09月≪ 2017年10月 ≫11月

12345678910111213141516171819202122232425262728293031

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.10.05 (Tue)

独り占めⅡ

Ⅰのつづきです。









「さっき、宋大臣と話していたらしいな」

夕鈴を見つめる陛下の目。

そんなにじっくり見られると緊張してしまうからやめて欲しい。

しかも、李順以外誰もいないこの部屋。狼陛下である必要はないはずである。


見つめた陛下の表情はとても訝しく、なぜか機嫌の悪さを露わにしていた。


「はい。話していました」

夕鈴は腕にある数本の書巻を抱え直した。ちょうど書庫の整理がてら、持っていくつもりだったものだ。

夕鈴の仕草を食い入るように見つめる陛下の顔には『何を話していたの?』と書かれていたが、あえて気づかないふりをした。


この広い王宮、私と大臣が話していたことをなぜ知っているのか。


「一体何を話していた?」

話し出す気配のない夕鈴に、我慢の限界を迎えたであろう陛下が迫ってきた。

自白するのが当たり前の緊迫した雰囲気に、夕鈴はいたたまれず目を反らした。


「たわいのない話です」

「あの無口な大臣には珍しく、君と楽しく談笑していたと」

「それは…そうです。普段よりは盛り上がりましたね」


こんな回答じゃ逆効果。分かっているが、上手い弁論がまったく思い浮かばない。

大臣との秘密の共有、思った以上に夕鈴の心に動揺をもたらせていた。


「回廊の端まで笑い声を響かせて…よっぽど楽しかったようだ」

じろり…狼の睨みが注がれる。鋭い視線に夕鈴の背筋にひやりとしたものが伝わった。


もう、ちくった奴誰よ!夕鈴は心の中、悪態をつく。


確かに楽しく話していたが、それは途中までだ。後半は優雅に談笑している場合ではなかった。
大臣が持って来た面倒事、まだ解決には至っていない。


「大臣はどんな楽しい話をしてくれたんだ?」

「たわいない話です…その、陛下が聞くようなことでは」

夕鈴の返答に、陛下の目尻が上がる。まずい、怒らせてしまったかも。


「私が聞くようなことではないと?」

「いえ…あの、たわいない話ですので」

それしか言えないのか私…夕鈴は激しく嘆く。

とにかく、この尋問のような質問攻めから逃れないことには、秘密が秘密であることさえも危ぶまれる。


「ふうん」

狼陛下の追求に、不自然に乱れる夕鈴の呼吸。

この鋭い視線、どこまで耐えられるのだろうか。

助け船が欲しくて見つめた上司は、ふたりの会話などそ知らぬ顔で黙々と作業を続けていた。


「……」

この鬼上司…ちょっとは気にして欲しい。


今頃、宋大臣は共の者を引きつれ、王宮を鋭意捜索中のはずである。
早くこの場から逃れ、夕鈴も加わらなければならない。

夕鈴は意を決して、陛下の視線を真正面から受けた。


「陛下、今日はこれで失礼してもよろしいでしょうか?」

「なぜ?」

なぜと尋ねられ、夕鈴は焦る。


「今日のお仕事はそろそろ終わりそうですし…私、所用がありまして。その、書庫を片付けたら…その…下がりたいと…」

次第に濃くなる狼の気配に、夕鈴の声量はだんだんと小さくなる。最後の方は自分でも聞き取れなかったぐらいだ。

蚊の鳴くような声で弱々しく呟く夕鈴にもかかわらず、狼の鋭い質問は空くことなく続く。


「所用って?」

「いえ、あの、たいした用事では…」

「……」

「お、お部屋の整理整頓をしようかなぁ…なんて」

言い訳の下手くそさだけは、誰よりも上をいくかもしれない。
まるで自らを嘲笑うように、夕鈴の口元が自然に緩んだ。


あぁ、もうこれでは完璧にバレてしまう。いっそ笑い飛ばして白状してしまおうか。


「ふうん」

「あの…陛下?」

黙したまま夕鈴とにらめっこしていた陛下は、しばらくたってからやっと視線を外した。
そのまま、政務机の椅子に深く腰掛ける。

夕鈴が先ほど淹れた茶を一口飲むと、溜め息とともに小さく呟いた。


「まったく…うるさい蝿だ。ろくな情報を寄越さない」

「え?」

「こっちの話。いいよ、夕鈴。ごくろ~さま、後宮に先に帰ってて」

「はい!」

やっといつもの子犬陛下に戻った陛下に、夕鈴は安堵する。


「では…失礼します」

いそいそと書庫に向かう準備を始める夕鈴。
その横顔を、渋い顔で眺める陛下の表情は完全な狼陛下だった。

子犬の口調なのに態度は狼陛下。

そのアンバランスな陛下の姿に違和感を感じて、ついつい見てしまいたくなるが…今は急いで退出しなければ。


今日はなんだか狼陛下でいる時間が長いような気がするわ。


夕鈴はぐったりと脱力しつつ、政務室を後にした。
















「ね、あなたたち。ちょっと聞きたいんだけど…」

「お妃さま!」

急に現れた寵妃の姿を見るやいなや、侍女たちが拝礼した。


「一体、なんでございましょう?」

「背格好はこれぐらいの若い女性を見かけなかった?」

「女性ですか?」

「えぇ…王宮のお客様なんだけど…ちょっと手違いで行方知れずになってしまって。今、探しているの」

「そのような女性はお見かけしておりませんわ」

お役に立てず…申し訳なさそうに答える侍女たち。


「そう…」

残念。ここでも収穫なしか。

夕鈴は肩を落としてその場を立ち去った。


これで後宮はおおかた捜索した。

広い後宮、思った以上に時間を掛けて捜索したが、手がかりはゼロ。いまだ行方不明の宋大臣の孫娘は、一体どこに行ってしまったのであろうか。


「手がかりが絵と彫刻じゃねぇ…」

芸術的感覚が全く皆無の夕鈴にとって、ピンと来るものがあまりに少なすぎる。

宝物庫も、祭儀場も、他思いつく場所はすべて捜索した。
迷い込んでいるかもしれないと、後宮の立ち入り禁止区域も侍女と手分けして探した。だが、まだ見つからない。


夕鈴は回廊の脇椅子に腰掛ける。

息つく間もなく探し回っていたせいで、疲労感が蔓延していた。

一度腰を降ろすとなかなか立てないような気がするが、そんなことを言ってられない。


「とにかく、大臣さまと合流しましょう」

気を取り直して立ち上がった夕鈴の横顔に、さっと視線が走る。


「……」

王宮の回廊で感じた同じ視線。

見渡した周囲に人影はなく、正体不明の視線の存在は跡形もなく消えていた。


夕鈴は胸を押さえた。

やっぱり気のせいだろうか。
尋ね人が見つからない苛立ちのせいか、多少神経過敏になっているのかもしれない。







「お妃さま!」

力なくとぼとぼと道を歩く夕鈴を、またしても後方から呼び止める声。

今日はなんだか、よく呼び止められるわ。


振り返り確認した人物は、妃付の女官であった。
慌て駆け寄る女官の様子に、夕鈴は不安気な視線を送る。


「どうしたの?」

「陛下がお呼びです」

「陛下が?」

「お客様がお越しのようですわ」

「お客様?また…使者かしら」

国王への訪問客は多数居るが、妃の夕鈴が召し出されることは稀だった。よっぽど重要な客の訪問かもしれない。


「いえ、なんだか違うようですけど。お客様は若い女性とか…」

「若い女性!?」

まさか…夕鈴は青ざめる。


「陛下はどちらへ?」

「後宮の自室にいらっしゃいます」

夕鈴の疑問が確信に変わる。

後宮で捜索していない唯一の場所、それは陛下の部屋だ。


「ではお妃さま。お召し替えを…」

女官の言葉を聞き終わらぬうちに、夕鈴は一目散に駆けていた。

















「初めまして。お妃さま。宋香祥と申します」

「……はじめまして。香祥さま」

幼い顔に浮かぶあどけない笑顔。緩む目元と口元。香祥と名乗った少女は、宋大臣そっくりだった。

あれほど賢明に探した大臣の孫娘、まさか陛下の部屋に居たとは…。

夕鈴は深く嘆息しつつ、念のために確認した。


「あの、宋大臣さまの…」

「はい、宋は私の祖父です」

「王宮の見学に来ていたそうだ」

夕鈴の肩を抱いていた陛下が呟く。


「そうですか…」

今にも膝をついて、疲労感と気疲れいっぱいのこの体を休めたいが、お客さまの手前そうも出来ない。

変わりに夕鈴は大きく溜め息をついた。


「?」

「夕鈴、ずいぶんと疲れているようだ。それに…」

夕鈴の着物の袂に手を伸ばす陛下。


「陛下?」

「こんなに埃をいっぱいつけて、君は一体どこで何をしていたんだ?」

言いながら陛下は、夕鈴の袂をはたいた。白い粉が舞う。


「え…埃?」

そういえば、去り際に女官が召し替えがどうとか言ってたっけ。

この埃は立ち入り禁止区域から持って来てしまったのかもしれない。


「君の美しい髪にも埃をつけて…まるで子供のようだな」

夕鈴の腰に腕をまわし、陛下はさらさらと髪を梳いた。耳元に感じる吐息に、夕鈴の体温が上がる。

ぎゃーやめてください!


「陛下!自分で…自分で出来ます」

「後ろは見えないだろう」

「いえ!大丈夫です」

そんなふたりのやりとりに熱視線を送る侍女たち。

その視線を受け、夕鈴の頬に赤みが挿した。

恥ずかしすぎる。


相変わらず過剰な演技を披露する陛下。お客さまが見ているのにお構いなしだ。
夕鈴がふと香祥を見ると、香祥も侍女たちと同じような表情で視線を送っていた。


「まぁ、お噂通り仲睦まじいこと。おうらやましいわ」

ほぅ…と頬を染めて話す香祥。

夕鈴の心臓は爆発寸前だった。自分よりも年下の女性に見られるのは、気恥ずかしいを通り越して心苦しい。


それというもの全てあなたのせいなのよ!香祥!

そう声を大にして叫びたいが、祖父譲りの穏やかな表情を浮かべる可愛らしい孫娘に、夕鈴の怒りも静まる。

この孫娘であったら、甘やかしてしまうのも納得ね。



夕鈴はふふふ…と笑いながら、強張る体から力を抜いた。




















「ふうん。君の様子が変だったのはそういうことか。なるほどね」

「はい、すみませんでした」

あ~あ、結局陛下にバレてしまった。こんなことなら、最初から話しておけば良かったわ。

夕鈴は机の上で白い手を組みながら思う。


夕鈴は埃だらけの衣装を召し替えて、装いも新たに陛下の部屋でお茶を淹れてくつろでいた。

対面する陛下は、納得顔で淹れたばかりの香茶を飲んでいた。


「君が部屋から退出した後すぐに、宋の孫娘が面会を求めに来たんだよ」

「そうですか。どうりで…」

見つからなかったはずですね、夕鈴は回想する。結局、夕鈴の獅子奮迅は空回りに終わったということである。


「あの娘、面白いね。さすが宋家の娘だ」

「?」

「僕の部屋に入るなり、挨拶もそっちのけで部屋中の調度品を眺めてるんだよ」

夕鈴は周囲を見渡した。

陛下の部屋の居間には多数の調度品があつらえられている。この調度品を手がかりに、広い後宮右往左往し回って、随分と骨を折ったものである。


「ちょっと夕鈴に似てるよね」

「私?一体どこがですか?」

宋大臣にも同じようなことを言われたが、似ている箇所が思い浮かばない。


「自由奔放なところとか…」

「自由奔放!?」

陛下が放つ言葉に愕然とする。私は香祥のように、あれほど自由奔放な性格だったのか…。


『好奇心も人一倍激しく、珍しい蝶がいれば追いかけ、見たこともない花が咲いていればすぐに手を出す始末…自由気ままな娘です』

宋大臣との会話を思い出す。
好奇心は強い方かもしれないが、少なくとも私は蝶は追いかけない。


「あとは、無茶をするところとか…」

「私、無茶なんてしてませんよ?」

「しただろう。今日」

「?」

「忘れたとは言わせないよ。今日の午後、後宮の立ち入り禁止区域で。君は衝立に登って足を滑らせそうになった」

「!?それは…どうして知ってるんですか?」

そのことは一緒に捜索していた侍女でさえも知らない事実である。なぜ陛下が知っているのか。

さぁ、なんででしょう?けらけらと笑う陛下に対して、苦い顔の夕鈴。


今日の朝から、時々に感じた視線。一瞬であったが、纏いつくように心の奥に不安を掻き立てるような視線。

だがあれは、陛下の視線ではない。


「監視…ですか?」

「そんな顔しないで、夕鈴」

にっこり、子犬陛下が微笑む。

目の前で微笑む陛下の表情に、夕鈴の曇る心が次第に晴れる。この笑顔は、演技ではない本心からの笑顔だ。


「頼んでもいないのに…君のことを逐一報告に来る迷惑な小蝿がいてね…」

陛下は湯のみを机の上に置いた。陶器が奏でる冷たい音が、室内に小さく響く。


狼陛下の周囲には、国王の失脚をもくろむ臣下が跋扈しているのは、夕鈴もよく知っている。その中に、邪魔な妃をどうにかしたいと望む陰も存在しているのは確かだろう。


「君のおかげで、一掃することが出来た」

「……」

「だから君の努力も無駄ではなかったということだよ」

「努力なんて。ただ見つかれなかったらどうしようかと…不安でした」

「不安に感じることなんてない。でも、なんにでも真っ直ぐなのは君の良いところだよ。宋大臣も随分と君に感謝していた。悪いのは自分であって、夕鈴は無理なお願いことを聞いてくれただけ、怒らないでほしいと」


「宋大臣さまがそんなことを?」

「あれは、誰にでも穏やかな大臣ではない。切れ者だよ」

切れ者。
そうは見えないが、永く大臣を続けているにはそれだけの理由があるということか。夕鈴はひとりでに納得した。


「君はそんな風にして、自然と人の心を掴む。もちろん私の心も」

急に立ち上がる陛下に、夕鈴の心臓がどきりと跳ねた。

変に動揺するのは、いつの間にか狼に豹変してしまった陛下のせいか。


「あの…?」

見上げる陛下は、宋大臣以上に穏やかに笑っていた。


「夕鈴、立って」

夕鈴は差し出された陛下の手を取り、立ち上がった。

いつもと同じ高さの目線で見る陛下の顔に、自然と顔が緩む。
狼陛下なのに、こんなに安心するのはきっと雰囲気が優しくて穏やかだから。


「これ以上君のファンが増えても困る。方淵も張老師も、氾紅珠も君のことが好きみたいだから…」

陛下が苦笑する。

手を通して、陛下の笑ったときの体の震えが伝わった。


「柳方淵は絶対に違いますよ、陛下」

「そうか?だが堅物なあいつは…君のことだけは認めたようだ」

「宣戦布告をしたばかりです」

「そうか」

ははは…陛下が笑う。その甘い表情につられて夕鈴も柔らかく微笑んだ。


「忘れてはならない。夕鈴、君は私の花嫁だということを…」

頬に手を添えて呟く陛下。

波打つ鼓動は、波紋を広げるかのように徐々に激しさを増す。


「忘れてなどいません。ちゃんと分かっています。お妃バイトも…」

夕鈴の言葉を遮るかのように、陛下がぎゅっと抱きしめる。

そのまま夕鈴の肩にあごを乗せ、顔を埋めるように髪に口付けた。


首筋に当たる柔らかな感触に、夕鈴の鼓動が震える。
蒸気する体に、頭の中がぼうっと霞む。


腕も足も顔も、陛下に触れられているところ全て、まるで自分のものではないかのように反応する体。

すぐにでも離れたいと感じる一方で、もっと近づきたいと願ってしまうのはなぜだろうか。


「忘れるな、夕鈴」

忘れなどしない。きっともう忘れることなど出来ない。


囁いた陛下は、少しだけ腕を解き夕鈴と目を合わせた。

交わる視線がこそばしくて恥ずかしいのは、まだまだ慣れない陛下の甘い表情のせいか。


熱い視線に耐え切れず、夕鈴は顔を伏せた。


「陛下、そろそろ恥ずかしいので離してください」

真っ赤な顔の夕鈴が呟く。その初々しい表情に、狼の口端に笑みが浮かぶ。


「ダメだ、夕鈴」


「な…なぜでしょうか」

尋ねる夕鈴。その小さな声は、周囲を取り囲む空気に溶け込んで消えていく。



「もう少しだけ…」




独り占め。











二次小説24弾完了です

ミケの腕不足で、ころころと変わる場面にお疲れになったのではないでしょうか?
良かった!と言っていただけると嬉しいです♪

陛下はいつも夕鈴のことを独り占めしたいのだけれど、仕事とか雇用関係とかいろいろ邪魔して大変そうです。しかもまだまだ子供の夕鈴は、そんな陛下の気持ちに気づくことなく…

あぁーもどかしい!(笑)



00:34  |  オリジナルキャラ編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/39-9f9ab3b3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。