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2010.10.15 (Fri)

雪の華

「雪の華」

またまた短編です。
夕鈴目線。寒い夜をさらに寒くしてしまうような…そんな小説です。

ではどうぞ。











「もうおやすみ、夕鈴」

そっと囁かれた声に、夕鈴は耳を傾ける。
見つめた先にあったその表情はとても寂しくて、せつなくて…ずっと見つめていたら涙が出そうなくらい、はかなくて苦しい。

気づいたら、手を伸ばして抱きしめていた。















「今夜は冷えるね、夕鈴」

上掛けを纏いながら陛下が呟く。
頬が少し高揚して見えるのは、室内の温度がとても寒いからであろうか。

白熱の光がほの明るく燃えている妃の部屋の寝室。いつも通りお茶を飲み終わった陛下が、長椅子に片膝をついて、夕鈴を見つめていた。


「そんな薄着で大丈夫ですか?」

夕鈴は、寒い夜にだけ出される鳥の羽衣の上衣を寝台へと運びながら尋ねた。
尋ねられた陛下は、夕鈴の質問で初めて自らの衣服に視線を移した。陛下は、いつもの装いのまま眠りにつこうとしている。


「僕は大丈夫」

「でも…風邪をひかれますよ」

それでなくても長椅子などと狭苦しい所で眠らせているのに、風邪をひかれてしまったら、たとえ夕鈴のせいでなくても李順に何を言われるか。口うるさい側近は、陛下のことになると殊更にうるさい。


「鍛えてるから大丈夫」

にっこりと微笑む陛下の顔を微妙な表情で眺める夕鈴。
確かに、陛下の体が逞しいのも、その腕が力強いのも知っている。何度となく抱きしめられた思い出が、夕鈴の心にふと浮かんだ。

途端に夕鈴の顔が赤く染まる。

一体何を考えてるのかしら…私。


「夕鈴?」

深呼吸する夕鈴を訝し気に見つめる陛下の視線を感じ、慌てて頭を振った。熱くなった頬を片手で仰ぐ。


「いえ!では…寝ましょうか」

夕鈴は動揺する気持ちをなんとか抑え、陛下に笑いかけた。


「うん、暖かくして寝てね」

「はい、おやすみなさい」

ぺこりと頭を下げて、夕鈴は寝台に向かった。

夜灯の火を落として、寝台に沈み込むように横たわる。

ふかふかの羽衣が肌に心地よい。

今夜もいい夢を見ることを願って、夕鈴は眠りについた。














次に目覚めたとき、まだ朝を迎えていなかった。

朝によくさえずる鳥の鳴き声が聞こえず、朝日がもたらす清純な香がしない室内をぐるりと見渡すと、そこにあるはずの気配は無かった。確かに数刻前、そこにあったはずの自分とは違う気配、今はどこにも感じられない。


「陛下?」

薄暗闇に夕鈴の小さな声が響く。その呼び掛けに反応する声はなく、張り詰めた深夜の気配が揺れることはなかった。

冷たい床の上、裸足の足をつけて夕鈴は立ち上がった。

歩くたび、足裏から伝わる冷気が夕鈴の身を凍らせる。
眠る前よりもぐっと低くなった気温に、夕鈴は肩を震わせた。

そのまま、格子窓の近くまで歩くと、夕鈴は外を覗いた。すぐに視界に人影が映った。

夕鈴はほっと安堵の溜め息を漏らす。

思った以上に簡単に見つかった陛下は、前庭が見渡せる妃の部屋脇の回廊に腰掛けていた。





寒空に佇む陛下の姿は白く浮かんでいて、最初見たとき夜空に浮かぶ月のようだと思った。
だって、眺めた空には無数の星が瞬いていたが、月はどこにも見当たらなかったから。

星空の世界から姿を変えて地上に降り立って来たのかもしれない。
それぐらい陛下の姿は白く、ほの淡い光を放っていた。

なんて声を掛けようか迷っている夕鈴の名前を呼ぶ声に、驚いて顔を上げる。

いつの間にか、陛下の顔がこちらを向いていて、その視線は真っ直ぐ夕鈴を捉えていた。


「へ、陛下…」

「どうしたの?夕鈴」

「陛下こそ…」

一体何をしているのか?こんな夜中に、こんな寒空の下。
頭にいろいろと浮かんだ疑問の言葉を飲み込んで、夕鈴は陛下の横に立った。


「寒くないんですか?」

「寒いね」

陛下はにっこりと笑うと、また星空に視線を戻した。


「でも、綺麗だ」

確かに綺麗な夜だ。

建物も草木も花も、欄干も灯篭も、陛下自身も含めてすべて、淡白い光に包まれている。
まるで光の世界に迷い込んだみたいだ。こんな景色を眺めることができるのは、こんな寒い夜だからだろう。

しばらく陛下と同じように光の景色に見入っていた夕鈴に、風が吹きぬける。

静かな夜に風が舞う音が響く。と同時に、氷のような冷気も運んできた。

鳥肌を立てつつ見つめた陛下の横顔は、さっきと変わらず穏やかに笑顔をたたえていた。

長い漆黒の前髪が風になびく。
その軌跡を目で追う夕鈴の脳裏に、ふとある疑問が浮かんだ。

陛下はいつから、ここに居るのだろうか。

夕鈴は陛下の横に屈み、その白い手に触れた。温度のない陶器のような冷たさに、夕鈴の表情が歪む。


「夕鈴?」

「陛下、いつからここに?体が冷え切っています。何か羽織らないと本当に風邪をひきますよ」

心配そうに見つめる夕鈴に、また陛下が笑い掛けた。


「大丈夫だよ。僕鍛えてるし…」

鍛えているからといって、風邪をひかないとは限らない。


「でも…手がこんなに冷たいです」

握った陛下の手のひらは、氷のように冷たかった。触れた先から夕鈴の熱を奪う冷たさに、少し恐ろしくなる。

夜空に浮かぶ月も、こんな風に冷たいのだろうか。

見上げた夜空には、やっぱり月の姿はなかった。


「僕はもともと手が冷たいんだ」

なだめるように、諭すように、陛下が柔らかく笑顔を浮かべる。暗闇に浮かぶ白に、夕鈴はまた恐ろしさを感じた。

陛下は笑っているのに、どうしてこんなに恐ろしいのだろう。

まるでこれ以上近づいてはいけないと、そう言われているような気がして、夕鈴の胸を不安が刺す。

陛下はこうやってずっと一人で居るのだろうか。
誰かのぬくもりさえない冷たい世界に一人、たたずんでいるのだろうか。


それはなんて…

悲しくて、苦しい。


熱を分け与えたくて、夕鈴は握る手に力を入れた。


「でも、やっぱり何か羽織るものを持って来ます」

立ち上がりかけた夕鈴の手首を陛下が掴む。
途端にバランスを崩した夕鈴は、硬い床の上尻餅をつきそうになったが、思わず伸ばされた陛下の腕に支えられて難を逃れた。


「!?」

「ごめんね、夕鈴。羽織はいらないから…」

君は部屋に入っておやすみ…耳元に陛下のかすれた声が届く。

陛下の声は、夕鈴を纏う冷気よりも冷たく聞こえた。

夕鈴は、陛下の腕に支えられて立ち上がる。まるで突き放すかのような陛下の態度に、心の底が締め付けられて痛い。

軽く震える膝に力を入れて、夕鈴は陛下と対峙した。




「もうおやすみ、夕鈴」

見つめた先にあったその表情はとても寂しくて、せつなくて…ずっと見つめていたら涙が出そうなくらい、はかなくて苦しい。

気づいたら、手を伸ばして抱きしめていた。




寒空に漂う冷気が、体ごと凍らせたかのように固まる空気。

力を込めて抱きしめる夕鈴の体とは対照的に、陛下の体が動くことはなかった。声さえも凍らせてしまったのか、夕鈴の行為に、陛下はしばらく言葉を失っていた。


「夕……鈴?」

「……居ないでください」

「え?」

「一人で居ないでください」

「……」

顔を上げた夕鈴の顔は涙で染まっていた。とめどなく溢れる涙のしずくに、陛下の輪郭がぼやける。


「夕鈴」

名前を呼ばれると余計に涙が溢れた。悲しくて、苦しくて、内側から溢れ出る思いを制御できない。

どうしてこんなにも悲しいのか。


「っつ…」

夕鈴は頬を伝う涙をぬぐった。
ぬぐった先から、また新たな痕跡を刻み付けるかのように溢れる涙。

きっと、陛下困ってる。
突然子どものように泣き出した私に、きっと呆れている。

でも止まらない、止められない。

陛下が流す涙は、私が流す涙よりももっと悲しくて、もっと苦しいから。

それを知ってしまったら、もう止めることなんてできやしない。


「泣かないで、夕鈴」

「……」

「君が泣くと、僕はどうしていいのか分からない」

頬に当たる感触に夕鈴は目を開けた。陛下の指先が遠慮がちに触れている。


「僕のために泣いてくれてるんだね」

「陛下が…泣かないから」

だから、私は陛下の変わりに涙を流す。悲しみの涙を。苦しみの涙を。

あなたが流せなかった涙を。


「ありがとう、夕鈴」

「……」

「ありがとう…」

暗闇に溶けるように消えていく言葉。
同じように涙も溶けていく。

陛下の言葉に、堅くなった心がほぐされていく。

開けた視界の先に見つめた陛下の姿は、まだぼんやりと淡白かったけれど、握り締めたままの手のひらはほんのりと暖かかった。




「部屋に入ろう、夕鈴」

夕鈴の肩を抱く陛下は、冷たい世界から、暖かいぬくもりの世界に戻ろうとしていた。

夕鈴ひとりではなく、今度は陛下も一緒に。



去り際に見上げた夜空には、はっきりとそこに…月が瞬いていた。










二次小説第26弾完了です

ミケは色の描写が大好きでよく使います。夕鈴は赤色、陛下は白色だと思っています。
ときどきごっちゃになることもありますが(笑)そこは暖かい目でお願いします。

さて、今回はちょっと暗めで終わってしまいましたが、いかがでしたか?
せつない陛下と夕鈴の話も大好物です。キュンとなる感じがたまりません


02:23  |  真冬編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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