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2010.10.05 (Tue)

独り占めⅠ

「独り占め」


夕鈴目線で長文です。
またまたオリジナルキャラの登場です。どんどん場面が変わるので気をつけてお読みください。

ではどうぞ。











「お妃さま」

1日の半分が終わり、すっかり日の高くなった白陽国王宮。
政務室から、妃の部屋へと戻る途中、後方から掛けられた呼び声に夕鈴の歩みは止まる。


振り返るとそこには見知った顔があった。


「宋大臣さま」

その顔を確認するや、夕鈴は名前を呟く。
夕鈴に拝礼する形で腰を折った宋大臣は微笑んだ。


「奇遇ですね…今日も王宮へお出ましですか」

「えぇ…」


夕鈴の政務室通いは通例化していた。
広い王宮とはいえ、たったひとりの妃の行動はすぐに知れ渡ってしまうもの。


普通、妃とは後宮の奥深くに堅く閉じこもっている。

そんな妃に王宮でばったり出逢いなどしては、驚きもしくは怪訝な顔を浮かべる者ばかりであったが、最近は慣れてきたせいか誰も気にとめることはなかった。

臨時花嫁を始めたばかりの頃は、大臣や古参の官吏に冷たい視線を浴びせられたっけ…。


夕鈴はさほど遠くない記憶を思い出しながら、目の前の大臣の顔を眺めた。


でも、この方は例外ね。

穏やかに細められ、しわの刻まれる宋大臣の目元を見つめながら、夕鈴は思う。


「朝から精が出ますね」

「大臣さまこそ。お仕事ご苦労さまです」

初めて逢ったときから変わらぬ笑顔で答える大臣の姿に、夕鈴の表情がほころぶ。

彼は、狼陛下に仕える多数の大臣の中で、夕鈴が好感を持つ唯一の大臣であった。


「今日は仕事で参ったのでないのですよ」

「?」

「実は…田舎から孫が来ていまして。ちょっとばかし王宮の見学に」

「まぁ、それは…」

素敵ですこと、夕鈴は笑顔で答える。


「ずっと田舎暮らしでしたので、王都は珍しいようで…先日王宮を見せてくれとせがまれ仕方なく…」

大臣はそこまで言って、照れたように夕鈴から視線を外した。

心の赴くまま、本心から照れる大臣に、夕鈴はほっと息を吐く。


実父よりは遥かに年嵩の大臣であったが、まるで父親と話しているかのような気持ちになるのは、この方が醸す独特の雰囲気のせいだろうか。


中央政治に携わる大臣は皆一様に、自尊心ばかり強くて出世欲の塊のような者が多い。人の揚げ足取りに躍起になり、人を蹴落としのしあがり今の地位にいる者も少なくない。

夕鈴は、そんな大臣たちを見るたび悲しくなる。と同時に、心配で堪らなくなる。

自らの臣下に油断も隙も見せれない王様、黎翔のことを。


だからせめて、私だけは彼の味方でいよう。そう決心してどれくらいの月日が流れたのだろうか。


大臣と同じように視線を外した夕鈴。その視界の中、透き通った空に浮かぶ白い雲が見えた。

初めて陛下に逢う前も、王宮の空に浮かぶ雲は白く透き通っていた。


私の気持ちも変わらず、今も陛下へと真っ直ぐに向かっている。



まぶしくて目を閉じた夕鈴。

大臣の呼びかけでゆっくりと目を開けた。



「そうでしたの、お孫さんきっと楽しんで帰るでしょうね、ぜひゆっくり見学してくださいね」

「ありがとうございます。お妃さまからのお言葉、孫も喜びましょう」


声高く笑う大臣の姿に、夕鈴は口元に手を当てて微笑んだ。

王宮の回廊に、ふたりの笑い声が響く。


「お妃さまは、不思議な方ですなぁ…」

しばらくの談笑の後、大臣が思い立ったように呟いた。


「え?」

「身分の高い姫君は、そんな風に素直に喜びを顔に表さぬものですから」

「そ、そうなのですか?」

夕鈴はどきりとする。


長く続けているお妃仕事。仕草や立ち居振る舞いなど、最近やっと箔がついてきたと李順に褒められたばかりなのに。
楽しいことや嬉しいことを、今のように素直に喜んではいけない…というのは私にとってかなり酷だ。


「お妃さまは私の孫に少し似ております」

「お孫…さんですか?」

「お妃さまの笑い方が孫に似ています」

「まぁ…」

顔を緩ませ答える大臣。それは、目に入れても痛くないほどに孫を溺愛する初老人の姿であった。


「宋家の娘としてどこへ嫁がせても恥ずかしくないように教育してきたつもりですが、田舎でのんびり育ったせいか、家長の姫とは思えないほど奔放な性格になってしまいまして…」

答えながら、大臣は深く溜め息をついた。


かくいう大臣も、その孫に負けず劣らず穏やかで奔放な性格だと思うが。
大臣の人となりを知る夕鈴は思う。


「好奇心も人一倍激しく、珍しい蝶がいれば追いかけ、見たこともない花が咲いていればすぐに手を出す始末…自由気ままな娘です」

「……」

なるほど。確かに大臣の言うとおり、一筋縄ではいかなさそうだ。
普段無口な大臣がこれほど滑らかに語る様から見ても、大臣はこの孫に手を焼いているとみえる。


「今日も朝から王宮へ連れて来たまではいいのですが…」

急に声を落とす大臣。
夕鈴は疑問に思い、視線を伏せた大臣の顔を覗き込んだ。


「宋大臣さま。いかがなさいましたか?」

「実は…来て早々、孫とはぐれてしまいまして…」

「え?」

はぐれた?
その自由気ままな孫とこの広い王宮の中、はぐれたとあっては…。


「それは大変…だわ」

夕鈴はまばたきを繰り返すその瞳で、落ち込む大臣を見つめた。


悠長に挨拶などしている場合ではないだろう。

ましてや…ふたりして笑っている場合などではない。


夕鈴は数分前の出逢ったときの光景を思い出しながら、渋顔を浮かべた。

穏やかでまるで危機感のない性格は、この一家の特徴なのかもしれない。


「お孫さん、どこへ行ったのか心当たりはありませんか?」

あったらとっくに探しているだろう。そう思いながらも夕鈴は尋ねる。


「王宮は初めてゆえ…どこも」

「例えば、お孫さんが行きそうな場所とか…なんでもいいんです」

「そういえば…」

夕鈴の言葉に大臣が思い立ったように顔を上げた。


「孫は絵や彫刻など…芸術が好きなんです」

「絵や彫刻ですか」


夕鈴は天を仰いだ。

ここは白陽国王宮。まがりなりにも国王陛下が政務を採る場所。

室内外を問わず、あつらえられた豪華な調度品は数知れず…国土中から集められた指折りの芸術品が最も数多くある場所だ。

国王の玉座に始まり、使用人の部屋の家具や寝具に至るまで、そしてふたりが立つこの回廊の欄干にも、手のこんだ彫刻がほどこされている。


夕鈴は欄干の端、華奢に彫られた柄を見る。

そういえば以前、力を入れすぎて壊しそうになったっけ…。

昔の痛い記憶を思い出し、夕鈴はしかめっ面を浮かべた。


「お妃さま?」

途端に心配顔で尋ねる大臣が目に入る。

しまった、自分のことは置いておこう。


「いえ。彫刻はご存知のとおり、どこにでもありますが…絵でしたら、宝物庫に飾られているのを見たことがあります」


夕鈴にあてがわれた妃の部屋。

最初見たときはその壮麗な光景に言葉を失い、ただ感動するばかりであった。


だが、しばらく経ち、部屋を囲うようにして置かれた無数の家具に、夕鈴は悩まされることになった。

怒りのあまり陛下の部屋の衝立を殴り、壊してしまってからというもの…夕鈴の悩みはさらに増す。


もし万が一壊してしまい、借金が増えたらどうしよう…と。


陛下に無理を言って、妃の部屋から退けられた豪華な家具たちの行き場は宝物庫であった。

その家具の中に、“数百年前に描かれたであろうとても価値のある絵”も入っていたのを思い出していた。


「宝物庫ですか?ですがあそこは鍵がかかっております」

「そうですわね」

残念…他に絵が飾られている部屋なんてあったかしら。


思いふける夕鈴。だが、すぐに何かに気づき、はたと振り返った。

回廊の先、まっすぐ遠く見つめる。


一体…何か。


「お妃さま?」

「……」


「お妃さま。いかがなさいました?」

「……」

一瞬何か視線を感じた気がするが……気のせいね。


「いいえ、失礼いたしました」

夕鈴は元通りの笑顔を浮かべ、再び大臣と向き合った。


「とにかく、手分けして探しましょう。私の侍女も呼び寄せて参ります」

「そのことなのですが…」

夕鈴の行動を制するかのように伸ばされた大臣の手。


「?」

「孫と王宮ではぐれたなどと醜聞話、誰かに知れれば笑いの種です」

「はぁ…」

後宮でなら私も迷ったことがあるが…その話題は出さないことにしよう。いくら穏やかな大臣とて、後宮で迷う妃には面食らうかもしれない。


「ではどうすれば?」

「どうか、このことはお妃さまと私との秘密にしてほしいのです」

そういえば…お家に醜聞が立ち、みるみる勢力をなくしたという話、以前聞いたことがある。


ここは、仕方ないわね。


「分かりました」

「特に…陛下には黙っておいていただきたいのです」

「それはもう…」

承知している。
狼陛下に知られては、きっとやっかいな事になるのは目に見えているから。


「私は、家の者と孫を探します」

「では、私は…」


回廊の途中、こそこそと思案顔で佇むふたり。


そのふたりは、寵妃夕鈴と古参の大臣であるため、すぐに王宮に仕える者たちに知らされることになる。

王宮の支配者でこの国の統治者、狼陛下珀黎翔に。






Ⅱへつづく。


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