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2010.11.13 (Sat)

花の唄Ⅰ

花の唄

夕鈴は歌が下手、という空想に基づいて書いてます。
夕鈴目線で長文です。

ではどうぞ。












「なぜ歌わないといけないんですか?」

私の問いかけにすごく不機嫌に眉間にしわを寄せて睨みつける上司の姿を見て、夕鈴は深く嘆いた。
何か文句でも…?まるでそんな風に言いたげだ。
まったく、理不尽極まりないこと。夕鈴はため息をついた。


「ため息をついても同じですよ。これは上司命令です。何がなんでもあなたには歌ってもらいます」

鬼上司のめがねの奥が光ったように見えて、私はぞくりと身震いした。
怒ったときの側近の顔は、ときどき、あの狼陛下よりも怖いかもしれない。


「あの…正直に言いますが、私…歌下手くそですよ」

「それは考慮の上です。陛下主催の催しなんですから、唯一の妃であるあなたが歌わなくてどうするんですか?」

「かなりのお耳汚しかも…」

「考慮の上ですよ。これが曲です。伴奏はかの有名は二胡奏者の寧(ねい)先生が快く引き受けていただきました」

誰だ?それ。夕鈴は白い料紙に視線を移しながら顔をしかめる。宮中の有名人が庶民にも馴染みだと思ったら大間違いだ。曲が書かれた書巻をさっさと渡す李順を見ると、受け取ったらすぐにでも立ち去る様子だった。


「待ってください」

「まだ何か?私は忙しいんです。用件が済みましたら仕事に戻らなくてはなりません」

なんと勝手な言い草。夕鈴は、腕の中に書巻を押し付けようとする李順を軽く睨みつけた。
それに考慮の上…とは、最初から私の歌に期待はしていなかったということね。失礼しちゃう。でも、歌だけは…聞かせるわけにはいかない。


「私が歌うのは陛下にとっても、あまり良くないです。だって本当に下手なので」

「悪声が陛下の評判を落とすとでも?妃の歌声ひとつで評判が悪くなるほど、陛下の地位は揺らいではおりませんよ」

「そういう意味で言ったのではなく…」

「自信がないのならば練習してください。その為に高い金払って寧先生をお呼びしたのです。今回の催し、一体いくら出費することになるか、あなたはご存じですか?」

「存じません」

むしろ存じたくはない。借金問題に悩まされている夕鈴にとって、今一番耳に入れたくない話題だ。

結局、顔を膨らませてしゅんと肩を落とす夕鈴の姿を見ても、最後まで李順が優しい言葉をかけることはなかった。



国王陛下が貴族を招待して開く催し。
「青凱(せいがい)の宴」と名付けられたその催しは、近くここ白陽国で開かれることになっていた。
催しのメインはそれぞれの家に伝わる家唄の披露をすることで、歌の後には杯を交わしそのまま宴に続く。昔は仲の良い家族や親戚同士が集まり開かれていた催しだったが、いつごろからか上流貴族の間で定着し、王家では年に一度の恒例行事になっていた。

夕鈴は手渡された曲と歌詞を目で追いながら、とぼとぼと自室へと戻っていた。

あぁ、なんと気の重いこと。
歌は下手くそだと言ったが、特に卑下したわけではない。真実なのだから余計気が重い。昔から…歌にはいい思い出がなかった。王家主催の催しで披露しなければならないことを思うと、今にも逃げ出したいほどだ。

夕鈴の深いため息が聞こえたのだろうか、共に歩んでいた侍女が遠慮がちに声を掛けて来た。


「お妃さま。それは一体なんでございましょう?」

夕鈴が握りしめている料紙を見つめながら侍女が尋ねる。


「これは…」

夕鈴は戸惑いながらも、李順とのくだりを説明した。説明の途中から、みるみると侍女の表情が変わっていく。夕鈴は不思議に思いつつも、最後まで会話を続けた。


「………なので…少し気が重くて」

「素晴らしいですわ!」

「え?」

「いえ、気が重いのが素晴らしいのではなく。その…青凱の宴で歌われるのって、とても栄誉あることですわ。わたくし、誇らしく思っております!」

きらきらと瞳を輝かせて侍女が言う。夕鈴はその横顔をぼんやり眺めていた。
侍女にとって誇らしいことでも、私にとっては辱められるのも同然。音程がずれてバランスの悪い歌声を聞かされるほど、憂鬱なことはない。少なくとも私が聞く立場ならそう思う。


「ごめんなさい。私、とっても歌が下手で…とてもお聞かせできないの」

「まぁ…それは、忙しくなりますわね」

「え?」

今度は何なの?瞳を輝かす侍女とは対照的に渋い顔の夕鈴が尋ねる。


「今から猛練習ですわね。微力ながら、わたくしも協力させていただきますわ」

お妃さま付の侍女として、これほど名誉なことはございませんわ…侍女が答えた。


「……」

なぜそうなるのか。
たとえ決まったことであれ、一緒に嘆いて欲しくて話したのに。やっぱり育った環境の違う娘同士では、悩みの共有なんて出来ないのだろうか。

うきうきと弾むように語る侍女に、夕鈴はショックを受けてがっくりと肩を落とした。














「夕鈴、聞いたよ。歌うんだってね」

にこにこにこ、すっかりと狼の仮面を脱ぎ捨て、子犬陛下がお茶を飲みながら笑いかけた。
本日の政務も終了して、妃の部屋で妃が入れてくれたお茶を片手に語る陛下。その表情はなごやかすぎて、隣に居る夕鈴さえも思わず破顔してしまう。

だが、すぐに夕鈴は緩めた顔を元に戻して目を伏せた。


「どうしたの?ご機嫌ななめだね」

陛下が心配そうに夕鈴を覗き込む。
妃をいたわる優しい陛下の表情に、夕鈴の心にじわじわと浮かぶこと。……これだけはしたくなかったが最終手段。神頼みは出来ないが、陛下頼みならば出来る。

意を決した夕鈴は、顔をあげて陛下を見つめた。


「陛下。実はお願いがあります…」

「え、何?何?」

夕鈴の言葉に陛下の瞳が大きく見開かれた。子犬よりも子犬らしくしっぽを激しく振りながら、机の上に身を乗り出す様子に笑ってしまいそうになるが、これから言うお願い事を前に夕鈴の心は陰っていた。
夕鈴は曖昧な微笑みを浮かべ、口を開く。


「私、歌いたくないんです」

「………歌いたくない?なんで?」

明らかに不満気に答える陛下。期待していない夕鈴の“お願い”に、まるで子どものようにしょげかえる。


「すっごく下手なんですよ、歌」

夕鈴は頬を染めて言う。自分でも分かっていたことだが、改めて口に出すと恥ずかしい。夕鈴は、ぎゅっと拳に力を入れると、下手なんです…と再度呟いた。


「そんなこと…大丈夫だよ」

「いえ!私の歌声は、陛下の評判にも傷がつくほどです。本当にひどいので、妃の歌は取りやめにしてください」

「主催なのに?」

突如ひやりとした空気が流れたような気がしたが、夕鈴はあえて気に止めずに何度も頷いた。
これは最終手段。狼陛下を説得出来たならば、この悩みから解放される。夕鈴はとにかく必死に話す。


「すみません。李順さんにも歌えって言われたんですけど、やっぱり…無理だと思って。これは私の問題だけではなく、陛下のためにも、しいては白陽国のためにも歌わないほうがいいんです」

「……」

陛下はしばらく思案顔でこちらを見つめていた。何か言おうか迷っているというよりは、何か別のことを深く考え込んでいる様子だ。


「じゃあ、夕鈴、僕だけに歌ってよ」

「はい?」

「人前で披露するほど上手くないのかどうか、僕が聞いて判断するよ」

そうきたか。なんとなくそんなことを考えているんだろうなぁ…と思っていた夕鈴は冷静に対処する。こう言えばああ言う、陛下の怒涛の切り替えしは夕鈴には慣れていた。


「昔から…皆に下手だと言われ続けていたので、陛下の判断は必要なしです」

「僕は、自分の目で見て自分の耳で聞いたことしか信用しない」

拗ねたように口を尖らせる陛下。
次の瞬間には、腕を伸ばし、目にもとまらぬ早さで夕鈴の腰を捉えた。そば近く聞こえる陛下の声に、次第に硬直する体。夕鈴は両手に力を込めて押し退けようとしたが、やっぱりビクともしなかった。

あ~もう、また。油断も隙もない。お決まりのように頬を染めてじたばたと抵抗するも、まるで鋼のように力強い腕の前ではいっこうに歯が立たなかった。

そんな風にして、しばらくじたばたしていた夕鈴は、諦めて陛下を見上げた。大人しくなった兎に向かって、陛下が口角を上げて言う。


「それに…妃に迎えて半年以上経つというのに、まだ僕は君の歌声を聴いてはいない」

「だから…下手なんですって。もーどうして意地悪するんですか?」

「まだ分かってないとは…鈍感にもほどがあるな」

「何ですか?言いがかりはやめてくださいよ」

まったく、やっぱり分かってないよ…陛下は深く嘆息すると、目を伏せた。近くで交わる視線にいたたまれず顔を反らしたくなるが、拘束状態の今ではそうも出来ない。
結局夕鈴は、渋顔で陛下の整った顔を睨みつけるしかなかった。


「なんでそんなに睨んでるの?夕鈴」

陛下が苦笑しながら尋ねる。


「う…腕を解いてくれたら、睨むのをやめますよ」

「それは無理な相談だね。心地良過ぎて手放せないな」

陛下はそう呟くと、夕鈴の胸に顔を埋めた。大きなぬくもりが体中に伝わり、思わず身が震える。


「ちょっ!何してんですか!?」

「君が悪い。いつも我慢してるんだから、歌ぐらい歌ってくれてもいいでしょ?」

衣擦れの音と同時に陛下のくぐもった声が響く。


「は?何を」

我慢しているというのか?全く意味の分からない発言をする陛下を、夕鈴は怪訝に突き放す。


「とにかく…離してくださいよ」

「君が歌うと約束してくれるならね」

「っな…」

あ~なんとたちの悪い狼。陛下のわがままは筋金入りだわ。


「夕鈴。どうするの?」

「……」

言い出したら聞かない性格。
愉快そうに尋ねる子犬の顔をやぶ睨みしながら、夕鈴は仕方なく頷いた。



Ⅱへつづく。

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