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2010.09.24 (Fri)

寄り道

「寄り道」

夕鈴目線です。
可愛らしくコンパクトを目指しました。

ではどうぞ。








ここは白陽国後宮。

その昔、美姫3千人が住んでいたといわれる絢爛豪華な広い居住区。

数え切れないほどの室に、歩ききれないほどの回廊。

一ヶ月も過ごしていればその広い場所もそれなりに分かってくるものなのだが、いつの時も迷う者は必ずいるという。

夕鈴もそのひとり。




夕鈴は、途方に暮れていた。
目の前に広がる見慣れない景色と、果てしなく続くと思われる回廊に囲まれて。


あぁ…どうしよう。


「迷ったわ…」

いつもどおり妃の部屋を出て、いつもどおりの順番で回廊を曲がり、いつもどおり歩いて来たはずなのに…。

夕鈴は大きく深呼吸した。

荒い息遣いに肩が上下していた。呼吸が乱れているのは、道を誤ったと気づいてからひどく動揺して、右往左往小走りに駆け回っていたせいだ。


迷ってからおよそ半時ほど。

道を聞こうにも、広い後宮内、ひとっこひとり見当たらない。


それというもの逼迫する財政難の白陽国では、人件費削減のために大幅な人減らしをしたばかり。

中国王朝の象徴とも言われる後宮を彩る妃の数はたったひとりしかいないし、その妃を世話する臣下の数も他国に比べれば少ない方であろう。

建物と敷地ばかり大きいこの後宮では人に遭う方が難しいと言える。


夕鈴は大きく溜め息を吐いた。


途中、侍女や女官にばったり出遭って恥ずかしい思いをするよりはまだましか…


「もしかして…立ち入り禁止区域かしら…」

夕鈴は頭に浮かんだ嫌な言葉を口に出す。途端に頭が痛くなってきた。


もしここが本当に立ち入り禁止区域なら、侍女や女官に遭うはずもなく、つまりは道を聞けずにこのまま迷ったまま。
妃がいないことに気づいた誰かが探しにくるまで待つしかない。


後宮で迷う妃など、張老師に言わせれば笑いの種だ。

まさか侍女や女官が笑うはずはないと思うが、その内心は分からないもの。


夕鈴はまた溜め息を吐いた。さきほどよりも大きく深く。

まるで誰かに届いて欲しいとでも願わんばかりに。


「……」

とにかくじっとしているのは性に合わない。

途方に暮れるのも自分らしくない。ここは来た道を元を辿って戻るしかないだろう。

そう堅く決心して足を踏み出そうとした矢先、回廊のふちに足をひっかける。


「!?」

しまった!ここは立ち入り禁止区域。

管理されていないということは、人の手が入っていない荒れ放題の場所なのだ。当然、美しく磨かれているはずの回廊も欄干も汚れて、時には錆付き、整備されていない床は突起物が飛び出していてもおかしくない。

案の定、夕鈴はその突起物に足をひっかけてしまったのだ。


衝撃から身を守ろうと手をつく夕鈴。堅く目を閉じて予想される痛みに耐えようとした夕鈴は、宙に浮く感覚に目を大きく見開いた。


え?何?

おそるおそる目を開けると、本当に宙に浮いていた。


「なんて危なっかしい…」

耳元で聞きなれた低い声に、夕鈴は自分が置かれている状況に気づく。


「ちょっと目を離してみれば…君は一体何をしているんだ?」

細められる目で呟く言葉に夕鈴は生唾を飲み込んだ。

これは…もしかしなくても、かなりおかんむりだ。


「陛下…」

夕鈴を抱き上げる陛下の強張った表情が視界に入り、身を縮めた。


なぜ、ここに陛下がいるのだろう。


「ここは立ち入り禁止区域内でも最奥。君が掃除しているのはもっと手前のはずだろう」

違うのか?狼陛下が尋ねる。


「すみません。は、恥ずかしながら…迷ってしまいまして」

答えてさらに恥ずかしくなった。顔の熱さを感じる。


「迷い兎か」

陛下は嘆息すると、夕鈴がつまずきかけた回廊を一瞥した。

夕鈴も陛下の視線を追うように、周囲を見渡した。


改めて眺めてみると、ひどいありさまだ。

さっきは気づかなかったが、掃除されていない回廊は埃がたまり、美しく彫られた壁にはくもの巣がはっている。


「ここまでは管理も行き届いていないとみえる。こんなところに妃がひとり来るのは関心しない」

「すみません。あの、自室に帰ろうとしたんですが…」

迷ってしまって…言いたくない単語は口の中で濁した。


「後宮は…君にとってよほど退屈のようだ」

「……」

皮肉を言われてムッとしたが、反論するのは筋違い。

またしても危機を救ってくれた陛下に頭が上がらない。夕鈴は大人しく肩を落とした。


「すみません。部屋に帰ります」

陛下が現れたことで、夕鈴の迷い旅は終止符を打たれた。これでやっと部屋に帰れるのだ。

地面に降ろして欲しくて、陛下の腕を解こうとする夕鈴。だが思った以上に陛下の腕は堅く閉じられていた。


「あの…降ろしてください」

「こんな場所、君に歩かせるわけにはいかない」

「そんな…大丈夫ですよ」

こんな場所は慣れている。
下町生まれの下町育ちの娘には、むしろこんな場所の方が合っているかもしれない。


夕鈴はおかしくてクスッと笑った。

ときどきこの人はおおげさなのだ。自分をどこかの姫君のように扱うので困ってしまう。


「気をつけて歩くので大丈夫ですよ」

「さっき、つまずきかけただろう?」

「それは…余所見していたので仕方ないというか。不慮の事故です。でも、もう大丈夫ですよ」


「君の大丈夫は信用ならない」

聞いたことのあるセリフに、夕鈴の返答が止まる。


まだ、自分の“大丈夫”は信用ならないらしい…。


今度こそ大丈夫…夕鈴が言い終わらないうちに、宙で体が動いた。


「ちょっ」

「このまま部屋まで帰ろう」

「それは…恥ずかしいですよ。やめてください」

「君がなんと言おうと抱きかかえて帰る。…と思ったが……」

陛下の歩みが止まる。

疑問に思った夕鈴が陛下の瞳を覗き込むと、遠いどこかを眺めていた。


「陛下?」

「ちょっと寄り道だ」

陛下は体を翻すと、部屋履きが汚れるのも構わず、真横にある中庭に降り立った。


「寄り道ってどこへ…」

左右をずんずんと通り過ぎる木立に、夕鈴は不安になった。


一体どこに行くというのか。

もしかしたら新手の意地悪かもしれない。さっきから狼口調の陛下はどこか怒っているようだし。

などと細々考えていた矢先、前方の景色がひらけた。


一瞬まぶしくて閉じた視界の先、夕鈴たちの目の前に一本の大きな木が立っていた。

その大きな木を取り囲むようにして生い茂った草木。柔らかな芝生。
一目見ただけでも気に入ってしまうような魅力的な空間に、夕鈴の目が奪われる。


「どこか見知った場所だと思っていたが…」

隣で陛下が苦笑する声が耳に入った。


「知っている場所ですか?」

尋ねた夕鈴に笑顔を向ける陛下。


「私のお気に入りの場所だ」



















「あの…ご政務は本当によろしいのですか?」

夕鈴の記憶が正しければ、日がすっかり高くなった今はもう午後の政務が始まっている時間だ。


「休憩中だよ」

すっかりご機嫌を取り戻した陛下は、子犬の口調で答える。

その顔は夕鈴の膝の上にあった。

陛下お気に入りのこの場所に連れてこられてから、休憩を取ると言い出した陛下にあらやこれやと言いくるめられこの状況に至る。


「君の膝の上は居心地が良すぎるね」

「そ、それは…良かったですね」

夕鈴の顔が赤く染まる。この恥ずかしい状況が結構長く続いていた。

こんなに近くに陛下の顔があると緊張してしまう。それでなくても膝枕なんて…初めてだから余計緊張しているのに。

答える夕鈴の顔を眺めていた陛下の顔が、嬉しそうに笑った。端整な顔立ちが柔らかく微笑む。


「君はこの場所に迷い込んでくれたのは、ある意味ラッキーだったかもしれないね」

「……」

「しばらく来ていなかったけれど、やっぱりいい」

陛下は顔を横に向けると、周囲の景色に目を細めた。

大きな木が作る日の陰が、柔らかく二人を包んでいた。時折吹く穏やかな風が、陛下の漆黒の前髪を揺らす。


陛下が言うように、この場所は夕鈴にとっても心地よかった。

迷ってちょっと得をしたかも。いやいや…陛下が迎えに来てくれなかったら、こんな風にはいかなかったか。


それにしても。


「陛下は…どうして私が立ち入り禁止区域にいるって分かったんですか?」

心の隅で感じていた疑問、ふいに思い出し夕鈴は尋ねた。


「なんでだろう…叫び声が聞こえたのかな?」

「私、叫んでなんていませんよ」

ちょっと声は張り上げたけれど。


「君の困っている声が聞こえたんだよ」

愛の力だね…満面の笑みを浮かべて陛下が答えた。

そんな純粋無垢な笑顔を見せられると、否定することも出来ないからやめて欲しい。


陛下の話が本当なら、狼の耳は地獄耳。これからは不平不満を含め、一切の悪口は言えそうにない。まぁ…不平も不満もないのだけれど。

過度な夫婦演技に文句を言いたいときは多々あるが…。


それにしても、この広い後宮の中でよく自分の居場所が分かったものだ。

恐るべき野生の勘に夕鈴は感嘆の息を漏らした。

さすが狼陛下。



「夕鈴…何考えてるの?」

「え?」

じと…子犬陛下が下から見つめる。その視線には数々の意味が込められているようで、夕鈴は身構えた。


「な、何も…」

「どうかな?君のことだから…僕のことを地獄耳とかなんとか思ってたんでしょ」

なんて鋭い…夕鈴の心臓がどきりと跳ねた。

この人の前では皮肉言葉を心に浮かべることでさえ、いけないらしい。


「そんなことないですよ」

語尾が不自然に上がっていたが気にしない。どうせ何もかも見抜かれているのだったら、取り繕っても無駄だろう。夕鈴は開き直って陛下を見据えた。


「だって…こんな広い後宮でどうして私の居る場所が分かったんですか?偶然見つけたにしても驚きでしょう?」

「だからそれは…」

愛の力だって…陛下の手が夕鈴の頬に優しく触れた。


「か、からかわないでくださいよ」

「……夕鈴ってホント素直じゃないよね」

陛下が小さく呟いた。


「な!どういう意味ですか?」

返答いかんによっては、膝から頭を落としてやろう。

いつも、からかわれているだけではないのだ。血気にはやる夕鈴は拳を握り締める。




「……夕鈴、怒ってるの?」

微妙な雰囲気をいち早く察知した陛下。すぐさま子犬の表情で夕鈴を見上げて来た。

この表情に弱いことを知っていて出してくるのだから…本当にたちが悪いわ。


「別に…怒ってませんよ」

夕鈴は拳を解いた。子犬陛下には真っ黒星、連敗中である。


「ホント?良かったぁ…」

ころころと笑う陛下。相変わらず頬に添えられた手の平が、優しく夕鈴の肌をなぞっていた。


膝枕に加えて、これって完全にセクハラよね?いい加減私も本気で怒ってもいいかも。
まだ私の質問にも答えてないし…国王陛下たるもの、国民の疑問に答えるのは義務よ、義務。あぁ…でも私は雇われの臨時花嫁。
いやいや、バイトでも税金を収める立派な国民のひとり…


ドキドキの収まらない夕鈴の脳裏に、どうでもいい思考ばかりが浮かぶ。



「やっぱり君と過ごす休憩が一番だね。夕鈴、僕のお気に入りの場所、君も気に入ってくれると嬉しいな」

ね、夕鈴。と、甘い表情を浮かべる陛下。


「……」


やっぱり子犬にはかなわない。

だから、せめて狼には勝てるようにしないと……。あぁ、でもそれは…絶対に無理な話ね。

あの狼陛下にかなう人間なんて、自国はおろか隣国でも見つからないだろう。



ふふふ…子犬につられて兎も笑う。



木立がざわざわと風を受けて音を奏でた。





陛下のお気に入りのこの場所で、ふたり笑った。









二次小説第22弾完了です

前回がせつない終わり方だったので、若干明るめです。
子犬陛下も狼陛下も結局はかなわないです。負けっぱなしですね、夕鈴(笑)
そんなあなたが大好きです




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