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2010.09.10 (Fri)

秘密の花園Ⅰ

「秘密の花園」

20話目です。
夕鈴目線で、可愛い感じに仕上げました。

ではどうぞ。














ここは白陽国後宮。

国王の名は珀黎翔。即位後瞬く間に国内で起こっていた反乱を制圧し、宮中の実権を掌握した若き王。あまたの業績を持つ彼を、人々は恐れて冷酷非情の狼陛下と呼ぶ。

そんな彼には妃はひとりしか居ない。彼が優しい笑顔を浮かべるのはただひとり。

狼陛下唯一の妃夕鈴は、寵妃として知られていた。





「お妃さま」

侍女に呼ばれ夕鈴は振り返った。

「陛下がまた縁談を退けられたようですわ」

嬉しそうに駆け寄る侍女に、夕鈴は曖昧に笑顔を浮かべた。
さっき手折った後宮の庭に美しく咲いていた百合の花を、抱えていた花かごに入れる。

優美に…おしとやかに。

その所作にぎこちなさはあったが、夕鈴は誰の目から見ても立派なお妃さまを演じていた。


「陛下の愛はお妃さまだけのものなのですね…」

ほう…と頬を赤らめて息を吐く侍女。まるで長作の恋愛小説を読み終わったかのような表情をしている。

他人事なのに自分のことのように素直に喜ぶ侍女に、夕鈴の心がちくりと痛む。

侍女が今見ているものすべて、感じていることすべて、演技だと知れば彼女は傷つくだろうか。
自分が仕えている妃は実はバイトで、信じている寵愛も偽りだと分かったら…もし私が侍女の立場ならショックを受けるに違いない。

夕鈴は心の中、深いため息を漏らした。




「お妃さま?お顔色が悪いですわ。どうかなさったのですか?」

侍女の声に夕鈴ははっとする。
自分が持っていた百合の花は、侍女が手にしていた。意識が飛んでいる間に、落としていたのだろう。

目の前に捧げられた百合の花を花かごに入れると、かぐわしい香りが夕鈴の気分を少し和らげてくれた。



「いえ…大丈夫よ」

最近慣れてきた妃の上品な笑顔で答えた。途端に侍女の憂い顔が緩む様子に、夕鈴は安堵する。


誰にも演技だとバレてはいけない。

このバイトは本当に気が抜けないわ。












「夕鈴、気分が悪いそうだが大丈夫か?」

妃の部屋を訪れた陛下の第一声だった。
瞳に心配の色を濃くして、頬に指先で触れる陛下の仕草に夕鈴の心臓が大きく跳ねた。


「大丈夫ですよ、陛下」

陛下は、妃付の侍女に夕鈴の一日の様子を聞くことが日課になっていた。
今日も何か変わったことはなかったか報告を求めたのだろう。

昼間のことが、夕鈴が思う以上に侍女に心配をかけさせてしまったのかもしれない。

少し離れたところで控えめに立つ侍女に視線を送ると、陛下と同じように心配の目でこちらを見ていた。


「本当に?」

「本当ですよ」

夕鈴は笑顔で答えた。なかなか私を離さない陛下に耐え切れなくなって、陛下の腕をそっと解く。
これ以上長く見つめられると私の心臓がもたない。

それに侍女たちの無数の目にさらされて仲良し夫婦を演じるのは、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。


まぁ…陛下は慣れていらっしゃるでしょうけど。

夕鈴は陛下のいつもと変わらぬ表情に複雑な視線を送った。


「夕鈴?」

「お茶をお淹れいたします」

夕鈴はそう呟くと、侍女が用意してくれたお茶を淹れる準備を始めた。


「何かあれば呼ぶ、下がれ」

陛下の一言で、波が引くように侍女たちが下がっていった。
夕鈴は退く侍女たちの後姿を見つめ、ほっと息を吐く。


どうやら今日のバイトも無事に終われたみたいね。




室内に茶葉の香りが満ちる。
夕鈴は淹れたてのお茶を陛下に出すと、自らも同じように椅子に腰掛けた。


「おいしい…」

子犬の顔に変わった陛下が呟く様子に、夕鈴は穏やかに微笑んだ。


この時間が一番安心できる。


愛想笑いも、妃仕草もいらないこの時間が。






「りん……夕鈴」

「え?」

しまった、またぼーっとしていた。


陛下と視線がぶつかって焦る。


「すみません、何でしたっけ?」

「……」

何か言いたげな陛下の視線が私を捕らえた。

そんなに見つめられると…また心臓が跳ねるからやめてほしい。


「やっぱり気分が悪いのではないか?」

陛下は音もなく立ち上がると、夕鈴の横に立つ。
あまりにも自然な動きで、しかも一瞬のことだったので夕鈴は目で追うことも出来なかった。気配さえ感じられなかったその動きに、夕鈴は驚き見上げる。


「大丈夫ですよ、ちょっとぼーっとしてて…すみません」

陛下に笑って欲しくて浮かべた笑顔も、陛下への気遣いだと捉えられてしまったようだ。

眉根を寄せて私をじっと見つめる陛下に、夕鈴は心底焦る。


「君の大丈夫は信用ならない」

「今回は本当に大丈夫ですよ」

どうぞお座りください…夕鈴は微笑みながら、湯飲みに手をかけた。
ほどよく暖かい陶器の感触が手に心地よい。

陛下は机に手を置き、身をかがめると私の顔を正面から覗いた。

探るような鋭い視線に鼓動が早くなる。

狼陛下の眼光の鋭さ、とても耐えられない。


「な、なんですか?」

「君を観察してる、君は隠し事が得意だから…」


隠し事はあなたの方が得意でしょうが!叫びたい気持ちを抑え、夕鈴は今度は急須に手を伸ばす。
内面の動揺を悟られるよう集中して、自分と陛下の湯飲みにお茶を淹れた。


「お茶を淹れ直しましたよ」

「……」

陛下は無言のまま、私の顔と手の動きを交互に見比べている。

しばらくして思い立ったように自分の席に戻った。

すべてを射貫くような鋭い視線から逃れ、夕鈴は浅く息を吐いた。今度こそ、やすらぎの時間を得ることが出来そうだ…そう思う夕鈴の耳に突如届く不協和音。


がらがらがら…

妃の部屋に不似合いな音が響いて、夕鈴は急須から目を離した。


え?何なの、この音。


がらがらがら…陛下が自分の椅子を引き摺っている。そして、夕鈴の椅子にぴったりとくっつけて止めた。


「あの…陛下?」

陛下はよし!と短く呟くとおもむろに腰掛けた。

近すぎる椅子同士の密着に、もちろん体が触れている。陛下が座る振動が体に伝わり、夕鈴はドキッとした。


「な…何」

「こちらの方がより観察出来るね」

陛下は満足そうに笑顔を浮かべると、頬杖をついて私を見つめた。
さきほどよりも近い顔に、また心臓が飛び跳ねた。激しく波打つ心音が聞こえてしまいそうだ。


「か…観察する必要などありません!」

「じゃあ教えてよ」

「一体何をですか?」

「隠し事」

陛下がじりじりと迫る。

夕鈴は可能な限り体を反らして退いた。もうちょっとで椅子から落ちてしまいそうだ。


「だから隠し事などしていませんよ」

「どうかな?」

陛下はクスっと笑った。笑い事じゃないでしょう。迫る狼に兎はたじろぐ。


「夕鈴はね…嘘つくと片耳が動くんだよ」

陛下は手を伸ばすと私の耳たぶに触れてきた。指先の冷たい温度に背筋がぞくぞく震える。


「耳…弱いんだ?」

にやり…陛下が口角を上げて笑う。


「!?弱くなどありません!」

夕鈴は立ち上がると、陛下の顔を見つめる。意地悪そうな瞳が真っ直ぐ私を捕らえていて、少し悔しくなった。


「からかうのはやめてくださいよ」

夕鈴は怒ったように言う。その顔は熟れた林檎のように真っ赤に染まっていた。


「ごめん、ごめん…」

陛下は柔らかく笑うと、私の袂を引っ張った。


「謝るから許して」

上目遣いの子犬陛下に、夕鈴の心はいとも簡単に折れてしまった。
つくづく…この表情に弱いのよね。

許しませんからね…そんな目線を送りつつ、夕鈴は元通り椅子に腰掛ける。

また夕鈴と陛下の体が触れたのだが、既に早まった鼓動の前では感覚が麻痺してしまったようだ。最初よりも気にならない。


些細なこと、気にしてちゃダメよね。
それに、私が動揺すればするほどこの人は面白がるし…


嬉しそうに自らのテリトリーに誘い込む狼の顔をちらっと覗いて、夕鈴は溜め息をついた。




Ⅱへつづく。


01:08  |  陛下片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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