10月≪ 2017年11月 ≫12月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.08.30 (Mon)

鉛の涙Ⅱ

Ⅰのつづきです。








「あなた今なんて言いました?」

李順の顔が変形していく様子に地雷を踏んだことは容易に想像できたが、途中で話を止めるわけにもいかず、私は続けた。


「ですから、その…陛下が時々見せる冷たい表情ですが…」

「狼陛下でしょう?」

はぁ…っと大きく息を吐いて、明らかにめんどくさそうに答える側近の横顔。


「狼陛下の冷たさとはちょっと違うというか…、もっとこう暗くて思わず身震いするような…」

私はあの夜の瞳を思い出し、鳥肌を立てた。


「あなたまだ狼陛下に慣れないんですか?冷酷非情っぷりはもう慣れっこでしょう?」

「だから、狼陛下ではなくて…意思のないまるで鉛のような目で…」

「鉛?」

私の言葉に李順が一瞬手を止めた。

腕に抱えていた書巻がはらはらと音を立てて滑り落ちる。
そのすべてが床に散らばったとき、はっと気付いたかのように李順が顔を上げ振り返った。


「李順さん?」

「さあさあ、私は忙しいんです。くっちゃべってないで、妃仕事に戻ってください」

何事もなかったかのように書巻を拾い上げる。

李順はいつも通りの厳しい口調で私を追い出した。

聞く耳持たず…とはこのことか。予想はしていたが、冷たい態度にちょっと落ち込みつつ部屋を後にした。







しかし…やっぱりおかしい。

陛下といい李順さんといい。


私は熟考した。
陛下と李順さんの態度を。

明るい日差しのそそぐ四阿に辿りついた時、その思考は中断した。


はたして、偽物の妃が踏み込んでいいのか。
ましてや雇われの身である私が雇用主を心配するなんて、柳方淵の言葉を借りれば領分を侵しているのではないか。


いつもいつも、私はこの先には進めない。


陛下がときどき見せる悲しそうな顔を見ても、私にはどうすることも出来ない。

私のなぐさめの言葉など効果がないこと、どこかで分かっているから。

進むことを恐れるなんて…私らしくない、と思いながらも、先に進めないのは偽りだらけのこの関係のせいか。



『人間とは素直じゃないの…陛下もお前さんも』

老師に言われた言葉が今になって身に染みる。

反論も弁解も出来なかったのは、やっぱり私が本物の妃ではないから…。


陛下の心の奥底に漂う感情、その欠片さえ、今の私には知ることは出来ない。



「涙出そう…」

小さく呟いて両手で顔を覆った。

王宮からほど近い四阿では誰が見ているか分からない。
おせっかいな侍女たちに勘繰られるのも、口うるさい大臣たちに見られるのも嫌だ。


私は息を殺して泣いた。


視界を遮ると心が落ち着く。

周りの雑音が、まるで鳥のさえずりのようなメロディーとなって、私の耳から流れ込んで来た。



どれぐらいそうしていただろうか。

ずいぶんと時間は経過していたように感じる。

私は深く嘆息すると、顔を覆う両手を解いた。明るい日の光が目を刺し、まぶしくて閉じる。


まばたきを繰り返した先に、見慣れた風景。

ゆっくり辿ると、そこに、陛下がいた。


「!?」

突然のことに声を出すのを忘れ、私は立ち上がった。

視線がぶつかると陛下はにっこりと笑った。


「夕鈴」

「へ、へいか…すみません、気付かず」

私は慌てて頭を垂れた。


泣き顔を見られたかも…。でも笑ってたし大丈夫よね。


私は顔を上げると、満面の笑みで陛下に向き直った。


「いい天気だね、ずっとここにいたの?夕鈴」

「はい、そうです、陛下はご休憩ですか?」

私の質問ににこにこと微笑みを浮かべ、四阿の椅子に腰かける陛下。


どうやら私の心配は空回り。
この様子ならば大丈夫だろう…などと考えていた矢先、陛下が大きく溜め息をつく音が耳を覆った。


「王でいると、長くこの王宮で暮らしていると…感覚がマヒしてしまう」

「え?」

「誰かの痛みなど分からず、たとえそれが大切な人の痛みであっても、この生活に慣れた僕には気付かない」

「あの…陛下?」


私は困惑した。

陛下は何をおっしゃりたいのだろう…。いつもと違う様子の陛下に、ふと昨夜の記憶がよみがえる。


深く傷つき疲れ果てた心を映し出したかのような、冷たく暗い瞳。

誰の助力も得ずに、ひとりぼっりで立ちすくむ孤独な王様。


陛下はずっとずっと、ひとりで戦って来たのかもしれない。


「でも君が現れてからは違う、僕は夕鈴、君に出会えて本当の痛みを知った」

「陛下…」

「君が傷ついて流した涙は、僕の涙でもある。君は大切な僕の花嫁だから…だから、そんな風にひとりで泣かないで」

「……」


泣かないで…その言葉は私の心を掴み、沸き立つように深く浸食する。


私は泣いた。
今度は声を押し殺すことなく。顔を覆うことなく。


涙を溜めた瞳に暖かいぬくもりが触れる。

陛下の瞳に映る私の顔は、ちゃんと笑っていた。演技ではなく本心から。


風が流れる。

四阿を吹き抜ける風は、陛下の手のぬくもりと同じくらい暖かかった。



どれだけ見つめあっていただろうか。


「昨日のことだけど…」

泣きじゃくる顔で見つめた陛下の顔は、いつも見る子犬陛下の表情だった。

「即位したばかりの頃、僕はよく深く考えていた。ひとりで居るときに限らず、政務中も、食事中も、眠る前のほんの短い時間でさえ、現実と向き合うのが嫌で、現実から目を反らした場所でよく考え事してた」


「……」

「鉛の目、君の瞳にはそう映ったみたいだね」

「陛下…」

「李順から聞いたよ」

にこっと笑顔を浮かべて、陛下は私に微笑んだ。

冷たく暗い陰を映し出していたのが嘘のように、柔らかい視線に私の堅くなった心がほぐされていく。

安堵の溜め息とともに、また涙が流れた。


「泣かないで、夕鈴。君が泣くと、僕はどうしていいか分からない」

涙をそっとぬぐうと、陛下は触れるだけの口づけを落とした。


「君と出逢ってから、僕は現実から目を反らすことは少なくなった。君自身すべてが、現実の意味を教えてくれていたから」


「だから僕は…」

君と出逢えて良かった…陛下の目元が緩む。


目頭に触れる暖かい感触がくすぐったくて、私は小さく笑う。



「うん、やっぱり笑った顔がいいね」


冷たく意志のない鉛の目はそこにはなく、照れたように微笑む柔らかい目。


思わず飛びつきたくなる笑顔を浮かべる陛下に、私もとびきりの笑顔で答えた。



陛下が見せる寂しそうな笑顔、陛下が抱える心の陰り、きっと私が思うよりずっと深く彼の心を捕らえて離さない心の闇。

ちっぽけな私の力じゃ、どうやっても消し去ることなんて出来ない。


それでも取り去りたいと願う。



だってあなたの笑顔を、私も見ていたいから。










二次小説第17弾完了です

久しぶりのアップは、暗い~文章にしたかったのでかなり暗めになりました。
甘いのが続くとお腹を壊してしまいますので(笑)

タイトルにも出てくる「鉛」(なまり)ですが、ミケ自身金属の中で一番暗い色と思ってます。
なので使わせていただきました。

張老師&李順が別々に登場しましたが、いつかふたりの絡みを書いてみたいと思います






15:30  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/27-ba902aac
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。