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2010.11.08 (Mon)

宵宮の妃Ⅰ

「宵宮の妃」

原作とはちょっと違う陛下をお楽しみください(笑)
陛下目線で少し長め。

ではどうぞ。















「本日はこれまでです。お疲れ様でした…」

業務の終了を告げる声が聞こえ、僕はほっと息をついた。相変わらず陶器のように機械的な声。だが、そんな声でも疲れがピークに達していた僕には、不思議と優しく聞こえた。


「ご苦労」

一言だけ呟いて、僕は側近である李順の顔を一瞥した。

「やっと妃の元へ帰れるな…」

僕の呟きなど素知らぬ顔で、李順が机の上に大量に並べられた書巻の束を片付け始めた。その隣の小机には未だ未処理の書類の山。


「こんな夜中にお妃の元へ行くつもりですか?もうお休みになられていると思いますけど」

「……」

僕は三日月の架かる夜空を窓越しに眺めた。
激務で気づかなかったが、どうやら夜はすっかり更けているようだ。この刻ならば、僕の妃は眠っているかもしれない…。だが。


「夕鈴の顔を見ないと、元気が出ない」

「だからといって、夜中に押し掛けるのはあまりお勧めできませんね」

神経質な表情を浮かべ、李順は冷たく言葉を吐いた。


「なぜだ?夕鈴は私の妃だ。いつ何時訪れようとも問題ないはずだろう」

「仮の妃です。その点お忘れ無く」

どこまでも芸のない男だ。僕は聞こえよがしに深く溜め息を吐いた。僕の溜め息に眉根を寄せて、李順が訝し気な視線を寄越して来たが、僕は完全に無視した。


「とにかく。今の仕事が一段落つきましたら、夕鈴殿と自由にお過ごしいただいて結構です。あくまでも、この仕事が終われば…ですが」

李順は、書類の山を指差しながら答えた。


「なるほど。ではこの仕事が一段落つけば夕鈴と遠出することにしよう」

また離宮で休暇もいいな…僕はふいに呟くと、離宮での思い出を辿った。つい先日のことなのに、ずっと以前のことのように感じられるのは、やはり夕鈴と過ごす時間を渇望しているからであろうか。


「離宮はやめてください」

「なぜだ。夕鈴ももう一度行きたがっていたのに?」

「騙されて連れていかれたと憤慨されていらしゃいましたが…」

「……」

李順の言っていることに間違いはない。伝説の離宮で夕鈴と星を見たいがために、あの手この手で言いくるめて、離宮まで無理矢理連れて行ったのは事実。


「きっと照れているんだろう」

「はぁ…」

僕は呆れ顔の李順には目もくれず、いそいそと妃の部屋へ向かう準備を始めた。


「本当に行かれるんですか?」

「むろん」

このわだかまり、取り去る術はもう夕鈴しか居ない。どんなに止められても、向かう足は止まらない。
当然とばかりに言い放つ僕の姿に、李順はそれ以上何も言うことはなかった。

いくら止めても無駄だと諦めたんだろう。まぁ、その諦めは賢明だな。

たった今、雲に遮られて光を失った天を仰ぎながら、僕は足早に妃の元へ向かった。














李順の言葉通り、夜も更けて訪れた妃の部屋の家主は、すでに眠ってしまった後のようであった。

すっかり灯が落とされた部屋の前回廊を通り過ぎるとき、夜勤兵が不思議そうにこちらを眺めていたし、いつも居るはずの妃付の女官もすでにこの日の業務は終了しているようで見当たらなかったから。

僕は夜勤兵を目端に捉えながら、人気のなくなった回廊から妃の部屋へと進む。


「夕鈴?」

念のため暗い室内に小さく声を掛けるが、やはり誰からも返答はなかった。

残念だ。笑顔で迎えてくれることを若干期待して来てみたが、遅かったな。

僕は寝室へと歩みを進めるが、その途中ではたと止まった。いつも敏感に感じている夕鈴の気配、今宵は寝台からは感じられなかった。


「?」

僕は周囲を見渡した。
すっかり今日という日の活動をやめてしまった夕鈴は、なぜか長椅子の上で熟睡していた。近くまで寄ったとき、安らかに流れる寝息が聞こえた。その寝息と同じように上下する夕鈴の体には、ふとんは掛けられていない。


「なんで長椅子?」

長椅子の横に立ち、夕鈴を見下ろす。まさか…寝台に着く前に、睡魔に負けて力尽きたわけではあるまい。
僕は片膝をつくと、夕鈴の顔を覗き込んだ。幸せそうな寝顔、見ているだけでこっちも柔らかい気持ちになるから不思議だ。

僕は我慢出来ずに手を伸ばす。柔らかな頬に触れ、乾いた唇をなぞる。白い首筋にも手を添わせ、暖かに刻む胸の上に手を重ねた。


「……」

これほど無防備な君。簡単に手で触れることが出来るのに、君と僕との間の距離感はまだまだ簡単にはいかないなんて…神様もむごいことをする。

僕は深く嘆息した。抑え込んでいた自らの炎、どうやら狩り立ててしまったようだ。
今夜は、そんなつもりで来たわけではないのに。


「やはり…眠っている君の姿は、目に毒だな」

薄暗闇に響く声。飢えた獣よりも貪欲に発する声音に、僕の心は震えた。

もし、夕鈴が本物の妃なら、僕はこうしては居ない。
目の前にさらけ出された白い肉体を前に、指をくわえて見ているわけがない。

僕の欲望は留まることを知らず。たとえ愛しい者の睡眠を妨げることになろうとも、激しく求めることは必然。

もし、夕鈴が本物の妃ならば、恥ずかしそうに俯くその顔に唇を寄せて、毎夜白い肌に溺れるだろう。
もし、夕鈴が本物の妃ならば、毎夜彼女の身体を余すことなく包み、身体中に赤い花を咲かせたい。

もうきっと離さない。



行き過ぎた思考に顔が熱く火照ってきた。

どうにも彼女を前にすると、本能が押さえきれなくなる。それが恐ろしい。
出逢ったときそのままに清らかさを讃えるその澄んだ心、出来れば美しいままに僕のそばにあって欲しい。

僕が望むのは、ありのままの君自身だから。



僕は彼女を起こさないようにそっと抱き上げた。心地よい重みに自然と顔がほころぶ。


「部屋まで連れて行こう」

暗闇に響く声音は誰よりも何よりも優しく耳に届いて、僕は驚く。
自分の声がこれほどに柔らかいなんて…初めて知った。

君というかけがえのない存在に出逢えたことが、君との出逢いが僕を変えたことが、嬉しくて仕方なくて、飛び跳ねたいほど心躍る事実が、本当に愛おしい。
夕鈴、君が本当に愛おしくて堪らない。

とめどなく溢れる君への気持ち。時には苦しさや切なささえもたらすこの気持ち。
解放するのも満たすのも君次第。



もどかしいな……あぁ……早く。

君が欲しい。

寝台に横たわる目を閉じた君に囁く。

身も心もすべて…僕だけのものに。
毎夜心に願うのは君の姿。

素直に身を預ける君を夢に描いて…どうしようもなくなって目覚める夜を何度繰り返しているのか、君は知っているだろうか。
夢の中の君は、僕の口付けに甘い吐息を漏らし、僕の愛撫にもっと欲しいと懇願する。
僕が求める君の姿はいつも夢の中だけ。

望めば何もかも手にする力を得ながらも、一番望む君は、どんなに願っても手に入らない。
手に入らないからこそ、これほど望むのだろうか。


僕は夕鈴の細い前髪をそっとかきあげて額に口付けた。閉じられた瞳の上、まぶたにも唇を押し当てて、最後に頬に口付けた。
眠っている君に出来るのはここまで。


「続きは夢の中か…」

僕は苦笑した。

また今夜も眠れそうにない。
君への気持ちに気づいてから、寝不足が当たり前になってきた。それでも、君のそばに近づくことをやめるつもりはさらさらない。
甘美な君から視線を反らすなんて出来ない。

だから、今夜はもう少しだけ…君の可愛い寝姿を見ておこう。

荒くなった呼吸を整えながら、僕は寝台の端に腰掛けた。





Ⅱへつづく。

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