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2010.08.24 (Tue)

偽りの恋人Ⅱ

Ⅰのつづきです。





それでもしつこく食い下がる役人に、僕はゆっくり言葉を吐いた。


「もう一度言う。私の妃はひとりで良い」

「陛下の御為を思い、申し上げております」


「私の為を思うならば、娘を縁組させようなどと思うな」

「とにかく一度、お逢いくださいませ。きっと…」

お気に召すでしょう…作り笑いを浮かべる役人の顔を、僕は狼の表情で睨みつけた。

これ以上のしつこい発言は許さぬ。


「気に入るわけがない」

「な、なぜでしょうか?」


「他の妃など必要ないと思わせてしまうほどに、毎夜、妃には満足させられているからな」

僕の発言を受け、若い役人の顔に朱が差した。あからさまな意味あいの言葉、すぐに理解したようだ。


「そ…それは」

「あれほど相性の良い娘は他に居ない。どうやら私は妃なしでは生きていけぬ体のようだ…だから」

他の娘など…要らぬ。僕は冷たく呟いた。


ここまで言えば大人しく引き下がるだろう。


「……」

僕の望みは叶ったり、覇気を無くした役人を政務室から追い出すことに成功した。


青ざめて退散するその表情に、僕は皮肉な笑みを浮かべる。


どんな手で来ようとも、受けて立つ用意は出来ている。
自負するつもりはないが、くぐり抜けて来た修羅場の数は誰にも負けないだろうから。

そのおかげで僕は今、王という地位に居るのだ。


家長が出てきて、次に年若い地方役人、その次は一体誰を寄越すのか…

僕は少々楽しみになりながら、遠巻きに午前中の政務の終わりを告げる鐘の音を聞くのだった。












一日の政務が終わり、妃の部屋へと向かう僕の足取りはとても早いものだった。


今日は掃除に専念していたらしい夕鈴の顔を、朝から一度も見ていない。

午前と午後の間の休憩時間も、結局時間が合わず夕鈴には逢えなかった。

入れ違いに退出したと答える妃付の侍女の言葉を聞いた直後の僕の姿は、大層怒っているように見えたかのかもしれない。
鋭く細められる目や冷たく吐く短い言葉に、侍女は肩を震わせていた。


実際はとても気落ちしていたんだが…王である僕はおくびにも出さない。

おどおどと受け答えする侍女を哀れに思う余裕もないほど落ち込みつつ、政務室へと戻ったのだ。


少し悪いことをしたのかもしれない…今になってそう思いながら、妃の部屋の扉を開けた。


「おかえりなさい、陛下」

いつも通りの笑顔で出迎える夕鈴に、僕はほっと息をつく。

この笑顔を見ないと、一日が締めくくれない。


「お茶をお淹れしましょうか?それとももうお休みになります?」

「お茶淹れてもらおうかな」

もう少し彼女と話したい。
僕はいつもの定位置である椅子に腰掛けた。

すっかりと眠る前の姿に衣装を整えていた夕鈴が、お茶を淹れる姿をぼんやり眺める。


約一日ぶりに見るからだろうか、今日の夕鈴はいつもより愛らしく見えた。


「今日、休憩の合間にお見えになられたと聞きました」

夕鈴は僕の前に湯のみを置きながら言う。


「そうなんだ。入れ違いに君が出て行った後にね。残念だったよ…」

僕は子犬の顔でしゅんとした表情を作る。
途端夕鈴が破顔して、僕に近づいて来た。この顔は彼女にとってまだまだ効果的みたいだ。


「すみません。怒ってらしたって聞いて、何か急用だったんですか?」

「いや、用事はなかったんだけどね。君の侍女には悪いことをしたよ。午前中に嫌なことがあって気遣う余裕がなかったようだ」

僕は年若い地方役人とのやりとりを思い出して、表情を曇らせた。


「嫌なこと…」

夕鈴の表情も僕と同じように曇る。
大きくて透き通った綺麗な瞳に、心配の色を濃くして僕を見つめる夕鈴に、僕は慌てて取り繕った。


しまった。夕鈴を、間違っても侍女と同じようにしてはいけない。


「ちょっとしつこい役人が居て…でも、いつものようにしかったから大丈夫」

僕はへらへらと笑った。今は、夕鈴の笑顔だけ見ていたい。


期待を込めて見つめた夕鈴の顔は、真っ赤だった。

本当に真っ赤な顔で僕の視線を避ける仕草に、僕は呆然とする。


「夕鈴?」

一体何だ?

名前を呼ばれてはっとしたように、夕鈴は僕の方に顔を向けた。
着物の袂で半分以上顔を隠していたから、まったく表情が読めない。


「どうしたの?」

僕は立ち上がり彼女に近づく。そんな僕の姿に、夕鈴は困ったように身を縮めた。

半分どころか、顔のほとんどを両手の袂で隠し、夕鈴は、なんでもありません…と答えた。


なんでもなくはないだろう。

普通に話をしていただけなのに…なぜ急に頬を染めて顔を隠す必要があるんだ。


「夕鈴。顔を見せてよ」

近づく僕から逃げるように後ずさりする夕鈴を、ムキになって追いかけた。
そのまま壁際まで追い詰める。

後ろへの退路が閉ざされた夕鈴は今度は横へと逃げようとしたが、僕は手をついて彼女の進路を阻んだ。


「……」

逃げ場をなくした夕鈴は、観念して僕を見上げた。


夕鈴のこの態度は一体何だろう…?

恐がっているわけではない。もちろん脅えているわけでも。
僕の目には、夕鈴はただひたすらに恥ずかしがっているように映った。


まだまだ赤い顔を見つめながら僕はふと思う。

そういえば…役人の話をし出してすぐ、態度が豹変したんだ。


「夕鈴、何か聞いたの?」

僕の言葉にさも分かりやすく様子を変える夕鈴に、僕は確信した。


午前の政務中、王の御座を盗み見ていた愚か者。
愚か者は、官吏でも役人でも王宮兵でもなく、一介の古参の老師だったので放っておいたが…


なるほど、夕鈴って本当に分かりやすいなぁ。


「ぷ…」

僕は笑った。

目の前で笑う王様の姿を、夕鈴はまばたきを繰り返し見つめていた。


僕は一通り笑い終えると、夕鈴に向き直る。

訳が分からずに視線を送るその可愛い顔に、甘い笑顔を向けた。


「実は、今朝愚かにも縁談話を持ち込む役人がいてね…」

「!?」

「もちろん僕は一蹴したよ。でも本当にしつこかったから言ってやったんだ…」

夕鈴の頬に手をあてがい、僕は顔を近づける。すぐに、夕鈴が頭を壁にぶつける音が聞こえた。


結構大きな音だった。
激しく頭をぶつけたのは言うまでもない。


「大丈夫?」

僕はそっと夕鈴の頭に触れる。その行為に彼女の身が震えたが、その振動は僕には心地良く伝わった。


「だ…だだだ大丈夫です」

変な言葉を吐きつつ、僕の手を解こうと腕を伸ばす夕鈴。

僕は、伸ばされた腕ごと夕鈴を堅く抱きしめた。


「私には妃はひとりしか要らぬ。愛らしく初々しい君ひとりしか要らない」

そっと呟く。愛しい彼女に。


「毎夜君と過ごす日々に、私の心は満たされている」

衣越しに、激しい心音が伝わる。

波立つ鼓動は、夕鈴のものか、それとも僕のものか…


堅く堅く合わせた体の前では、どっちとも判断できぬ。


目を閉じると、甘い香りがした。

夕鈴の髪につけられた香油が甘く柔らかい香りを放っていた。


「愛しい妃よ…」

甘い髪に口付けると、夕鈴の体がビクッと震えた。

僕の過剰な発言が彼女の心を捕らえたことに…夕鈴に向ける賛辞が彼女の気持ちを高ぶらせたことに…とても大きな優越感を感じる。


「夕鈴」


ふいに腕にかかる重みに、僕は目を開けた。

慌てて支えた腕の中の夕鈴は眠っていた。否、気を失ったという方が正解かもしれない。


「あ……」

ちょっと刺激が強すぎたみたいだ。


夕鈴にとっては衝撃の発言だったかもしれない。
あの老師のことだから…多少おおげさに語っていることとは思うが。





僕は、気を失った夕鈴を寝台に運ぶ。

腕にかかる暖かい重みに名残惜しさを感じながら、ゆっくり横たえた。


このまま抱きかかえて朝まで眠りたいが…明日の朝の逆鱗を思うと無理かもしれない。

平静を取り戻した夕鈴が、朝から激怒する姿を想像して…僕はひとつ苦笑した。


どんな表情でも、彼女の表情であれば僕にとっては宝物。


くるくると変わる愛らしい顔をいつまでも見つめていたいから、僕はまた意地悪したり、おおげさに演技したりする。甘く優しく笑いかけたり、長い髪に口付けたり…そして最後は愛しい彼女の名前を呼ぶ。


僕の行為はすべて、君限定。

僕の行為を恥ずかしながらも受け入れてくれるのは、君だけでよい。




僕の妃は夕鈴、君ひとりで良いから。







第16弾完了です

15弾が好評だったので、甘めにがんばりました。

張老師はいいキャラしてますよね☆また登場させたいところです。

お気に入りのセリフはもちろん『私の妃はひとりで良い』です。愛されてます~夕鈴

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。



00:15  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(2)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●はじめまして

はじめまして
sizukaと申します
 私も可歌さん作『狼陛下の花嫁』大好きなんです♪
 夕鈴は可愛いし、陛下はかっこよすぎです
小説拝見させていただきましたが凄くお上手でした
 これから少しずつ遊びにきたいと思います(^∪^)v
応援してますので小説更新頑張って下さい
sizuka |  2010.08.26(木) 13:13 | URL | 【編集】

sizukaさま

はじめまして☆
コメントいただきありがとうございます。
ちょっと旅に出ておりまして…返信が遅くなり申し訳ありません。

応援メッセージありがとうございますe-420
お褒めいただき嬉しいです♪
夕鈴も陛下も大好きで始めた二次小説です。
これからも更新がんばりますので、ぜひ遊びにいらしてくださいe-328
 |  2010.08.30(月) 12:00 | URL | 【編集】

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