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2010.07.26 (Mon)

花嫁の憂鬱

「花嫁の憂鬱」


今度は夕鈴視点です。
こちらもちょっと長いですが、お付き合いください。


ではどうぞ







「いい加減にしなさい。あなたにつべこべ言われる謂れはありません」

政務室に隣接した書庫で、私は大きな声を上げた。

「目についたことを言ったまでのこと。あまりにも妃らしくないゆえ」

じろり、と私を睨んで来たのは狼陛下の臨時補佐官、柳方淵。

この男…
私は叫びたい衝動を必死で抑え、目の前に慇懃に立ちはだかる若い官吏の顔を見つめた。
私への視線は、昔に比べると少し和らいでいたが、妃に対する横柄な態度はまったく改善されていない。

最近、妃というか、私個人に何か恨みでもあるのではないか…と思うことがある。それだけこの男の私への態度は失礼だと感じることが常であった。

「だからあなたに言われる筋合はありません」

「陛下に仕える個人として申し上げた。あなたの振る舞いは妃ではなく、まるで、例えるなら…庶民のようだ。」

庶民と言われて、どきっとした。やっぱりこの男は侮れない。

鋭いわね…。私は内心の動揺を隠しきれずに方淵の目線を避けた。なんだか気分が落ち込んでしまい反撃する気になれない。

「あなたの言いたいことは分りました」

「妃の勝手な振る舞いは陛下の威光に傷をつける。手始めにそのがさつな振る舞いを改めてみてはどうか」

おとなしくなった私とは対照的に、方淵の口調はさらに激しさを増す。

黙っていれば、言いたいことを…。
私は返事の代わりに、冷たく一瞥してからその場を立ち去った。

何も言えなかったことに悔しさを感じたが、反論すればそれこそ方淵の思うつぼだ。滑るように出てくる嫌味はとどまることを知らず…、妃のなんたるかをえらそうに語り出すかもしれない。

それだけは絶対に避けなければならない。自らのためにここは我慢しなくてはいけないのだ。

我慢も妃らしさのひとつだ…。
私は怒りをぐっとこらえて、書庫を後にした。



空はきれいに晴れ渡っていたが、私の心はどんよりと曇り空だった。
午後の穏やかな日差しにいくぶん気分が晴れたが、政務室に向かう私の足取りは重たかった。

またあの男と顔を合わせなければならないなんて…。

「やっぱり…政務室通いは気が重いわ」

ふうっと大きくため息をついて、私は四阿の椅子に腰かけた。なんとなく真っ直ぐ政務室に行きたくない気分で立ち寄ったのだった。

「がさつ…ですって!本当に失礼な男」

私はさきほどまでのやり取りを思い出し、眉間にしわを寄せて呟いた。

大体女性に対して、仮にも妃に対しての物言いとは思えない。私は偽物の妃だけど、この王宮ではあくまでも本物として通っている。方淵の中の私も立派な本物の妃のはずだ。そのはずなのだが…。

慇懃で無礼で失礼、ついでに言うとデリカシーがない。狼陛下に陶酔する様も、私にとっては不可思議でならない。

陛下に対して誠意を持って尽くすスタイルは私と変わらないが、根本的に違うと感じるのはやっぱり私が本物の妃ではないからだろうか…。

自ら望んで始めたわけではないが、臨時花嫁という事実が心に暗い影を落とす。

もし私が本物の妃であったなら、教養高く育ちのいいお嬢様であったなら、若い官吏の嫌味など簡単に受け流せる穏やかな性格であったなら…、とりとめのない考えばかりが心を支配する。


「……」
気分を落ち着かせるためにやって来た四阿だったが、逆効果だったようだ。侍女も侍官もいない場所でひとりになると、余計に思いだされてしまった。

「もーやだ!」

誰もいない場所だと知っていたので、思いっきり叫んだ。これぐらいの声量ならば王宮までは届かないだろう…。
などと考えていた矢先、ふいに名前を呼ばれてビクッと体が震えた。

「!?」

振り返った先にいたのは狼陛下、あらため子犬陛下だった。

「何がいやなの?ゆーりん?」

にこにこと可愛らしい笑顔を浮かべ、私へと近づいて来るのはこの国の王様。

「へ、陛下!」

私はあわてて立ち上がり、拝礼した。まさか、陛下に聞かれるなんて…、恥ずかしさで赤面する。

「政務室では?」

「あっちから夕鈴が見えて…、来ちゃった」

来ちゃったって…。
私は誰もいないのを知っていたが、もう一度周囲を見渡した。子犬な彼は誰にも見せてはいけないし、狼陛下は演技だとバレてはいけないから。

「大丈夫だよ」

クスっと笑いながら私が座っていた椅子の横に腰かけるその表情に、冷酷非情さは微塵もない。
あらためて、臣下の前での完璧な演技に感嘆するばかりであった。

「夕鈴も座ってよ」

「はあ…」

私は陛下の言葉に従いとなりに座る。子犬の陛下に言われては断れない。この表情にとことん弱いのだから。

「で、何がいやなの?」

「……いえ」

何と答えて良いか分らず口ごもる。横顔にまとわりつくような視線を感じて私は焦った。

「えっと…」

どうごまかそうかしら…

「もしかして方淵?」

う…鋭い。方淵といい陛下といい、なぜこんなにも鋭いのか。もしかして顔に出ているのかも。陛下の側近で、私のバイトの上司でもある李順にも、以前同じようなことを言われたことがあった。

「ち、違いますよ」

私と方淵のいざこざは、陛下の耳に入れてはいけないことになっている。
『王族たるもの、その心を占めるのは民草や政治のことであり、けっして臨時のしかも期間限定の花嫁のことではない!』とことあるごとに上司から言われていた。

脳裏にその神経質な声が今にも響いてきそうで、私は眉をしかめた。

「なんて言われたの?」

「いえ…ですから」

「夕鈴?」

陛下の視線がなんとなく狼陛下に切り替わるような予感がして、私はますます焦った。

「私に隠し事など、ゆるさない」

出た!狼陛下。
いつの間にか伸ばされた陛下の腕が私の腰をとらえた。陛下の視線を正面から受けて体が硬直する。

「隠し事なんて…」
してるけど…。役者よりも上手い演技に耐え切れず言葉が途切れた。顔が熱く鼓動が速い。

「夫に隠し事など、どうやら私を心配させたいらしいな」

「違います」

私は即答した。心配をかけたくないから黙っているのだ。

「君は嘘が苦手だな」

「嘘などついていないし、今演技は必要ありません」

私は“演技”という言葉を念のため小声でつぶやき、陛下の腕を思いっきりつっぱねたがビクともしなかった。

「傷ついた兎を癒すにはどうしたらいい?」

ゆっくりと顔を近づけて来る陛下。

私は全力で逃げ出したかったが、近くで誰が見ているか分らないためそうも出来ない。

真っ赤な顔で口をぱくぱくする様子に、陛下がぷっと笑った。

「夕鈴、面白い」

いつもの陛下に戻った。

「かっからかわないでください」

目頭が熱くなったと感じたら、案の定、涙がこぼれた。

「ごめん、ごめん、夕鈴」

陛下は腰にまわしていた腕を解き、私の頬に優しく触れた。

「君が心配なんだ…」

真剣な表情にドキッとする。演技だと分かっているのに、私はまだまだ未熟だ。

「はい」

頬に触れる手を解くことをあきらめ、私は素直にうなずいた。

この顔は…反則だわ。くるくると変わる陛下の表情に振り回されっぱなしだ。

「方淵のことは気にしないで。僕は君らしい君がいいんだから。言ったよね?」

陛下の満面の笑みが視界に入る。
いつの間にか止まった涙をぬぐい、私はうなずいた。

「じゃあ政務室に一緒に行こう。僕、夕鈴がいないとやる気でなくて…」

私がいてもいなくても陛下の仕事量は変わらないと思うが、それでもこの人が望むなら私はそれに従う。
たとえいやな相手と顔を合わせることになろうとも。



二人連れだって政務室へと戻った。

陛下のおかげで、私の足取りはずいぶん軽くなっていた。
途中、花の咲き乱れる中庭を通るころには、すっかりと気分が直り元の私に戻っていた。
最近実をつけた白い花に目をやると、思わず顔がほころぶ。

「君にはやっぱり笑顔が似合うよ。君にあんな顔させるなんて……しばらく方淵を外そうか」

私の渋い顔を思い出したのだろうか、陛下が言う。

「その必要はありません。職場の対人関係ぐらい…」

言いかけた私の腕を陛下がぐいっと引っ張った。急に傾いた体ともに視界が反転した。


「愛しい妃の憂いを取り除くのも夫の仕事だからな」

耳元でそっと囁かれて、鳥肌が立った。赤く染まる顔を押えながら、陛下を見上げると面白そうに笑っていた。

「だから演技はやめてください!」

「夕鈴、声、声。」

口元に人差し指を当てて陛下が合図する。苦笑する顔から困ったという様子は感じられなかった。

「もう知りません!」

笑いの止まらない様子の陛下を残し、中庭をずんずん横切った。後方から陛下が呼びかけていたが、わざと聞こえないふりをした。


「あぁ…」

陛下は浅くため息をついた。

いつもこのパターンだった。陛下がからかって、夕鈴が怒って、そして逃げ出して…。

「妃攻略にはずいぶんと時間がかかりそうだな…」

小さく呟いた陛下の言葉はもちろん夕鈴には聞こえない。

「夕鈴、……待て。夕鈴」

何度も名前を呼ばれ、私は仕方なく振り返った。

目に入るのは破顔した陛下の表情。
妃だけに見せる顔で、どこまでも甘く柔らかく笑うから…また顔が熱くなった。







二次小説第2弾完了です

柳方淵初登場☆相変わらず夕鈴とケンカしてますね。
彼のキャラは嫌いではないんですが、ついつい悪役にしてしまう。ごめんなさい(笑)

気に入っていただけましたら、拍手お願いします♪


15:54  |  夕鈴片思い編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

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