけだったにしろ、夕鈴が政務室通いをしなかったことに変わりはないのだから。


「特にこれといって何も無い。しいて言うなら、陛下がいつもより恐ろしかったぐらいかの。あれぞまさしく狼陛下じゃ」

「はぁ…」

他国や臣下から知られる白陽国国王の風貌。
『冷酷非情な国王、その眼光の鋭さ冷たさは他を寄せ付けない孤高の王。人々は恐れて彼を狼陛下と呼ぶ』

陛下の風貌も、その風貌から名づけられた愛称も、この王宮で聞き飽きるほどに有名である。
とりたてて言うことではないが…。


「陛下が恐ろしいのはいつものことでしょう?」

「今日は特段に恐かったのよ。それもこれもお前さんがそばに居なかったからかの」

「私がそばに居ようが居まいが、陛下は恐ろしい狼陛下ですよ」

夕鈴は笑って言い放った。

いつも政務室で感じる背筋も凍るピリピリとした雰囲気は、私が居ても居なくても変わらないはずだ。それが狼陛下たるゆえんなのだから。


「まったく…」

分かっとらんのう…老師は溜め息交じりに呟くと、おもむろに立ち上がった。

「分かっとらん!」

「え?」

何を言ってるのかしら、この老人は…。

夕鈴は、どうしてかは分からないが、怒りを込めて発言する老師の丸い顔をぼんやり見つめた。
途端に老師の顔の輪郭がぼやけ、夕鈴の瞳に饅頭が映る。
饅頭顔の老師が話している。

しゃべる饅頭に、夕鈴は面白くて笑った。


「何がおかしいんじゃ!小娘」

しまった…笑ってしまった。

ころころと丸い顔が、饅頭に見えたなんてとても言えない。


「失礼しました…」

「人の顔見て笑うなんて失礼よの…そういうところが、まだまだ妃らしくないんじゃ…」

ぶつぶつ…老師の文句がグサッと胸に刺さる。


この衣装のとき、しかもこの老師の前ではついつい気が抜けてしまう。
いついかなる場合でも気を引き締めてお妃バイトに励まなくては…夕鈴は決意新たに拳を握り締めた。


「以後、気をつけます」

「うむ、素直でよろしい」

老師は納得顔で、また椅子に腰掛けた。

しばらく突っ立ったまま老師とやりとりしていた夕鈴は、ようやく足を踏み出し椅子を引いて老師の前に座る。


「今日のご用事は?」

「特に無いの…」

要するに暇つぶしに来たのだろう。さりげなく目線を反らす老師の様子に、夕鈴はいち早く察する。


「ご用が無いのなら、部屋に下がりますが…」

「うむ。そろそろ陛下がご休憩に入られるようじゃしの、それが良かろう」

もうそんな時間なのね…夕鈴は窓の格子から外を覗く。
すっかり高くなった日差しが、暖かく外を照らしていた。


「さっさと妃姿に装いを改め、着飾って陛下をお迎えしなければの…」

意気揚々と話す姿に、夕鈴は嫌な予感がした。


「美しく装っておれば、いつかお手がつくかもしれんぞ…」

にやり…目じりに深くしわが刻まれる老師の顔を見て、夕鈴の嫌な予感は当たったと知る。


おしゃべり好きな老師は実に多種多様な話を好むが、この手の話題は特に大好きらしい。

話し出したら止まらないし、夕鈴がどんなに否定しても聞く耳をもたないのだから。


「ですから…そんなんじゃありませんって」

このセリフ、何回目になるのだろうか…夕鈴はふとそんな事を考えながら、遠い目で老師を眺めた。


「隠さんでも良いのにのう…」

「だから違いますって!」

「またまた」

ほぉっほぉっほ…声高らかに老師が笑う。


ダメだ。やっぱり分かってない。


ここは、大人しく引き下がるほうが賢明かもしれない。
この話題は今までの経験上、長引くことは目に見えている。

それに、早朝からの掃除疲れが尾をひいている。
夕鈴には反論するエネルギーは残されていなかった。


「もういいです…」

机に手をつき立ち上がろうとした夕鈴に、慌てたように声が掛かる。

「まてまて、お妃」

「何でしょう?」

「いつまでも頑固なお前さんに良い話をしてやろう…」

「良い話?」

きっとそんなに良くはないんだろうな…心の言葉を悟られぬように、夕鈴は再度椅子に座りなおした。

落ち着いた夕鈴に、老師はひとつ咳払いをして語り出す。


「午前でも政務のことじゃ。今日もしつこい役人が陛下に縁談話を持ってきおっての。もちろん陛下は突っぱねたのじゃが…」

「はぁ…」

突っぱねて当然。そのために私は雇われているのだから。
もしかしてこれが良い話?確かに悪い話ではないけど…やっぱり期待しなくて良かった。


「そんな顔をするでない。人の話は最後まで聞くもんじゃ」

どうやら私の表情を読んだらしい老師が言う。


「陛下はこう言った。私の妃はひとりで良い、愛らしい顔も初々しい性格も心底惚れ込んでおるとな…」

「!?」

また過剰な演技を…
夕鈴の知らないところで気恥ずかしい発言をしている陛下の様子を聞かされ、夕鈴の顔が赤面した。


「きっとしつこい臣下の方へのご返答でしょう…」

熱くなった頬に手をあて、夕鈴は答えた。


「良く分かるのう。今日の役人はかなりしつこかったようじゃ。お家の輿入れに必死だったようじゃの」

語る老師に、夕鈴はふと思う。

そういえば、老師はなぜふたりの会話を知っているのだろう。

後宮の管理人なる老師が、政務室に居るはずもないし、側近の李順に伝え聞いたとしても間が無さすぎる。
午前の刻からそうそう時間は経過していないはずである。


「ところで老師…どこで聞いたんですか?その話…」

夕鈴の問いかけに老師の顔が一瞬強張った。


「そ、そんなことはどうでも良いんじゃ」

焦り答えるその様子に、夕鈴は訝し気な視線を送る。なんだか…とても怪しい。


「それより、続きじゃ」

「……」

なにやらごまかされてしまった。
老師の怪しい態度に興味が沸くが、夕鈴は老師の言う『良い事』も気になっていた。

とにかく続きを聞こう。


「しつこい進言にもかかわらず聞く耳持たない陛下に、役人は息女の魅力をアピールしたんじゃ」

「すごいですね」

「とにかく一度逢えば気に入ると…それはもう強烈な推しだったの」

「その方よっぽど王族にお輿入れさせたかったんでしょうね」

「その通りじゃ。揚家は名主を輩する家とはいえ、まだまだ小家じゃ。ここで大きな後ろ盾を作りたかったんじゃろうなぁ…」

語る老師の言葉に夕鈴は寂しくなった。

権力欲しさにご息女を輿入れさせる役人が、とても悲しくて仕方ない。


もし自分が同じ立場であったのなら…家のためとはいえ好きでもない男の伴侶になるなど嫌だ。

たとえそれが、国の礎を築く国王の妃であっても同じこと。


老師はよく言う。妃になれば欲しいもの何でも手に入ると。誰もがうらやむ立場であると。

だが…努力せずに得るものに何の価値があるのだろう。


そうして手に入れたものすべて、どこか実感のない空虚な存在でしかないと思う。


夕鈴がそんな風に言うと、欲がないの…と老師は呟いた。


「お妃よ。わしは、もっと欲を持ったほうが良いと思うがの」

「私にだってそれなりの欲はありますよ。ただ…手に余る欲、強欲は体に毒です」

「ふむ。じゃが、これを聞いた後でも欲を出さずにおれるかの…?」

「はい?」

ほころぶ顔の老師を夕鈴はまじまじと見つめた。

ご自慢の長い髭をゆったり触る仕草は、大変ご機嫌麗しい合図。


「続きじゃ」

「……」

「しつこく食い下がる役人に、最後通達とばかりに陛下はこう言った」

言葉を止め、わざと間を空ける老師の顔を、夕鈴は大きな瞳をさらに大きくして覗き込んだ。





Ⅱへつづく。


00:14  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/23-7c0800cb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。