09月≪ 2017年10月 ≫11月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.07.25 (Sun)

狼と眠り姫Ⅱ

Ⅰのつづきです。







「陛下、今夜はお妃の元へ行かれませんように」

「なんで?」

僕は優秀な側近の顔を眺めた。午後からの政務を慌てて片付け、後宮へ行く準備をしていた矢先だった。

「眠っているので行く必要はありませんでしょう?今夜は性急の案件があるかもしれないので、自室におとどまりください」

「え~やだよ、夕鈴のところに行きたい」

「陛下、お妃は眠っていますよ。それに今夜は侍医がつきっきりで看病されるとか。いつ目覚められるか分りませんからね」

「じゃあなおさら行かないと。侍医の代わりに僕がつきっきりで看病するよ」

「……」

李順の訝し気な顔が目に映る。

夕鈴のことに関して言い出したら聞かない性格を知ってか、李順はそれ以上何も言うことはなかった。

結局、僕は李順の制止を振り切って夕鈴の部屋で休むことにした。

断固としてそばに付いて離れないと言っていた侍医を無理やり下がらせた。
夕鈴が目覚めて初めて見る人物は僕であってほしいから。




妃の寝台に体を滑りこませ、眠る夕鈴を抱きしめて目を閉じた。

長く柔らかい髪や、暗闇の中でも白く浮かび上がる白磁の肌に触れると、乾いた心が満たされる。

無遠慮に触れることができるのは、夕鈴が眠っているときだけだ。
普段の君なら、するりと簡単に抜け出してしまうから。

そばにある柔らかなぬくもりに耐え切れずに、僕は何度も手を伸ばした。
頬に口づけを落とすと、甘美な刺激が脳髄を満たす。その刺激が全身を包む手前で…僕ははたと手を止めた。



目を閉じたままの夕鈴。
当たり前のように深い眠りの世界に身を置いたまま。

途端に不安になった。
このまま、この華奢な腕が持ち上がることなく、規則正しく上下する胸が活動をやめてしまったら…

僕を見つめる愛らしい瞳はなく、
僕の名を呼ぶ鳥のような声音はもう聞けない。



いいしれぬ不安が体中をめぐって僕は飛び起きた。

夕鈴の顔を真っ直ぐ見下ろして、激しく打つ鼓動を整えようと深呼吸した。

額に沸く冷や汗とも油汗とも判別つかぬ水滴を手のひらでそっとぬぐう。

夕鈴のことになるとどうしてこんなに弱いのか。夕鈴の前では、狼の鎧も簡単に剥がされてしまう。



「……」

何度目かの深呼吸の後、僕は頭を抱えた。

こんな姿、臣下にでも見られたら、李順が卒倒するかもしれない。

王である僕は誰からも恐れられる存在でなければならないから。




幼い頃からずっと、王族である事実が僕を縛り付けていた。

敵のいない場所などないこと、本能的に感じ取っていたから、だから僕は強い王になろうと決めたんだ。

若く即位した僕に味方は少ない。
その危うい足元をすくおうと、纏わりつくようにそばに侍る。

僕の周りを取り囲む人間は、私利私欲の面をかぶった化け物ばかりだと思っていた…夕鈴に出会うまでは。




心の不安を落ち着けたくて、夕鈴の長い髪を撫でた。

さらさらと指の間を通り抜ける絹のような感触。愛らしい唇。長くて細いまつげ。白く折れそうな手首。無骨な僕とはまったく違う体つきの彼女。

日を追うごとに…
時を重ねるごとに…

好きで仕方なくなる。



「夕鈴…」


もう一度頬に口付けようとしたとき、夕鈴のまつげの先がわずかに動いた。

「!夕鈴!」

「……へ…いか?」

ゆっくりと開かれた夕鈴の瞳が僕をとらえた。
僕は慌てて室内の明かりをつけた。

「大丈夫か?」

「私…」

起き上がろうとする夕鈴の腰を支え、青ざめた表情を探った。

「平気?」

「体が…ちょっと重いです、私…どうして?」

この状況に理解していない夕鈴の目が不思議そうに僕を見上げていた。


「眠り薬を飲んだらしいんだ、災難だったね」

「眠り薬?もしかして…あの飲み物?」

夕鈴はまさか…と僕の瞳を見つめ返す。僕は無言のまま頷いた。

「そんな…私、てっきり…」

夕鈴の頬が急に赤く染まる。


なんだ?なぜ頬を赤く染める?


「夕鈴?」

「いえ…私以前に侍医からもらった薬と同じものだと思って…」

「以前?」

そういえば…以前、料理中に軽いやけどをした夕鈴が、侍医の処方を受けたことがあった。


それが一体何か?


小さく呟いたまま何かを考え込んでいた夕鈴だったが、僕の訝し気な視線に気づき話し出した。

「その…以前やけどの薬をもらった後に侍医から甘い飲み物をいただきまして。寝台のそばに置いてあった小瓶の中身を、その、…甘い飲み物だと思ってしまいました」


説明した夕鈴はますます赤く頬を染めて、恥ずかしそうにうつむいた。

夕鈴が言う飲み物とは、子供用にしばしば出される甘い液体。侍医が妃に渡した事実にも驚いたが、それ以上に夕鈴が勘違いしたことが面白くて仕方ない。



「……ぷ」


僕は笑った。

「わ、笑わないでください」

「だって…はは」

僕は腹を抱えて笑った。面白すぎて体が震える。その様子に夕鈴の顔は泣き顔に変わっていた。


「そんな…そこまで笑わなくたって…」

「ごめ…とまらない……面白すぎるよ、夕鈴」

「陛下!」

恥ずかしいのか怒っているのか、おそらく両方だろう。頬を染めた夕鈴が抗議するかのように僕の名前を呼ぶ。



面白くて、かわいくて、愛らしい、僕の妃。

瞳にためた涙をそっとぬぐうと、僕のかわいい妃を抱きしめた。



一瞬のことに驚く夕鈴の頬に口付けた時には、僕の不安は跡形も無かった。





余談

後日、妃の食卓には必ず甘い飲み物が置かれていた。





「狼陛下の花嫁」二次小説第1弾完了です

陛下の完全な片思いが書いてて切なかった。
ですが、ミケは断然片思い派です。

ちなみに夕鈴が勘違いしたのは、子供用の甘いジュースのようなもの。
お妃様なのに子供扱いですね(笑)






いろいろあって「小説」だけ引っ越して来ました。
これからはこちらでアップしますのでよろしくお願いします。




22:37  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/3-93dc0dcb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。