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2010.09.16 (Thu)

寵花の舞Ⅰ

「寵花の舞」

夕鈴目線。
せつない長文です。すごく悩んで書き上げました。

ではどうぞ。















「お妃さま、陛下がお呼びです…王宮にお出ましください」

「王宮?」

夕鈴は突然現れた陛下付きの女官を見つめた。

今日は一日中軍部と政務室との間をひっきりなしに行き来しているから、後宮に待機するように…と陛下から言われていたはず。

夕鈴は朝食の席での記憶を辿る。


「ご政務中では?」

「はい、来客がありお呼びするようにと…」

陛下の言葉を言付けに来た…そう話す女官の整った顔をじっくりと見つめる。名家出身の陛下付きの女官は優美な動きで腰を折った。そのなめらかな仕草をぼんやりと眺めていた夕鈴に声がかかる。


「お妃さま…お出ましを」

「あっはい、分かりました」

思わず見とれてしまう仕草から名残惜しそうに視線を外す。

王宮へ呼び立てなんて…なんと珍しいこと。

夕鈴は喉まで出かかった言葉を飲み込むと、女官の案内で王宮へと向かった。




「夕鈴、来たか…」

王宮で出迎えた陛下はいつもと変わらぬ様子で狼陛下を演じていた。

夕鈴は軽く拝礼して室内に足を踏み入れようとしてふと、陛下以外の見慣れぬ誰かの存在に気付く。

玉座のそばにひとりの男がかしずいていた。

陛下と夕鈴に礼をとって頭を下げる姿に、なんとなく視線を送りながら夕鈴は陛下に近付いた。


「お呼びでしょうか?」

尋ねた陛下の横で顔を上げた人物と目が合う。


褐色の肌に映える赤い唇。
以前にどこかで見た風貌だ。


「夕鈴、隣国の使者の方だ。お前に逢いたかったそうだ」

隣国の使者?

疑問を込めて見つめた陛下は頷いた。

陛下は夕鈴に手招きするとそのまま肩を抱いた。


「使者よ、妃の夕鈴だ…見知りおかれたい」

「お初にお目にかかります」

「!?」

驚いた。
この王宮にそぐわぬ野太い声を出す使者を夕鈴は驚いて見つめる。


「お逢い出来て恐悦至極に存じ奉ります」

使者と紹介された人物は再度礼をとると、腰を上げて夕鈴の正面に向き直った。

立つとまるで巨人のようだ。大柄な体格に野太い大きな声。白陽国ではまず見ることがない巨大な男を夕鈴は食い入るように見つめた。


そんな夕鈴の視線に気付いたのか…使者が笑う。

笑い声も体格に負けぬくらい豪快であった。


「私の姿に驚かれでしょうか?」

「…いえ、失礼いたしました」

夕鈴は慌てて会釈すると挨拶した。

失礼のないように、お妃さまらしくおしとやかに。


「初めまして、お使者の方。妃の夕鈴と申します」

上品に笑顔を浮かべて呟く。

丁寧に挨拶する夕鈴に使者は微笑んだ。


「噂に名高いお妃さまにお逢い出来て…光栄です」

噂!?一体なんの噂!?
夕鈴は耳慣れしない言葉に訝し気な視線を送る。


「あの…噂とは…?」

おそるおそる尋ねる。

他国に飛び火する妃の噂とは…一体何なのだろうか?


「かの狼陛下がそばに置いて離さぬという寵妃。なるほど…愛らしいお顔をしていらっしゃる」

赤い唇から白い歯が覗く。使者の言葉に夕鈴の顔からぼっと火が出た。

なんという噂…。隣国の使者が語る事実に開いた口が塞がらない。


なんとなく隣で爆笑しているような気がしてならない陛下の顔を盗み見ると、予想に反して渋い顔をしていた。

そういえば室内を静かに纏うこのピリピリとした冷気は気のせいではないかもしれない。


狼陛下と呼ばれたことに腹を立てているのかしら?
でも今更だし。


「なるほど、陛下の好みはお妃さまのような娘ですか。愛らしくまだ少女のように初々しい方ですね」

赤面もののセリフを吐く使者に夕鈴はいたたまれず目を伏せた。

賞賛の言葉に気が動転してボロを出さぬよう、夕鈴は作り笑いを賢明に固める。

ここは何も語らぬほうが良いかもしれない。


押し黙ったまま笑顔を浮かべる夕鈴に、使者は苦笑の溜め息を漏らした。


「!?」

なにがおかしいのか…

夕鈴は疑問の瞳で、相変わらず渋い顔で佇む陛下を見上げる。視線が合うと、陛下はどこか困ったような表情を浮かべた。


困っているのは私の方なのに…


隣国の使者が私に逢いたいと言った意図が読めない。


「いくら我が国の姫を推してもお気に召さないはず、麗姫さまはお美しい方なれど愛くるしさは持ち合わせておりませんからな…」

苦笑する使者の横顔に鋭く冷たく細められる目。
見慣れているようでなかなか見慣れない狼陛下の無慈悲な目だ。


なるほど。
陛下の機嫌の悪い理由はこれか…。

使者の来訪の理由と、自分に逢いたいと言った理由も同時に分かった。


持ち寄った縁談話を頑なに拒否し続ける元凶を、直に見ておきたかったという所か…。


夕鈴はなんとなく理解した頭で固めた笑顔を解いた。
見定めは終わったのでもう作り笑いは必要ないだろう。


手にしていた広い扇で半分以上顔を隠して、使者の表情を確認すると、先ほどとは打って変わって緊張気味であった。

使者は、ずっと視線を寄越していた妃から目を離し、狼陛下に真っ直ぐ対峙していた。


先ほど夕鈴が感じた冷気、どうやら使者にも伝わったようだ。


「その話は丁重にお断りしたはずだが…」

使者よ?
狼の牙が男にかかる。

口端に微笑を浮かべる姿は冷淡で、胃の腑がよじれるほどに冷たく伝わった。

夕鈴は身震いした。


私に怒っているわけではないのに…

緊張や恐怖は伝染するらしい。
狼陛下だからこんなに怖いのだけれど。


「はい、残念でなりません…」

使者は臆することなく答える。
仮にも妃の前でなんと失礼なことか。それに…狼陛下への物言いとは思えない。


夕鈴はムッとしたが、使者の発言に狼の気配がますます濃くなったようでそれどころではなくなってしまった。


どうしよう…陛下は間違いなく怒っている。

夕鈴の肩に置かれた手は優しく伝わったが、放つ気配がピリピリと痛い。


「婚姻により、我が国との同盟をより強固にしたいと参りましたのに…」

使者はひとつ咳払いすると陛下を見つめた。

使者の意志のある瞳の奥に、淡い炎の揺らめきが見えたような気がして、夕鈴は身を縮めた。


この瞳は…なぜかぞっとする。


「使者よ…婚姻によらずとも同盟は成り立っているはず、それに…」

陛下は眉根を寄せると夕鈴に視線を送った。


「妃の前だ、もう少し配慮せよ」

陛下は夕鈴に微笑みかける。

先ほどの冷酷顔とは一転、妃限定の甘い表情で微笑む陛下に使者は驚きの顔を浮かべた。


「これは失礼を…」

使者は頭を下げる。

「分かれば良い」

陛下は相変わらずの甘い表情で夕鈴を見つめてくるので、頬が熱くなってきた。

演技だと分かっているけど、狼陛下の甘い表情はまだまだ慣れていないので困る。

扇を握り締める手に力を込めて、陛下からの視線を受け取る夕鈴はとにかく必死だった。

陛下の視線と使者の視線を同時に受けて、心音が不自然に奏でる。


こういうのって、やっぱり苦手だ。


しばらくの間を空けて、陛下は使者に向き直った。


「遠路はるばるご苦労であった。今宵はゆっくりと休まれよ」

「ありがたき幸せ」

頭を垂れて使者が拝礼する。その様子はいかにも手慣れているように感じた。
隣国の使者の中で、彼は重役なのかもしれない。

狼の気配に脅えてはいたが、動じることなく縁談話を持ち出した勇気から見ても、かなりのやり手なのかも…などと考えていた矢先、夕鈴と使者の目が合う。


「お妃さま、どうぞご無礼をお許しくださいませ」

「わ、私は…気にしておりませんわ」

夕鈴はにっこり微笑む。


「なんとお優しいこと」

使者はそう呟くと、袂から何かを取り出し、胸の前に掲げた。


「?」

「せめてものお詫びです、どうぞお受け取りください」

使者が掲げたお詫びの品、それは美しい金細工の髪飾りであった。


「……」

見事な装飾品すぎて、夕鈴はしばらく声を出せなかった。


「お気に召しませんか?」

「え!いえ…」

言葉が出ないほどにその髪飾りに見入っていたとは言えない。


「夕鈴、お前への贈り物だ、ありがたく受け取るように」

陛下は夕鈴の手をとりながら囁いた。


「はい」

陛下もそう言うし…ここは遠慮なく受け取ることにする。


夕鈴は使者から品を受け取るとお礼の言葉を述べた。
腕にかかる重みに、金細工の高価さを窺い知る。


「愛らしいお妃さまによくお似合いでしょう…」

赤い唇を伸ばしにっと微笑みかける使者に、夕鈴はなぜか胸の奥がざわりと波立ったように感じた。



Ⅱへつづく。









09:10  |  夕鈴片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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