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2010.11.08 (Mon)

宵宮の妃Ⅱ

Ⅰのつづきです。






朝に鳴く鳥たちの甲高いさえずりで、僕は目覚めた。
さっき眠ったばかりなので、体の疲れはほとんど取れていないが、今日もまた新たな一日が始まろうとしている。軽くしびれる体を奮い起こして、僕は長椅子から起き上がった。どうやら妃は随分と早く起床していたようだ。確かめた寝台にはすっかりとぬくもりが消えていた。


「夕鈴…おはよう…」

僕は伸びをして、居間に居る夕鈴に挨拶した。


「おはようございます。陛下」

夕鈴は朝から爽やかな笑顔で僕に近づいて来た。

朝日を受けて夕鈴の薄茶の髪が輝いている。夕鈴にはやはり、日差しの中が一番合うな…などと考えながら、僕は彼女の髪に触れた。
途端に、何ですか?と疑問の目を向ける夕鈴。その表情はいかにも怪訝そうで、僕は心の中溜め息を吐く。
夕鈴がつれないのは今さらだが、僕にばかり思わせてしまうなんて、なんとズルいことか。


「朝から意地悪はなしですよ」

「うん、ごめん」

僕は素直に謝った。今はただ、笑顔だけを見ていたい。


「お茶、お入れしましょうか?」

「うん」

僕は椅子に腰掛けて、せっせとお茶を入れる用意をし出す夕鈴の横顔を眺めた。

朝見る夕鈴は、清らかさと愛らしさが倍増している。

昨夜の愚かしい僕の妄想を思うと、多少良心が痛むが…気にしたところで仕方ない。
僕は開き直って、夕鈴の柔らかい頬に口付けた感触を思い出していた。


「今朝はいつもより遅いですね」

「ちょっと寝不足で…」

僕は控えめに答えた。心配症な夕鈴に心配を掛けたくないから笑顔を添えて。
寝不足の要因は君だけど、夕鈴に責任はまったくないので心配をかけてはいけない。


「大丈夫ですか?」

思惑とは裏腹に、瞳に心配の色を濃くした夕鈴が僕にお茶を差し出しながら尋ねる。

「全然大丈夫」

むしろ嬉しい寝不足だ。僕は笑い飛ばした。


「陛下…寝不足にはゆっくりお風呂に浸かって半身浴がいいそうですよ。あと、眠る前に温かい白湯を飲むのもオススメです」

「……」

風呂に白湯。
拳を握り締めて揚々と語る夕鈴に、じわじわと笑いがこみ上げる。


「あと寝る前に簡単に体を動かすと疲れて眠れるとか……って、何笑ってるんですか?」

しまった。必死にこらえていたがバレたか。

怒る一歩手前の夕鈴の表情に、僕は慌てて取り繕う。
内容はどうであれ、僕を思って言ってくれているのに笑ってしまうなんて失礼だ…。

でも。
やっぱり、なんて面白い。

僕は含み笑いが我慢出来ずに声を上げた。

十七歳のうら若き乙女が、半身浴だの白湯だの…。
もし、夕鈴が僕の妹ならもう少し女っぽい事を言うように指導するかもしれないな。まぁ夕鈴を妹だなんて、さらさら思ってないけど。

僕は息を整え立ち上がった。
急に立ち上がる王様の姿を、夕鈴は不思議そうに眺めていた。


「寝る前に体を動かすって…どうやればいい?」

僕は尋ねる。


「え?なんでも…。ちょっとした軽い運動でも効果があるそうですけど…」

けど…何だ?
その言葉の続きを言いたかったけど、突如現れた狼に口をつぐんだというところか。僕は分かりやすい夕鈴の態度に笑みを浮かべた。


「寝る前の運動なんて…ひとつしかないな」

僕は夕鈴の手に触れて、間髪入れずに指をからめた。

こんなにも簡単に捕らえられる君。なのに、その純粋な心はまだ捕らえられないか…。やはり、手強いな。

僕の行為に頬を赤らめる夕鈴。
さらには僕が発言した内容の意味が分かったようで、夕鈴の顔は耳まで真っ赤に染まっていた。


「夕鈴。私の寝不足…君が一緒に解消してくれると嬉しいが」

「一緒にって……え!?」僕は固まる夕鈴の後ろにまわり、背後からギュッと抱き締めた。震える鼓動が今にも聞こえてきそうだが、手を緩めることはない。夕鈴の背から伝わる温もりを体中に巡らせたいから。


「愛しい花嫁よ」

「ちょっ…陛下!」

じたばたともがく夕鈴。激しい抵抗も、最近では心地よくなって来た。


「こうしていると、眠れそうだ…」

「い、今は朝ですよ!狼陛下!」

夕鈴の怒鳴り声が響く。


「寝不足なんだ…」

「知りません!」

もー離してください!可愛い夕鈴の怒声が鳴り止まぬうちに、妃の部屋を訪れる誰かの気配を感じ、僕は視線を向けた。


「邪魔がきた…」

ぼそりと呟いて、僕は夕鈴を拘束していた腕を解いた。


「何の用だ?」

不機嫌を露わにして僕は尋ねる。戸口に立ちこちらを見つめている、僕以上に不機嫌な顔の側近に。
その声で、夕鈴も僕たち以外の存在に気付いて、激しく動かしていた手足を止めた。


「り…李順さん」

夕鈴の顔から血の気がひく音が聞こえてきそうだ。それでも、夕鈴と過ごす朝の貴重な時間を邪魔されたことに憤慨していた僕は、夕鈴から腕をはずすことなく側近を睨み付けた。


「朝から申し訳ありません。陛下に火急の案件があります」

「……私は今、起きたところだ」

「はい。すぐに政務室へお越しください」

李順は僕の返答などおかまいなしに続けた。あらかた予想出来た答えに、優秀な側近の態度がひるむことはない。


「妃との逢瀬を邪魔するなんて…無粋な真似をする」

「本物のお妃じゃないでしょう。朝から不機嫌なのは分かりますが、お越しください」

李順はめがねを指先で押すと、まだ抱き合ったままの僕たち(まぁ僕が一方的に夕鈴を抱きしめているんだけど…)に近寄って来た。

夕鈴は相変わらず固まったまま、僕と李順に挟まれ息苦しそうだ。
もう少し腕を解こうかな…。解いたところで息苦しさから解放されるとは思えないが。


「あの…陛下は寝不足なんです」

「だから何です?」

夕鈴の遠慮がちに響く呟きに、すかさず耳ざとい李順が眉間にしわを寄せて聞き返して来た。

無理だ…夕鈴。喧嘩をする相手が悪い。君と李順じゃ場数が違いすぎる。そんな風に考えながら、それでも懸命に陰険めがねに刃向かおうとする夕鈴の横顔を眺めた。
いつも、どんなときも僕の味方でいてくれるのは、夕鈴、君だけだ。


「仕方ないな…」

これ以上は夕鈴が可哀相だ。
それに…そろそろ寵妃を解放してあげないと、この側近が怒り出すかもしれない。愛しい妃にとばっちりは受けさせたくはない。
僕の溜め息混じりの言葉に、李順が軽く拝礼した。


「陛下…」

上目遣いの夕鈴が、大きな瞳で僕を見つめる。なんて甘い視線…と顔を緩ませている場合ではない。

「大丈夫だよ、夕鈴。エネルギー補給もばっちりしたしね。僕の栄養源はやっぱり夕鈴だなぁ…」

「え?」

「こっちの話」

僕はあどけない笑顔を作って夕鈴に笑い掛けた。




















後日。


「夕鈴、どうしたの?そんな赤い目をして…」

本物の兎同然に赤い目の夕鈴に尋ねる。


「あっ……ちょっと寝不足で」

照れ笑いを浮かべて答える夕鈴に向かって、僕は両手を広げる。


「……何です?」

しばらく思案顔で僕を見つめていた夕鈴が声を出した。


「寝不足なんでしょ?一緒に解消してあげるよ」

「はい?」

「だから、抱き締めて眠ってあげるよ」

「………………まったく必要ありません。お気持ちだけいただきます」

「……」

やっぱりそうは上手くいかないか…。
僕は内心で予想しながらも、それでもチクリと胸を刺す痛みに、眉をしかめた。

「じゃあ運動する?」

「な!?結構です!!」

大声を上げた夕鈴が立ち上がる。向かう先は出口のようだ。
さすがに、夕鈴の堪忍袋の緒も切れたのかな…。

怒り心頭。文字通り、頭の上まで怒りの昇った夕鈴は、一目散に出口に駆けると勢いよく飛び出していった。


あ~あ。またやってしまった。
しかし…やっぱり夕鈴って面白い。去り際の夕鈴のふくれっ面を思い出し、僕はくすりと笑った。

夕鈴に好かれる回数よりも、怒られる回数の方が最近では多いかもしれない。このままいくと、本当に嫌われてしまうな。
自らの考えに激しく危機感を感じた僕は、顔を上げて一点に視線を向けた。まるで脱兎のごとく逃げるように出ていった扉の方へ。


とりあえず…謝らないことには、許してくれそうにないな。嫌われる前に謝ってしまおう。


僕は慌てて走り出す。

僕の愛しい花嫁、夕鈴に向かって。










二次小説第30弾完了です
陛下、性格が変わりまくってますが、大丈夫でしたか?原作のほわわんな子犬陛下がまったく見る影なしです!
イメージ崩れた方はごめんなさい。王様の定番、わがままで傲慢でしかもバカな陛下が書きたかったので。
セクハラが謝って許してもらえるわけないでしょうが…陛下。もし、原作の陛下がミケの描くワンマン陛下なら、夕鈴は大ピンチですね~いろんな意味で(笑)

早いもので30話目なんですね。感動を噛み締めております。30話記念ということで、ちょっと陛下を暴走させてみたらこんなことに……。次回からは軌道修正しますか。


00:41  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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