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2010.09.29 (Wed)

愛の媚薬Ⅱ

Ⅰのつづきです。









見覚えのある寝台。鼻につく甘い香。花瓶に生けられたのは今朝摘んだばかりの桜桃の花。

ここは妃の部屋。

目覚めた夕鈴を、大勢の目が見つめていた。


「お妃さま!」

「……?」


「お妃さま、お目覚めに」

「陛下にお知らせしろ!」


以前にも似たようなことがあったわね…夕鈴は深く息を吐くと、半身を起こした。
そばにいた侍女が夕鈴の背を支える。

誰よりも心配顔で覗き込む侍医を見て、似たようなこととは眠り薬の一件であったのを思い出した。


以前、誤って眠り薬を飲んだときのこと、はっきりと記憶に浮かぶ。


「また…眠り薬?」

「いいえ。風邪です…どうぞお薬湯を」

答えた侍医は即答で否定した。
渋い顔に置かれた瞳は、なぜか脅えの色を濃くしていた。

焦点の定まらない瞳のまま、急かすように薬湯を差し出す。


前回の眠り薬の一件、夕鈴が思う以上に狼陛下に叱責されたのかもしれない。


差し出された湯気の立ちこめる湯飲みに、夕鈴は手を出した。


「まだ微熱が残っておりますゆえ、今夜はこれをお召しになってぐっすりお休みください」


ただの風邪にしては仰々しい雰囲気。

寝台を取り囲む臣下たちの目に映る夕鈴は、やっぱり…狼陛下の寵妃であった。


夕鈴はほっと息を吐く。

演技が全くバレていないことに対して安堵しているのか、それとも…たとえ偽りでも陛下に愛されている唯一の妃であるという事実に満足しているからか。

自分でもよく分からない。


「ありがとう、陛下は?」

侍女に尋ねる。


「今お知らせしております。お妃さま、急にお倒れになり心配いたしました」

「ごめんなさいね」

夕鈴は視線を落とした。

まだ熱の残る頭をよぎったのは四阿の景色と、陛下の歪んだ表情。


もしかしたら、ひどく心配を掛けてしまったのかも。


夕鈴は肩を落とした。


陛下の憂いを取り除きたくて、今私はここにいるのに。

陛下の憂いを自ら招いてどうする。


夕鈴はそばに控える侍女を呼び寄せた。


「陛下に伝えて来て。私はもう元気だから心配ないと…」

「しかし…まだ熱が」


「もう大丈夫よ。さぁ、早く伝えて来て」

心配事は少しでも少ないほうがいい。

ただでさえ国を牛耳る陛下の両肩には、想像できないぐらいの心配事が乗っているのだから。


「ね、早く」


「陛下がお来しです!」

妃の居間で控えていた女官の声が寝所まで届く。


「!?」

夕鈴の制止の前に、すでに妃の部屋に到着していた陛下。さすがの行動力と感心している場合ではない。


あぁ、遅かった。


穏やかな空気は一転、臣下たちの間に一気に緊張が走る。

まるで花道でも作るかのように、居間から夕鈴の寝台まで、陛下の通り道を空ける臣下たちの様子に、夕鈴は苦笑した。


妃の部屋なのに、政務室にいるみたい。


「夕鈴、起きていて大丈夫なのか?」

寝台に駆け寄る陛下。陛下は、意識を無くす前よりは冷静な表情をしていた。


「はい、ご心配をおかけしてすみません」

ひと通り形式ばった挨拶をする。
挨拶が自然に出てくるのは、このバイトで学習した証拠だ。


「少し、熱は下がったようだ」

夕鈴の額に手の平をあてがう陛下。

陛下の手は相変わらず心地よい冷たさであった。


「風邪か……薬湯は飲んだのか?」

「え、いえ。まだです」

夕鈴は手の中に残ったままの湯のみを見つめる。

良薬口に苦しとはよく言うが、この薬湯は本当に苦い。一口飲んで、もう飲むのが嫌になっていた。


「苦くても飲まないといけない」

そんな夕鈴の心を読んだのか、陛下は優しく呟くと、寝台の端の小椅子に腰掛けた。

陛下の目線が侍医に向く。侍医は軽く拝礼するとこくりと頷いた。


「一晩お休みになられれば、明日の朝にはすっかり治っておられましょう」

「それは重畳…」

陛下は左手を上げる。人払いをするときの合図だった。


「何かあれば呼ぶ」

「はい。では、次の間におります」


侍医が立ち去るのを皮切りにして、広い妃の寝室から人波が引く。


あっという間にふたりきりになった。


寝台にいるせいだろうか、それともいつもと違う目線で見る陛下の表情のせいだろうか、夕鈴は妙に緊張していた。

小刻みに震える胸に手をあて、夕鈴は呼吸を落ち着けた。


「あの…ご心配おかけしてすみませんでした」

「うん」

陛下は子犬の笑顔で答えると、ほっと息を吐いた。


「ただの風邪で良かった。僕、びっくりしちゃったよ」

肩をすぼめる陛下に、夕鈴はクスッと笑う。


「すみません。でも…ただの風邪なのにこんなにおおげさにしてしまって恐縮です」

夕鈴は手の中の湯飲みを見つめた。
桜桃の花の香のおかげで今は臭わないが、口を近づければ薬湯の醸す変な臭いが鼻につく。

さきほどから、口まで運んでは、一口も飲まずに元通り手の中に戻る始末だった。


「君は大切な妃だからね」

演技ですけど…と、夕鈴は一応付け足した。


「……」

陛下は明らかに不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。

間違いは言っていないはず、でもどうしてこんなに怒るのか。
いつの間にか狼に逆戻りした陛下を眺めつつ、夕鈴はまた湯飲みに視線を戻した。


「何度も言うが…」

カタリ…寝台が急に傾く。

寝台の端、陛下が体重を掛けたせいだ。

狼の気配を濃くして迫る陛下に、夕鈴は慌てる。

陛下の行動を制しようと手を伸ばしたいが、湯飲みが邪魔して伸ばせない。


「な、何ですか?」

「君はいつまで経っても素直じゃないな。いい加減…傷ついてしまう」


「!?」

迫る狼に後ずさりしようとする夕鈴の肩を、陛下が掴んだ。


そのまま無理やり身を寄せて、夕鈴の額に自らの額をくっつける。


間近で感じる陛下の吐息に、夕鈴の胸が激しく高鳴る。


「へ、へいか!今は誰もいませんよ」

「それは好都合」

口端ににっと笑みを浮かべる陛下。


夕鈴は額に沸く冷や汗を感じた。頭の中で危険信号が点滅している。


あぁ…早く逃げないと。でも、頭がふらふらする。


「夕鈴、知ってる?風邪を早く治す方法」

「や、薬湯を飲めでしょう?分かってますよ!」

湯のみを握り締める手に力を込めて、夕鈴は答えた。


「ちゃんと飲みますよ。だから…」

早く離れて。最後まで言い終わらないうちに、陛下がそっと耳元で囁く。


「早く飲まないと、口移しで飲ますよ」

「飲みますって!」

夕鈴は勢いよく湯のみを傾けると、一気に飲み干した。


口内に広がる苦い刺激も、狼陛下の甘い刺激に比べたらずいぶんとマシだ。


飲み干した夕鈴は、力尽きたかのように寝台に沈んだ。

こぼれるように手から落ちた湯のみを陛下が受ける。


「……」

陛下のせいで、熱がぶり返してしまった。


あなたが私に与える刺激、決して生半可なものではないこと、どうか気づいて欲しいわ。


「ちゃんと飲んだね」


夕鈴のまぶたはいつの間にか下がっていた。

次第に途切れる意識の中、陛下の満足気な声がこだまする。



「さっきの答え。薬湯も正解なんだけど、でも…」

まぁいいかな…陛下の声音が、そよかぜのように流れる。




「今夜はぐっすりお休み、夕鈴」










後日。



「おはようございます、陛下」

「おはよう、夕…ごほ」

「え?」

夕鈴の視線を避ける陛下。その様子はとても気まずそうだ。


「まさか…」

嫌な予感。



「風邪引いちゃった」










二次小説第23弾完了です

ベタな文書ですみません…
でも楽しんで書けました
陛下はわざと夕鈴の風邪をもらってます。ホントに激ラブですね(笑)
昔の薬って、今の薬と違い漢方とかいっぱい入ってて苦そうですね~夕鈴が飲みたくなくなる理由も分かります。



00:45  |  風邪引き嫁(熱)編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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