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2010.10.21 (Thu)

愛するふたりⅠ

「愛するふたり」

妄想大好きミケが、得意な話題で書かせていただきました。
夕鈴目線で少し長め。ⅠとⅡに分けています。

ではどうぞ。















「着いたよ、夕鈴」

頭上から掛けられた声に、夕鈴ははっと頭を上げた。
うとうとしていたせいで最初状況が掴めなかったが、揺れている感覚ですぐに馬車の上にいることを思い出す。

降り注ぐ丸い夏の日差しに、微睡んだ瞳が大きく見開かれると、夕鈴は目をこすった。

馬のひずめの音と、芝の匂いが夕鈴の周囲を覆っていた。


「着きました…か?」

「見てごらん」

陛下の指差す方を覗いたら、まだ少し遠い一角にちらっと建物が見えた。

もっとよく見ようと立ち上がった夕鈴。
大きな溝に足を取られたのか…急に傾く馬車に夕鈴は平行感覚を失い、膝をつく。そのまま尻餅をつきそうになった夕鈴の体を陛下が支えた。


「すみません」

陛下の腕に支えられて立ち上がった夕鈴は、もう一度周囲を見渡す。
目前に続くのはどこまでも広い草原、そしてその草原の中に浮かぶように、確かに白光りする建物が見えた。


「あれが…」

「そう。離宮、彩翠殿だ」

陛下が答えた。

夕鈴たちが進む前方にそびえるようにして建つのは、白陽国離宮彩翠殿。

狼陛下の花嫁バイトを始めてから久しぶりの休暇に、夕鈴はもちろん同行する陛下の表情も明るい。
今日より数日間、離宮で過ごすことになっていた。

草原が運ぶ風に、夕鈴の長い髪がなびく。軽快なリズムを奏でるかのように揺れる馬のたてがみ。そしてまぶしい日差しの下、嬉しそうに笑う陛下の顔。

夕鈴は自然と笑顔を浮かべた。まだ辿り着かぬ離宮を前に、わくわくと心が弾む。


「夕鈴、嬉しそうだね」

「陛下こそ…」

夕鈴は答えて、クスリと笑った。子どものように目を輝かせて話す陛下の顔、久しぶりに見た気がする。

王としてのがんじがらめの生活からほんの少しの解放。
夕鈴の休暇獲得のために、あの鬼上司を説得してくれた陛下に恩返しするためにも、私以上に楽しんでもらわないと…。


「休暇、楽しみましょうね」

つかの間の休暇。がんばって働いた分以上にがんばって楽しまないとね。


「うん!じゃあ急ごうか」

「え?」

尋ねる暇もなく、ガタンと音が響く。響いた途端にぐらりと車体が揺れたので、夕鈴は慌てて陛下の着物の袂を掴んだ。

え…ちょっと。嫌な予感。


「飛ばすよ!」

陛下の掛け声で、風を受けて猛烈なスピードで馬が走り出した。
ひずめが草原を駆ける音に混じって、陛下の持つたずながしなる音が聞こえた。

急に走り出す馬車に夕鈴は叫び声をあげる。と同時に、臣下たちも慌てふためき叫ぶが、雑音にかき消されて陛下の耳には届かない。
夕鈴はなすすべもなく、振り落とされないようにただ陛下の袂を力いっぱい握ることしか出来なかった。


嫌な予感が的中してしまった。
やっぱり…陛下に振り回されてばかり。臣下たちも苦労するわね。

ふたりを乗せた馬車を慌てて追う臣下たちの姿を後方に捉えて、夕鈴はなんだか申し訳ない気持ちいっぱいで溜め息を吐いた。

















「あぁ…いい天気だね。夕鈴、どうしたの?そんな渋い顔して…」

「何しれっと質問してるんですか?陛下、いい加減にしてください」

夕鈴は深く息を吐くと、陛下の顔を真正面から見つめた。
夕鈴の大きな瞳に映る陛下の姿は、すこぶるご機嫌で、鼻歌でも聞こえてきそうだ。


「ごめんね。久しぶりに夕鈴と一緒に過ごす休暇だから、早く行きたくて…」

なんて甘い表情で答える子犬陛下。途端に夕鈴の怒りの心がしぼみそうになるが、ここはぐっと我慢。流されてしまってはいつもと同じ。


「後ろを付いてくる臣下の身にもなってください。急に走り出したら危ないでしょう」

夕鈴は馬車の上での体験を思い出し、少し寒くなった。あんなにスピードを上げられたらさすがに恐い。ただでさえ庶民には、馬車なんて乗り慣れていないというのに。


「だって…誰にも邪魔されたくなかったから」

はっと気づくと陛下の腕が腰に回されていて、夕鈴は慌てて陛下を見上げた。
子犬の瞳が意地悪そうに輝いている。

夕鈴は腕を解こうと奮闘するが、がっちり回された逞しい腕は、てこでも動きそうにない。

広い離宮の中央に設けられた庭園。その庭園の一角にある四阿の中にふたりは居た。
もちろん人払いは済まされている。


「は、離してください」

「そんな赤い顔して…私を誘っているのか?」

なんだか以前にも聞いたことあるようなセリフだ。耳元で囁かれた声に、夕鈴の身がぞくりと震えた。

なんで狼陛下なの?


「そんなわけないじゃないですか!」

「ひどいな…夕鈴」

ひどいのはどっちだ。


「誰も見てないのに…夫婦演技しないでください!」

それでなくても私は休暇中なのに…ぶつぶつと夕鈴が文句を呟く。


「誰かが見ていたらいいのか?」

「違います!」

もーこれじゃあきりがない。いつも以上にパワーアップして迫る狼に夕鈴はたじろぐ。王宮の外の方が、より狼の気配が濃くなるような気がするのは気のせいではないかもしれない。


真っ赤な顔で鼻息も荒く憤慨する夕鈴に、陛下の口元が緩んだかと思うと、突然笑い声をあげた。


「何笑ってるんですか!」

肩を小刻みに震わせて、必死にこみ上がる笑いを抑えようとしている陛下の様子に、かっと夕鈴の頭に血が登る。

もー怒った。今回ばかりは堪忍袋の尾も切れまくりよ。

怒りにまかせて立ち去ろうとする夕鈴を制するかのように、力強く手首を掴まれた。
夕鈴の行動をすぐに予想して阻もうとする狼の姿に、夕鈴の心に悔しさが込み上がる。

舌打ちでもして腕を振りほどきたいけれど、さすがにそれは出来ない。休暇中とはいえ仮にも妃、そんな野蛮なまねは許されていない。

いつまで経っても白星をつけられない相手との対戦も、そろそろ潮時なのかもしれないが、負けず嫌いの夕鈴には大人しく引き下がるなんてことは最初から選択肢にはなかった。

夕鈴は悔し涙を溜めた瞳で陛下を睨み付けた。


「ごめん、夕鈴。僕が悪かったよ」

夕鈴の鋭い視線とは対照的に、肩を下げてしょんぼり反省顔の陛下が呟く。
急に子犬に変貌した陛下に、夕鈴は肩透かしを食う。

そ…そんな顔したって無駄ですからね。
夕鈴は賢明に睨みを緩めることなく、陛下を見ていた。


「君と過ごす休暇が本当に嬉しくて。少し気が大きくなってしまったよ」

陛下の頭に子犬の耳が見えてきた。突如現れた幻覚に、夕鈴は動揺を隠せない。

いけない。これじゃあいつもと同じ。


「本当にごめんね、夕鈴。許してくれる?」

そっと手を伸ばして、陛下が夕鈴の涙をぬぐった。
ぬぐわれて消えていった涙と一緒に、夕鈴の中の怒りも収まってしまった。

やっぱり…私はどこまでも子犬陛下に弱い。

あぁ、情けない。それでも仕方ないと思ってしまうのは、陛下が見せるこの柔らかな笑顔のせいだ。


「ずるいですね」

「ごめんね」

ぺろりと舌を出して謝る陛下に、夕鈴は溜め息を吐いて笑い掛けた。

今日は休暇。休暇は楽しまないと。
開き直った夕鈴の脳裏にひとつの提案が浮かぶ。


「陛下、せっかくの休暇です。喧嘩はしたくないですよね」

「うん」

「だから、演技を禁止します」

「えーー」

「えーーじゃありませんよ。ここでは侍女はほとんど居ませんし、演技なしでも大丈夫ですよ」

これぞ良案。夕鈴は得意顔で拳を握り締める。対する陛下は、渋い顔で夕鈴の顔を見つめていた。


「演技なしの方がいろいろと肩の荷が下りますよ」

主に私が。夕鈴は最後の言葉は発言せずに、心の内に留めた。


「仕方ないな…」

しばらく駄々をこねていた陛下だったが、ようやく諦めたようだ。

深く嘆息すると、夕鈴から視線を外して離宮の景色を眺めた。

王所有の離宮の中で、最も古くもっとも美しいとされる彩翠殿。
噂どおり、なんと美しいこと。陛下と同じように景色を眺める夕鈴の瞳に、太陽の光を受けて輝く華奢な宮殿が映る。


「綺麗な離宮ですよね。ここに来るって言ったら侍女たちにとても羨ましがられました」

「侍女に?」

「はい。一緒に連れて行って欲しいとせがまれましたよ」

夕鈴は侍女たちとの会話を思い出して笑った。
いつもとは違う場所で、違う景色の中、のんびりと過ごしたいと願うのは、侍女たちも同じかもしれない。


「侍女がね…なるほど」

四阿を取り囲むようにして植えられた草木が、暖かい風を受けて揺れている。

ふたりの間、しばらく沈黙が流れた。

受け答えそっちのけで何かを一生懸命に考え込む陛下に、夕鈴は疑問を浮かべ覗き込む。


「陛下、どうかなさいましたか?」

「夕鈴。僕からもひとつお願い事があるんだけど」

「?」








Ⅱへつづく。


00:20  |  離宮・王宮の外編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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