10月≪ 2017年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.08.21 (Sat)

愛のあいさつ

「愛のあいさつ」

タイトルは、とっても有名な某曲名からいただきました。
夕鈴目線で、かなり甘い感じでがんばりました。



ではどうぞ。













「おはようございます、お妃さま」

「おはよう」

起きたばかりでまだ意識のはっきりしない夕鈴は、まばたきを繰り返しながら寝台から起き上がった。


「今朝は良いお天気でございますよ…」

目覚めた夕鈴の肩に薄い羽織をかけながら侍女が呟く。


「本当に…良いお天気ね」

まだ完全には開け切れない両目で、夕鈴は侍女の指差す先を見つめる。

向けた視線の先、太陽いっぱいの光が窓枠から差し込んでいた。


日差しに目が慣れてくると、芳しい香りが鼻孔を満たす。
見ると、別の侍女が朝の目覚めの一杯であるお茶を淹れていた。
寝台の端の小机に湯のみを置くと、その香りがさらに近く感じられる。


「いい香りね…」

「飲まれたら、お召しかえなさいませ」

「えぇ…陛下は?」

お茶を飲みながら夕鈴はふと呟いた。昨夜陛下が眠っていた妃の寝室の長椅子を眺める。


「早くに政務へ向かわれました」

「そう…」


今は誰も座っていない長椅子をぼんやり見つめる。

いつものことだが、陛下は本当に朝が早い。


「いつも早いの?」

「明け方にはお出になられますわ」

「明け方…」

どうりで早いはずである。

その時間帯ならまだまだ自分は夢の中だろう…そんな風に考えながら夕鈴は、お茶を飲む手を止めた。


陛下が妃の部屋に来るときは、毎夜おしゃべりして過ごす。

昨夜も変わらずおしゃべりして、先に眠気に負けた夕鈴がおやすみを言ったのを覚えている。その前の夜も…先に眠ったのは夕鈴。起きたら陛下の姿はなかった。


「……」

よく考えるといつも夕鈴が陛下より先に眠っている。しかも朝は陛下より遅く起きている。それもかなり遅く。

朝早く政務に行かれる陛下をお見送りもせず、ぐーすか寝息を立てて眠っている自分を想像して…少し情けなくなった。

はっきり言って妻失格。もちろん本物の妻ではないけれど…

いやいやそんなこと言ってる場合じゃなくて、やっぱり陛下に失礼だ。

たとえバイトとはいえ、陛下の花嫁をやっている以上、お出迎え&お見送りは妃の勤めかと思う。





髪を梳くさらさらとした音が部屋に響く。

鏡台の前に腰掛ける夕鈴の顔があまりにも思案顔だったので、心配した侍女が声を掛けて来た。


「ご気分でも悪いのでしょうか?」

「え?いいえ…どうして?」

「顔が強張っていらっしゃいますわ。あまり…眠れなかったのでしょうか?」

「そんなことないわ」

ほほほ…お妃笑顔で夕鈴は述べる。

眠れなかったどころか、むしろ眠りすぎではないか…。
陛下に対して、朝の見送りの挨拶『いってらっしゃい』を言っていない事実に、夕鈴は深く溜め息をついた。


仕事に行かれる陛下をほったらかしにして、眠りこけている自らに頭を抱える夕鈴に、侍女がさらに心配の言葉を投げてきたが、夕鈴の耳には入らなかった。



明日からはちゃんとお見送りしよう。















迎えた次の朝、夕鈴は誰かの動く気配で目が覚める。
何の音だろう…ぼんやり考えながらまた目を閉じようとする夕鈴の脳裏に昨日の記憶が蘇る。

そうだ!


夕鈴はふとんを跳ね除け起き上がった。

薄暗い室内、動く気配の元はやっぱり陛下だった。


「夕鈴?」

どうしたの、こんな早く…寝台に近づく陛下の顔がはっきりと夕鈴の目に映り、今が明け方なのだと知る。


「ご政務ですか?」

「うん、そうだけど。眠れないの?夕鈴」

陛下は寝台の端に腰掛けると、ゆっくり夕鈴の額に手の平をあてた。


「まだ早いからひと眠りするといいよ」

起きたばかりの狼陛下の甘い表情は刺激が強すぎる。夕鈴は、いつもより早くなる鼓動に気づかれないように視線を反らした。


「眠れないなら子守唄を歌ってあげようか?」

「私は子供ではありませんよ」

夕鈴は意地悪く微笑む陛下の表情を軽く睨みつけた。


「怒るな夕鈴。君は笑う顔が一番愛らしい…」

そっと呟いて頬に触れようとする陛下の手を夕鈴は押し退けた。
油断も隙もないとはこのことだ。


「朝から演技はやめてください」

「はは」

薄暗闇の中、陛下の笑い声が小さく響いた。


「それに…私は眠れなくて起きたのではありませんよ、陛下」

「じゃあ、何で起きたの?」

「もちろん!ご政務に向かわれる陛下をお見送りするためですよ」

夕鈴は声高らかに答えた。


「そうなんだ…」

驚いて呟く陛下の顔は、なんだか嬉しそうに見えて夕鈴も嬉しくなった。
夕鈴は口端に笑みを浮かべて、陛下に笑いかける。


「私…仮にもお妃なのに、陛下をお見送りもせず眠ってしまって…本当に申し訳なく思っています」

「そんなこと気にしなくていいよ。もともと僕は夜あんまり眠らないたちなんだ。そのかわりよく昼寝してるけどね」

陛下は言う。

確かに…政務をさぼって昼寝をしている陛下を何度か見掛たことがある。さぼったと言っても、朝から晩まで続く長時間の仕事のほんの数分のことだ。

陛下の甚大な仕事量を傍らで見ていれば、もう少し休憩時間があっても良いのではないかと思うが。


「いえ、いつも忙しい陛下を、せめて朝見送らせてください」

「君がそう言ってくれて嬉しいけど…」

あんまり無理はしないでね?陛下は子犬の表情で私の顔を覗き込んだ。


「大丈夫ですよ!朝は得意ですから」

夕鈴は堅く拳を握り締める。

そうと決まったらさっさと寝台から起き上がって、陛下のお見送りよ。


夕鈴は立ち上がり、陛下とともに寝室を出た。そのまま広い居間を通り抜け、外へと続く扉に近づく。

狼陛下の花嫁になって初のお見送り。



「いってらっしゃい」

夕鈴は笑顔で言った。

「うん。行ってくるね」

「今日もがんばってください!」

「うん。ありがとう」

「……」

いつまでも立ち去ろうとはしない陛下に、夕鈴は首を傾げる。

他にお見送りの言葉あったかしら…?深く考え込む夕鈴に頭上から声が掛かる。


「夕鈴?知ってる」

「何をですか?」

尋ねた夕鈴の手首を陛下が掴んだ。急に捕らえられた兎はなすすべもなく、呆然と見つめているだけ。


「陛下?あの…」

「新婚の妻が夫を見送る方法」

う…なんだか嫌な予感。だんだんと濃くなる狼の気配に、夕鈴は思わず後ずさった。


「口付け」

「へ?」

「いってらっしゃいの合図」

当然とばかりに言い放つ陛下に、夕鈴は信じがたい視線を送った。

偽装夫婦である私たちがそれをするのか…


「む、無理ですよ…」

私たちは、本物の夫婦ではないのだ。

しかも…陛下と私以外誰も居ないこの場所では、演技の必要はまったくない。


「ほっぺでもいいよ」

「無理です!」

「仕方ないな…」

諦めて手を離してくれるかと期待したが、力強い腕を腰にまわされてしまった。

夕鈴はさきほどよりも近い陛下の顔に赤面する。薄暗闇の中でも鮮やかに写る赤に、狼の表情が緩んだ。


「!?」

ふいに視界が遮られたと思ったら、頬に何か触れた。生暖かい感触と、耳元で感じる息遣いに夕鈴の体が硬直する。


「じゃあいってくるね」

「な…」

夕鈴は頬を押さえる。口付けされた箇所が熱をもったように火照る。


「何するんですか!!!」

早朝に妃の怒声が響く。
ばさばさと飛び立つ鳥の羽音と、その鳴き声に、夕鈴ははっとして口を閉じた。

夕鈴の声に驚いた鳥が逃げ出したようだ。


今はまだ明け方。叫ぶなんてとんでもない。



悔しくて見つめた回廊の先に居る陛下は、腹を抱えて笑っていた。






「おかえりなさいの合図も忘れずにね」

陛下は口元に人差し指を当てながら呟くと、甘く微笑んだ。









二次小説第15弾完了です

10弾の失敗を生かし、今回はかなり甘めに仕上げたつもりですが…
いかがだったでしょうか?

これが今の職場なら確実にセクハラ扱いですね(笑)



02:42  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/24-4da33e8a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。