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2010.11.19 (Fri)

いつでもそばにⅠ

「いつでもそばに」

手紙」の続編っぽく仕上げています。そちらを読んでから読まれることをおススメします。
夕鈴目線でそれほど長文ではありません。

ではどうぞ。
















「夕鈴。どうして教えてくれなかったの?」

「はい?」


ある穏やかな昼下がり、午前の政務を終え一旦休憩のために妃の部屋を訪れた陛下の第一声である。
夕鈴はぽかんと口を大きく開けて、肩を落として目を伏せる陛下の姿を食い入るように見つめた。


「僕…知らなかったよ」

「え、あの…?」

一体何?身に覚えのない陛下の態度に、夕鈴は疑問を込めた瞳で陛下の顔を覗き込んだ。


「まさか僕の留守中にそんなことになってたなんて…」

留守中?留守中って…。
陛下が言う留守中とは、先日の東の地方への視察のためにしばらく不在にしていた期間のことか…。夕鈴はつい先日の陛下不在中の王宮での記憶を思い浮かべたが、特にピンと来るものはなかった。


「あの…一体何のことでしょう?」

「どうしたって…とぼけるんだね」

「いえ!意味が分からないだけです」

慌てて答える夕鈴に対して、陛下がじとり…と、意味のある視線で見下ろして来た。途端にどきりと心臓が跳ねる。何の意味が込められているのか分からないが、陛下の視線はときどき刺激が大き過ぎて困る。体内の全血液を逆流させてしまうほどに。
夕鈴は浅く息を吐くと、陛下の視線を正面から捉えた。


「陛下の留守って、先日の東地方への視察ですか?」

「そう。僕が五日間ほど王宮を離れていたときだよ」

「ごめんなさい。やっぱり記憶がありませんよ。一体…」

何のことでしょう?夕鈴ははっきりと尋ねた。


「本当に分からないの?」

「わかりませんよ!」

だから何なの?
夕鈴の心に苛立ちがつのる。いたちごっこのような質問の投げ合いなど好まない。いつでもはっきり、そして的確に…それが私のモットーなんだから。
自らの信念を再認識した夕鈴の頭の中に、次に流れた陛下の言葉。それを聞いたとき、夕鈴は驚いて顔を上げた。


「え!?今何て…」

「だから…僕の留守中に、寝台から落ちて腰を打ったらしいね」

聞き間違いであって欲しくて再度投げた質問は、陛下の即答にかき消されてしまった。


「な!?なぜそれを知っているんですか?」

それは陛下には知れていない情報のはず。流れる前に、私が堅く差し止めたのだから。
夕鈴は驚きながら顔をしかめた。あれほど陛下には黙っていて欲しいとお願いしたのに…一体誰が情報を流したというのか。


「誰から聞いたんですか?」

「そんなことより夕鈴、どうして隠していたの?」

「私の質問に答えてください。どこから、一体誰から聞いたんです?」

「何をそんなにムキになってるの?僕が先に尋ね始めたんだから、君が答えるのが先だ」

確かに、始めに質問を投げたのは陛下だけど、その質問はそもそも無かったはずのものなのに…夕鈴は、陛下からの視線も質問も避けて、目を伏せた。
頭によぎるのは寝台から落ちたときの記憶。思いがけず呼び起された記憶に、夕鈴は赤面する顔を片手で覆った。あんなに恥ずかしい思いをした原因は今、私の目の前に居る。だから余計に恥ずかしい。

夕鈴は、動揺しっぱなしの自らを前に、ただ陛下の視線を避け続ける。


「夕鈴…」

急に低く響く陛下の声音に、夕鈴の鼓動が増す。
一瞬で変化した雰囲気。どこからか冷気が流れてきたようで、ひやりと背筋が寒くなった。すぐさまそのオーラを察知した夕鈴は、すぐに陛下へ視線を戻した。見つめた陛下の表情は、まだ完全に狼になる前であった。


「なぜ黙っていたの?夕鈴」

「あ、あの…たいしたことではなくて。ご心配を掛けたくなくて」

嘘はついていない。寝台から落ちたことを知られては、心配を掛けてしまうのは当然。例え仮の夫であっても、夕鈴が怪我をしたり病気になったりしたときは、想像以上に心配してくれたから。
だから陛下には伏せておいて欲しいとお願いしたのに。一体誰が言ったのか。まさかおしゃべりな老師!?


「腰を強く打ったと侍医から聞いたよ」

侍医!?今侍医って言った。あのじーさん、あれほど口止めしたのに…。夕鈴はため息を吐く。
しかし…情報が侍医のみから漏れたとは考えにくい。何かきっかけがなければそんな話題など出るはずがないから。


「夕鈴、聞いているのか?」

気配にとどまらず、いつの間にか口調まで狼に変化した陛下に気づき、夕鈴は慌てて意識を集中する。


「えっと。確かに腰は打ちましたが…痛みもすぐに引きましたし。だから…」

「報告しなかった…か?」

陛下の冷たい声に、夕鈴の背筋が今度ははっきりと震えた。部屋は暖かいのに、全身から鳥肌が立つ。思わず後ずさりしようとする夕鈴の手首を、するりと陛下が掴んだ。


「君は私の妃だ。なぜ寝台から落ちるはめになったのか?」

「そ、それは…」

あの夜の失態を思い出し、夕鈴はさらに赤面した。思い出したくない事実が、じわじわと夕鈴の脳裏に迫って来る。

ぎゃー思い出しちゃった。

夕鈴は黙ったまま、赤い顔を両手で隠した。


「夕鈴。こちらを向け」

掴んだ手首ごと引き寄せられて、体が傾いた。夕鈴の傾いた体は、すぐに陛下の力強い腕に支えられる。するりとごく自然に添わされた陛下の腕からは、いつもよりも高い温度を感じた。
そば近くに揺れる漆黒の髪に、夕鈴の鼓動が激しく高鳴る。本性である子犬陛下ではなく、狼陛下に抱きすくめられていると思っただけで、心臓が爆発しそうになる。

今か今かと質問の答えを待っている陛下を目の前に、夕鈴はパニック寸前であった。


「夕鈴。答えよ」

低い声に背筋どころか首筋までざわついた。掴まれた腕のあたりから伝わる気配が全身をピリピリと刺すように攻撃してくる。
夕鈴はぐるぐる回る頭の中で、必死に陛下用の言い訳を考える。


「ゆ、夢を見てたんです!」

「夢?」

「……そうです。夢を見てて寝ぼけてて、だから寝台から落ちて。でもそんなの恥ずかしいし、知られたくないから…だから黙ってたんです!」

そこまで叫んで、夕鈴は呼吸を落ち着けた。ほとんど早口でまくしたてた夕鈴の姿に、陛下は目を丸くして見つめていた。

慌てて叫んだ嘘だけど、思った以上に上手な嘘かもしれない。実際に夢を見てて寝ぼけてて、こけたりつまずいたりはよくあることだ。


「なんだ、そっか…」

しばらくの沈黙の後、やっと子犬に戻った陛下が笑って言った。にこにこにこ…ほがらかに微笑む様子はご機嫌そのもの。一瞬のうちに態度を変える陛下に夕鈴は唖然とするが、すぐにほっと息をついた。

良かった。どうやら、なんとかごまかせたみたい。
私の演技も捨てたもんじゃないわね。この調子なら、いつか陛下に勝てるかも。いや、それは絶対に無理か…。

そんな夕鈴の内心など知らない陛下は、子犬のにこやかな笑顔を絶やさずに、掴んでいた夕鈴の手首にそっと口づけた。


「な!」

何をするのか…夕鈴は、相変わらず油断も隙もない陛下をぐいと睨む。


「良かった」

「え?」

「君の怪我がたいしたことなくて良かった」

「……」

そんな優しい柔らかい顔で言われると勘違いしてしまいそうになるから、やめて欲しい。夕鈴は少しだけ高揚する胸に手を添える。


「おおげさですよ…」

夕鈴は笑い飛ばして陛下の腕の中から離れようとしたが、もちろんそんな手には乗ってくれない。固く掴まれた手首とともに、伝わる温かみに夕鈴の頬が熱くなった。


「僕がそばに居ないときに、君に何かあったらって思うと…気が休まらないよ」

「……」

「だから、これからは何でも報告してね」

「……はい」

夕鈴は頷いた。仕方なく。
こんな風に言われてしまうと返答に困るし、どんな態度をとっていいのか分からなくなる。

行き先のない鼓動に悩まされるのは、これで何度目か…。

結局夕鈴は、お得意の変顔を作って陛下を見つめるしかなかった。
恰好の面白いネタを提供する夕鈴にもかかわらず、予想外に陛下はくすっと肩をすくめて笑っただけだった。




Ⅱにつづく。



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