08月≪ 2017年09月 ≫10月

123456789101112131415161718192021222324252627282930

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--:--  |  スポンサー広告  |  EDIT  |  Top↑

2010.11.19 (Fri)

いつでもそばにⅡ

Ⅰのつづきです。














「っつ…」

「どうしたお妃!?大丈夫か?」

老師の叫び声が狭い室内に響いた。
いつもとは違う態度で顔を覗き込んでくる老師に、夕鈴は眉根を寄せて見つめ返した。


「ちょっと指先切っちゃって…」

夕鈴は軽く痛みの発する指先を押さえつけた。ちょっと血が出ているが、それほど深くは切っていない。
一度水で洗い流さないと…夕鈴は掃除を中断して、握りしめていたぞうきんを水桶に入れた。

今は、後宮の立ち入り禁止区域の掃除中。またまたどこからともなく現れた老師の相手をしつつ、掃除に励んでいたときであった。

水場に行くのでついでに水桶の水も替えて来ようかしら…そんな風に考えていた夕鈴に、突如届いた大声。


「大変じゃ!すぐに手当じゃ」

驚くほど大声を上げて立ち上がる老師を、夕鈴はただ茫然と見つめていた。


「ど、どうしたんですか?」

急に叫びだし、部屋中を右往左往し始めた老師の姿に、夕鈴は驚き尋ねた。


「お前さんこそ、何を悠長に構えておるんじゃ!大事な妃に傷ひとつ付いたと知れれば、あの狼陛下が何と言うか!」

「はい?なんで陛下なんですか?」

「とにかく手当じゃ!侍医を呼んでくる」

「ちょっ待ってください!」

慌てて飛び出そうとする老師を制し、夕鈴は出口をふさいだ。


「こんな姿でお会いするわけにはいきませんよ」

今は掃除婦真っ最中である。この格好で侍医に逢ったとしても、まさか狼陛下の花嫁だとバレる心配はさらさらないような気がするが、臨時花嫁のことは誰にも知られてはならない極秘事項。万が一にもバレるような危険な橋は渡りたくない。


「む…それはそうじゃ。では薬箱を取って来てわしが手当する」

「落ち着いてくださいよ。手当するほどの怪我じゃありませんよ」

「何を言っておる。お前さんがちょいと腰を打ったことを黙っとったぐらいで激怒するんじゃぞ!手当せんままほっといたと知れれば、どんなに怒るか…」

ぶつぶつと老師が呟く。


「……」

まさか…。夕鈴はあの日の会話を思い出す。結局、夕鈴の隠し事は陛下のせいで明るみに出たのだが、どこからどう情報を掴んだのかまでは知りえなかった。
もしかして、老師は狼陛下の追及に遭ったということか。老師も人の子、あの冷酷非情な狼陛下にはかなわなかったのね。

くすり…と笑いが込み上がる。気づくと、夕鈴は声を上げて笑っていた。


「笑いごとじゃないわい!さっさと手当をさせんかい」

「ふふ…だから大丈夫ですって」

「大丈夫じゃないから言うとるんじゃ」

「ふふ」

いつも人をからかい、おちょくるのが好きな老師の、めったに見ない顔と態度を夕鈴はおかしくて見つめる。


「何じゃ?」

「老師でも…陛下が怖いんですね」

「当たり前じゃ。ちょー怖いわ」

即答する老師の丸顔を見つめながら、夕鈴はまた声を上げて笑った。


「黙っててって言ったのに…すぐにバラしちゃうから、これは罰ですよ」

「あの追及と氷の視線に耐えられる人間は、国中探したっておらんじゃろうて…」

白いひげをゆっくりと撫でながら、老師は大きくため息を吐いた。




















「夕鈴。また怪我したんだって?」

夕鈴が答えあぐねている間に、陛下の腕が伸びてきてすぐに手を掴まれる。
しまった。いつ気づかれて尋ねられるか、内心ひやひやしてお茶を用意していたのに…思った以上に早くに気づく陛下に、夕鈴は動揺顔を浮かべた。

陛下の目ざとさは天下一品だわ。


「今度はどうしたの?」

白い包帯が巻かれた夕鈴の指先をじっくりと眺めながら、陛下が尋ねる。


「こ、これは…」

今度は何て言い訳しよう。そういえば考えてなかったわ。夕鈴は必死で都合の良い“言い訳”を考えるが、まったくいい案が浮かばない。本当に、頭の中が真っ白だから困ってしまう。


「朝気づいたら切ってて…」

「また寝ぼけてたの?」

「そう!そうだと思います。気づいたらこうなってて。きっと夜の間に…怪我したんですね。ほら、こういうところに引っかけちゃったりして…」

陛下の合いの手に便乗して、夕鈴は言い訳を口から漏らした。妃の部屋にある調度品の突起に引っかけて怪我をするジェスチャーと一緒に。

同じ理由になっちゃうけど仕方ない。夕鈴は何となく冷やかな視線を送ってくる陛下に対して、たいした怪我ではないことを必死にアピールした。



「一度目は乗ってあげたけど…二度目はないな」

ぼそり…狼陛下が呟く。


「え?」

夕鈴は意味深に言葉を発する陛下の表情を、注意深く眺めた。


「どういう意味ですか…?」

まさか。嫌な予感がするけれど、気のせいであって欲しい。
夕鈴は堅く願う。目の前に口元に笑みを浮かべて微笑む、陛下の顔を見つめながら…。


「寝る前にいつも何読んでるんだ?夕鈴」

「………な、何も…」

どうしようか…嫌な予感、当たりそう。
陛下の鋭い視線に、夕鈴の鼓動が震える。老師の言う通り、彼の鋭い視線に耐えられる人間なんて、国中どころかこの世の中にも居ないかもしれない。


「ふうん?」

陛下は掴んでいた手を自らに寄せると、もっと近くで夕鈴の顔を覗き込んだ。
途端に跳ね上がる心臓。いつまでたっても、陛下の甘い行為に慣れることはない。


「私からの手紙、大事にしてくれているようだな」

「!?」

あぁ…やっぱり。狼の鋭さは、私の想像を超える。
最初から何もかも分かっていて質問しているんだから、本当にたちが悪い。

そうよ!陛下の手紙の文面に動揺して、慌てて滑って寝台から落ちたのよ。夕鈴は心の中呟く。半ば自暴自棄に。
悔しくて見つめる夕鈴に対して、陛下はにこにこと満足気に微笑んでいた。


「私も、君からの手紙、大事にしているよ」

「そ、そうですか…」

どうやら全身の熱が、頭まで登ったようだ。顔中が火を灯したように熱い。ぼんやりする夕鈴の頬に陛下の冷たい手があてがわれ、夕鈴は驚いて顔を上げた。

「陛下」

「君の怪我が私の手紙のせいだとしたら、こんなに嬉しいことはないが…でも」

指先をふいにぎゅっと握られ、夕鈴は小さく声を上げる。ちくりと刺す痛みに思わず顔をしかめた。


「痛いですよ」

一体、何をするのよ!
夕鈴が自らの指先に目をやると、いつの間にか白い包帯は取り払われ、赤く腫れた指先がむきだしになっていた。


「この怪我は歓迎しないな…」

私だって歓迎しない。最初の怪我も全く歓迎していなかった。


「夕鈴。痛いか?」

「痛いですよ。でも。薬を塗ったのでじきに治ります」

「老師の薬か…。やはり歓迎しないな」

「?」

陛下は、掴んでいた夕鈴の手首を口元に近づけた。そして、赤い指先を舌でなぞったかと思うと、次の瞬間に口に含んだ。

あまりに一瞬のことだったので、夕鈴にはなすすべも無い。ただ呆然と、目の前で繰り広げられる陛下の行為を眺めるしかない。

陛下はしばらく舌で指先を味わうと、ようやく口から離した。名残惜しそうに目を細めると、夕鈴の真っ赤な顔に向かって呟く。


「血の味がした…」

「な、ななな……」

「ななな?」

陛下は軽く苦笑すると、夕鈴の腰を引き寄せる。


「怒るな夕鈴。これは消毒だから」

「消毒!?消毒はとっくに終わってます!」

「ははは」

「何がおかしいんですか!」

妃の怒声が響く。
信じられない。舐めて消毒するなんて、獣じゃないんだから。まさか狼陛下だからなんて、言うんじゃないでしょうね。
夕鈴は目も口もすべて尖らせて、愉快気に笑う陛下を睨む。その愛らしい表情に、陛下の口元が緩んだ。


「ごめんね、ゆーりん」

「っく…」

またそうやって、子どものようにあどけなく柔らかい笑顔で謝るから…だからまた私は許してしまう。
子犬陛下にはとことん甘いこの性格を直さないことには、陛下に喧嘩で勝てないかも。

陛下の甘い笑顔と笑い声が、夕鈴の脳裏に流れる。

夕鈴の指先からは、いつまでも熱が冷めることはなかった。












二次小説第32弾完です

今回は初の続編(それほど続編っぽくないけど)です☆
陛下の目ざとさは天下一品!がお気に入りの文書です(笑)
陛下の勘は冴えに冴えまくってますね。もしふたりが恋人同士になって結婚でもしたりしたら、夕鈴は苦労しそうです。隠し事ひとつ出来やしない…。
もちろんミケはふたりが結ばれることを切に願ってますが。早く本編で、関係の進展が欲しいところですね


00:36  |  日常編  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

コメントを投稿する

URL
COMMENT
PASS  編集・削除するのに必要
SECRET  管理者だけにコメントを表示  (非公開コメント投稿可能)
 

▲PageTop

Trackback

この記事のトラックバックURL

→http://mike3aoi.blog134.fc2.com/tb.php/53-39d01ade
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

この記事へのトラックバック

▲PageTop

 | HOME | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。