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2010.11.01 (Mon)

手紙Ⅱ

Ⅰのつづきです。















あの後は大変だった。

手紙を見て小躍りして喜びだす老師を諫めるのに随分と骨を折った。

さらには、定期報告と一緒に寄越さないで欲しい…などとぶつくさ文句を連発する陰険めがねをなだめるのも大変だった。

結局夕鈴が手紙を紐解いたのは日もすっかり沈んだ夜。眠る前の寝台であった。

人払いの済んだ妃の寝室。
さっそく夕鈴は陛下からの手紙を読んだ。


「えーと、なになに。夕鈴、手紙ありがとう。元気にしてる?」

陛下の達筆な文字を目で追う。


『王宮から丸二日かけて、僕は今日目的地に到着した。手紙を受け取ったのはちょうど今朝のこと。思いがけない君からの手紙、本当に嬉しかったよ。』

「……」

『嬉しかった』の文字に赤面する。

陛下への手紙は、結局何を書いてよいか分からず当たり障りのない文章になってしまった。そんな手紙に律儀にも返事を書いてくれる陛下に、夕鈴は申し訳ない気持ちになる。


『こちらは王宮に比べると随分と寒い。だが、そのぶん星はとても綺麗だ。いつか君と見た離宮の星空のように、美しく輝いている。』

夕鈴は離宮の庭園で見上げた星空を思い浮かべる。星たちの瞬き、ただ眩しかった記憶が蘇る。

あの夜、陛下とふたり星空の下、手を握り合って…。
途端に熱くなる頬を、夕鈴は押さえた。

もぅ、何考えてるのよ!私。


意志とは無関係に跳ね上がる鼓動。最近は特にドキドキが収まらなくなって困っていた。

陛下の甘い笑顔を見るたび、胸が痛くて堪らなくない。
ぎゅっと大きく締め付けられたかと思ったら、ちくちくとまるで棘が刺すかのように小さな痛みが持続する。

こんな風に痛むのはきっとまたまだ修行が足りないせいね…。

夕鈴は深く息を吐いて、手紙を読み進めた。


『視察地はどこも豊かで美しい。滞在宮も綺麗だし、いつか君と一緒に来てもいいかな。きっと気に入ると思うよ。』

「ふ~ん。そんなに綺麗なんだ…」

生まれた時から王都より離れたことのない夕鈴にとって、遠く離れた東の地は全く想像出来ない。


『でもなかなか仕事に力が入らないよ…君が居ないから。』

だから、私が居ても居なくてもあなたの仕事量は変わらないでしょう。
聞きなれたセリフに、夕鈴はくすりと笑った。


『五日間がとても長く感じられるよ。やっぱり、君も連れて来れば良かったね。』

何を勝手なことを…。


『早く、君に逢いたい…夕鈴。』

「!?」


ガタン!!!

妃の部屋に激音がひとつ。その後すぐに大きな振動が伝わった。あまりにも大きすぎた振動に、部屋の空気が揺れる。


「……っつ。い、たたた…」

しばらく経った後、夕鈴の悲痛の声が静かな室内に響いた。痛みで閉じていた目をそっと開くと、寝台のそばにあった小椅子の足が見えた。まばたきをしてもう一度見開いた目には、妃の部屋の広い床が見えた。

夕鈴は腰をさすりながら、そろそろと体を持ち上げる。

あぁ…なんてこと。寝台から落ちてしまった。
夕鈴の瞳にじわりと涙が滲む。


「痛いわ…」


「お妃さま!」

バタバタと駆け寄るのは侍女たち。その顔は真っ青だった。


「賊ですか!?お妃さま」

「い、いいえ…何でもないわ」

夕鈴は慌てて腰を上げると、心配顔の侍女に笑顔を向けた。


「ごめんなさい。ちょっと…寝台から」

落ちちゃって…ぼそりと小さな声で夕鈴は答える。


「大丈夫でございましょうか?」

「腰を打ちました」

う…恥ずかしい。
でもものすごく痛いので正直に言うしかない。


「大変!すぐに侍医を呼んで参ります」

足早に去って行く侍女の後ろ姿を見送りながら、夕鈴は深く深く溜め息をついた。


「……」

動揺して慌ててすべって…寝台から落ちるなんて。子どもか、私は。


夕鈴はそばに落ちていた手紙にそっと手を伸ばす。
指先から、まるで電流が流れたかのように熱い刺激が伝わる。

この刺激は陛下が与えたもの。


『早く、君に逢いたい…夕鈴。』

手紙に書かれた最後の文字を目で追う。


逢いたい…だなんて、勘違いさせないで。

夕鈴は顔を覆うとそっと目を伏せた。





陛下が帰られるまで、あと二日。

















「どこの後宮に、寝台から落ちる妃が居るんですか!」

朝から響く李順の怒声。夕鈴はただ低姿勢で、落ちる寸前の雷に必死で耐えていた。

侍医から処方された痛み止めの薬を飲んでいても、李順の怒りの声が傷に響く。それぐらい今朝の彼は怒っていた。


「あなたには自覚が足りない。陛下がご不在であるからこそ、いつも以上に気を引き締めていなければならないというのに…」

「すみません」

夕鈴は肩を落として謝罪した。
どんな理由があったにしろ、落ちたのは事実。今はただ素直にお説教を聞くだけ。


「まったく…。ただでさえ陛下はいろいろと心労が絶えないのですから、これ以上陛下の心配を増やすような真似はなさらないでいただきたい」

李順ははぁ…と息を吐くと、煩わし気にめがねに手を添えてかけ直した。


「本当にすみません」

ただひたすら謝るのみ。情けない気持ちいっぱいで、夕鈴は頭を下げた。


「よろしい。では業務に戻ってください。といっても今日は一日安静にするように…と聞いていますので、これを…」

李順が一冊の分厚い本を差し出した。顔を上げた夕鈴は、その本に疑問の目を向ける。


「わが国の史書です。これを読んで勉強なさってください」

「……はい」

勉強ははっきり言って苦手だけど、仕方ない。夕鈴は不満を顔に表さず、差し出された本を手に取った。


「それでは」

「あっ李順さん」

夕鈴は立ち去ろうとする李順を呼び止めた。


「このこと、陛下には言わないでください…」

精一杯笑顔を浮かべて夕鈴は懇願した。笑顔がはりついていたが、気にしない。


「……よいでしょう。ただ、あなたの演技力ではすぐにバレてしまいます。陛下が帰られるまでに完治しておいてくださいよ」

李順はそう捨てセリフを吐きつつ、終始不機嫌な顔のまま、踵を返して妃の部屋を後にした。




誰も居なくなった部屋。

夕鈴は、大きな溜め息とともに机に突っ伏した。

うんと手を前に伸ばすと、強打した腰の痛みが体に染みる。
夕鈴は一瞬だけ眉間にしわを寄せて、手を引っ込めた。

夕鈴は痛みの伝わらない体勢をそっと作ると、机の上に重ねた手の甲に額をくっつける。


自業自得なんだけど、それにしても…昨日からひどい一日だった。
それもこれも全部、陛下の紛らわしい手紙のせい。


「どーしてあんな手紙を書いてくるのよ!」


顔を横に向けると、さきほど李順から渡された分厚い本が目に入った。
『白陽国史』とタイトルのつけられた文字を目で追うと、また夕鈴は溜め息を漏らした。


「君に逢いたい……か」

ぼそり…夕鈴の声がじわりと頭を覆う。
陛下はどんな思いで、あの手紙を書いたのかしら…。夕鈴は目を閉じる。

からかうにしても、たちが悪い。
上手い冗談ね…そう笑い飛ばせるほど、まだ私は狼陛下に慣れていない。

陛下がもたらす甘い刺激も苦い刺激も、そして痛い刺激も全部、まだまだ慣れない。


王様ってやっぱり自由な人間だと思う。たぶん私以外にも、同じセリフを言ってるのね。

ちくり…と胸を刺す痛みは夢か現実か。

私とは違う誰かに、逢いたいと言う陛下の姿を想像する。途端に目頭が熱くなった。

いつも私は陛下に振り回されてばかり。

どうしてこんなに……胸が痛むの。どうしてこんなに……涙が出るの。

夕鈴の脳裏に浮かんだのは、甘い陛下の表情。
いつも私だけに見せる特別な顔。私しか知らない、私だけが独り占めできる。

だから…。
今はただ、仮でもいいから私だけに。

『早く、君に逢いたい…夕鈴。』



「……わたし…も……」

夕鈴ははっとして起き上がる。
同時に開けた瞳に、格子窓から、すっかり高くなった日の光が飛び込んだ。どうやら、机に顔を伏せた状態のまま、一定時間経過していたようである。


「私…今、何か言った?」

夕鈴は口を押さえる。
何か分からないけど、言ってはならないこと言ったような…そんな気がするのは。


「……」

熱く蒸気する顔。どくどくと逆流する血液が、夕鈴の体温を上げる。
跳ねる心臓を押さえ深呼吸すると、少しだけ呼吸が整った。

そっと体を動かしたとき、夕鈴の腰に鈍い痛みが伝わった。

この痛みは私を現実へと連れ戻してしまう。だから。


夕鈴は目を閉じた。また元通り、手の甲に額をくっつける。


「きっと、夢を見ていたのね」

そう、今のはきっと夢の中のこと。

夢の中でなら何度でも言える。



「わたしも…逢いたい」



陛下が帰られるまで、あと一日。

あと一日待てば、陛下に逢える。


次第に途切れる意識の中で、夕鈴は笑顔を浮かべた。









二次小説29弾完
今回は、陛下の登場なしです。最初の夕鈴の振り返りの中に、ちょっと出演したのみです。
あえて陛下を登場させずに小説を書きたかったのですが、ふたりの甘い絡み合いを期待された方はごめんなさい。

夕鈴と陛下の初の手紙やりとり。とても書きたかったので満足。
せつないですね~恋ですね~(笑)
ミケはこういうキュンとくる感じが大好きです。これぞ少女漫画の王道ですね



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