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2010.09.29 (Wed)

愛の媚薬Ⅰ

「愛の媚薬」

タイトルは「狼陛下の花嫁」雑誌最新号から軽くいただいちゃいました。
なんせ苦手なんで、タイトル考えるの。
夕鈴目線で少し長めです。

ではどうぞ。















ごほん。


ここは狼陛下の政務室。

陛下と数人の官吏たちが佇む部屋に、夕鈴の咳が小さく響いた。


「陛下、次の案件を…」

李順が掲げる稟議書を一瞥した陛下は、目前の官吏に合図を送った。

目配せを受けた官吏は奏上を読み上げる。粛然とした政務室に、緊張の声が響く。


夕鈴は耳に流れるその声を聞きながら、ゆっくりと政務室の一角から目を反らした。
視線が辿り着いた先は格子がはまった中庭へと続く窓。


午前中の政務もそろそろ終わりに近づいている。緊迫した雰囲気から解放されるのも間近。


休憩時間に、気晴らしに中庭でも散歩しようかしら…

夕鈴を手招きするかのような魅力的な日差し。こんな日は、意識もそぞろになる。


夕鈴が目線を戻すと、狼陛下とその側近、そして対峙するようにして立つ官吏の姿。

陛下は手にした稟議書をはらはらとめくっていた。

その長い指先をじっと見つめていると、ふいにその動きが止まる。


「?」

疑問のまま見上げた先、陛下と夕鈴の目が合う。

夕鈴の目に映る陛下の顔は、にっこりと笑っていた。あの妃限定の甘い表情で。

途端に顔が熱くなり、心臓が音色を奏でた。いつもより激しくなる鼓動に夕鈴は動揺する。


雑念にとらわれるな、夕鈴!


夕鈴は心の中で何度も唱えると、陛下に笑い返した。


今は政務中、あれは妃を寵愛する王様を演じる狼陛下。

演技中、演技中。

勘違いしちゃいけない。


ごほん。

軽く咳払いして、夕鈴は手にした扇で顔を隠した。
まだまだ狼陛下の甘い表情に慣れない私には、この大きな扇はかなり役に立っている。


しばらく手放せそうにないわね。


軽く深呼吸をし、鼓動を落ち着けかけた夕鈴の頭上から、突然声が掛かる。
低く響く声音に夕鈴は驚いて見上げた。

見ると、いつの間にか陛下が立っていた。目の前にある整った顔に、また心臓が跳ね上がった。


まったく気づかなかった。もしかして、気配を消して近づいて来たんじゃないでしょうね。


「夕鈴、どうした。ぼうっとして」

「いえ!」

慌てて返事する夕鈴の手を陛下が掴んだ。大きな扇が音もなく床へと落ちていく。


「……!?」

「そのように顔をほとんど隠されては困る。君の可愛らしい顔が見れないではないか」

などと甘いセリフで迫る陛下。
再三の要望にもかかわらず、どうしたって過度な演技をやめるつもりのない陛下に、夕鈴は呆れ顔を浮かべる。


「そのような…」

ごにょごにょと口ごもる夕鈴。

このような時、なんと答えて良いのか分からないので困る。


陛下の後ろで、訝しそうに視線を送る李順の姿が目に入り、夕鈴はますます焦った。

ここはひとつ、優美な妃仕草で陛下をあしらって、早く政務に戻ってもらわないと。


でも、優美な仕草なんて…何一つ思い浮かばない。


思い出せ、思い出せ、妃修行。


赤く染まった顔で、口をぱくぱくと声にならない声で返答する夕鈴に、陛下が苦笑した。


「しばし待て、すぐに終わらせる」

陛下はさも名残惜しそうに、ゆっくりと夕鈴の手を解いた。


「は、はい」

結局何も言えないのだ。


まぁ、政務に戻ってくれたから結果オーライか。

去り際にちらっと覗いた後方で、李順が苦虫を噛みつぶしたような顔で夕鈴を睨んでいたが、曖昧に微笑を浮かべるしかなかった。


もっとはっきり言えとでも言いたげな側近の表情を見つめながら、夕鈴は思う。


だったらあなたが言えばいいでしょう。それが側近の勤めのひとつでもあるのだから。

立場的に言えば、臨時花嫁より側近の方が明らかに強いのだ。

それを知るのは、限られた人間のみだが。


次第に収まりつつある鼓動に耳を傾けながら、夕鈴は溜め息を漏らした。

















「陛下、何度も申し上げますが、おおげさな演技はやめてください」

四阿に妃の怒声が小さく響く。


「普通に声を掛ければいいでしょうが…それに」


ぶつぶつぶつぶつ。

溜まりに溜まった文句は一言では終わらない。


この類のセリフもいい加減言い飽きたが、言われた本人がいっこうに直すつもりがない為に続けるより他ない。


陛下は嬉しそうに笑うと、ごめんね…と舌をぺろりと出した。


「全然謝ってな…」

ごほん。

言いかけた夕鈴の言葉が止まる。


ごほ、ごほん。


まったく反省していない陛下への苛立ちのせいか、それとも昼食前の空腹のせいか、なぜか咳が止まらない。


「夕鈴?」

「とにかく…ごほ。特に政務室では、お控え…ごほん」


「……」

「っつ……すみません」

顔が熱くなってきた。怒りが頭に登ったのかもしれない。


「夕鈴、ちょっと…」

陛下がふいに額に触れて来た。陛下の大きな手の平がすっぽり夕鈴の額を覆う。


「な、なんですか!?」

「静かに…」

しー…口元に指先をあてて囁く陛下。


「熱いな」

熱いのは陛下が触れているせいでしょう。


「やめ……っごほ」

反論しようと口を開けた夕鈴。だがすぐに喉が痛くなり、また咳込んだ。


ごほん、ごほん。


「…やっぱり熱い」

陛下の手が額から頬に移る。


冷温が肌に心地良かった。


夕鈴は思わず目を閉じた。まるで冷水にさらされているかのように肌の火照りが消えていく。

狼陛下が放つ凍てつくような冷気とはまた別の、あったかくて、でも冷たい。そんな感じ。


沈黙とともに流れる時の中、夕鈴の目は閉じられたまま。


「夕鈴…僕に食べられたいの?」

「……?」

今、何か言った?


ゆっくりと見開いた瞳に映る陛下の表情はどこか困っていた。

何を言われたのか理解出来ない頭で、夕鈴は陛下をじっと見つめ返した。


「やっぱり熱があるみたいだね…」

眉根にしわを寄せて呟く陛下。


「熱…?」

「額が熱い。それに…君が怒らない」


「?」

私が怒る?何か失礼なこと言われたのかしら。

さっきまでの会話を思い出そうとする頭の中に靄がかかる。ふわりと漂うそれは、頭の中を埋め尽くして、夕鈴が進もうとする先を灰色に染める。


なんだろう…ふらふらしてきた。

熱が足にまで伝わったの?そんなことって…。


伸ばされた腕。
ふらつく夕鈴の体を陛下の腕が支えていた。

陛下の濃紺の上衣が目に入り、衣擦れの音が耳近く届く。


「夕鈴、大丈夫か?」


ぽとり…ぼやける視界の先、夕鈴の髪に挿されていたはずの桜桃の花が落ちていた。


「……」

見事に白いその花弁も、周囲の景色と同じようにぼやける。


沈むような重さに耐え切れず、夕鈴の体が傾く。

どうしよう、支えられない…。




「夕鈴!」


叫んだ陛下の表情は、恐ろしいほどに歪んでいた。






そこで意識が途切れた。







Ⅱへつづく。




00:35  |  風邪引き嫁(熱)編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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