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2010.09.05 (Sun)

花の姿

「花の姿」
タイトルにはいつも悩まされます。
夕鈴目線で少し長いですが分けていません。


ではどうぞ。













「絵師よ、妃の肌はもう少し白いと思うが…」

「は、確かに。お妃さまがあまりにも透き通った白い肌をしていらっしゃるゆえ、なかなか色が出せませぬ…」

白い画布に対面する絵師が答えた。
突然投げられた声に、語尾が震えるように響く。

その画布に描かれつつある絵姿を一瞥しつつ、また陛下が呟いた。


「そうか。あと目はもう少し大きいと思うが…」

陛下の視線の先にはあいまいに返事をする夕鈴の姿があった。

陛下の言葉を受けて慌てて絵筆を走らせる絵師の様子に、夕鈴は心の中溜め息をついた。

さっきからこの赤面もののやりとりが長く続いている。


ふたりの男に顔をじっと見つめられ身動き出来ない状況に、夕鈴はいたたまれず顔を伏せた。




『お妃さまの肖像画を描きます』

目覚めてすぐ、突如言われた侍女の言葉。
意味が分からず見上げた侍女の顔は、なぜか誇らしげで夕鈴は言葉を失う。
そのまま寝ぼけまなこをこする暇もなく、あれやこれやと着飾られ今に至る。




「夕鈴、顔を上げぬと書けない」

「……」

「お前が偽りの姿ばかり書くから妃は顔を伏せてしまった。そこ、妃の唇はもう少し愛らしいぞ」

「は!」

申し訳ありませぬ…答える絵師の指先から絵筆が落ちる。石の床の上、音を奏でて絵筆が転がった。


「し、失礼をいたしました」

絵師は震える指先で絵筆を拾い上げると、おそるおそる狼陛下の顔を見上げた。
鋭く冷たく射抜く視線に絵師の体がだんだんと強張る。そのまま見上げた状態で絵師は固まってしまった。


「どうした?床に落ちた筆などで妃の顔を描くつもりか?」

「と、とんでもありません…すぐに、すぐに取り替えて参ります」

絵師の言葉に陛下は片手だけ上げて答えた。狼に睨まれた絵師は、絵筆を堅く握り締め一直線に部屋を出ていく。

あとに残ったのは、出て行く絵師の背中を冷ややかに見送る陛下の姿であった。


「まったく…もう少しマシな絵師はいなかったのかな」

「十分素晴らしい絵師ですよ。陛下が睨むからでしょう」

やっと身動きが出来るようになった夕鈴は大きく深呼吸した。
ずっと静止した状態の体を動かし、夕鈴は伸びのポーズを取る。

そんな夕鈴の様子を見て愉快そうに笑う陛下に、夕鈴は戒めの視線を送る。


「絵師をいじめるのはやめてください」

「いじめてなどいないよ。絵師よりもむしろ君をいじめたいな」

口元に笑みを浮かべて呟く陛下は、いつの間にか夕鈴の前に立ち手を伸ばしていた。


「君の愛らしさはどうやら絵では表現できぬようだね」

甘いセリフに夕鈴の顔から火が出る。いじめる対象を変えた狼陛下の様子に思わずたじろいだ。


「か、からかわないでください」

「本当のことを言ってるのに…」

拗ねたように答える陛下の目は、さきほどまでの鋭い眼光などみじんもない。改めて人前での演技の完璧さにただただ感心するばかり…

いや、感心している場合ではない。
今は迫り来る狼から、どう逃げおおせるかが勝負だ。

夕鈴は臨戦態勢で椅子から立ち上がり陛下に対峙した。

まるで戦わんとばかりに、堅く拳を握り閉めて立ちふさがる夕鈴に、陛下は苦笑した。


「夕鈴、なんて顔してるの?面白い…」

鼻息の荒い夕鈴の顔を見て、陛下は大笑いした。


「わ、笑わないでください!」

妃の絶叫を聞きつけたように絵師が戻って来た。


ふたりが言い争いをしていると勘違いしたのか…心配そうなおどおど顔の絵師に夕鈴は焦る。

これ以上可哀相な目に遭わせては、この絵師は辞めてしまうかもしれない。

肖像画にこだわりはないが、自らの絵が完成せぬままはさすがに嫌だった。
途中まで書いたのだから、やっぱり書き上げてほしい。

慌てて優しい言葉を掛けようとする夕鈴を、逞しい腕が邪魔した。

夕鈴を抱きすくめる形で伸ばされた腕が邪魔して、可哀相な絵師に声を掛ける機会は見事に奪われてしまった。


「絵師よ。妃は疲れている。続きは明日だ」

狼の目配せで絵師は無言で礼をとった。その表情を覗い知ることは出来なかったが、きっと青ざめていただろう。

なんて可哀想な絵師…
心の中、そっと呟いた慰めの言葉は、陛下を纏う空気に溶け込んで綺麗に消えていった。
















時を変えて、ここは狼陛下の側近、李順の自室。

夕鈴は緊張の面持ちで上司の部屋の椅子に腰掛けていた。

今日は、週に何度か恒例になりつつある、お妃教育日であった。

講師は、まだ年若いながらも、かの狼陛下の優秀な側近であり、この広い王宮内で唯一夕鈴の身分を知る者のひとり。生徒はもちろん、最近お妃演技が板についてきたがまだまだひよっこ、夕鈴であった。


「妃たるもの…ある程度教養を身につけなければなりません。他国の姫は皆一様に、幼き時から学を知る才色兼備な者たちばかりなのですから」

「はあ…」

「気の抜けた返事はしない!」

「はい!」

夕鈴は慌てて答える。注意深く上司の眼鏡の奥を覗き込みながら、書巻を開いた。


「本日は夕鈴殿の住まう後宮について学びましょう」

「はい、先生」

「後宮とは、ご存知のとおり王とその妃が住まう居住。その他多くの女官や宦官が従事し…」

長々と続く李順の説明に、いつの間にか夕鈴のまぶたがゆっくり閉じられていく。


そういえば…昨夜は遅くまで陛下とおしゃべりしていた。

お妃教育日の前日に夜更かしするなんて…私もやるわね。
夢見心地の夕鈴の頭に、李順の神経質な声がこだまする。


「お妃の数は時代により違いがあれど、周公の時代には、実に121人もの妻妾が…」

121人!?

ふいに頭の中に飛び込んで来た気になる単語に、夕鈴は目を開けた。


「121人って、王様のお妃の数ですか?」

「えぇ…ですから、1人の正妃の他に3夫人、9嬪、27世婦、81女御で計121人の妃がいたとされています」

淡々と語る李順に、夕鈴は絶句する。

121人のお妃さまって何なのよ!?


「我が国は古来一夫多妻制であり、力のある者身分の高い者ほど抱える妃の数も多く、時代が時代なら美姫3千人を要する後宮もありました」

「陛下もですか?」

「はい?」

「陛下もその…」

121人もの妃を娶るのか?とは恥ずかしくて聞けない。

今は妃を迎えることより、安定した地盤を固めることが優先。何度も言い聞かせられている事実だが、昔の王の話に夕鈴の動揺が隠せない。


「いずれは多数のお妃を伴侶としていただかなければなりませんね」

「そうなんですか」

呟く言葉に胸が痛む。

陛下ひとりに妃121人…毎日部屋に通うだけでも大変ですね、なんて笑いながら言う傍ら、複雑な思いが夕鈴の心を支配する。


「夕鈴殿?気分でも悪いのですか?」

言われてはっとした。内心の思いが顔に表れてしまっていたようだ。

夕鈴は慌てて取り繕うと、首をおおげさに振った。


「大丈夫です」

「本当ですか?最近…陛下からお妃演技をがんばっていると聞いております。良い心がけですが、無理は禁物ですよ」

「はい、それはもう」

良く分かっています、夕鈴は控えめに頭を垂れた。


「では続きですが…」

今度は後宮の役職について語り始めた李順に、夕鈴は遮るように声を掛けた。

まだまだ、妃について聞きたいことが満載だ。


「どうしました?」

「その…国王のお妃さまって、どうやって選ばれるものなんですか?」

121人も。夕鈴は尋ねる。


「例えば大臣の娘とか、有力豪族の娘とか、正妃と夫人についてはそれなりに身分の高い家からの縁談を受けることが多いですね」

「縁談…」

この王宮へバイトとしてやって来て半年以上。ことあるごとに聞いていた縁談話。もし陛下の地位が盤石になったら、この縁談話を退ける必要はなくなるということか。


「他にも絵図などで選ぶ場合がありますね」

「絵図ですか…」

書きかけの肖像画を思い出す。もし夕鈴が由緒ある家の娘ならば、釣書と一緒に陛下に渡されていたのかもしれない。まぁ、私には関係ないけど。

思いがけない発想に夕鈴の顔に笑みが浮かぶ。


「絵図は他にもいろいろと役に立つのですよ。周公はお妃121人の絵図を見て、夜召し出していたと聞いていますし」

「召す?」

「端的に言うと夜のお相手です」

「!?」

李順の言葉に夕鈴の頬に朱が指す。

熱くなった頬を押さえながら見つめた側近は顔色ひとつ変えていなかった。

どんなに頭の良い王様でも121人の妻の顔と名前を覚えているはずもなく、それなら絵図から今宵の相手を選ぼうというのは道理にかなっている。

かなっているが、やっぱり嫌!


女性にうつつを抜かして時世を乱すふとどき者は、王になる権利もないというのに…ぶつぶつと独り言をつぶやく李順の言葉など、夕鈴の耳には入らない。

夕鈴の脳裏に浮かぶのは、ただただ描きかけの自らの肖像画。

あれが完成したら…なんて考えたくもない。


「そういえば…夕鈴殿も絵師を呼ばれたとか。まあ陛下の手配かと思いますが」

渋い顔で呟く李順。上司の言葉は夕鈴の頭を右から左へと流れていく。

そうですね…上辺だけの返事で繰り返す夕鈴の顔色はだんだんと青ざめていく。


「今日は疲れているようですね、ここまでにしましょう」


珍しく掛けられた李順の気遣いの言葉さえも頭に入らない状況の中、夕鈴のお妃教育の時間は終了した。
















気づくと、夕鈴の目の前に見慣れない机と椅子があった。

周囲をゆっくりと見渡しここはどこか確認する。


「陛下の部屋?」

格子窓から陛下の部屋に面する中庭が見えた。

どうやら陛下の寝室にいるようだ。以前ここに来た記憶が蘇る。あの時はここまで来た記憶があったのだが、今は覚えがない。

思えば、李順の部屋を退出した以降の記憶がない。

どうやら現実の世界に頭を繋ぎ止める余裕もないほどに、動揺していたということか…。

上司との会話を思い出し、夕鈴は深く溜め息をついた。


格子窓から見える風景が本物ならば、今は夕刻。
薄暗くなった外には灯火の光が揺らめいていた。

どのくらいの時間ここにいるかは知らないが、そろそろ自室へ戻らなくては。


夕鈴はおそるおそる足を踏み出し、この部屋の主である陛下の姿を探した。

長椅子に身を横たえて眠る陛下をすぐに見つける。


昼寝にしては日が落ちすぎている…
夕鈴は不思議に思いながら陛下の顔を覗き込んだ矢先、胸に抱えている大判の色紙に目を移す。


「?」

大事そうに抱える様子に夕鈴の好奇心に火がついた。

そっと遠慮がちに手を伸ばす。

その手が目標に到達する前に、ふいに手首を掴まれた。


「!?」

「夕鈴?」

一瞬感じた凍るような視線はすぐに和らいだ。


「なんだ、君か…」

陛下は長椅子に手をついて起き上がると、夕鈴の顔をじっくり覗き込んだ。


「何ですか?」

「寝起きに君の顔はいいね」

「はい?」

「しかも本物の顔は数倍いい」

「意味が分かりません」

また人をからかい面白がるのか…夕鈴は怪訝な表情で答えた。


「絵図よりも本物の方が良いということだよ」

言いながら陛下は胸元の色紙を裏返す。

私!?

見ると夕鈴が描かれていた。いつの間にか完成していた肖像画に夕鈴は驚いた。

まさか、出来上がっていたとは知らなかった。

今朝はまだ半分も書き上げられていなかったというのに、よほど無理強いさせられたのか…絵師の顔を思い浮かべながら、夕鈴はまた大きく溜め息をついた。


「あれ?気にいらない?」

「それ、どうするんですか?」

尋ねながら夕鈴は、顔が火照るのを感じた。平静を装うつもりが、思い出したくない李順との会話が浮かび赤面する。

「赤い顔をして…一体どうしたの」

夕鈴…?頬に触れる陛下の冷たい手に、夕鈴の体がビクッと震える。


「ななな、何も動揺なんて…」

受け答えはかなり動揺している。夕鈴は恥ずかしくなって顔をそむけた。

そんな夕鈴の様子に陛下が微笑む。


「夕鈴?」

「私の肖像画をどうするんですか?」

「どうするって…もちろん肌身離さず持ってるよ」

そのために描かせたんだから…陛下はにこにこと笑った。


「なんで!?」

夕鈴は驚く。

ただの臨時花嫁の肖像画を懐にしのばす陛下を想像して、夕鈴は苦い顔をした。


「なんでって…それを僕に言わせるの?」

突然髪に触れられ、夕鈴の心臓がひとつ跳ねた。

見つめる視線の熱さに耐え切れず、夕鈴は思わず目を反らす。


「妃よ、君がそうやって僕から視線を反らすから。だから僕は君の肖像画を持ち歩くんだ。君をいつも見つめていられるように…」

「わ、私のせいですか!?」

「そうだよ」

にっこり笑う陛下の顔は、まるで子どものようにあどけないようでいて、恋人のようにどこまでも甘い。狼とも子犬ともどっちつかずの表情に、夕鈴の心臓は激しく波打つ。

どうか悟られないように…そう願う夕鈴の思いはどこまで叶っているのだろうか。


「夕鈴も僕の肖像画を持ち歩くと良いよ」

「わ、私は…」

けっこうです、とは間違っても言えない。

この嬉しそうに微笑む表情を曇らすなんてこと、私には出来やしないから。


「ん?」

「いえ、そうします」

「そっか」

これで離れていても一緒だね、陛下の言葉にまた顔が熱くなった。


いつもいつもいつも、この人の甘い表情と言葉に振り回されっぱなし。

それでも許してしまうのは、もしかしたら惚れた弱みかもしれない。



夕鈴がそれを知るのはもっと先のこと。









二次小説第18弾完了です

昔の王様は、絵カタログで夜伽の相手を選んでいたという話からいただきました。
王に気に入られたい女性は、絵師にワイロを渡してより美しく描いてもらっていたと言われています。

夕鈴の肖像画を持ち歩く陛下に胸キュンです。

お付き合いありがとうございました。





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